魔王の救出劇は人類にとっての襲撃
ギルド本部がある街、サントマーレ。
この街にはギルド本部があり、冒険者が集まる街の一つである。魔物に悩まされている時、あるいは雑用で人手が足りない時、人々はここでクエストを発注する。それらクエストを冒険者が受注し、クリアに向けて動く。クエストをクリアした者はギルドを介して発注者から報酬を受け取る。
まれに魔王討伐のように、ギルド自体から発注される特別なクエストもあり、大抵そのようなクエストは難易度が高く、報酬も割高だ。
ギルド本部では今朝からちょっとした騒ぎになっていた。
「それでは、ミレイユ捕縛の報酬として、一億ゴールド支払われます。」
「おう、サンキュー。」
人々が目を丸くする。ブレキアを散々悩ませていたメイド、ミレイユを捕縛するクエスト。元々はブレキアの人間がギルドに発注したクエストではあるが、事態を重く見たギルドが報酬額を上乗せしたのだ。それが、今しがた三人の冒険者によってクリアされたのだ。
「兄貴、こんなに報酬貰っちまったな。どうする?」
「綺麗な姉ちゃんのいる店に行きまくるか?」
小太りの男と痩せて背の高い男が、がっしりしてロケットランシャーを持った男に言う。
「馬鹿、新しい装備を買うに決まってるだろうが。俺達はまだ、魔王を倒してないんだぞ。
この金で装備を整えたら、今度こそ魔王を討伐しに行くぞ。」
「それじゃ、魔王を倒したらどうするんっすか?」
「まあ、その時は今回残った金と、魔王討伐の報酬金で贅沢するのも悪くないな。」
「やっぱ、そうこなくっちゃな!」
ギルドから出る三人の男を、一人の青年が睨むように見ていた。
「金のために魔王を倒す、か。愚かな奴らだ。」
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ギルド本部から更に離れた留置場。その中では、罪人達が収監されていた。その奥から、殴るような鈍い音がする。看守の男は一人の女性の腹部を警棒で突いた。
「うぐっ!…ぐっ!」
女性はその場に倒れる。既に両手両足を縛られている上に口も轡で塞いであって声は出せない。
「おとなしくしていろ、ミレイユ。この特別懲罰房では、アビリティは使えない。」
「今は重役が処分を決定するのを待っている。ま、このままいくと国民に対する反逆罪で死刑だろうがな。」
二人の看守は檻の中のミレイユに言う。ミレイユはまだ二人を睨み付けるが、逆らうことはできない。
「まだ抵抗しようというのか!」
看守は今度は胸部を警棒で突く。
「ぐうっ…!」
ミレイユは再び地面に伏す。
「やれやれ、これだけ痛めつけたのにまだ反抗するのか?」
「まるで鉄の女だな。」
看守達は肩をすくめる。
■■■
俺はサントマーレの街に向かっていた。八咫烏にミレイユを連れて行った冒険者達を上空からつけさせたのだ。おかげで、ミレイユが連れていかれた街が分かった。
ただし、どの建物に入れられたかは分からない。それが分かるまで八咫烏を付けさせては街の者に見つかってしまい、警戒されてしまうからだ。
よって、街の中のどこにミレイユがいるかは、自分の足で虱潰しに探すしかない。
俺はサントマーレのすぐ近くの森まで来ていた。崖の上から見下ろす。ここからなら、街がよく見える。
俺の計画はこうだ。ギルドの街には冒険者がそれなりにいる。今、大量に魔物を連れてきたので、まずはこいつらで冒険者達の注意を引き付けてもらう。簡単に片付けば、ギルド本部を潰してもいい。
そのどさくさに紛れて俺はミレイユがいる場所を探し、彼女を救出するのだ。途中で俺自身も何人か冒険者と戦わなければいけないだろうが、魔王の力なら多分大丈夫だろう。俺はそう楽観的に考えていた。
今日ここには、クレア、マチルダの二人はいない。戦う相手が人間の冒険者なので、クレアには戦わせられない。マチルダはいろいろ妙な能力を持ってはいるが、今回のような力づくの作戦には向いていない。まあ、良い。
「まずは、お前達から行くのだ。」
俺は空から進行中の吸血蝙蝠、ガーゴイル、ワイバーン類に指示を出す。彼らは快く俺の指示を聞いて街へと向かって行った。
■■■
サントマーレの街。
ギルドのあるこの街は、冒険者もいれば、一般人の家族も住んでいる。街の中心には高台があり、監視員がそこから周辺に異常がないかを探っている。周辺国で何か異変があった時に、いち早くギルドに伝え、場合によっては緊急クエストを配備するのだ。
「毎日こんなことやってるけどさ~、異常事態なんてそうそう起こらないんだよな~。」
監視員の一人はそう言って大きく伸びをする。
「そう言うなって。異常事態なんて起こらない方が平和で良いじゃないか。」
もう一人の監視員も高台の壁にもたれかかっている。ここのところ、彼らの言うとおり、周辺国に異常などなかった。
「ん?何だ、あれは?」
一人が遠くの空を見て声を上げる。それは、こちらに向かってくる無数の吸血蝙蝠やガーゴイル、ワイバーンの群れだった。
「魔物だ!魔物が向かってくるぞ!緊急事態だ!
