第百四十四章 最初の調整任務
再編期に入った銀河は、静けさと混乱が同時に広がっていた。
影の艦隊という“裏の均衡”が消え、各宙域では小さな歪みが連鎖的に生まれている。
ノヴァ・リュミエール号に与えられた最初の調整任務は、武力衝突ではなく――
互いに譲れぬ事情を抱えた者たちの「話し合い」を成立させることだった。
◆任務内容
「最初の案件は……物流宙域デルタ・リング」
リーナが端末を操作し、立体マップを投影する。
「交易ステーションと開拓コロニーが、補給ルートを巡って対立してる」
「え、撃ち合いじゃなくて、口げんか?」カイが拍子抜けした顔をする。
「今はまだね。でも、このままだと武装護衛が入り、紛争に発展する可能性が高い」
アストラはうなずいた。
「つまり、撃つ前に止める。それが調整任務だ」
プクルが元気よく鳴く。
「ぷくる!(ケンカはダメ!)」
「お前、意外と平和主義だよな……」カイが苦笑する。
◆デルタ・リング到着
デルタ・リング宙域は、大小無数の貨物ステーションが環状に並ぶ巨大物流地帯だった。
しかし、通常なら行き交うはずの船は少なく、緊張した空気が漂っている。
「双方とも、武装船を後方に待機させてる」マリナが報告する。
「一触即発、か……」
ノヴァ・リュミエール号は中立識別コードを発信し、中央会談ステーションへと入港した。
◆話し合い、難航
会議室には、交易ステーション代表と開拓コロニー代表が向かい合って座っていた。
互いに腕を組み、視線は冷たい。
「我々は正規契約に基づき、この補給ルートを管理している!」
「その契約は、影の艦隊時代のものだ! 今は状況が変わった!」
開始早々、声が荒ぶる。
「ちょ、ちょっと待って! 落ち着こう!」カイが慌てて割って入る。
「ぷくる!(おちついてー!)」
だが両者は聞く耳を持たない。
マリナが静かに口を開いた。
「感情論ではなく、事実を整理しましょう。
補給が止まれば、どちらも損をする。それは共通認識のはずです」
沈黙。
リーナがデータを提示する。
「現在のルート配分では、三週間以内に開拓コロニー側の医療物資が不足する。
一方、交易ステーション側も、護衛コストが増大している」
アストラはゆっくりと立ち上がった。
「俺たちは命令を押し付けに来たんじゃない。
選択肢を増やしに来たんだ」
◆突破口
アストラは新たな航路案を示した。
「一時的に、予備ルートを共同管理にする。
交易側は安定収益を確保でき、コロニー側は最低限の物資を得られる」
「共同管理……?」
双方の代表が顔を見合わせる。
「監査は銀河警察が担当する。
不正も独占も起きない」マリナが補足した。
しばしの沈黙の後、交易側の代表が深く息を吐いた。
「……影の時代とは、やり方を変えるべきなのかもしれないな」
コロニー側も、ゆっくりとうなずく。
「我々も、力ずくで奪うつもりはなかった」
◆成立
電子署名が交わされ、暫定合意が成立した。
室内の空気が、目に見えて和らぐ。
「……終わった?」カイが小声で聞く。
「ひとまず、ね」マリナが微笑んだ。
プクルは椅子の上で跳ねる。
「ぷくる!(なかなおり!)」
◆帰路
ノヴァ・リュミエール号がデルタ・リングを離れる。
外では、再び貨物船が行き交い始めていた。
「撃たずに終わる任務も、悪くないな」カイが伸びをする。
「でも、気を抜くとまた歪みは生まれる」リーナは淡々。
アストラは前方の星を見つめた。
「一つずつだ。銀河は広い。
でも、今日みたいに“選び直す”ことはできる」
最初の調整任務は、武力ではなく対話によって解決された。
再編される銀河では、こうした小さな選択の積み重ねが未来を形作っていく。
ノヴァ・リュミエール号の役割は、まだ始まったばかりだ。




