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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第十一話 甘えん坊の侵入者
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何も知らなくて

 食事の後片付けが終わり、ミレイユとサニーは掃除にかかっていた。


 城は広いが、主に掃除が必要になるのは居住スペースなど、ダンジョン以外の場所に限定される。玉座の間から居住スペースまでの廊下をミレイユが、その下の階の廊下をサニーで分担することにした。


 ミレイユは箒で埃を集めていく。メイド服となった少年は考えていた。食事の時に聞いた、あのクレアという少女の兄を唆した男、というのがちょっと気になる。世の中には、魔王同様、追われる身になる程の悪さをする人物がいるのか。


(まあ、僕の知ったことじゃない。それより、ミレイユの弱点だ。)


 少年は食事の時から現在まで、ずっとミレイユの近くにいたが、未だに弱点は分からない。


(そりゃ、そんな簡単に分かるぐらいなら、苦労しないか…でも、これじゃ外の様子が分かりにくいな。)


 彼が潜んでいるのはメイド服の表面。胸より上に出した二つの目で周囲の状況を探ることができる。なのだが、現在ミレイユはメイド服の上にエプロンを来ているため、エプロンに遮られて周囲の様子が掴めない。


(しょうがない。ちょっとだけ冒険だ。)


 少年は精神を集中して、眼をスライドさせていき、そのままエプロンの端からちょっとだけ出す。人間の首下や鎖骨の辺りは死角になっていて、鏡でもない限りは案外気付かれない。そこから上を見上げると、ミレイユの顔が見える。特に他に何をするわけでもなく、ひたすら掃除に集中していた。


(なんというか…普通だな。)


 自分の父親を殺した相手と言うのだから、もっと冷酷で酷い人間かと思っていたが、こうして見るとただの真面目なメイドにしか見えない。もう少し角度を変えて見てみようかと思った次の瞬間


「きゃあっ!」


 ミレイユが悲鳴を上げると共に、箒を振り上げる。


(まずい!気付かれたか!?)


 すぐにエプロンの陰に隠れ、眼を閉じる。


「どうかしましたか!?」


 悲鳴を聞いてサニーがやってくる。


「失礼しました。ゴキブリを見つけたもので、つい。」


 試しにエプロンから覗くと、確かにゴキブリが一匹潰れていた。


「こんなところにも出てくるんですね。」


 サニーも顔をしかめる。


「ええ。私は昔からこれが駄目で。もっと丁重に掃除をしなければなりません。」

「広いですからね。この機会ですから、私もしっかり掃除しますよ。」


 サニーの申し出にミレイユはぺこりと頭を下げ、


「ありがとうございます。本当に助かります。」


 礼を言った。


 サニーが再び離れて行った。内心見つかったかと思っていた少年だったが、そうでないと分かり、ほっとした。


(それより、今の会話。ミレイユはゴキブリが苦手。つまり、弱点ということかな。)


 ならば、何かミレイユを倒すのに使えないか。そう考えてみた。


(いや、駄目だ。ゴキブリが苦手な女の子なんて珍しくもないし、僕だって嫌いだ。第一、この人さっきゴキブリを箒で潰した。芋虫に擬態したところを見つけられたら潰されてたかも。)


 想像すると背筋が寒くなる。一先ず保留ということにして、再度調査をすることにした。


「あら?」


 ミレイユが足元を見て動きを止める。少年もそちらに目を向ける。そこには、リスのような小動物が見上げていた。


「この子は確かクレアが飼っていた……こんなところまで出てきて、迷子ですか?」


 ミレイユが身を屈めてリスに話しかける。リスはミレイユを見て小首を傾げる。


「仕方ありませんね。ここは掃除中だから埃が舞います。クレアの部屋に行きましょう。」


 ミレイユは掃除道具を置いて、リスを掌の上に乗せる。そうして、階段を下りて、クレアの部屋をノックする。


「は~い、あ、ミレイユ。それにシマ!」

「迷子ですよ。シマってもしかしてこの子の名前ですか?」

「そう。シマリスだからシマなの。可愛いでしょ?」

「また安易な名前を……」

「ミレイユ、シマを届けてくれてありがとう!」

「掃除の邪魔なので連れてきただけです。」


 ミレイユがクレアにシマを渡す。穏やかな光景だ。少年はまた考える。


(小さな動物が好きということかな。いや、これだけじゃ確信をもてない。)


 ミレイユはクレアの部屋を去った後は、また上の階の掃き掃除を始めた。


(どうしようかな。このまま何かが起こるのを待っても良いけど、せっかく服に化けているんだ。

 もっとここでしかできないことをしないと。)


 少年は再度意識を集中する。すると、メイド服の表面に浮かび出ていた目が姿を消す。代わりにメイド服内部に目が浮かび上がる。


(もしかしたら、体のどこかに傷でも残っているかも。徹底的に探すんだ。)


 少年はメイド服内の目を移動させようとする。が、そこで彼の目には、メイド服の中にある、ミレイユの胸元が飛び込んできた。白い花柄の付いたブラジャーの中に、大きく柔らかな胸の膨らみが収まっている。ミレイユが動くたびに膨らみは動こうとするが、その度にブラ越しに胸が彼の顔に当たる。


 彼はまだ幼かった。性的に欲情する、ということがどういうことかはよく分からない。しかし、この柔らかい感触にはどこか覚えがあった。


 彼がもっと小さかった頃。


 彼が同年代の子供に苛められて泣きじゃくっていたとき。彼の母親が彼を抱き締めて慰めてくれていたものだった。そのときの感覚を想起させた。


 少年はミレイユの胸に触れながら、しばらく昔のことを思い出してぼんやりとしていた。少しだけ心地が良かった。ただ、あのときとは違って、彼は抱き締められているのではなく、胸が当たりに来るのを待っているだけだ。もっと全身でこの感覚を味わいたい。無意識のうちにそう思った。


 気が付くと彼は、メイド服の内側を手の形に変形させると、ミレイユの背中に回し、自分から抱きつこうとしていた。ミレイユの箒を持つ手が止まる。ミレイユはそのまま、廊下内の一室に入り、扉を閉める。


 異様な雰囲気に少年ははっとする。


(しまった!ついうっかり…!)


