秘境の森へ
魔王とミレイユが城を出て秘境の森へ向かう道すがら。その様子を建物の上からアーサーは眺めていた。
「魔王たるものが、ここまで堕落しおって…」
そう呟くと、そこから立ち去った。
■■■
魔王の城の外。
クレアは魔王とミレイユを追って、門外に出てきていた。空は暗く、今にもひと雨きそうである。
「魔王様もミレイユも速すぎるよぉ。でも、速く追いつかないと!」
門の外を出て、小道を走り出す。走り出してすぐ、木の根っこに足を取られて転んだ。
「あうっ!痛いよ、やっぱり、一人で行くなんて、やめとけば良かったかな…
でも、こうしている間にも二人とも危険な目に遭ってるかもしれないし、私は私にできることを精一杯やらなきゃ!」
気を取り直し、顔を上げたところで
「クレア?こんなところで何をしている?」
不意に声がかかり、見上げてみると
「お兄ちゃん!?」
そこには、ライラと
「クレア?」
ロアの姿があった。
「こっちのセリフだよ。二人とも何でこんなところにいるの?」
クレアが起き上がり、指摘すると、ライラは視線を逸らしながら頭を掻き、
「いや、まあ、お前があの魔王に妙なことをされてやしないかと心配になってだな。」
「妙なこと?」
「詳しくは言えないが…、でも、お前が元気そうで良かった。」
「よく分かんないけど、私のこと心配して来てくれたんだね。ありがとう。」
「れ、礼を言われることなんてしちゃいないぞ。」
内心照れていながらも素直になれないライラを余所に、クレアはロアの方を見る。
「ロアも、もしかしてわたしのことを心配して来てくれたのかな?」
「え!?僕は、その…」
いきなり話を振られてロアは戸惑う。
「じ、実はそうなんだ!」
笑顔で何とか誤魔化した。
「そうなんだ。ロアもありがとうね。私は大丈夫だよ。」
ロアはドキドキしていた。
(魔王との仲がどれだけ進展したか気になって探りを入れに来た、なんて言えないよなぁ。)
ロアは自分の想いは心の中にしまっておくことにした。
「クレアの方こそ、どうしたんだ?装備を整えて、どこかに出かけるのか?」
「あのね、今から魔王様のお手伝いに秘境の森に行くの。何でもダヴィドっていう人がアーサー王の暗殺を目論んでて、それに魔王様が巻き込まれてるみたいで。」
「ダヴィドだと!?」
名前が出た途端、ライラの表情が硬くなる。
「確か、前に魔王様とお兄ちゃんを戦わせた人だよね?」
「ああ。そいつに命を救われたのは事実だが、結局俺は良いように利用されていたようだな。」
ロアも顔をしかめながら
「その人、要注意人物としてギルドでも指名手配が来ているよ。魔物と違って知恵が働く人物だから、却って始末が悪いんだよね。
捕縛できた時の報酬額は高いけど、受けようとしている人はまだいないよ。」
「そうなんだ。やっぱり、危ない人なんだね。」
クレアは不安そうな表情になる。ライラは小さく溜息を吐き、そして
「まあ、クレアがそいつの元に行くって言うなら、俺も付いて行ってやるぞ。」
「いいの!?」
「ああ。クレアをそんな危ない奴のところに一人で行かせるわけにはいかないし、一応魔王に対する借りもあるしな。」
「ありがとう!お兄ちゃんがいてくれたら、頼りになるよ!」
ロアも遅ればせながら近付き
「あの!僕も行くよ!人数が多い方が、安全だよ!」
「おい、大丈夫なのか?」
ライラに念を押される。
「まあ、僕にはいざとなったらテレポートがあるし。それに、クレアが頑張ってるのに僕だけ何もしないわけにはいかないよ。」
二人の様子にクレアはにこりと笑い
「ありがとう。二人とも。とっても、心強いよ。」
「構わない。場所は秘境の森だったな。行くぞ。」
「うん!」
「ああ、待って!」
クレアとライラ、そして一歩遅れてロアが秘境の森の方向に歩みを進めた。
■■■
俺とミレイユは秘境の森に到着し、クレアを探していた。
森は背の高い木が多く、足場はそれなりに確保されてはいるが、日の光がほとんど届かない。ダヴィドからは秘境の森へ来るように聞いたが、正確な場所までは分からない。見通しが悪く、走っていると物陰に潜んでいる者を見逃すかもしれない。俺もミレイユもやむなく歩いて周囲を探るように進む。
「本当に良いのか?こんなことに協力してくれるなんて。」
俺は疑問に思っていたことを口にする。俺の言葉にミレイユは微笑し
「良いのですよ。先程も言ったように、報酬さえ頂ければ。」
相変わらずの金への執着だが、何故だかミレイユの笑顔が消え入りそうな尊いものに見えた。気のせいかもしれないが。
「お前は本当に金に執着するな。」
「そうですね。でも、こう見えてお金に興味のない時期もあったのですよ?」
「お前の伯父の元で働いていた時、か。」
「ええ。あのときの私は純粋に伯父の役に立てることが嬉しくて、伯父が喜んでくれることを探して働いていました。」
「そうか。」
「とはいえ、あの時の私には、もう戻れないでしょうね。」
「何故だ?」
「人には誰しも、裏表があることを知ってしまったからですよ。どんなに良い人であっても隠された本性はあります。
信じていても、裏切られるかもしれない。それなら最初から、自分とお金だけを信じるしかない。そう思いませんか?」
ミレイユの言葉を、俺は強く否定することはできなかった。俺にしたって、生前苛め殺されたような奴だ。ただ、信用できる人間がいないというのも、それはそれで空しいものだ。
(俺のことを信じてくれと、言えれば良いんだがな。ミレイユが危惧しているように裏切ったりはしないと、はっきり言えれば良いんだが。
生憎俺はミレイユから信頼を得られることは、何もしていない。そんなことを言うのは図々しいな。)
俺はいろいろ考えるが、結局言葉には出せなかった。自分の日頃の行いを悔やんだ。ミレイユはこちらをまだ見ていたが、特に何も言うことはなかった。




