邪悪なるもの
クレアもライラも負傷している。その原因を作ったのは俺のため、何とも心が痛む。ルドルフがダヴィドの体を手に入れた今、何としてでも汚名返上する。そう思っていた。
「手加減はせん!!開始早々だが、決着をつけさせてもらうぞ!!」
ルドルフが剣に魔力を集中させて薙ぎ払うと、黄色い光と共に地面が抉れ、その光がこちらまで物凄い勢いで迫ってくる。
「剣で直接触れていないのに、斬っている!?」
俺は息を呑む。
「剣圧だ!剣から発生させた魔力でカマイタチと同じ状態を作り出しているんだ!」
離れて見ていたロアが叫ぶ。
「まずい!避け切れない!」
初めて見た剣圧に対処しようもなく、俺とクレア、ライラは吹き飛ばされた。
「うわあああっ!!」
「きゃああああっ!!」
俺達は吹き飛ばされて地面に落下する。
「くそっ!クレア!ライラ!」
二人は気を失っていた。特にライラの怪我が酷い。元々自分が弱れば弱る程力が上がるアビリティだから、ルドルフ相手に相当の無茶をしたに違いなかった。
「まだ動けるようだな。流石は元俺の体だ。」
ルドルフは再び剣を薙ぎ払うと、俺達に剣圧を放つ。
「くっ!」
俺はクレアとライラの前に立つと、神通力を放ち、防御を試みる。剣圧の威力は俺の攻撃とは比べ物にならず、切り刻まれる。俺の体のあちこちから、血が落ちて地面に染みを作る。
「どうした?よけないのか?」
ルドルフが邪悪な笑みを浮かべる。
(避けたら、クレアとライラに当たるだろうが!こいつ、ダヴィドと同じような卑怯な手を!)
ルドルフが再度剣圧を放つ。俺は同様に防御する。先程より傷が深くなり、俺は地面に膝を突く。
「面白いな。自分の身を守ることすらできない奴ほど、他人の身を案じる様は。」
ルドルフが嘲笑する。悔しいが、相手の言っていることには反論ができない。事実、こちらが圧倒的に不利な状況だ。
「さて、いつまでもつかな?」
ルドルフが剣圧を放とうと、剣を構える。その時、
「ルイさん!!」
背後から声がした。顔だけそちらに向けると、いつの間にかそこにはロアがいた。恐らくテレポートしてきたのだろう。真っ青でがくがくと震えながらも、それでも頑張ってきた、といった感じだ。
「二人は、僕が遠くに送る!あなたは攻撃を避けて!いくらあなたでも、このままではいずれ防御の限界がくる!」
「分かった、悪いな!」
ロアが二人の近くでテレポートのアビリティを発動する。俺は宙へと逃れた。そのすぐ後に剣圧が走って行った。間一髪だ。
「空中へ行けば逃れられると思うな!」
ルドルフが宙にいる俺に剣圧を放ってくる。俺は軌道を変えてかわす。剣圧が俺のすぐ傍を掠めて、頬から血が出る。
だが、そんなことを気にしていられない。すぐに魔力の剣を作り出し、空中から斬りかかる。ルドルフは剣でそれを受け止めた。周囲に剣圧による衝撃波が弾け、俺達が立っている地面にヒビが入る。
「お前は一体、誰だ?ルドルフか?それとも、ダヴィドか?」
切り結びながら俺は問う。
「俺は俺さ。ルドルフであり、お前がよく知っているダヴィドでもある。その両方の記憶を受け継いでいる。そして、どちらであろうとお前には関係のないことだ。」
ルドルフは剣を薙ぎ払った。俺は後ろに跳んで地面に着地した。
(接近戦でも魔王の力と互角にやり合うとは、力はルドルフと言ったところか。)
俺は剣を構えて振り下ろすが、空しく剣は宙を切った。
「後ろか!?」
一瞬感じた気配で、俺は振りかえり、振り下ろされた剣を受け止めた。
「ほう。俺の太刀筋を見切ることはできるのか。」
ルドルフは剣に力を入れる。こちらも負けじと押し返す。
「力はあるようだな。それだけでは、ただの筋肉馬鹿だが。」
