探し求めていたもの
二人のギルド嬢の後に付いて、俺は歩いていた。
「お前達の名前を教えてはくれないか?二人同時に並ばれると、どちらを呼んでいるのか分からなくて困るだろう。」
姉の方が振り返って答える。
「申し遅れました。私はサニー。そちらが妹のサリーです。」
「ちょっと、お姉ちゃん、勝手に私の名前教えないでよ!」
「サニーにサリー、か。覚えておく。」
サリーが抗議してくるが、聞こえないふりをした。
「一つ聞きたいのですが。」
サニーがこちらに尋ねてくる。
「あなたは、ミレイユを助けるつもりなのですか?」
「まあ、そうだな。」
「やはり、ミレイユが魔王の手先だったという噂は本当なのですか?」
ミレイユは確かに魔王のごとく、村の人間達を虐待してきた。しかし、魔王こと、俺とは全くの無関係で、そこだけは無実の罪である。ただ、それを一から話すと、俺がミレイユに殺されかけた格好悪い話をしなければならない。
「だとしたら、私にミレイユの居場所を教えると言ったことを後悔するか?」
俺は適当に誤魔化した。俺に尋ねたサニーは黙ったまま何か考え込んでいるようだった。
俺達は最初にサニーが言った通りの複雑な道順を辿った。複雑なだけでなく、今は魔物の襲撃を受けてあちこちが崩れ落ちているので、大きく遠回りしなければならないところもあった。二人の案内がなければ、探すのに数時間かかってしまったかもしれない。
やがて、階段を上がって遠くの方に地下の入り口の階段が見えてきた。
「あそこがオートプリズンの入り口です。」
サニーが教えてくれた。
「ご苦労だったな。あとは私が入って探そう。」
「いえ、私達もお供します。」
「どういう風の吹き回しだ?」
「オートプリズン内は少々入り組んでますから、ミレイユのところにたどり着くのに時間がかかります。道が分かる私達も一緒に行った方が良いでしょう。」
「そんなわけだから、早く付いてきなさい!あなたがミレイユを見つけるのが遅れると、それだけ町の被害が大きくなるんだから!」
サニー、サリーの順に建物に入って行った。俺はふと考えた。
(無論、俺は約束を守る。だがこの状況、俺が約束を破ったとしても俺には何のデメリットもないではないか?逆にあの二人にとっては、リスクが大きい。
ミレイユを見つけた途端に俺が裏切ったりしたら、あの二人は危なくなる。
そんなことを想定していないのか?あるいは、想定した上で……?)
俺が考え込んでいると、一体のガーゴイルが来た。俺はガーゴイルを呼び寄せると、ひそひそと話す。
「ないとは思うが、一応念のためだ。もし私がオートプリズンから出てこずに、あの二人だけ出てきた場合、その時は攻撃して良い。」
ガーゴイルは頷いた。
「何やってるのよ!早く来なさい!」
サリーが振り返って急かす。
「分かっている。」
万が一の保険も掛けたところで、俺は二人に続いてオートプリズンに入って行った。
■■■
オートプリズン内部。
ここでは犯罪を犯して収監された者達がいる。地下の施設で所々にある松明がなければ、暗くてとても進めない。各檻には電子ロックがかけてあり、看守達の持つカードキーがないと開かない。更に、特別酷い囚人は懲罰房に入れられ、両手両足を拘束されたまま看守達からの刑罰を受けるのだとか。
既に看守達は逃げてしまったらしく、姿が見当たらない。残されているのは囚人達のみである。
「出せぇっ!出してくれぇ!!あんた、魔王なんだろ!?
