バーサーカー
王国、ドルボー。
国王の下には数人の側近、騎士がついており、各々の騎士には身の回りの世話をするための召使が付いている。ダヴィドも例外ではなく、彼の召使として選任されたのがモスマン = ハークネスであった。
ダヴィドは表向きは国王、アーサーに忠実に仕えていながらも、内心では他国と戦うこともなく、そのため自慢のアビリティを振るえる機会がないことに退屈していた。
やってくる仕事は不審者の見張り、国王の護衛といった地味な仕事である。報酬は国王から与えられるものだけ。元々野心が強く、他人に付き従うことが嫌いなダヴィドは次第に国王を始末し、自分が国を乗っ取ることを考え始めた。
常々ダヴィドから国王についての不満を聞いていたモスマンは彼の計画を察していたが、咎めることも口外することもなかった。モスマンはダヴィドの頭脳、騎士としての腕前、アビリティを大いに評価しており、ダヴィドこそが国を治めるのに相応しいと思っていたからだ。ダヴィドが国王になれば、下に付いている自分も出世できるという野心もあったが。
そんなある日、ダヴィドが国王暗殺に失敗したという報せを聞いた。ダヴィドの怪しい動きを察したアーサーが諜報部員を使ったため、事を起こす前に謀反を知られてしまったのである。このままでは執事である自身も投獄されかねないと踏んだモスマンは、ダヴィドが投獄される前にこっそりと刑務所の仕掛けを解除。アビリティを封じられないようにした。結果、ダヴィドは刑務所を脱走。モスマンもそれに乗じて付いていく形となった。
脱獄後は国王アーサーへの復讐のため、、各地を回りながら、ある時はモスマンが交渉して人員を集め、時にダヴィドが力づくで仲間を引き入れることもあった。
ある時、彼らの耳にはアーサーがダヴィド達の計画に気が付いて、魔王と手を組もうとしているという情報が入ってきた。そこで、ダヴィドは罠にかけて魔王を始末しようと考えた。
モスマンが自分がダヴィドによって爆殺されたように見せたのも、全ては罠の中に魔王をおびき寄せるためだった。
今、魔王を始末し、後は国王、アーサーを始末するのみとなった。
「もはや我々の野望を達成したも同然。我らがダヴィド様の天下はもうすぐですぞ。」
ダヴィドが魔王を倒した光景を眺めながら、モスマンはほくそ笑んだ。
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地面に倒れた魔王の周囲に血だまりが広がっていく。その光景を見たクレアはぼんやりと立ち尽くしていた。
「よし、これで魔王は始末した。後はアーサーを殺して、俺の功績を世に広めるだけだ。しかも、魔王なら周りの国から金品を巻き上げてるだろうから、そいつも頂きだ。」
「ダヴィドさん、その金は、俺達にもくれるんですよね?」
「ああ、今回の報酬だ。たんまりくれてやるよ。」
「ありがとうございやす!」
全ては終わったとばかりにダヴィドは部下達と談笑する。
「さてと。」
ダヴィドはクレアの方に目をやる。
「行掛けの駄賃だ。お前ら、あの娘は好きにしろ。」
「本当ですか!?」
「ああ。俺はいらねえよ。」
「よっしゃあ!」
部下の男達は卑しい笑いを浮かべながら、クレアに近付く。
「待て!やめろ!」
ライラが追いついてくるが、距離が遠すぎて間に合わない。クレアに男の一人が手をかけようとした瞬間、
「えっ…?」
その男が膝を付く。それと共に彼の肩から胸付近にかけて血が噴き出していた。そのまま地面に倒れる。
「な、何だ!?」
「何が起こったんだ!?」
男達が慌てだす。クレアは俯き加減であったが、やがてゆっくり顔を上げる。
「よくも…よくも、魔王様を…!!」
クレアが振り抜いた剣から血が滴る。そして、その目は赤く発光しているかに見えた。
「と、取り押さえろ!」
事態を把握した男の一人が叫び、周りの男達も我に返って武器を抜き、クレアに襲い掛かってくる。
男が背後から振りかざした剣をクレアは難なくかわし、剣を薙ぎ払って男を両断する。真正面にいる男が槌を振り上げるが、それより早くクレアが縦に斬り付ける。男は二人とも血を噴き出して倒れる。剣を持つ者が2人クレアを襲うが、いずれもあっさりとかわされた揚句に彼女に斬り捨てられた。
追いついてきたライラはその信じられない光景に呆然とした。
「これは…いったいどうしたんだ、クレア!?」
戸惑うライラ相手に
「あれは…バーサーカーだ!」
更に遅れてやってきたロアが息を切らしながら説明する。
「バーサーカーだと?」
「アビリティの一つだよ。狂戦士って言って、一時的にではあるけど、身体能力が大幅に上昇するんだ。アビリティの名前の通り、理性を失ってしまうけどね。」
「あいつが、そんな攻撃的なアビリティを?」
「アビリティをもってはいるけど、中々覚醒しない人だっているさ。それがふとした拍子に発動することなんて、珍しいことじゃない。」
「魔王を殺されたことでの怒り、か。よっぽどあいつのことが好きなんだな。」
