魔王探索クエスト
野党達が巣食う廃墟の街。
元いた住民達は野党の襲撃で全員街を去ることとなった。建物はどれも塗装が剥げ落ち、生活感がまるでない。
その中で一際大きな屋敷の中。ダヴィドはテーブル席に付き、鎧も外し、リラックスした様子で紅茶をすする。その前には、彼とは対照的にピリピリしているライラの姿があった。
「いったい、魔王はどこにいるんだ!?ミレイユに連れ去られた後を追ったが、森の中で見失って以来全然見つからないぞ!魔王があの程度で死ぬことはないはずだ!」
ライラはダヴィドに詰め寄る。
「それを調べるのがお前の役目だろう。」
ライラとは裏腹に、のんびりとした口調でダヴィドが言い、カップをテーブルに置く。
「早く行け。魔王を逃がした汚名返上の機会を与えてやる。」
ダヴィドの言葉に、ライラはムッとする。
「いいか。俺は確かに森の中で重傷を負っていたところをあんたに助けられた。そのことに感謝はしている。だからといって、あんたの部下になったつもりはない。」
ダヴィドは少しも慌てず、にやりと笑う。
「いいのか?こんなところで俺と言い争いをしていて。こうしている間にも誰かが魔王を討伐してるかもしれないぜ?
そうなったら、お前は一生妹の仇を取れずじまいだ。」
ライラは悔しげに唇を噛みしめるが結局何も言わずに出て行った。
「本当にあんな若僧で大丈夫なのですか?ダヴィド様。」
ライラの席の隣に立った、執事服を着た初老の男が尋ねる。
「正直、使い捨てにするつもりで引き込んだが、思った以上にタフな奴だ。本当に魔王を倒せる可能性も零じゃない。」
「だといいのですが。」
執事の男は不安を隠せない様子だ。
「魔王なんて、僕に言ってくれればすぐに食べてやるのに。いや、やっぱり今のなし。魔王なんて、食べてもまずそうだもん。
僕は食べるなら、もっと柔らかい人がいいな。」
テーブルの上にいた生物が無邪気な雰囲気でダヴィドに話しかけてくる。人間の赤子並の大きさで、実際に四つん這いでいるところはその姿に近いが、体の色は紺色で長い尻尾を持ち、口には牙が生えているなど、カメレオンの化け物のようである。
「マライオ。誰がお前の好みを言えと言った。」
ダヴィドは呆れたように頬杖を突く。
「まあいい。まずはライラの状況次第だ。あいつが失敗したときに、また作戦を考えれば良いだろう。」
そう言って、ダヴィドはカップの残りを飲み干した。
■■■
ギルド街。
ここでは最近慌ただしいことになっていた。魔王討伐のクエストが受注できなくなったのだ。
原因は、魔王がミレイユ操るドラゴンに攫われて安否不明になってしまったためである。そこで、ギルドでは魔王の生存報告を求めるクエストが発注されていた。調査の結果、魔王がまだ生きていることが分かれば魔王討伐のクエストを復活させる、というわけである。
魔王と戦わなくてもクエストクリアなので、報酬は平均のクエストよりちょっと高いぐらいだ。肝心のクエストの受注状況はというと、今一つだった。
「なあ、どうするよ?魔王の顔見て帰るだけで報酬がもらえるなら、上手い話じゃないか?」
「そうだけどよ、もしそれで魔王に見つかったら殺されるかもしれん。それでなくても、魔王の城は沢山の仕掛けや魔物でいっぱいだし、道中も危険だし、いくら魔王と戦わなくて良いっていってもなぁ。」
冒険者の話を耳にするギルド嬢のサニーとサリー。
「ねえ、お姉ちゃん。やっぱり、もうちょっと報酬額を上げた方が良いんじゃないかな?」
「そうかもしれないけど、敵と戦う必要のないクエストでは、これ以上報酬額を上げようがないわ。
それに、今回のクエストは魔王さんが生きていることが確認できればそれで達成。仮に、そこら辺を散歩しているところを偶然目撃しただけでもクリアですもの。」
「そう考えると、かなり運に左右されるクエストね。ところでお姉ちゃん、まだ魔王のことを『さん』付けしてるの?」
「一度『さん』付けで呼んでしまったものを取り消すのも変でしょう。急に呼び捨てに戻したら、却って気まずいわ。」
「言っておくけど、私達はギルドスタッフなんだから、魔王と親密な関係があるなんて周りから思われたら大変なことになるんだからね?」
「ええ、分かっているわ。」
