狡猾過ぎた男
「はあっ、はあっ!」
クレアは森の中を必死に走っていた。暗くなってきた空に、どことなく不安を感じていた。
「魔王様は、私の偽者に騙されてここまで来たってマチルダから聞いた。なら、本物の私が行けば騙されてることに気が付くはず!
お願い、魔王様!無事でいて!」
クレアから少し遅れてライラ、ロアも来る。
「待て!クレア!あまり走るな!どこに敵がいるか分からない上に、離れ離れになったら敵の思うつぼだぞ!」
ライラもどうにかクレアの後ろ姿を見失わずに付いてきている。
「ま、待ってよ、二人とも!速すぎるよぉ!」
ロアは息を切らしてスピードダウンしている。
(あれ?待てよ?このまま行ったら、僕達も死ぬかもしれないんじゃ?)
ロアは今更ながらに思い出したが、付いていかないわけにもいかなかった。
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「喰らえ!魔王!」
ダヴィドが手を突きだすと、俺の立ち位置が突如爆発する。
「うわあっ!?」
反射的にミレイユを抱えたまま横に飛ぼうとしたが、避け切れず、爆風を喰らう。腕と足から流血する。それでも、ミレイユは俺の体を盾にしてどうにか庇った。ミレイユを見ると、怪我は増えていないようである。俺は顔を上げ、ダヴィドに視線を戻す。
「俺のアビリティ、エクスプロージョン。狙った座標軸を爆発させることができる。
仮に雨が降ろうと、水の中だろうと、お構いなしに攻撃できる点も優れものさ。ただし、狙いを付けてから爆発するまでに、距離が離れている程タイムラグが大きくなるんでね。
お前は腐っても魔王だ。その身体能力をもってすれば、俺の攻撃をかわしきって反撃に来るのも不可能ではない。だから、足枷を付けてもらったんだよ。」
「どういうことだ?」
「そのメイドは意識はなくても、まだ生きているだろう?敢えて手加減してそうした。そうすればお前のことだから、そいつを見捨てることができないだろう?
その上、お前は今足を負傷している。そんな体勢じゃ、反撃はまず無理だな。」
俺は唇を噛みしめる。確かにダヴィドの言うとおり、ミレイユを抱えた上に足の負傷がある状態ではまずあいつに近付くことはできない。両手も塞がっていて、瞬時に反撃はできない。
「さて、次のはかわせるかな?」
ダヴィドが再び構える。
「させるか!」
俺は咄嗟に遠距離からカマイタチを放ってダヴィドに放つ。その時、爆発が発生し、カマイタチは砕け散る。
「だから言っただろ?ピンポイントで爆破ができるって。それとも、この程度の攻撃を俺が見切れないとでも思ったのか?」
ダヴィドにはまるでダメージを与えられていない。俺は考える。
(距離が遠すぎると、こちらの攻撃は見切られて防がれる。では、ぎりぎりのところまで近付けないか?
それも無理だ。距離が近いと爆発が届くまでの時間が短くなる。ミレイユを抱えた上に、自分の体の負傷のことも考えると、爆発をかわしきる自信がない。)
考えている間にもダヴィドは構える。
(来る!)
その一呼吸前、俺は横に飛び退くと、さっきまで俺が立っていた場所が爆破される。爆風がまたも俺を吹き飛ばす。着地に失敗し、俺は地面の上をスライドした。そこで気付く。
「ミレイユ!?」
今の攻撃でミレイユから手を離してしまっていた。俺から少し離れたところにミレイユが倒れている。ダヴィドが再び構える。俺は身構える。
「くく…」
その時、ダヴィドは俺から視線を離し、ミレイユの方に狙いを変える。
「待て!やめろ!」
俺はミレイユの元に全力で走る。俺がミレイユの所に到達し、地面に倒れている彼女を抱え上げたところで爆発が起こった。
「うわあああ!!」
自分の背に爆発の衝撃をもろに受ける。それでも、何とか自分の体を盾にしてミレイユは守り通せた。頭部を含め、俺の全身から出血しているが。
「ルイ…様…」
ふと声がするので下を見ると、いつの間にかミレイユが意識を取り戻していた。息も絶え絶えだが、まだ生きている。
「大人しくしているんだ。この怪我だ。もうアビリティを使ったりするな。」
「このままでは…ルイ様も、私も…いずれ死にます。相手も、それを考慮に入れたうえで、攻撃してきています。」
「心配するな。お前だけは何としてでも守る。」
言っている間に再度爆発を背に受ける。痛みが倍増し、俺は歯を食いしばる。受けたのが人間だったらバラバラにされてもおかしくない。
「私を、下ろして下さい、ルイ様。」
「何を言っているんだ?そんなことをすれば、あいつはお前を狙ってくるかもしれないんだぞ?」
「構いません。そうなったとしたら……私を攻撃するとき、ルイ様はノーマーク…反撃できます。」
「駄目だ!仮にそれであいつを倒したとしても、そうなったら私の負けだ!」
ミレイユは俺の目を見るが、それ以上は何も言わなかった。俺は今度は後ろに飛んでダヴィドと距離を離し、爆発をかわす。続く爆発も、背後に飛んでかわす。またもや、爆発が起こるが、先程よりも余裕をもってかわせた。
(そうだった。距離が遠くなるほど、こちらに爆発が届くまでの時間は長くなるんだ。ならば…)
俺はちらりと元来た道を一瞬見る。気が付くとダヴィドが嫌な笑いを浮かべている。
「考えているな、魔王。俺との距離が離れれば、爆発をかわしやすくなる。ならば、この場は一旦逃げて態勢を整えよう、とな。」
俺はダヴィドの動きに注視する。確かにこの場からずらかることは考えもしたが、それには一つ問題がある。ある程度の距離を取るまでは、背中を見せて逃げるのは危険だ。ゆっくりと視線を離さないようじりじりと後ずさる。
「用心深いんだな。自分の背後を見せないつもりか?だが、それも無駄だぞ。」
嫌な予感がして、俺は足を止める。
「危ない!!」
ミレイユが叫ぶと共に銃声が響く。同時に俺の肩に激痛が走る。肩越しに振り返ると、木の陰に隠れている男が見えた。
「こいつ……木陰に部下を……」
俺は肩を押さえて跪く。
「これで逃げることもできなくなったな。俺のアビリティで死ぬか、撃たれて死ぬか。俺はどっちでもいいぜ?