ライラは敵を次々と斬り捨てるクレアをまだ信じられないといった様子で眺める。
「おっといけねえ。こうしてる場合じゃない。クレアがマチルダっていう婆さんから聞いた話だが、ダヴィドはエクスプロージョンっていうアビリティをもってるみたいじゃないか。」
「だとしたら、まずいね。バーサーカーは所詮は近距離用のアビリティだから、遠くから攻撃できるアビリティが相手だと分が悪い。」
幸い今の敵の中に、ダヴィドを除いては遠距離用の武器をもった相手はいないようだ。
「よし、ロア!俺をダヴィドの近くにテレポートさせろ!」
「分かった!」
ダヴィドはクレアの方を振り返って見ていた。
「ふん。たかが小娘の分際で出しゃばったことを。」
ダヴィドはクレアの方に狙いを定めようと手をかざす。その時、
「おっと、そっちもいかせないぜ!!」
ダヴィドの斜め上空からライラが剣を抜いて斬り付ける。
「てめえ、いつの間に!?」
ダヴィドは咄嗟に剣を抜いて応戦する。
「命の恩人に対してこんな真似を。落ちぶれたな、ライラ。」
「妹に手を出す奴に、恩人もくそもねぇっ!」
ライラの猛攻に、ダヴィドはひたすら剣で防御するのが手一杯になる。ライラが振り下ろした剣をダヴィドは受け止める。ダヴィドは剣を上に振り払って後方に逃れる。
「せやあっ!」
ダヴィドは前に飛びかかって斬りかかるが、それに合わせるようにライラも斬りかかった。一閃後、ダヴィドの腕の辺りから血が噴き出した。
「どうした?アビリティを使わないのか?もっとも、この距離からではお前も爆発のダメージを受ける。使えはしないだろうがな。」
ライラは再び剣を構え、攻撃を仕掛けようとする。すると
「何をやってる?俺はこっちだ。」
背後から声をかけられ振り返ると、そこにはもう一人ダヴィドがいた。
「何っ!?」
ライラは驚愕する。
「馬鹿め。目を離したな。」
腕を斬られた方のライラがいつの間にか距離を取って手を構える。
「くっ、しまった!!」
ライラが横に飛び退くと同時に、爆発が起こる。
「うわああ!!」
ライラは、爆風で吹き飛ばされる。
「ふふふ、助かったぜ。モスマン。やっぱりお前のアビリティは役に立つ。」
「これぐらいお安いご用ですよ、ダヴィド様。後で報酬を頂きますがね。」
ライラの背後から声をかけたダヴィドが執事服の男、モスマンになる。
「貴様、幻覚か!?」
負傷してしまったが、ライラはすぐに起き上がる。しかし、爆発で飛ばされた際に相手との距離が開いてしまった。
「さて、この距離からならばアビリティも使い放題だ。どっちにする?あそこの小娘を先に吹き飛ばすか?それとも、お前か?」
「あいつを吹き飛ばしてみろ!その時はお前が死ぬ時だ!」
ライラはすぐにでも斬りかかれるように構える。既にクレアの攻撃によって、ダヴィドの部下の半分ぐらいは倒されていた。
「やっぱり、あの小娘の方が気に入らないな。モスマン、ここにいるこいつを足止めしろ。その間に俺があの小娘をぶっ飛ばす。」
「はい。」
モスマンは剣を抜くと、ライラの前に立ちはだかる。
「どけ!どかないと…!」
ライラに汗が伝う。目の前の男を倒し、さらにダヴィドがクレアを攻撃する前に止められるのか、五分五分だ。
「くくっ……」
ダヴィドはクレアの方を向き、アビリティを撃とうとした。その時、何かが突き刺さるような鈍い音がした。
「むっ!?」
思わず横を見るダヴィド。その横では、ゆっくりとモスマンが血を噴き出しながら倒れていくところだった。だが、ライラが倒したのではなかった。彼の肩には矢が突き刺さっていた。
「誰だ!?」
矢が飛んできたらしき方向にダヴィドは向き直る。向き直った先には、弓矢を構えた兵士が何人も木陰にいた。そして、その中から一人の老人が現れる。
「私だ、ダヴィド。」
「てめえ、アーサー!!」
アーサーは一歩前に出る。
「相変わらずだな、ダヴィド。お前は人を罠に嵌めることに関しては天才的だが、不測の事態への対処はまだまだ甘い。」
「ふざけるな!」
ダヴィドが構えた腕に、矢が突き刺さる。
「うぐっ!」
ダヴィドは腕を抑える。
「まだ我々の攻撃は終わってはおらんぞ。」
アーサーの指示で、兵士達はすぐに雨あられのように一斉に矢を放ってくる。
「くそっ!」
ダヴィドは手を突き出してエクスプロージョンのアビリティを放つが、距離が離れているために避けられてしまう。そうしている間にも、
「うわあああ!」
「ぎゃああああ!!」
残っていたダヴィドの部下達は矢を全身に受けて次々と倒れていく。
「ダ、ダヴィド様、御助けを……」
既に肩、背にも矢を受けて満身創痍になったモスマンが体を引き摺るようにしてダヴィドに助けを求めようとする。その様子を見てダヴィドは侮蔑したように言った。
「この役立たずが。」
モスマンは目の前が白く染まったような感覚に囚われた。それと同時に飛んできた矢がモスマンの胸を貫いた。口から血を噴き出しながら彼は背後に倒れ、動かなくなった。