そんな二人の前に、白銀の鎧を纏った青年が一人、重々しい足取りで近付いてくる。
「魔王捜索のクエストがあると聞いて来たんだが。」
「はい、少々お待ちを、って、あなたは!?」
驚いて相手を見上げるサニー。サリーもつられて目をやる。
「あなたは、前回魔王軍が街を襲って来た時に、魔王と戦ってた冒険者!?」
「ああ、覚えていたか。ようやくあの時の怪我も完治したからな。今日からまたクエストを受けることにしたんだ。
それに、あの魔王を取り逃がしたままだと俺も後味が悪い。せめて生きているのか、死んでいるのかぐらいは確認しておきたいからな。」
「では、クエストを受注するということで宜しいのですね?」
「ああ。」
話が進んでいく、その途中。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
一人の少年がこちらに走ってくる。
「僕にもそのクエスト、受けさせて下さい!」
彼はクエストのカウンターに身を乗り出す。
「何なんだ?お前は?」
青年は突然現れた少年に訝しげな顔をする。
「僕には、魔王を倒して助け出さなければならない人がいるんです。だから、魔王の生存を知ることは重要なことなんです。
魔王が生きているのか分からない今、その人の安否も分かりませんから。」
「そうか。羨ましいな。守るべき人がいるのは。」
「え?」
少年は青年を見上げる。
「俺にも守りたい人間がいた。だが、その者はもういない。」
「そうなんですね。」
「まあ、今となっては昔の話だ。それより、魔王を探したいと言うなら、一緒にパーティを組もうじゃないか?」
「良いんですか!?」
「ああ、ただし、自分の身は自分で守るんだ。」
「ありがとうございます。申し遅れました。僕、ロアって言います!」
「ロアか。俺はライラ。宜しくな。」
二人はお互い握手を交わす。
「さて、クエストだが、俺達は何をすれば良い?魔王の生存を確認すれば良いんだろうが、仮に俺達が魔王を目撃したとして、それをどうやってあんた達に証明する?」
「はい。ですので、今回のクエストは私と同伴して頂くことになります。」
サニーが前に出る。
「ギルドの人が証人になってくれるということですね。」
ロアが話に入る。妹のサリーが頷く。
「そう。それに加えて、姉のサニーは、風景を描写するアビリティを持ってますから。魔王がいれば、その風景を持ち帰って、ギルドの人間全員に魔王の生存を報告することができます。」
「便利な能力だな。」
「まあ、そうなのですが、生憎戦闘向けのアビリティではないので、何かあった時は守って頂けると助かります。」
サニーが苦笑する。
「守ってあげたいのは山々なんだけど、僕のアビリティも戦闘向けじゃないからなぁ…
いざとなったら逃げることはできるけど。」
「な……」
ロアの言葉にサリーが凍り付く。その後、救いを求めるようにライラの方を向く。
「ん?俺か?まあ、俺のアビリティは戦闘向きといえば戦闘向きなんだが……これはいざという時のためにとっておくアビリティなんだ。」
「いざというとき以外に使ったら、どうなるの?」
「下手をすれば、全治数カ月の大怪我だな。」
「何なのよそれ!?全然使えないじゃない!」
もはや冒険者に対する敬語も忘れてサリーが叫ぶ。
「安心しろ。アビリティがなくとも、剣の腕に覚えはある。」
「ぼ、僕もいざとなったら、皆を逃がすぐらいはできるよ!」
「う、う~ん。」
信用に足る確証が得られず、サリーが考え込む。
「分かりました。行きましょう。」
「お姉ちゃん!?」
あっさりと承諾したのはサニー本人だった。
「せっかくクエストに参加して頂けるのですから、全力でサポートするのがギルドの者としての務めです。
それに、私自身も魔王さんの安否が気になりますから。」
「ま、魔王さんって…」
ロアが信じられないと言った顔で見ており、事情を知っているライラはやれやれと言った感じで溜息を吐く。
「じゃあ、私も行くわ。お姉ちゃんだけだとやっぱり心配だから。」
サリーが自ら名乗り出る。
「信用がないね。僕達。」
ロアがライラと顔を見合わせる。
「信用される、されないは二の次だ。話が決まったのなら、そろそろ行くか。」
ライラの言葉と共に、一同は魔王の城を目指すことになった。