「黙れ!!」
接近戦では筋肉が物を言う。俺は力任せにルドルフに剣撃を放っていく。ルドルフは焦る様子でもなく、後退しながら剣で俺の攻撃を受け流す。
「うおおおお!!」
俺は痺れを切らして空中から剣を振り下ろす。叩きつけられた魔剣の勢いで地面が粉砕する。砂煙でルドルフの姿が見えなくなる。
「そこかっ!?」
俺は一瞬見えたルドルフの陰にカマイタチを放つ。しかし、これはかわされた。諦めずに俺はカマイタチを連射した。すると、ルドルフはそれらを振り払いながら砂煙の中突っ込んできた。
「何!?」
更には、向こうもカマイタチを放ってきた。俺が放ったカマイタチがかき消され、一方的に攻撃がこちらに飛んでくる。
「ぐっ……!」
ルドルフが発生させたカマイタチを剣で防御するが、一瞬隙を作ってしまった。
「忘れたか。筋力は互角かもしれないが、魔力は俺の方が圧倒的に上だということを。」
ルドルフが絶妙な距離から剣圧を放ってくる。剣圧の勢いに、俺はずるずると後ろに押されていく。
「うわっ!?」
防御の限界が来て、俺は後方に吹き飛ばされた。
「どうした?それまでか?」
ルドルフが剣に魔力を集中させる。
「まずい!」
俺が体を起こすと同時にルドルフが剣圧を放った。
(頼む!俺の剣!何とか耐え抜いてくれ!今攻撃が直撃したら、さすがにまずいぞ!)
俺が剣で防御しようとしたその時、俺に放たれた剣圧の前に、ロアが飛び出す。
「テレポーター!!」
杖を地面に突くと、瞬時に目の前に魔法陣が現れ、放たれた剣圧を飲みこむ。
「ロア!無茶な真似はするな!」
俺は背後からロアに向かって叫ぶ。
「これが無茶なことぐらい、分かっているさ。だけど、あなたが死んだら、あいつを倒せる人はもういない。そうなったら、この世界も、クレアも…」
魔法陣が押され、亀裂が入り始める。俺は目を見開く。
「だから、早く行くんだ!僕が抑えている、今がチャンスなんだ!!」
俺は迷いかけたが、ここはロアに任せるしかなかった。
「すまない!恩に着る!」
俺が斜め上空に飛ぶと共に、魔法陣が砕け散る。
「うわあああ!!」
魔法陣で飲み込み切れなかった剣圧でロアが吹き飛ばされるのが見えた。
「ロア!!」
俺はロアからすぐに相手を見据える。
「お前がくれたチャンス、存分に活かしてやるぞ!」
俺はルドルフの方に向かう。
「無駄なことを。」
ルドルフが再度剣を振って剣圧を起こそうとした時、唐突に彼の背後に魔法陣が現れる。
「むっ!?これは!?」
テレポーターの力でワープした剣圧が、背後からルドルフ目掛けて飛んできた。ルドルフはすぐに振り向き、剣で剣圧を防御する。
これで、俺に背を向ける形になった。
「今度こそ!!」
俺は剣を構えて、上空から斬りつけようとした。だが、俺は後ろを向いていたルドルフの目が一瞬光ったのに気付かなかった。直後、俺のすぐ目の前で爆発が起こる。
「何だと!?」
咄嗟のことで防御しそこない、爆発を喰らってしまう。ルドルフが剣圧を弾き飛ばし、ゆっくりとこちらを振り向くとき、俺は状況を理解した。
(ダヴィドのエクスプロージョンのアビリティまで、使えるのか…それも、ほぼ予備動作なしで…)
吹き飛ばされ、俺は地面に叩きつけられた。
「中々良く考えた。だが、今の俺には、お前達の攻撃を一発ももらわない自信がある。」
空に雷の音が鳴り響く。同時に、少しずつ雨が降り始め、瞬く間に豪雨になる。豪雨に晒され、倒れているミレイユ、ライラ、クレア、ロアを見る。
(畜生……俺は魔王なんだぞ?お前達人類の敵なんだぞ?なのに、どうして俺を守ろうとする?どうして俺のために傷付く?)
雨に打たれながら、俺はその数奇な運命を呪わずにはいられなかった。




