魔王復活
「こ、こっちにも来るぞ!?」
「う、嘘!?」
ライラとクレアは何とか矢を弾き返して持ちこたえる。
「二人とも、僕のところまで来て!」
ロアが杖を構える。
「どうにかなるのか!?」
ライラがクレアを連れて、ロアの元へと走り寄る。
「テレポーター!」
ロアが目の前に魔法陣を出現させると、飛んできた矢は魔法陣に飲み込まれて、別の場所にワープする。
「すごい!ロア、こんな魔法が使えたんだね!」
「ま、まあね。」
クレアに褒められ、ロアは少し照れくさそうに笑う。その隙に、アーサーは倒れている魔王に歩み寄る。そして、彼が倒れているところに屈みこみ、
「気の毒なことをしたな、魔王殿。そのお詫びと言ってはなんだが、私の力と魔力をそなたに差し上げよう。」
満身創痍になっている魔王は、呼吸をするのも苦しそうで、何も言わずにアーサーを見上げる。
「私のことなら、心配無用じゃ。既に老いて衰え、長くはなかった身じゃ。最後に未来ある若い者のために使えるのなら、この命も惜しくはない。」
アーサーが魔王の手を取ると、アーサーから赤い光が出ていき、魔王に入り込んでいく。クレア、ライラ、ロアはその様子を息を飲んで見ていた。やがて、赤い光が魔王に完全に入り込むと、アーサーはそのまま魔王の傍へと倒れた。
「王様!?」
アーサーの部下の兵士達が自分達の主が倒れる様を見て、そちらに気を取られる。その時、彼らの前で爆発が起こる。
「ぐわああああ!!」
兵士達は吹き飛ばされる。ダヴィドは怒りに満ちた顔を上げる。
「ふざけんなよ。こうなったら、てめえら全員皆殺しにしてやる。」
ダヴィドが再度手を構えたその時、横から足音が聞こえる。
「全員、というのは私も入っているのか?」
ダヴィドが横を見ると、そこには倒したはずの魔王が、傷が全て回復した状態で立っていた。
「てめえ。アーサーに魔力をもらって復活したってのかよ。ならもう一度ぶっ殺してやるよ、この死に損ないがよ。」
ダヴィドは魔王の方を向くと、最大限の火力で爆発を放った。周囲が爆炎に包まれ、煙で視界が見えなくなる。
「ふん、他愛もない。」
そう呟いたとき、ダヴィドは背後から何とも言えない嫌な予感を感じた。魔王の気配だとすぐに気付き、ダヴィドの頬を汗が伝う。
「ゲームをしよう。」
背後から魔王の声が告げる。
「私がお前の背後を三回取る前に私に攻撃を当てることができれば、お前の勝ちとしよう。だが、私に三回背後を取られれば、その時はお前の負けだ。
今一回背後に立った。チャンスはあと二回だ。」
「なんだってそんな舐めた真似をする?」
「楽しみたいからさ。もし私が本気になっていたら、今頃お前はあの世だ。」
「ちくしょう!!」
ダヴィドは振り向きざまに再度エクスプロージョンのアビリティを放つ。魔王はそれを跳んでかわす。
「くそっ!このっ!」
ダヴィドは連続して攻撃を放つが、横、背後にかわされ、全く当たる気配がない。
「くっ、速い!」
連続する爆発でまた周りが見えなくなるとき、先程と同じ悪寒がダヴィドの背に走る。
「これで二回死んだな。残りは一回だ。」
「てめえ!」
ダヴィドは再び振り返って爆発を放つが、またもやかわされる。ダヴィドは思考を巡らす。
(こいつ、さっきよりもスピードが格段に増してやがる。もはや、狙って爆発に巻き込むのは無理か。
そういえば、こいつは俺の背後を取ろうと動く。ならば、いっそ背後に攻撃を放てば当てられるチャンスはある!)
ダヴィドは再度エクスプロージョンを放つ。
「いつまでこんな単調な攻めを続ける?しかも、先程より威力が落ちているではないか。お前の力はもう限界か?」
先程と同じように魔王は全ての爆発をかわす。
(ああ、分かっているさ。さっきのように撃ち過ぎるとこっちの視界も奪われる。こちらがお前を見失わないぎりぎりの威力に抑えているのさ。)
ダヴィドが攻撃を放ったその瞬間、魔王の姿が視界から消える。背後に気配が移る。
(よし、今だ!例え至近距離だろうと、爆発を魔王の背後から当てるようにすれば、魔王の体が盾になり、俺へのダメージは軽減される!)