 ミレイユは箒を壁に立てかける。それから自ら来ているエプロンの左肩を脱ぐ。エプロンの下に来ていたメイド服が見えるようになる。少年は自分自身に視線が集中しているのを感じた。


(まずい…どうなってるのか、外の様子を確認したいけど、今顔を出したら、見つかる…!もし…見つかったら…)


 少年の脳裏には先程無残に潰されたゴキブリのことが浮かんだ。恐怖に体が無意識のうちに震える。


 温かく、覚えのある感覚がやってきたのは、そのときだった。震えている自分を掌で撫でる、まるで昔母親にやってもらったときと同じ。恐る恐る少年は目をメイド服の外側に移し、そっと目を開いてミレイユの顔を見上げる。ミレイユと目が合った。


「どうにもおかしいとは思いましたが。」


 当然見つかった。しかし、彼の想像に反し、その目に驚愕や嫌悪感は見られなかった。


「また随分と可愛らしい侵入者ですね。今の今までずっとそこにいたのに、攻撃してこなかったということは、敵意がないか、そもそも攻撃能力がないか。

 別に恐がらなくても大丈夫ですよ。」


 ミレイユはメイド服の胸元を、つまり少年をまるで子供の頭を撫でるかのように、優しく撫でていた。


 撫でられていくうち、次第に少年の心は復讐する相手に対するものではなく、今は亡き母親に甘えたいという欲求に変わっていく。


 少年の目は次第に閉じられ、やがてもう一度メイド服の内側に行き、ミレイユの胸と向き合う形になる。後頭部を撫でられながら母親の胸に甘えているような錯覚に囚われていく。


「ママ…。」


 気が付いた時には少年はそう呟いていた。


「そんなにママに甘えたいのですか?」


 ミレイユは彼を撫でる手を止め、妖艶な笑みを浮かべる。少年は抗うことはできず、頷いた。


「甘えたいなら別に良いですけど、ママはよしてください。私はまだ子供も夫もいないのですから。」


 ミレイユはエプロンを脱いでベッドの上に畳んで置く。それから、メイド服の方にもう一度視線をやると、両腕で少年を自分の胸に抱き締めた。少年の中で、母親とミレイユのイメージが重なっていく。


 少年はさっきしようとしたように、メイド服の一部を手の形に変え、彼女の背中に回して抱き付く。それでもミレイユは驚くことなく、片方の腕で抱き締めつつも、もう片方の手で頭に当たる部分を撫でてくれる。


 ブラジャー越しとはいえ、ミレイユの胸の柔らかさと温かさが伝わってくる。同時に、女性特有の良い香りもしていた。静かにだが、耳を当てればミレイユの胸の鼓動も聞こえてくる。


(どうやら本当に子供のようね。こんな子供が何故こんなアビリティをもっていて、何の目的で魔王城にやってきたのか、後で確認しないとね。)


 少年を撫でながらも、ミレイユは頭の中でそのように考えていた。少年はミレイユの胸元に顔を埋めると、そっとそこに頬擦りする。


ミレイユの胸は、そんな彼を受け入れるかのように、少年の顔を沈みこましていく。


 少年が頬擦りしていると偶然にもブラ越しにミレイユの胸の先端を擦る。


「んっ……」


 一瞬ミレイユが艶のある声を出し、ピクリと震える。と、その時


「ミレイユさーん?二階のお掃除、終わりましたよ?」


 部屋の外からサニーの声が聞こえてくる。ミレイユはドアの方をしばし見ると、続けて少年の方を見て小さな声で言った。


「大人しくしてるのよ。」


 彼は聞いた通り、抱き付いたまま動かないようにした。ミレイユはそれを確認すると、ベッドの上に置いてあったエプロンを手早く身に付け、扉から外に出る。ミレイユを見つけたサニーが近付いてくる。


「あ、ミレイユさん。二階のお掃除は終わりましたが、次はどこか手伝えることはありますか?」

「ありがとうございます。掃除はこれで十分です。あとは水場の手入れだけですが、それは私一人でできますから。」

「水場は広いのですか?一人では大変ではないですか?」

「大変ではないと言えば嘘になりますが、私以外にできる者がいません。第一、あなたもギルドの仕事が残っているでしょう?」


 サニーはミレイユに言われて、今回のクエストの結果報告と資料のまとめがあったことを思い出す。


「仰るとおりです。では、私はこれでお暇させて頂きます。」

「はい。お分かりかと思いますが、私達がここで会ったことは外部でくれぐれも話さないようお願いします。

 まあ、話したところで私は困りませんが、ギルド関係者のあなた達は困るでしょう。」

「お気遣いありがとうございます。

 ミレイユさんもお元気で。」

「そちらこそ。」


 双方礼をして、サニーとミレイユは部屋前で別れた。

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