魔剣と調和した能力
ロアとサリーの目の前には巨大な魔物、ゴーレム。サリーは迫る危機にひたすら焦る。
「ね、ねえ。テレポート使えるんでしょう?いくら何でも勝てないわよ。逃げましょう。」
「確かに、逃げるのは簡単だ。でも、それじゃクレアを助けられない。」
ロアがサリーと話している間にゴーレムの拳が落ちてくる。
「うわああ!?」
「きゃああ!?」
二人は別々の方向に飛び、拳をかわすと床に倒れ込む。
「気持ちは分かるけど、無茶して死んだら意味ないわよ!今の攻撃、ギリギリかわせたけど、運が悪かったら潰されてたわ!」
サリーに諭されながらもロアは考える。
(何をやっても倒せない完璧な魔物なんているわけない。何か弱点はないのか。)
考えたところで分かるはずもなく、困ったロアはサリーに振り返る。
「ねえ!ゴーレムの弱点って、知ってる!?」
「弱点ですって!?」
いきなり話を振られてサリーは困惑するが、ギルド嬢としての経験上すぐに思い出した。
「ゴーレムは異常に高い防御力を持ってるから、物理攻撃はほとんど意味がないわ。逆に魔法、特に水属性の魔法はよく効くわ。こいつは体が土でできてるから、水に溶けるの。」
「そうか!水があれば良いんだ!」
ロアはゴーレムに向き直る。しばし間をおいて
「でも、こんなところでどうやって水を?僕は水属性の魔法なんて使えないよ?」
「まあ、そんなこと分かってたわよ。」
「せめて雨でも降っていれば、外にテレポートさせて溶かすこともできるのに。」
ロアは悩ましげに頭を押さえる。
「外?そうよ、それよ!」
サリーが声を上げる。
「何も倒す必要ないじゃない!あんた、さっきミノタウロスをテレポートさせたでしょ!?
同じようにこのゴーレムもテレポートさせられない!?」
「そうか、その手があったか!」
ロアは足元に魔力を放出し、魔法陣を描く。丁度ゴーレムが接近してくる。
「さあ、来い、ゴーレム!この部屋から追い出してやぐぼぁっ!?」
次の瞬間にはロアがゴーレムの拳で吹っ飛ばされていた。
「な、何でテレポートしないの!?」
サリーが焦る。
「ゴ、ゴーレムが大きすぎる……魔法陣に完全に入りきる前に拳が僕に届いてしまう…」
痛みを堪えながらロアが起き上がる。
「どうすればいいのよ、いったい!?」
八方塞の状況にサリーは困惑する。
■■■
セーヌの滝壺付近。
俺は目の前に迫るライラの剣の一撃を両爪で受け止めた。
「たとえ強い剣を手に入れようと、所詮は人間。魔王の力に敵うものか!」
俺はライラを魔剣ごと押しのけて爪で薙ぎ払うが、ライラは後方に飛び退いてかわす。間髪いれず、俺は掌から神通力を放つ。だが、ライラが魔剣を振りかざすと強烈な突風が起こり、神通力が相殺される。
「なるほど。噂通り大した剣だ。」
ライラが魔剣を見る。想像はしていたが、あの剣には小手先の攻撃は効きそうもない。神通力が効かないのなら、どうするか?答えは一つ。
「より強力な攻撃を放つ!それだけだ!」
俺は今度はカマイタチを放つ。今度は風圧程度では消えないはずだ。ライラは剣で防御する。剣はひび一つ入らないが、カマイタチが掠ったライラの肩から血が出る。
「いけるな、この勝負。魔王殿、あの魔剣は確かに強力じゃが、持ち手の体力を徐々に奪う。
時間をかければ相手の動きは鈍っていく。そこを狙うのじゃ。」
後ろで見ていたアーサーが俺にアドバイスをくれる。
「ああ、魔剣と聞いて少々ビビったが、この程度の攻撃なら十分耐えられる。」
一方、
「ライラさん、あなたの実力は分かっています。しかし、使い慣れない剣で彼と戦うのは無茶です。ここは退散した方が…」
