恨みの理由
ライラが構えている剣に再度力がこもる。
「俺を甘く見るなよ、魔王。俺を追い詰めたと思っているようだが、追いつめられるのはお前の方だ。」
「おい、早まるな!私は薬草を取りに来ただけで、お前と戦う理由などない!」
俺が言うのが早いか、ライラが上に掲げた魔剣から、稲光のようなものが走り始める。
(嘘だろう?魔剣に力を吸われて、ダメージまで受けて、それでもまだやるのか?)
ライラが剣を振りかざすと、電撃と化した剣圧が地面を這ってこちらに迫る。
「うおお!?」
咄嗟に避けると、俺の背後にあった木が倒れる。
(まるで魔王並みの破壊力だ。それほどまでにあいつもダメージを受けているのか。何て根性だ!)
今度は上に放たれた魔力が雷のように辺りを撃つ。
「おい!落ち着け!周囲を焼野原にするつもりか!?」
魔力を吸い取られ、ボロボロになった今、ライラを動かしているのは俺への憎しみのみだ。もはや理性など、ほとんどないのかもしれない。そうこうしているうちに一筋の雷撃がサニーの上に落ちてくる。
「危ない!」
俺はサニーを抱えて何とか避ける。ついでに近くにいたアーサーも同様に抱えて雷撃を避ける。
「魔王さん!?」
「魔王殿、かたじけない。」
「礼はいいから、ここから離れろ!」
二人を離すと、丁度俺目掛けて剣圧が迫って来ていた。
「くそっ!」
俺は剣で防御する。こちらの剣はあれほどの魔力を発することはできない。つまりは、接近戦に持ち込むか、防御にしか使えない。ふと周りを見回すと
「な、なんてことだ!?」
危惧したとおり周りが焼け野原になっていた。それだけならまだしも、俺が探しに来ていた薬草が生えていた場所までも全部真っ黒焦げだ。
「貴様、よくも!!」
俺は放たれた剣圧を剣で受けると、怒りに任せて別方向に弾き飛ばした。そのまま距離を詰めてライラに斬りかかる。
「よくも、大事な薬草を!あれがないと困る人がいるんだぞ!?」
「魔王が人助けだと!?冗談を抜かすな!!」
ライラも防御するが、力は拮抗している。次第に剣と剣のぶつかり合いで衝撃波が発生し、俺達の周囲の地面を抉っている。
「冗談ではない!本当だ!言って分からないなら本気で殺すぞ!」
「俺はお前を倒すまで死なない!妹の、クレアの仇を討つまでは!」
「クレアだと!?クレア = モンタニーのことか!?」
聞き慣れたその名前に思わず目を見開く。
「お前にとっては、他にも大勢殺してきた女の子達の一人に過ぎないか?ならば、思い出させてやる!
妹は村からお前の討伐に行き、お前に奴隷にされた揚句に嬲り殺された。俺はそのクレアの兄だ!」
ライラが剣に力を込める。こちらも負けじと対抗する。ライラが何を目的として魔王の俺と戦うのか、本来なら気にする必要などない。しかし、
「待て!誤解だ!」
このまま誤解を残されたまま死なれるとこちらも寝覚めが悪くなる。
「今更言い訳をするつもりか!?」
「違う!そうじゃない!クレアは、お前の妹は…!」
周囲に電撃が雨のように落ちてくる中、俺は声を張り上げる。
「まだ生きているんだ!」
雷撃が止んだ。
「な…に…!?」
ライラの剣を持つ力が弱まった。そう思う間もなく、ライラはそのまま前のめりに地面に倒れ込んだ。俺への憎しみと復讐心でどうにか動いていたが、実際のところ体力的にはもう限界だったのだろう。
何故こいつは、俺がクレアを殺したと思いこんだのか。聞きたいところではある。だが、それよりもっと大きな問題があった。
「くそっ!」
俺は手に持った魔力の剣を消し、地面に両手を突く。そこかしこが焼け野原で、もはや薬草など残っていなかった。
どうすればいい?別の所に薬草はあるのか?間に合うのか?
考えているところに、サニーが来て手を差し伸べる。その手には、確かに先程までここにあったはずの薬草が握られており
「これ…は…?」
俺はサニーを見上げる。
「この薬草が必要なんですよね?戦いで万が一のことがあったらと思って、念のために数本採っておいたのですが。」
「た、助かる!」
歓喜のあまり、思わずサニーの手ごと握ってしまう。
「これでクレアも助かる!いくら礼を言っても足りないぐらいだ!」
「あ、あの、魔王さん、こういうことは周りに人がいないときの方が宜しいかと…」
しどろもどろになるサニーの言葉に思わず周囲を見回すと、アーサーがこちらを無表情で見ているところだった。
「いや、これは……まあ、過程はどうあれ、薬草を手に入れた。クレアも待っていることだし、帰るとしよう。」
「それもそうじゃが、その者はどうする?まあ、放っておけばここで朽ち果てるじゃろうが、万が一のこともある。」
俺は地面に倒れたままのライラを眺める。俺の命を狙ってくる冒険者なら、本来なら身の安全のためにも始末しておきたい。
しかし、こいつがクレアの肉親とあれば、無碍にするのも駄目な気がする。そういえば、クレアも生き別れになった兄がいると言っていたので、こいつが兄で間違いないだろう。
「やむを得んな。サニー、悪いがそこにある魔剣を持って私の背に乗ってくれ。」
「えっ!?」
サニーが驚きと不安が混ざったような顔をする。
「何だと言うのだ?」
「その、あなたの背に乗ることは嬉しくないわけではないのですが……
ただでさえ危険な効果をもつその魔剣、持っていくのですか?
それに、武器を持った者を背に乗せる等、不用心ではありませんか?」
「分かっている。サニーだから頼めるんだ。
このような魔剣をここに放置すると誰かに悪用される可能性がある。鞘から外すと体力を奪われるから、そこだけは注意してもらいたいが。
本来なら歩いて帰れば良いのだろうが、今はそんな時間の余裕はない。ここは私がお前達三人を乗せて城まで飛ぶしかないのだ。少々定員オーバーにはなるだろうが。」
「分かりました。そこまで仰るなら。」
サニーは魔剣を鞘から抜かないよう注意しつつ、持ちながら俺の背に乗る。俺は、薬草を道具入れにしまい、アーサー及びライラを脇に抱える。
「では行くぞ!」
「ううむ、これでは魔王に人攫いにあっているようじゃな。」
「細かいことを気にするんじゃない!」
アーサーに突っ込みを入れつつ、俺は魔王の城の方へ飛び立った。