出してくれたら、あんたの子分になっても良い!」
囚人達が鉄格子に張り付いてこちらに詰め寄る。サニーとサリーは万が一鉄格子が壊れたときのことを想定してか、二人身を寄せ合っている。
檻の横に罪状が書いてあるが、強盗殺人をやらかした者、女性に対する暴行を繰り返した者等、下手をすればクエストの討伐対象になる魔物より危険な奴らばかりだ。サニーとサリーが怯えるのも無理はない。
元々こんな奴らに用はないので俺は何も言わずに通り過ぎた。虱潰しに探してはいるが、一向にミレイユの姿は見えない。
「本当にここにミレイユがいるのか?」
「失礼ね!私達が嘘を言ってるとでも!?」
サリーが反発する。
「もしかすると、拷問用の懲罰房にいるのかもしれません。」
サニーが思い付いたように言う。
「重罪を犯した者は、まずその懲罰房で拷問を受けて大人しくさせてから、刑に服すると聞いたことがあります。」
「拷問……」
話に聞いたことはあるが、拷問なんて言葉、身の回りでそうそう使われるものではない。ミレイユは強力なアビリティをもってはいるが、体は普通の女性だ。拷問なんて耐えられるとは思えない。
奥の方に行くに従い、囚人達の数は減っていき、薄暗さも増す。松明が所々消えているせいだ。最深部の階段を降り、一番奥の檻に来たところで、俺は探し求めていた姿を見つけた。
「ミレイユ!?」
檻の中には見間違えるはずもない、メイド服を着たままのミレイユが両手両足を荒縄で縛られたまま横たわっていた。中に入ろうとするが、扉にはオートロックがかかっていて開かない。
「カギは持っているのか?」
俺が尋ねると
「ええ、勿論です。ここに。」
サニーがポケットからカードキーを出して機械にかざすと、オートロックの扉が開いた。俺は檻の中に入り、ミレイユの様子を見る。
腕の脈はあるから、まだ生きてはいるだろう。それでも完全に意識を失っており、腕や足など、服から見えているところには余程酷く殴られたであろう痣が残っていた。この分では、服の下はもっと重症かもしれない。
(辛うじて生きていることは喜ぶべきことだが、こんなに手酷くやられたら、やっぱり俺のことを恨むだろうな。どうしたものか。)
俺が考えていると、後ろからガシャンッと何かが閉まる音がした。
「あっ!何をする!?」
振り向くとオートロックの扉が閉じられていた。
「お姉ちゃん!?何を!?」
サリーが驚いて姉の顔を見ている。この様子から見るに、この扉を閉じたのはサニーで、しかも妹のサリーには知らせずに独断でやったようだ。
「ごめんなさい。騙し討ちのようなことをして。でも、これ以上あなたにこの街、いえ、世界中の大勢の人を傷つけて欲しくないんです。」
「お、お姉ちゃん、落ち着いて!こんなことをして、もし魔王がここから脱出したりしたら、私達がやばいよ!」
そう忠告するサリー自身、サニーよりよほど慌てているように見える。それにしても困ったことだ。ここで閉じ込められて時間をくってミレイユが意識を取り戻すとややこしいことになる。俺はどうにかできないものかと鉄格子に手をかける。
「安心して、サリー。この懲罰房ではアビリティを使うことはできないの。だから、脱出されることは……」
言ってる最中、俺は鉄格子に力を入れて横に捻じ曲げていく。かなりの硬さであったが、全力を出せばどうにかならないでもない。
「あ……あ…」
曲がっていく鉄格子を見て、サニーもサリーも冷や汗をかく。掌が赤くなったが、どうにか鉄格子を人一人が通れるぐらいに曲げることができた。
「きゃああああああ!!」
サニーとサリーはその場から逃げ出した。
「逃げなくとも、何かするつもりもないってのに。」
俺は鉄格子からミレイユを引っ張り出しながら、あることに気が付いた。
「待て、お前達!」
返事はない。仮に聞こえていたところで魔王の呼びかけに応じる者などいないだろうが。
「このまま外に出たら危険だ!」
俺は後を追おうとしたが、足元に横たわっているミレイユに気が付く。彼女をここに置いていくわけにはいかない。
「くそっ、何故私がこんなことを!?」
俺はミレイユを抱えながら、サニーとサリーの後を追った。
■■■
サニーとサリーはオートプリズン内を出口に向かって走っていた。
「お姉ちゃん!どうしてあんな無茶なことを!?」
横で走る姉に向かってサリーが口を尖らせる。
「もし魔力だけが強くて、肉体的には貧弱な魔王だったら、ワンチャンスあるかと思って。」
「それなら良かったけど、あいつ筋肉バカじゃない!」
「でも、魔王が約束を守るとも考えにくいから、あの場ではあれが最善なのよ。」
「そりゃそうなんだけど。」
走っている間に入口の明かりが見えてきた。二人は急いで外に出た。急に入ってくる光が眩しい。
「あっ!」
サリーは入り口を出た瞬間に、瓦礫に足を取られて転んでしまう。
「サリー!」
サニーが気が付いて振り返る。
「大丈夫っ……て、お姉ちゃん!後ろ!!」
上空からサニーめがけて突っ込んでくるガーゴイルにサリーが気が付いた。
「え?」
サニーは振り向くが咄嗟に反応できない。その時
「待て!お前達!攻撃中止だごぶぁっ!?」
魔王がサニーとガーゴイルの間に割って入ってきた。ガーゴイルも咄嗟に急ブレーキが間に合わず、魔王と顔面が正面衝突した。ガーゴイルの頭突きを顔面で受け止めた魔王がぐらつき
「ああ!?ちょっと!?」
すぐ後ろにいたサニーが支えようとするが、力足りず魔王が抱えていたミレイユ諸共後ろに倒れこんだ。




