万事休す
周りはダヴィドの部下で囲まれている。どうしようもなく絶体絶命である。
「ここで俺を離さないと、あの娘の首が飛ぶって言いたいところだけど、まさか聞くわけないよなぁ?いくらお前が大甘ちゃんだとしてもさぁ?」
ダヴィドはにやにやと笑いながら問う。俺は唇を噛みしめながらも、ダヴィドを解放する。
「底なしの甘さだなぁ、お前。ここで俺を始末すれば、少なくとも自分は助かったってのによ。
まあ、良い。本当にあの娘が大事だってんなら動くなよ。」
俺はただダヴィドを睨み返すことしかできない。悔しさで視界が白くなりかける。
「お前ら、始めようぜ。魔王討伐をさぁ。だけど、とどめは俺だからな。そこんとこは分かってるよな。」
ダヴィドの部下の男達が剣や槌を出す。
「やれ。」
ダヴィドの命令と共に、部下の一人が俺の肩から剣で斬り付ける。斬られた場所から血が噴き出す。既にかなりのダメージを受けていた俺はその場に片膝を付く。間髪入れずに、槍で後ろから突かれる。槌で後頭部に一撃を入れられる。
「う…ぐ…」
俺は地面に倒れる。すると、ダヴィドは俺の髪を引っ張り、立たせる。
「まだ寝るのは早いんだよ。」
そう言って鳩尾に拳を放つ。息が詰まる。
万全な状態であればさほどでもないダメージも、今は全てが苦痛に感じた。直後に周りの部下達からも殴る、蹴る、斬り付ける等の暴行を受ける。腰に槌の一撃を喰らい、再び地面に倒れる。今度は倒れたところに蹴りを入れられる。ダヴィドが俺の頭を踏み付け、体重をかけてくる。
「懐かしいよな。学生の時も、こんなことやってたっけな。あの頃は愉快だったな。
俺はクラスの優等生でお前は落ちこぼれ。俺はどこへ行っても女どもからちやほやされるし、教師にとっても、模範生だった。おかげで、お前を陰でどれだけ殴ろうが蹴ろうが金を巻き上げようが、周りの奴らをけしかけようが主犯が俺だと気付かれなかったよ。
お前をうっかり殺しちまった時は、憲兵にばれるんじゃないかって心配もしたが、俺が練習中の事故だって言ったら、教師共は何の疑いもなく信じてくれたよ。いや、本当に楽しかったさ。」
ダヴィドは当時を振り返って宙に目をやる。そして、すぐに俺に視線を戻す。
「そんな俺がよ。今じゃ指名手配犯だ。こんな馬鹿な話はないと思わないか?あのアーサーの爺はいずれ始末する。
それよりもだ、お前を殺したら俺は魔王よりも強いことが証明される。そうすりゃあ、周りの奴らも俺においそれと手は出せないだろう。そして、いずれは俺が魔王の代わりに世界を支配するのさ。」
そう言って、踏み付ける足に力を入れる。
「馬鹿を言うな!お前のような私利私欲の塊の男に、世を治められるか!」
俺は力を入れて顔を持ち上げようとする。
「調子に乗るんじゃねえ!魔王もどきが!」
ダヴィドが起き上がろうとする俺の腹部に蹴りを入れる。
「ぐ…!」
俺は咳き込んでその場に崩れ落ちる。
「良いか?お前は魔王の立場を甘く見過ぎなんだよ。学校の教科書にも書いてあっただろうが。
先代の魔王は暴虐の限りを尽くし、人間共から金や食料を奪うなんて当たり前。気に入らない人間や邪魔をする人間は容赦なく殺してきた。ただ楽しみのためだけに女子供を傷付けることさえあった。奴隷として、多くの人間を道具同然に扱って、用がなくなればボロ雑巾のように始末した。
逆にそういう奴がいたからこそ、世界は魔王を倒そうと一致団結し、国同士の争いは減った。そういう立場の奴が必要だったんだよ。
俺が魔王になったら、それぐらいのことをやってのける自信がある。言ってることが分かるか?今の世界は魔王として、お前よりも俺を必要としているんだよ。
先代の魔王はやられたようだが、俺ぐらいの頭を持ち合わせていれば、生涯倒されることはない。お前の代わりに悠々自適の人生を送らせてもらうよ。」
ダヴィドはそこで近くにいた部下に目をやり、
「おい、こいつを押さえていろ。」
そう指示を出すと、二人の部下は俺の両腕を押さえ付ける。そして、ダヴィドは部下の一人から剣を受け取る。
「さて、そろそろお遊びは終わりだ。飽きてきたからな。
じゃあな、魔王。あの世でさっきのメイドに会えるといいな。」
ダヴィドが剣を振り上げる、その時、
「魔王様!?」
クレアの声が、見当違いな方向から聞こえた。何とか顔だけ向けると、森の木々の間からクレアがこちらに走ってくるところだった。俺はそこで気付いて声を上げる。
「来るな、クレア!近付くな!」
その直後、ダヴィドが振り下ろした剣が俺の胸部、心臓部をばっさりと斬り裂いた。
全てがスローモーションのように見えた。走ってきたクレアが足を止め、その目から輝きが消えていく。敵に人質にされていたクレアが消えていく。そして、敵の中には、先程ダヴィドに爆破されて殺されたはずの執事服の男がいた。
(そうか…。捕まっていたクレアは、幻覚だったのか…
あの部下の男を殺したように見せたのは、幻覚と悟られないようにするため。こんな単純な手に気が付かないとは…俺は…本当に…)
俺は地面に倒れる。意識が急速に遠のく。
「魔王様!魔王様ーーー!!」
クレアが叫ぶ声だけが、森の中に木霊した。




