ウッドゴーレム襲来
その数秒後、ミレイユが足を止める。
俺達の周り数十メートルは木が生えていない、見通しの良い場所だった。さらに先、木が生えている場所の向うには、大きな川が流れていた。
どうやら俺達が今いる場所は、中洲のようにちょうど川の中央の島になっているようだ。そういえば、ここに来る途中で一か所橋を渡った。
「どうした?」
俺も足を止め、ミレイユの方を見る。
「来ますよ。」
俺達の前方二十メートルぐらい先の地面がむくむくと盛り上がる。
「あれは、木か?いや、違う!」
俺は目を凝らす。盛り上がってきたものは、木のような茶色の体をしており、しかし頭の部分は緑色の巨人、まるで木をそのまま擬人化したようだ。
「ウッドゴーレムですね。」
「ミレイユのゴーレムを植物にしたようなものか。」
「はい。ただ、成分が木なので、私のゴーレムほど頑丈ではないはずです。動きは少々速いかもしれませんが。」
ウッドゴーレムは腕をまるでツタのように伸ばし、襲ってくる。俺は爪の先に魔力を溜めると、カマイタチを放つ。ウッドゴーレムの腕はまるで普通の木のようにばらばらと落ちていく。
「なるほど。確かに脆いな。」
「普通の人間なら、こうもあっさり斬り払うことはできませんがね。」
だが、安心したのも束の間。ウッドゴーレムの腕はみるみるうちに再生していく。
「こいつ、回復魔法でも使えるのか?」
「いえ。ウッドゴーレムは地面から栄養分、魔力を吸収しているのです。つまり、栄養分や魔力が地面にある限り、いくらでも再生します。」
「面倒な奴だ。もしや、これもダヴィドの罠か。」
「その可能性は否定できません。」
ウッドゴーレムは今度は両腕を伸ばし、攻撃してくる。すかさず、カマイタチを二発放ち、斬り落とす。先程と同じように再生していくが、こんなことは予想済みだ。
「そら、もう一発だ!」
間髪いれず、放ったカマイタチでウッドゴーレムの頭部が吹っ飛ぶ。
「よし、頭をふっ飛ばせば今度こそ…」
と思っていたが、やはり頭部もあっという間に再生してしまった。
「ルイ様。あんまり魔力を無駄使いするとダヴィドとの戦いに差支えます。」
「好きでやってるんじゃないぞ。あいつが再生するからだ。こうなったら、再生できない程にバラバラにしてやるまでだ!」
「そんな強力な攻撃ができるのですか?先程のカマイタチも強力でしたが、それを超える技なんて。」
「今、見せてやる。」
俺は走ってウッドゴーレムとの間合いを詰めていく。ウッドゴーレムはある程度距離が縮まると、ツタを伸ばさずに直接拳を振り下ろしてくる。相手は、俺がそのまま真っすぐ走ってくるだろうと思ったか、俺が走る先の地点を予測して拳を落としてくる。
こっちもそれは予測済みだ。ウッドゴーレムが腕を振り下ろす直前で俺はジャンプしてかわす。そのままウッドゴーレムの腕の上に着地して、上まで登っていく。
「これならどうだ!」
ウッドゴーレムの頭部まで来た俺は魔力の剣を召喚し、上から縦一文字に斬り裂く。魔力の剣の効果は絶大で、見る間にウッドゴーレムは真っ二つになった。
「いつの間に、そんな技を。」
ミレイユも目を丸くする。そういえば、この技をミレイユの前で見せるのは初めてだった。あれはきつい戦いではあったが、その時に得た能力のおかげで窮地を脱することができた。
「どうだ。さすがに真っ二つになっては、もう再生は…!?」
俺は目を見張った。ミレイユの背後の地面が盛り上がったかと思うと、再びウッドゴーレムが姿を現す。
「ミレイユ!?後ろだ!」
俺の声に反応してウッドゴーレムが拳を落とす前にミレイユは飛び退いてかわした。
「これは…先程とは別の個体…!?」
ミレイユは杖を出現させると、召喚魔法を放つ。魔法陣から出現したのは、火の召喚獣、フェニックスだった。
ウッドゴーレムがツタを伸ばすのと同時にフェニックスが口から炎を吐く。あっという間にツタから炎が昇り、ウッドゴーレム本体に燃え広がる。数秒後、相手は真っ黒になり、動かなくなった。
「おいおい、一撃か。」
「木の魔物ですから、炎には弱いですよ。」
俺が多少なりともかけた手間を返してほしいぐらいだ。
「でもまあ、これで片付いたわけだし…」
俺が振り返ると、更に目の前の地面からウッドゴーレムが二体現れているところだった。
「な、何体いるんだ、こいつらは!?」
魔王がウッドゴーレムにびびるとは情けないが、顔はひきつっているかもしれない。そうこうしている間にも、ミレイユはフェニックスに炎を連射させる。
ウッドゴーレム二体は炎に包まれ、崩れ落ちる。その直後には、今度は5体ものウッドゴーレムが地面から出てくる。
「これは、さすがにまずいぞ。」
ウッドゴーレムは俺達を囲みながら、ツタを伸ばす。俺は羽で、ミレイユはフェニックスに乗って上空へとかわす。ツタが数本追って来るが、俺はカマイタチを放って薙ぎ払う。フェニックスは上空から炎を連射し、3体を薙ぎ払う。
「この死に損ないが!」
俺は上空から滑空し、魔力の剣で1体を真っ二つにする。残るもう一体がツタを放ってくるのを剣で振り払って懐に入り、刃を突きたてる。
「くらえ!」
