メイドと交わす取引
俺はミレイユの召喚獣に掴まれたまま、上空を飛んでいる。魔王配下の魔物達は、皆俺が連れて行かれるのに気が付いてギルド街から引き上げてこちらに付いてきている。
「いったい、どういう風の吹き回しですか?私をギルドに突き出したかと思えば、助けに来るなんて。」
開口一番のミレイユの言葉がそれだった。
「あの時は、そうしなければ私自身危なかったんだ。冒険者と戦う前に、回復する時間を稼ぎたかった。
そのためにお前を犠牲にしたのは悪かったと思っている。」
「何が望みなのですか?何か目的があって、私を助けに来たのでしょう?」
ミレイユはまだ訝しげだった。
「分かってくれているなら、話は早い。正式に私のメイドになって欲しい。」
俺は兼ねてより考えていたことを頼んでみた。ミレイユは目を丸くして俺を見る。
「ただとは言わない。これは取引だからな。私のメイドになるなら、もちろん賃金は払う。
それから、魔王城の裏手の鉱山に、金になる資源があると言ったな。そこをお前にくれてやるから、好きにすればいい。どうせ私が持っていても、金に換える方法が分からない代物だ。」
「自分を殺そうとした私を、メイドとして傍に置くというのですか?もしかしたら、また同じことをするかもしれないのに?」
ミレイユはまだ俺の真意を測りかねていた。
「お前は金でしか動かない奴だ。私を倒したところで金にならないと決まれば、命を狙ってはこないと思っている。
それに、メイドとしての仕事能力はあったし、その上有事のときに強いアビリティをもっている方が、心強い。」
「だからって……」
ミレイユは考え込む。気持ちがこちらに傾きかけているようにも見える。
「それにな、マランが悪事を働いていたことを姪であるミレイユが知らなかったのは本当のことだろう?マランが殺されるまでは彼のために真面目に働いていたはずだ。そんな人間が、村人を虐げるに至ったのには理由があってのことだと思ってな。
その理由が何かは聞かない。ただ、そう思ったら、何となく放っておけなくなった。それだけだ。」
ミレイユは少しの間、俺の顔をじっと見てきた。そして、溜息をついたかと思えば、哀れむような笑みを浮かべた。
「良いでしょう。あなたのメイドになってあげます。」
「本当か!?」
「ただし、取引で約束したことは、ちゃんと守ってもらいますよ。」
「ああ。」
ようやく商談が成立した。
「ところで、そろそろ肩を放してもらえないか?」
俺の肩はずっとドラゴンに掴まれたままだった。これが普通の人間だったら、肩の肉が裂けていてもおかしくない。
「まだまだ、ルイ様のお城に辿りつくまで我慢して下さい。私は看守達に痛めつけられるのを我慢したんですからね。」
「やっぱり、怒っているではないか。」
ミレイユは笑顔で、そして何も言わなかった。かくして、お金に煩いメイドのミレイユが正式に俺のメイドとなるのだった。
■■■
ギルド街。
魔王がミレイユに連れて行かれた様子を、小高い丘から黒い鎧の男が眺めていた。
「ライラの奴、しくじったか。できれば、アーサー王が魔王に接触する前に片付けておきたかったんだがな。仕方がない。」
男がその場を立ち去ろうとしたとき
「そこのお前!待て!」
ギルド直属の警護団五人が駆けつけた。
「これはこれは。ギルドの犬が何か御用かな?」
「ダヴィド = アルヴァレス。
隣国の王、アーサーの側近の騎士として仕えていながら、彼の暗殺を企てた罪で投獄、その後脱走。ギルドからも指名手配されている。」
「武器を捨てろ。さもなくば、こちらから攻撃するぞ。」
警護団はにじり寄る。
「武器?お前達を始末するのに、そんなもの必要ないさ。」
ダヴィドと呼ばれた男は、軽く手を上げて構える。直後に、彼の正面広範囲に爆発が起こり、警護団は瞬くうちに全滅した。
「ちっ。防具も武器もボロボロか。これじゃ金になりゃしねえ。ギルド関係者ならもっと丈夫な装備にしろよな。」
ダヴィドは使い物にならなくなった警護団の装備を見て一人愚痴ると、魔王が連れ去られていった方向を見やり、
「それにしても、ルイ・アントワール。あいつが魔王か。こいつは面白くなってきやがったぜ。」
不敵な笑みを浮かべてその場を立ち去った。