一般市民は直ちに避難、ギルドは緊急クエストを配備しろ!」
監視員は下のギルドのメンバーに向かって叫ぶ。ギルド本部はたちまち騒然となる。
まずは、戦闘のできない一般市民を避難させる。連絡を受けた市民達は各々家から飛び出し、ギルドメンバーの指示に従って街の外へと脱出する。ギルドでは、冒険者達に街防衛のための緊急クエストが配備された。ギルド内にいた冒険者達がギルド本部前に集まってくる。
「また随分と急だな。」
「噂だと、魔王直々に攻めて来たって話だぞ。」
「あの魔物の数、半端ないな。」
集まってきた冒険者達は迎撃態勢を取った。村の入り口、ギルド本部の前、民家に均等に人員が割かれる。
だが、魔王が本当に攻めてきているならどう対処するか。冒険者達は皆不安に思っていた。
■■■
「予想通り、一般市民を先に逃がしたな。」
崖の上から俺は街の様子を見ていた。
ミレイユ一人助けるのに大勢の無関係の市民を皆殺しにするのは流石に気が引ける。無抵抗の者には手を出さない。俺が苛められっ子だった時に身に付いた習慣のようなものだ。
「高いところから迫ってくる魔物なら、村に入る前に監視員が気付いてくれるだろう。一般市民は避難完了。
我々もそろそろ行くか。」
俺はオークやミノタウロスなどの地上用の戦闘に特化した魔物達を率いて街へと向かった。
街に入ると、既に空中から向かった魔物達と冒険者達が交戦状態だった。
弓でガーゴイルを迎え撃つ者。
空対地上でワイバーンに剣で挑む無謀な者。
吸血蝙蝠に囲まれて身動きが取れない者達。
イベントのような賑やかな光景だ。魔物も、人間も、やられた者は血を流して地に倒れている。少し前までは、このような光景を見ると気分が悪くなったものだ。今ではあまり何も感じなくなった。
俺が魔王に転生してから数週間が経ったが、思考が魔王寄りになってきているのが自分でも分かる。このまま魔王として暮らしていくと、やがては人の心も失っていくのだろうか?
とはいえ、自分はこの世界で魔王として生きていくことに決めたのだ。今更昔の自分に未練を感じる必要はない。俺は地上部隊の魔物達を放った。
「敵だ!」
「ミノタウロスだ!オークもいるぞ!」
たちまち騒ぎが倍になり、冒険者達が集まってくる。その冒険者達が魔物達の相手をしている間、俺はミレイユを探すことにした。
が、歩いて数歩したところで
「待て、そこの魔王!!」
冒険者に呼び止められた。さすがに自分だけ戦闘なしで事を進められるほど甘くはないか。
振り返ると、そこにはマシンガン、ロケットランチャー、ライフルで完全武装した冒険者三人組がいた。
「これはこれは。さっきの冒険者達ではないか。報酬はもらえたか?」
「ふざけるな!来るのがあまりにも早すぎる!まだ新しい装備も整えていないというのに。」
「知ったことか。」
冒険者達はお互いひそひそと相談を始める。
「兄貴、だから俺は贅沢なことに金を使った方が良いと言ったんだよ!」
「どうする?逃げるか?」
「うろたえるな!俺達が今装備している武器は、そもそも何のために揃えた?」
「あっ。」
兄貴とやらに言われて魔王を倒すために各々の武器を買ったことに気が付く二人。前回ミレイユを捕らえるときに武器を使わなかったせいで、すっかり忘れていたようだ。
「安心しろ。お前達の出る幕はない。このロケットランチャーを使えばいくら魔王といえどもひとたまりもあるまい。その上、この距離からではかわしようがないだろう。」
兄貴とやらがロケットランシャーを構える。
「確かに、くらったら肉片になるな。」
俺はあっさり認める。下手に魔法を使うより、強力な遠距離用の武器を使った方が良いというのは納得だ。
「くたばれ、魔王!!」
男は引き金を引き、大音響と共にこちらにロケットランチャーが放たれる。
「ただし、肉片になるのはお前らだ!」
俺は片手を上げ、神通力を放つ。すると、ロケットランチャーの弾は三人組の方へと戻って行く。
「馬鹿なっ!?」
「うおおお!?」
叫ぶと同時に、三人は大爆発に巻き込まれた。爆煙がなくなると、ところどころ装備品の欠片は落ちているが、もはや本人達は粉微塵で欠片もない。
「いくら武器が強くとも、本人達がこれではな。」
俺はミレイユを探すべく、その場を後にした。




