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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第七章 ギルド街襲撃はたった一人のメイドのために
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ギルド本部へ

 街中では、激しい戦闘が続いていた。


 先程放ったミノタウロス相手に三人パーティーで挑んでいる者もいる。コボルド数体と交戦している者もいる。


 剣士の一人が剣を持って間合いを詰めようとしたところで


「おっと、やらせやしないよ。」


 物陰からゴブリンが短剣を投げつける。


「うわっ!?」


 冒険者は不意を突かれて、剣を弾き飛ばされる。その隙を逃さずコボルドが剣士をばっさりと切り裂いた。


「貴様!卑怯な真似を!」


 他の剣士がゴブリンに切りかかるのを、ゴブリンが両手に持った短剣で受け止める。


「さて、久々に俺の乱舞を見せてあげようかねぇ。」


 言うなりゴブリンは相手の剣を払いのけ、回転切りを連続で放ち、追い詰めていく。剣士の背に、後ろにあった塀がぶつかる。


「うっ!?」


 剣士は逃げ場がないことに気付いたがもう遅かった。ゴブリンにとどめを刺されるのに一秒もかからなかった。


「へっへっへ、これで報酬も頂きだね。」


 倒した相手から金品を漁ろうとするゴブリンを見て


(そういえば、今回の件が終わったら魔物達にも報酬を与えないといけないんだよな。)


などと今更ながらに思っていた。


 一つ気が付いたが、戦っている冒険者は男ばかりだ。女の冒険者なんて目の保養にしたくてもいやしない。やはり、クレアのような女騎士というのは、極めて稀な存在のようだ。


 そんな中


「助けてーーー!!」


 文字通り、助けを求める声がする。なのだが、何とも言えないがらがら声だ。


「ああ、魔王様!助けて下さい!」


 走ってきたのは連絡係のオーク、無論生物学的にはオスだった。冒険者三人に追い掛けられていた。なんたること。


 俺は、三人の冒険者を神通力で吹き飛ばした後、オークに駆け寄る。


「ありがとうございます、魔王様。助かりました。」

「そんなことより、魔物のお前が何故人間に追い掛けられている!?」

「私は連絡係です!戦闘向けではありませんよ!」

「あのなぁ……」


 確かに連絡係に使っていたのは事実だが、まさか戦闘ができなかったとは知らなかった。


「分かった。では、どこかに隠れているか、強い魔物の傍にでも行くが良い。」


 丁度、ミノタウロスが冒険者三人相手に勝利したところだった。


「は、はい!では失礼致します!」


 オークは慌てた様子でミノタウロスの近くへ行った。あれが、ハーピーや小悪魔のような女性のモンスターならもっと心を揺さぶられたのだが、なんて呑気なことを考えていた。


 そこへ、また新たに冒険者達が駆け付ける。


「いたぞ!魔王、お前を倒せばギルドから賞金十億ゴールドもらえることになっている!」

「俺が頂くぞ!十億ゴールド!」


 魔王の首に十億ゴールドか。確かにそれだけの金があれば使いようによっては一生遊んで暮らせるだろう。かかってくる冒険者達を神通力、爪、拳で撃退していく。


「十億ゴールドは俺のものだ!」

「逃がさんぞ!十億ゴールド!」


 倒しても倒しても新手が次々に襲ってくる。面倒なことだ。


 これは早いところミレイユを見つけ出して退散するに越したことはない。だが、この状況で俺はミレイユがどこに囚われているのか分からないでいた。町の中を適当に探せば良いだろうと思っていたが、もはやそんな余裕もなくなってきた。いくら魔王とて、これだけ大勢の冒険者を相手にすれば疲れもする。誰かに聞くか。


「おい、この辺りでミレイユを…」

「十億ゴールドは頂きだ!」


 言い終わるより前に斧で斬りかかってくる冒険者。斧をかわし、至近距離からカマイタチで吹き飛ばす。


 ふと横を見ると、男性陣が何名か駆けていく。あの服装は、ギルドのスタッフのものだ。


 俺は良いことを考え付いた。ギルドのスタッフならこの街に詳しいはずだし、戦闘能力もないからちょっと脅せばミレイユの居場所を話してくれるかもしれない。


 後を追おうとしたが


「そこまでだ!」


 銃や剣、槍をもった冒険者達が十名程俺の前に立ちはだかった。


「次から次へと!ゴキブリか、貴様ら!」


 ふと背後から足音がしたので視線をそっと後ろにやると、熊の魔物、ベルベアが来ていた。ベルベアというのは、俺の命名だ。


「ちょうどいい。こいつの力をお前達に見せてやろう。」


 すぐ傍までやってきた二メートルを超える大きな熊に、冒険者達も動揺する。


「そいつは!?以前人食い熊としてギルドからも討伐命令が出ていたが……」

「そうだ。手懐けるのに苦労したが、実力は確かだ。さあ、ベルベア。こいつらを頭から食ってやれ。」


 俺はベルベアに冒険者の相手を任せ、その場を後にした。背後から悲鳴や食いつく音がするが、この惨状には流石に慣れないため、振り向かないようにした。

 