ダヴィドはすぐに背後を向き、構える。
「今度こそくらえ!!」
一瞬感じた気配に向かって、大火力での爆発を放った。
「うわあああああっ!!」
しかし、吹き飛んだのはダヴィド一人だけだった。盾になるべき魔王が消えてしまったのだ。ダヴィドが体を起こすとき、前から魔王の声が降り注ぐ。
「そろそろ、お前が背後に山勘をかけてくるだろうと思っていたぞ。真正面からの攻撃が無意味だと気付いただろうからな。
だが、所詮山勘は山勘。警戒していれば、かわすのは造作もない。」
「くそおっ!」
ダヴィドは体を起こす。
「どうした?そこまでか?何なら、お得意の人質を取っても良いのだぞ?」
魔王はダヴィドからクレアに視線を移す。視線が合ったクレアはびくりと震える。
「魔王……様?」
信じがたい言葉にクレアは唖然とする。魔王の言葉にダヴィドもクレアを一瞬見る。
(確かに、人質を取れば、形勢逆転のチャンスはある。
だが、何故だ?今のこいつは、人質に構わず攻撃してくるような気がする。)
自分との戦いをまるで楽しむかのように振る舞っている魔王を見て、ダヴィドは人質を取ることに迷いを覚える。
「やらないのか?まさか、今のお前はあの少女にすら負けるのか?」
魔王がにやりと笑う。ダヴィドは頭に血が昇る。
「このボケがァッ!!」
ダヴィドは剣を抜いて魔王に斬りかかった。またも魔王の姿が視界から消えた。
「ゲームオーバーだ。」
その言葉と共に、魔王は背後から爪でダヴィドを貫いた。
「う……」
魔王が爪を抜くと、ダヴィドの脇腹から血が噴き出す。
「く…そ…!」
ダヴィドが振り向くと同時に今度は胸部を爪で斬り裂いた。ダヴィドはそのまま前のめりに倒れた。だが、致命傷は避けるよう手加減していた。ダヴィドが手に力を入れて起き上がろうとするのに合わせ、魔王は爪を伸ばしてその手を貫いた。
「ぐ……!」
魔王は上からダヴィドを見下ろす。
「この……!」
ダヴィドがもう片方の手でエクスプロージョンを放つために持ち上げようとした時、魔王の足が上から踏み付け、体重をかけて抉る。ボキボキと骨の砕ける音がした。
「うわあああ!!」
痛みに耐えかねてダヴィドが叫ぶ。
「安心しろ。すぐに殺しはしないさ。お前からの借りは、こんなものじゃないからな。」
魔王はダヴィドの髪を引っ張り、自分の前に上半身を起こさせ、すぐにもう片方の手でダヴィドの首を掴んで締め上げた。
「ぐ……う…」
ダヴィドは声が出せずに呻く。魔王は彼の首を絞めたまま持ち上げ、もう片方の手で拳を作ると、ダヴィドの腹部に突きを入れた。
「ぐあ!」
ダヴィドが叫ぶのを聞き、魔王は冷笑する。続いて、何度も拳で打ちまくる。
「ぐあっ、がっ、うぐ…!」
ダヴィドは血を噴き出して呻く。
まるで人が変わったような魔王の様子に、クレア、ライラ、ロアは茫然として見ていた。その間にも、魔王はダヴィドを嬲るかのように殴り続ける。ダヴィドは口から血を流しながら、途切れ途切れに呟く。
「…こ…殺してくれ…」
あまりの苦しみに限界が来たダヴィドは半ば懇願するように言った。魔王は頷きながら言った。
「良いだろう。お望み通り殺してやろう。少し時間はかかるが、問題なく死ぬ。心配する必要はない。」
魔王は爪を構え、勢い良くダヴィドの腹部を貫いた。
「がはぁっ!!」
ダヴィドが叫ぶと共に魔王は手を離し、ダヴィドは地面に落ちた。出血しながらも、なおも苦しみに満ちた顔でもがいていた。
「大量出血で死ぬには、何秒かかる?それとも何分か?まあ良い。これでお前はいずれ死ぬ。」
魔王は地面でのたうち回るダヴィドに背を向けて歩き出した。クレアは恐る恐る魔王に近付き、
「ま、魔王様!無事、だったんだよね?良かったよ。その、ちょっとやり過ぎかなって思ったけど、でも、魔王様にもいろいろと事情があるよね!
あんなにあっさり勝てちゃうなんて、流石は魔王様だよね!」
どうにか作り笑いをしようとする。
「魔王?誰のことを言っている?」
魔王は不気味な笑みを浮かべながら言った。
「えっ?」
「お前の知っている魔王の名は、何という?」
クレアは戸惑いながらも思い出そうとする。
「ルイ…アントワール…様…?」
魔王は表情を変えず、言った。
「お前が知っているルイ・アントワールは、もういない。」
クレア、そして背後で見ていたライラ、ロアも呆気に取られる。
「私の名はルドルフ・シュタイン。かつて魔王としてこの地を治めていた者だ。」
ルドルフと名乗った魔王は、静かに佇んでいた。




