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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第十話 仕組まれた死闘
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意志の強さか脳筋か

 ライラのアビリティ。それは、自分がダメージを受けるほど力が上がるというもの。本人にとってどれほど使い勝手が良いかは分からない。少なくとも、相当我慢強い人間でなければ不向きである。


「初めてこのアビリティに気が付いたのは、父さんと森で修業をしていた時だったかな。修行中に突然現れた魔物、確かトロルだったか?そいつに襲われて谷底に落ちたんだ。

 運良く下の木がクッションになったが、それでも相当のダメージを受けた。その上、周囲には魔物の群れ。万事休したと思ったよ。

 だが、痛みを感じないどころか、むしろ力を感じた。だから、修行用に持っていた剣で、魔物を全員撃退することができたんだ。」


 ライラは回想を巡らした後、再度俺に視線を戻す。


「正直なところ、使いづらいアビリティだと思っているよ。力を発揮するためには、ダメージを受けることが前提なんだからな。

 だが、この魔剣の力は実に俺のアビリティとしっくりくる。何しろ、魔剣の強力な魔力に加えて、俺の力も底上げされるからな!」


 ライラが魔剣を振るうと、俺が乗っていた木の幹があっさりと切断される。慌てて跳び下りる。


 見れば、魔剣からは紫色の魔力が溢れ出ている。まるで真空中の放電現象のようだ。どう見ても、素手で触れば危ない。


「魔王!お前のアビリティは神通力か?中々の力だが、この魔剣の前には敵うまい!」


 再びライラがこちらに斬り付けてくる。


(俺のアビリティ……神通力はあくまでも能力の応用だ。本質は、魔力を操って物理的な力に変換することだ。)


 ライラの攻撃をかわしながら、俺は頭を働かせる。神通力は大気中に魔力を流し、その大気を操って相手にぶつける。つまりは、魔力を操作しているのだ。


(ならば、自分以外の魔力も操作できるかもしれない。よし、一か八かだ!)


 俺の目はライラの魔剣から発せられている魔力に行く。確証があるわけではない。予想が外れれば、自分の命も危なくなる。だが、この状況を打開するには、これしかない。


 ライラがこちらに縦斬りにしてくるタイミングを見計らい、俺は真剣白刃取りの要領で魔剣を両手で押さえこむ。


「うおおおおお!?」


 途端に手から電撃が流れ込む。流石に魔剣の魔力は格が違った。魔王の体にもかなりのダメージを与える。


「魔王さん!?」


 サニーが俺の奇行に驚いて声を上げる。


「魔王殿!何をしているんじゃ!?魔剣から手を離すのじゃ!」


 傍から見れば、確かに愚かな行為だろう。それでも、俺がこんな行動に出たのにはわけがあった。


 俺の全身は痺れるが、それでも少しずつ魔剣の魔力が俺の体内に溜まっていく。予想通り、魔王のアビリティは、自分以外の魔力も多少なりとはいえ、動かせるのだ。こうしていけば、魔剣の魔力を自分に取り込める。自分の体力が許す限りはだが。


「しぶとい奴め!真っ二つにしてやる!」


 ライラが魔剣に力を込める。


「よし、これでもう十分だ!」


 これ以上続けると、俺の身がもたないし、魔力はそれなりに取り込めた。そう判断すると、俺は蹴りを放つ。


「貴様!?」


 ライラは俺の行動自体は読めたものの、魔剣を掴まれて咄嗟に避け切れず、蹴りに当たって俺との距離が離れる。


「ぎりぎりだったが……何とかいけたぞ。」


 肩で息をしながら、俺は顔を上げる。


「舐めた真似を!」


 ライラは今度は横に魔剣を薙ぎ払い、俺の銅を狙う。その次の瞬間、何かがぶつかる音と共に、魔力がばちばちと音を立てる。


「思った通りか!」


 俺の手には紫色に光る、剣があった。実体は持っていない。ビームソードのようなものだ。

 吸収した魔力がこのような形になったおかげで、ライラの剣を受け止めることができた。


「魔剣の魔力を吸収したのか!」


 事態に気付き、ライラは驚愕する。


「これで形成逆転だ!」


 俺は剣を振りかぶり、先程ライラがやったように、連続で斬り込む。ライラはそれらを防御するが、反撃する余裕はない。俺は剣に力を入れると、魔剣ごとライラを振り払った。

 カマイタチのような検圧が発生し、ライラは巻き込まれる。


「私はここに薬草を取りに来ただけなんだ。正直に言うと、今こうしてお前と戦っている時間さえ惜しい。

 ここは退いた方がお互いのためだ。」

「くそぅ……お前なんかに、この俺が……」


 振り払った際に剣圧で斬ったか、ライラは口から血を吐きながらも、なおも俺に鋭い眼差しを向けてくる。


■■■


 こちらは、魔王城の中。


「こっちに来るなってのにぃ!」


 ゴーレムの攻撃を横に飛び退いて回避したサリーだったが、床の上に倒れこんでしまい、もはや次の攻撃は避けられない。そこにゴーレムの手が迫る。


(ああ!もう駄目!)


