魔剣グラナード
セーヌの中を彷徨っていた俺とアーサーだったが、川の流れる音が聞こえてくる。はるか遠くに、白い花が咲いた草原が視界に入る。
「おお、あれじゃ。あれが毒消し用の薬草じゃ。」
「や、やっとか。」
薬草を取るぐらいでここまで苦労するとは思わなかった。そちらに向かおうとした矢先、右側から何か得体の知れないオーラが漂ってくる。何だ?と思って見てみると、そこにあったのは、ひと振りのいやに禍々しい剣?
地面に刺さっている剣の柄は、魔物の顔が掘ってあり、まるで龍が巻き付いているように見える。
「あれは魔剣グラナードじゃな。」
アーサーが説明してくれた。
「魔剣というからには、強い力をもっているのか?」
「まあ、そうじゃ。」
「そうか。丁度武器が欲しいと思っていたことだし、行掛けの駄賃に貰っておくか。」
俺は剣に近付き、引き抜こうとした。
「しかし、待たれよ!」
アーサーが叫び、直前で俺は手を止める。
「何だって言うんだ!?」
「グラナードは今までこのダンジョンで命を落とした冒険者達の怨念が宿っておる。その怨念こそがこの剣の魔力。
膨大な力を持ってはいるが、手にして抜いた者の体力をどんどん奪う。それでも良いなら止めはせぬ。」
「むむむ。」
やはり、強力な武器というのは何らかのデメリットが付き物のようだ。俺は考えたが、
「私は魔王だ。こんな物騒なものを頼らずとも、十分力はあるつもりだ。手に入れるまでもない。」
「それが賢明ですな。」
俺とアーサーは剣に背を向けてその場を去ろうとした。その時
「そうさ。その剣は魔王や老いぼれの爺さんには扱いようのない代物さ。」
背後から男の声がかかる。振り向くと、白銀の鎧の青年とギルドの服装の女性。どちらも見覚えがある。
「魔王さん!生きていたんですね!」
女性の方が嬉しそうに声を弾ませる。
「サニー、といったか。ああ、まあ、無事なのは間違いない。」
そうだった。自分が安否不明扱いになっていたことを忘れていて若干戸惑った。サニーが目を閉じ、額に指を当てる。僅かに指先が光ったような気がした。
「ライラさん。これで魔王が生きている証明ができます。クエスト達成おめでとうございます。」
「そりゃどうも。ではサニーさん、早速だが次のクエスト受注だ。魔王討伐のな。」
「えっ?」
サニーが呆気に取られ、すぐに我に返ると慌てだした。
「し、しかし、武器はもうないのでしょう!?確かに、ここに来るまでの間に短剣や体術だけで魔物を倒してきたのは見事でしたが、流石に…」
「何を言っている?武器ならここにある。」
そう言ってライラは魔剣の前に歩み寄る。
「その剣に触れてはいかん!その剣は膨大な魔力があるが、それは人間の怨念。下手に触れると怨念に蝕まれて力を吸い取られるぞ!」
アーサーが止めようとする。
「だから、どうした。それは俺にとって好都合だ。」
ライラはそのまま剣の柄を持つと、難なく地面から引き抜いた。
「なるほど。確かに大した剣だ。触れているだけでも強い魔力があるのが分かる。」
そして、剣を俺の方に構える。
「さあ、行くぜ、魔王。この魔剣ならば、お前の相手として不足はなかろう。」
俺はやむなく身構える。
(俺は…俺は、クレアのために薬草を取りに来ただけだったんだ!なのに、何故こんなことに!)
俺がそんなことを考えている一方、魔王の城でもとんだ騒動になっていることを俺は気付いていなかった。