ギルド嬢のサニーがライラを止めようとしている。
「使い慣れない剣だと?むしろこの剣はこの上なく俺に合っているさ。」
彼女の言葉に耳を貸す気はないようだ。
「その魔剣は時間とともに使い手の体力を奪うことは分かっているな?今の状態で私を倒せないなら、もはや勝負は見えている。
まだやるのなら命の保証はしないぞ。」
幾分か余裕を取り戻した俺は忠告を加える。
「ああ、普通は体力がなくなるほど力は弱くなる。万全な状態で勝てないなら、体力を消耗すればますます勝ち目はなくなる。だが、計算通りにはいかないぜ!」
ライラは再度突っ込んでくる。
「何という愚かな!」
俺は再度カマイタチを放つ。が、今度は二発の刃を両方とも剣で振り払われる。振り払われた先にあった木が真っ二つに斬れ、地響きを立てて倒れる。
ライラが俺の目の前まで接近し、剣を振り下ろす。すかさず右手の爪で受け止めた瞬間、爪に少しずつ剣が食い込む。
「げっ!」
このままいくと、爪諸共俺が真っ二つだ。そう思った俺は、咄嗟に蹴りを当てる。
「ぐっ!」
ライラは蹴りを受けて大きく後退する。俺は自分の爪を見る。見事なまでに剣が当たった場所が切れかかっている。
「どういうことだ!?相手にはダメージは入っているはずだし、魔剣に力を吸われているはずだ。
なのに、どうしてさっきより威力が上がっている!?」
俺は後ろにいたアーサーに問い詰める。
「これは、私にも分からん。もしや、何らかのアビリティか。」
アビリティという言葉で思い付いた。言われてみればその通りかもしれない。だとしたら、そのアビリティとは何か?
「流石は魔王。蹴り一発でこれほどの威力とはな。だが、まだこれからだ!」
ライラが再度斬りかかってくる。爪で受け止めるのはもう無理だ。ライラが魔剣で斬りかかってくるのをかわし続ける。だが、このままではこの剣が俺の血を吸うのは時間の問題だ。刀を持った相手に丸腰で挑むのはあまりに危険だ。
背後に気付かなかった俺は、後ろから何かにぶつかった。
(しまった!俺としたことが!)
視線を背後にやると、後ろにあった木だった。これで完全に逃げ場を失った。
「とどめだ、魔王!」
ライラが剣を大きく振りかぶる。
「くそうっ!!」
俺は相手が攻撃に入る瞬間を狙って至近距離から神通力を放つ。ライラが吹っ飛び、これまた木にぶつかる。ぎりぎりだったが、これで真っ二つになるのは防がれた。
俺はふとさっきからその場に立ち尽くしているサニーの方に目をやる。おろおろして、声をかけられないといった雰囲気だ。曲がりなりにも知り合いだ。そんな女性の前で勇者を殺すところなど見せて良いものだろうか。少々困った。
「何を余所見している!?」
ライラが距離を詰めると、剣を薙ぎ払ってくる。俺はジャンプして木の枝の上に回避する。
もはや人の目を気にしている場合ではない。まずは自分の身を守るのが最優先だ。下にいるライラを見ると、さっき木にぶつかった時のダメージか、頭から血が出ている。それに、さっきアーサーが言った話によると、本来魔剣は使用者の体力を徐々に奪うはずだ。なのに、何故ここまで動け、さらには力が増すのか?不思議な状況ではあるが、それもアビリティの一言を付け加えれば、全て納得がいく。
「分かったぞ!ダメージを受ければ受ける程力がプラスされる!それがお前のアビリティだ!」
俺の指摘にライラは瞬時口を噤むが、やがてふっと笑い
「ああ、そうだ。俺のアビリティは自分がダメージを受ければ受ける程、力は上がる。痛みは殆ど感じない。」
自らのアビリティを明かした。




