第百四十三章 再編される銀河
影の巨艦は解放され、虚無宙域は静けさを取り戻した。
だが、それは終わりではなく始まりだった。
影の艦隊という“歪み”が解けたことで、銀河全域に眠っていた均衡が動き出す。
秩序は再編され、選択を迫られる者たちが現れる。
ノヴァ・リュミエール号の旅は、次なる段階へ――。
◆余波
星々の光が戻った宙域を、ノヴァ・リュミエール号はゆっくりと進んでいた。
外部センサーは平常値。エネルギー流も安定している。
それでも、艦橋の空気はどこか張り詰めていた。
「……静かすぎるな」カイがぽつりと漏らす。
「嵐の後って、だいたいこんな感じよ」マリナは窓の外を見つめる。
「問題は、嵐がどれだけ広範囲だったか、だ」アストラは操縦席で前方を睨んだ。
リーナが端末を操作し、銀河ネットワークの状況を投影する。
「影の艦隊が占拠・干渉していた宙域で、通信が一斉に回復している。
ただし……同時に、権限の空白も発生しているわ」
「空白?」
「統治・監視を担っていた影のネットワークが消えたことで、治安や物流が不安定化する可能性がある」
プクルが首を傾げる。
「ぷくる?(つまり、またドタバタ?)」
「……十中八九、そうだな」アストラは苦笑した。
◆銀河警察からの通信
艦内に優先通信が入る。
送信元は、銀河警察中央管制。
『ノヴァ・リュミエール号、聞こえるか。影の艦隊事案について、全銀河レベルの再編が始まった』
マリナが応答する。
「こちら、状況は?」
『影の艦隊が担っていた“裏の均衡”が消失したことで、各星系で権力争いと小規模紛争が発生している。
同時に、解放された影の巨艦――新たに“守護機構”として再登録される予定だ』
「守護機構……」カイが目を丸くする。
「正式には“オブザーバー級独立艦”。直接介入はせず、均衡が崩壊寸前の宙域に警告を発する存在になる」
アストラは小さく頷いた。
「……影は、光に戻ったわけだ」
◆選択の時
通信は続く。
『そこで、君たちに打診がある。
再編期の銀河は不安定だ。各地で調整役が必要になる。
ノヴァ・リュミエール号には、機動調整任務を担当してほしい』
艦橋が静まり返る。
カイが真っ先に口を開いた。
「つまり……あちこち飛び回って、トラブルを丸く収めろってこと?」
『簡潔に言えば、そうだ』
マリナは腕を組む。
「危険は?」
『高い。だが君たちは、影の艦隊と対話した唯一のクルーだ。適任だと判断した』
プクルが尻尾を振る。
「ぷくる!(また冒険!)」
「お前は気楽でいいな……」カイがため息をついた。
全員の視線が、アストラに集まる。
彼はしばらく黙り込み、やがてゆっくりと口を開いた。
「俺たちは英雄じゃない。ただ、進んできただけだ」
「でもな……進んだ先で困ってる奴がいるなら、見捨てるのは性に合わない」
マリナが微笑む。
「決まりね」
リーナも小さく頷いた。
「データ的にも、その方が銀河の安定確率は上がる」
◆新たな航路
任務受諾の信号が送られ、次々と新しい案件が表示される。
物流トラブル、領有権の衝突、謎の信号源――どれも一筋縄ではいかない。
「うわ、案件多すぎ!」カイが悲鳴を上げる。
「再編期ってそういうものよ」マリナは淡々。
「優先順位を付ける。まずは民間被害が出そうな宙域から」リーナが整理を始める。
プクルはコンソールに飛び乗り、
「ぷくる!(まずはごはん!)」
「……それは帰ってからだ」アストラが笑った。
艦は新たな航路を描き、エンジンが低く唸る。
◆余白の中で
出航直前、アストラは一瞬だけ、解放された宙域を振り返った。
かつて影に覆われていた場所には、静かな星の流れが戻っている。
「完全な平和なんて、きっと来ない」
彼は独り言のように呟く。
「でも、選び続けることはできる」
ノヴァ・リュミエール号は光の航跡を残し、再編される銀河へと飛び込んでいった。
影の艦隊事件を経て、銀河は新たな均衡を模索し始めた。
ノヴァ・リュミエール号は“戦う者”から“調整する者”へと役割を変え、
より複雑で、より人間的な問題に向き合っていく。