 一連の騒ぎのせいで、スタッフの姿を見失ってしまった。どうにかならないものかと辺りを見回すと、ギルド本部の建物が見つかった。


 あの中には案内所があったはずだ。もしまだスタッフが残っていれば、話が聞けるかもしれない。俺はギルド本部を目標に走り出した。


■■■


 ギルド本部の敷地は周囲の建物と比べて広く、ギルドの紋章が描かれた旗が立ててあるなど、一目見ればすぐ分かるようになっていた。


 俺が入り口の戸を押してみると、以外にもあっさり開いた。入ってすぐのところに大広間があり、その奥にギルドの受付の窓口がある。


 あまりにも静かだったのでもしや誰もいないのかと思ったが、受付の女性が二人いたので安心した。

 一人は背が高く、モデルのような体型で、金髪を後で束ねており、栗色の瞳をしている。眉毛もたれ目でおっとりとした印象を与える。


 もう一人は、横の女性に比べると背は少しだけ低めで、髪型はショート、髪の色と瞳の色は横の子と同じである。目は少しつり目だがなんとなく雰囲気は似ており、姉妹かな、と漠然と思った。


 二人ともギルドの制服である、紺色の上着に胸元に赤いリボン、膝竹までのスカートという服装だった。俺が近づくと


「クエストの受注ですか!?も、もちろん、魔王でもクエストは受注して頂けます!」


 背が高い方の女性がピンと背筋を這って上ずった声で応対してくる。


「何言ってるの!お姉ちゃん!魔王、さっさと出て行かないと人を呼ぶわよ!」


 背が低い方の女性がもう一人の女性を庇うように手を広げて言う。お姉ちゃんと言うことは、この二人は姉妹か。


「人というと、先程この建物の近くからギルドのメンバーが逃げていくのが見えたが、あやつらのことか?」

「嘘!他の人達は外の様子を見てくるって言ってたから、そろそろ戻ってくるはず……」


 妹らしき女性がそこで嫌な予感が過ったのか言葉が途切れる。


「ねえ、ちょっと!みんな!魔王がいるわよ!誰かいないの!?誰か……」


必死で声を上げる。が、待てども駆けつける足音も返答さえも返ってこなかった。


「嘘…嘘だよね…?」


 そこで初めて置き去りにされたのに気付いたのか、青ざめる。この女性達の態度で思い出した。


 俺は今魔王だったのだ。最近クレアといい、ミレイユといい、魔王を魔王とも思わない女性ばかりだったので、こういう反応は逆に新鮮だった。それだけに、こちらも対応に窮する。


「言っておくが、私はクエストを受注しに来たわけでもなければ、お前達に危害を加えに来たのでもない。ミレイユを探しに来たのだ。」

「は?」


 二人とも目を丸くする。


「先日、この町に収監されたメイドの服装をした女だ。ブレキアで民を虐げてきたために賞金首にされていたはずだ。」

「断る、と言ったら?」


 妹の方がこちらの様子を探るように言う。


「答えられないと言うなら、仕方がない。自分で探しに行くまでだ。」


 二人はこちらの言葉に意外そうな顔をしているが、話すつもりもないようなので俺は背を向けて歩き出す。


(やはり、簡単には言えないか。これが気に入らない人間相手なら力づくで服従させるんだが、そういうわけでもない初対面の女性ではな。)


 だが、こちらが歩きだして二、三歩も歩いたと思うと


「待って!」


 後ろから声がかかった。この声、さっきから黙って聞いていた姉の方だ。俺は振り返る。


「ミレイユが拘束されている場所を知りたいのでしょう?なら、教えます!」

「お姉ちゃん!?」


 姉の言葉に妹は驚いているようだ。


「その代わり、約束して下さい。ミレイユの居場所が分かったら、すぐに街から魔物達と共に引き上げて下さい。」

「まあ、良いだろう。」


 元々、ミレイユさえ助ければ、この町をこれ以上攻撃する理由などないのだ。


「ミレイユは、ギルド専用の収監施設、オートプリズンにいます。」

「オートプリズンだと?」

「はい。このギルドから出てすぐ左の通りを渡り、交差点の西を行って、その先に二つある階段を右、そこから住宅街に出ますが、そこの手前から二つ目、左側に……」

「ちょっと待て!複雑すぎて覚えきれん。地図か何かないのか?」

「オートプリズンは警備レベル上位クラスなので、セキュリティのため地図はありません。」


 万が一地図を盗まれて収監先がばれると、囚人の仲間が脱走の手引きをしかねないという配慮だろう。それは良いが、困ったものだ。


「仕方がないわね。私達が案内してあげる。」


 妹の方が申し出る。


「その代わり、私とお姉ちゃんには手を出さないこと!」

「良いだろう。約束は守る。」


 かくして、俺達はギルド本部を後にしてオートプリズンに向かうのだった。

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