 サリーは迫りくる惨状に思わず目を閉じる。


「サリー!!」


 そこへ飛び込んできたのは、ロアだった。いつまでたっても来ない痛みにサリーがおそるおそる目を開けると


「ロア!?」


 ゴーレムの大きな手にロアが締め上げられているところだった。


「サリー…に、逃げるんだ!、今のうちに!」

「あんた、まさか私を庇って!?」

「僕は、大丈夫だ、だから、早く!」

「そう言うセリフはもっと余裕がある時に言いなさいよ!」


 ロアを眺めながら、サリーはこの状況を打開する手段を考えようとする。


(私はアビリティなんか持ってない。武器だって持ってないし、そもそも使ったこともない。武道の心得があるわけでもなし…)


 全く思い浮かばない。絶望的な状況だった。


「うわあああっ!!」


 ゴーレムが締め上げる手に力を込め、ロアの体がメキメキと音を立て始める。サリーの頭には、今まで自分がギルドのスタッフとして働いてきた記憶が巡っていた。


 これまでにも、クエストに失敗し、命を落とした冒険者は何人もいた。所詮事務仕事がメインなサリー達には、人が死ぬという実感など全くなかった。だが、今目の前では冒険者が、しかも自分を助けようとしたばかりに命の危機に瀕している。


(どうすれば…?このゴーレムを倒すのは、私達にはもう無理。このゴーレムはミレイユが召喚したもの。

 それなら、ミレイユに止めさせるしかない!)


 サリーは駆けだす。


「待ってなさいよ!」

「それで良いんだ…無事に逃げ切ってくれ。」

「逃げるんじゃないってのに!」


 突っ込みを入れながら、サリーはゴーレムの横をすり抜け、大広間を後にした。


■■■


 サリーは大広間を出て廊下を走る。


 今はミレイユを探さなければならない。そう思っていると丁度居住スペースの向こうに、水を交換して来たらしい洗面器を手にしたミレイユが扉に入ろうとしているのを見つける。


「ちょっと待って!!」


 サリーは大声を上げて制する。


「あなたは、さっきの。相方の少年はどうしたのですか?彼を置いてここまで逃げてきたのですか?」

「逃げるためにここに来たんじゃないわ。」


 サリーは息を整える。


「私達の要求は取り下げるわ。その代わり、ロアを助けて!」

「勝負を棄権する、ということですか。しかし、それでは私にとって何の得にもなりませんしね。」


 ミレイユが金や損得勘定に拘る性格であることは、サリーも情報として知っていた。


「分かってる。もし、ロアを助けてくれたら、私のことは好きにしていいわ。」

「好きにする、それは奴隷になっても良い、と解釈しても?」

「構わないわ。」


 ミレイユはサリーをじっくり眺める。


「奴隷を雇うのは、本来私どもがやるべき仕事を代わりに行って業務を効率化させ、なお且つ少ない費用で働かせることで人件費も節約することが最大のメリットです。あなたにそれができますか?」

「で、できるわ。」


 過酷な労働環境を想像して、サリーは一瞬返事に窮する。


「では、あなたには何ができますか?」


 ミレイユは少し間を置いて、質問してきた。


 サリーは自分が今までやってきた仕事を思い浮かべる。ギルドの事務の仕事はやってきたが、果たしてそれらがここで役に立つのか。あまり想像はできない。それより、家事はどうだろうかと考えた。少なくとも、サリーは姉のサニーより家事はできる自信があった。


「家事なら一通りできるわ!魔王の身の回りの世話だって、できるわよ!」

「お断りします。」

「な、何で!?」


 即答で帰ってきた拒絶にサリーは思わず声を上げる。


「過剰な人員投入は働き手のやる気を削ぎます。」

「いや、さっきと言ってること違うよね!?」


 一向に話が進まない、と思われたその時


「んっ?」


 ミレイユの表情が険しくなる。


「ど、どうしたの?」

「この気配、まさか…」


 ミレイユが廊下の奥に目をやる。サリーも思わずそちらを見る。息の詰まる沈黙の中。


「ま、待つんだ、サリー……」


 そこにほぼ満身創痍になったロアの姿が見えてきた。杖を床に付いて、足を引き摺りながら近付いてくる。


「ロア!?あんた、どうやってここに!?それに、ゴーレムは!?」


 サリーが驚いて駆け寄る。


「倒したようですね。ゴーレムを。魔力が消失しましたから。」

「ああ、サリーのアドバイスが役に立ったよ。ゴーレムが水に弱いって。」

「でも、どうやって?あの部屋に水なんてないわよ?」

「あの部屋にはね。だけど、さっきミレイユが水の入った洗面器を持っていたってことは、この城の中のどこかには水があるはずだ。

 ゴーレムが僕を締め上げていたおかげで、テレポートの射程距離に入った。あの体制のままテレポートしたら、ゴーレムも一緒にテレポートするからね。」

「しかし、あなたはこの城の水がある場所を知っていたのですか?」

「その場所に辿りつくまでテレポートを繰り返したんだ。」

「で、運良く水がある場所にワープできたということですね。」

「そういうことだよ。」

「あんた、意外と根性あるわね。」


 サリーが感心したように眼を丸くする。

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