といっても、お前のことだ。怪我してるとはいえ、一回二回の攻撃じゃまだ死なないだろう。遊ぼうぜ。昔のようにな。」
ダヴィドが構えをとる。木の陰の部下も銃を構える。
(あいつらは、ミレイユを人質に俺を倒そうと考えている。逆に考えると、今ここでミレイユを殺して人質を失うようなことはしないはずだ。
だとしたら、ミレイユを守ることは、できるかもしれない。俺がくたばるまでは、だが。その前にどうやってミレイユを逃がせばいいんだ…?)
そんなことを考えている暇などなかった。部下の男がダヴィドより先に引き金を引く。
「ルイ様!!」
どこにそんな力が残っていたか分からない。気が付くと、跪いていた俺をミレイユは思いっきり突き飛ばしていた。同時に響く銃声。
「ミレイユ…?」
世界が一瞬赤く染まったように見えた。俺の前でミレイユは口から血を吐き、そしてゆっくりと倒れていった。
「くそぉっ!!」
俺は我に返ると共にカマイタチを放つ。
「ぐあああ!!」
銃を持った男はカマイタチが直撃し、血を噴き出して倒れた。
俺はミレイユに駆け寄り、抱き起こす。メイド服を赤く染め、ミレイユはまるで眠るかのように目を閉じ、そしてもう動かなかった。
「おい…嘘だろ?返事をしてくれ!」
軽く揺するが、反応はなかった。
「ったく、二人とも殺せるチャンスだったってのにそのメイドが余計なことしやがってよ。まあ、いい。どのみちお前はもう重傷のはずだよな。」
ダヴィドの冷めた声が聞こえてくる。俺はミレイユを地面に降ろし、そして顔を上げ、ダヴィドの方に走り出した。
「うおおおおおおっ!」
ダヴィドにかけるべき言葉等、もう自分でも分からなかった。考える余裕はなく、ダヴィドに向かって行った。
「馬鹿が!」
ダヴィドは手を前にかざし、俺を狙って爆発を起こす。俺は左右に回避しながら、次々と放たれる爆発から逃れながらダヴィドと距離を詰めていく。
「忘れたか?距離が縮まると爆発までの間隔は狭まるんだ。負傷したお前ではかわしきれまい。」
ダヴィドが言うとおり、どんどんかわすのがきつくなる。そんなことは分かっていた。ある程度の距離をつめ、正面に来た俺にダヴィドが狙いを定める。
「今だ!」
俺は爪に込めた魔力で、ダヴィドにカマイタチを放つ。
「てめぇっ!」
ダヴィドは咄嗟にカマイタチに照準を定め、爆破する。俺の真正面で爆発が起こるが、直撃は免れた。
爆炎を突っ切ると、目の前にダヴィドの姿がある。ダヴィドの顔にそこで初めて驚愕した様子が見て取れる。俺は至近距離から爪をかざすと、ダヴィドは腰に刺していた剣で防御する。
「やはり、自分の身を守ることを優先したな。もし、相討ち覚悟で私自身に爆発を放っていたら、殺せただろうな。」
爪と剣で押し合いになるが、力の勝負なら人間相手に負けはしない。
「こいつ…!」
ダヴィド目掛けて攻撃を繰り返す。ダヴィドは防御するが、次第に追い詰められていく。
「うおおお!!」
俺は渾身の一撃で剣を薙ぎ払う。
「うわあ!」
剣は上空に飛ばされ、後ろに仰け反ったダヴィドは転倒する。地面に倒れたダヴィドの首を掴み、爪を振り上げる。
「終わりだ、ダヴィド!」
俺が爪を振り下ろそうとしたその時
「魔王様!」
よく聞いた声が俺の耳に入る。その声の主は…
「クレア!?」
クレアがダヴィドの部下に掴まり、剣を突き付けられていた。地面に押さえつけられているダヴィドがにやりと笑う。
「どうした、魔王?早くやれよ。良いじゃねえか?あんな小娘がどうなろうと。」
俺は爪を振り下ろすことができない。
「貴様、これほどまでに腐りきっているとは…!」
怪我も負っている、人質も取られている。この状況をどう脱する?俺にはもう活路が見いだせなかった。