そのまま下に降ろし、真っ二つに裂く。ようやく全部倒したと思ったのも束の間、今度は6体ものウッドゴーレムが地中から姿を現す。
「これではキリがありませんね。」
ミレイユを見上げると、彼女の表情に僅かながら焦りが浮かんでいる。その理由は、天候を見れば分かった。空が曇り、雨が降り出しそうに見える。雨が降ってきたら、フェニックスは使えない。炎はウッドゴーレムに対して有効な攻撃なのに、雨が降って来てはさらなる苦戦は避けられない。
「大丈夫だ、ミレイユ!何体いようと、雑魚は雑魚だ!」
俺は魔力を溜めると、一回転してウッドゴーレム達にカマイタチを放つ。致命傷にはならないが、これで一瞬たりとも動きは止められる。そのうち一体を魔力の剣で斬り付け、倒す。
俺が戦っている間、ミレイユは俺とウッドゴーレムの様子を窺っていたが、やがて
「魔王様、お気づきですか?ウッドゴーレムの動きを。」
上空でフェニックスに乗ったまま声をかけてくる。
「もしかして、ウッドゴーレム本体がその場から一歩も動かないことを言っているのか?」
二体のウッドゴーレムが伸ばしてくるツタを薙ぎ払いながら、俺は気になっていたことを口にする。ウッドゴーレムの拳をかわし、剣を振り下ろしてもう一体倒す。
俺は地面に着地し、改めて残り四体のウッドゴーレムを眺める。
奴らは距離が離れているとツタを伸ばして攻撃し、距離が近いと直接腕で攻撃してくる。だが、本体は地面に埋まったままの状態でその場から一歩も動いていない。
「ウッドゴーレム達は皆、地中から栄養分、魔力を吸収していると言いましたよね?これほど短時間で一か所に集中して出てくる、ということは、この辺りにウッドゴーレム達をまとめて生みだしている根っこが潜んでいるはずなんです。」
ミレイユの言葉を聞き、俺は改めて足元の土を見る。
「では、その根にダメージを与えられれば良いのだな?」
「ルイ様。ゴーレム達は私が引き受けます。」
「分かった!」
ミレイユはフェニックスから炎を放ち、一体のゴーレムを焼き払う。それに気付いた三体のゴーレムが一斉にツタを伸ばしてミレイユに襲い掛かる。ミレイユはフェニックスに指示し、軌道を変えてかわす。
一方の俺は、魔力の剣に力を溜め、地面に突き刺す。
「ミレイユは言っていた。こいつらは地中の魔力を吸収する、と。」
魔力が剣を伝って地面に流れていく。
「言うなれば、魔力はこいつらにとって肥料となる。確かに必要な栄養分ではあるが、摂りすぎれば植物は枯れる。」
俺が更に魔力を地面に注入する。すると、ミレイユを攻撃していた三体のウッドゴーレムは突如動きを止め、苦しみ出す。
「たっぷり肥料をくれてやるぞ!」
魔王の魔力量は膨大だ。こいつらの魔力の許容量を上回る自信がある。魔力を流し続けていると、地面から大きな何かが出てくる。
「おでましだな。流石に魔力の食い過ぎで消化不良でも起こしたか?」
大きな木の根っこのようなものが出てくる。ウッドゴーレム達の本体である、根っこ部分だ。どうやらこの一つの根っこから複数体のウッドゴーレムを生み出していたらしい。
「フェニックスっ!」
ミレイユは上空から特大の炎を放ち、木の根っこに命中させる。たちまち根っこ部分は燃えていく。根っこはしばらくもがくように暴れていたが、やがて真っ黒になって焼けおち、動かなくなった。同時に、ウッドゴーレム達も枯れていき、崩れ落ちる。
「やったな。」
俺は上空にいるミレイユを見上げる。
「ええ。これでまずは一安心…」
言いかけたところでミレイユは、はっとして表情を強張らせる。どうした、と言おうとした直後に空中で爆発が起こった。
「ミレイユ!!」
爆炎の中から、ミレイユが落ちていく。俺はミレイユを受け止めるため、走ってミレイユの真下に行く。ミレイユを受け止めるその直前、右足に刺すような痛みが走る。
「うぐっ!」
どこからか飛んできた槍が俺の足を貫いていた。痛みはあるが、今はそれに構っている余裕はない。落ちてきたミレイユをどうにか受け止める。
「おいっ、ミレイユ!大丈夫か!?」
ミレイユに呼びかける。爆発に巻き込まれたミレイユは所々に火傷があり、出血も酷い。辛うじて息はあるが、意識を失い、話せる状況ではないようだ。
「待っていろ!すぐに城に戻って手当てをする!」
そう言ってミレイユを抱えて顔を上げたところで、俺は今までの出来事が全て罠であったことに気が付いた。
「こいつは傑作だ。」
忘れもしない声と顔。
「ウッドゴーレムと戦わせている間に隙ができると思ってたが、まさかこうもうまくいくとは、笑いが止まらないぜ。」
声の主はダヴィド。そして、部下と思われる男が数人いた。
「相変わらず、お前らしいやり方だな。」
俺は立ち上がり、ダヴィドを正面から睨む。
「ああ、俺は俺さ。そして魔王になろうとお前はお前だ。所詮は俺達の玩具だ。」
「どうかな?今の私は本当の魔王だ。お前達ごときに負けると思っているのか?」
「馬鹿が。だからお前は玩具だって言ってんだ。魔王の力だか何だか知らないが、手負いでお荷物まで背負って勝てると思ってるのか?
まあ良い。口で言っても分かんないだろうから、直接教えてやるよ。」
ダヴィドは前に出て手を構えた。




