冒険者との駆け引き
俺がミレイユに辛勝して数刻後、
「魔王様!」
扉が開き、クレアが駆け込んでくる。
「大丈夫、魔王様!?酷い火傷だよ!」
クレアが俺の元に駆け寄る。
「大丈夫だ。時間があれば回復する。」
俺が言うと、クレアはほっと胸を撫で下ろす。
「心配したんだよ?だって魔王様、女の人に弱いから、うっかり漬け込まれたりしないか心配で。」
「本気で死ぬかと思ったけどな。約束は守ったぞ。」
「うん。ありがとう、魔王様。」
クレアの笑顔を見て、この瞬間のためだけにでも、生き延びることができて良かったと思った。
「魔王様~!」
続いて連絡係のオークが入ってくる。
「うわっ、どうしたんだその顔。ボコボコだぞ。」
「これはその、ミレイユに……、と、それより、申し訳ございません。魔王様。ミレイユに脅されていて、城の仕掛けを操縦させられてたんです~!」
オークが土下座する。
「顔を上げろ。別にそんなことを気にしちゃいない。元々私がミレイユにやられなければ、こんなことにはならなかったんだ。むしろ、お前を巻き込んだ私の方こそ詫びるべきだ。悪かったな。」
「魔王様~!」
オークが目を潤ませる。その表情を見て、不覚にも可愛い、とは流石に思わなかった。
「やったようですな、魔王様。」
いつの間にかマチルダもそこにいた。
「ああ、マチルダにも世話になったな。」
「まあ、魔王様に仕える者として当然のことをしたまでです。それより、あの者をどうしますか?」
マチルダがミレイユの方を見る。
「今は意識を失っていますが、意識が戻ればまた襲ってくるかもしれませんぞ。」
「私は魔王様があの人をどうしようと何も言わないよ。あの人は魔王様を殺そうとしたんだし……
だから、私のことは気にしないでどうするかは魔王様が決めて。」
クレアが俺の考えを読んだかのように言ってくる。
「そうか。」
俺は頷き、ミレイユに用心して近付く。
そもそも俺がこいつを殺すのを躊躇する理由なんてない。こいつは今まで大勢の人間を苦しめてきた。俺も殺されかけた。こいつの目に入るのは金のことだけで、人の命などなんとも思っていないのだ。殺せば済むことなのだ。そうした方が世のためにも俺のためにもなる。
俺は爪を振り上げる。
分かっている。頭では分かっているはずだった。だが、この期に及んで俺は手を振りかざすことができないでいた。酷い奴だったとはいえ、床に倒れているミレイユはただのか弱い女性にしか見えなかった。無防備な女性を攻撃する、という意識が俺に行動を躊躇わせる。
殺せないなら、どうする?辱しめてやるか、それとも牢に入れるか?それも駄目だ。中途半端に生かすと復讐される恐れがある。
俺が悩んでいると玉座の間に走り込む足音が聞こえた。振り替えると三人の冒険者が部屋に入ってきていた。
「魔王、ここがお前の墓場だ!」
三人はマシンガン、ロケットランチャー、ライフルで完全武装していた。正直に言うとまずかった、ミレイユとの戦いでまだ体力が回復していない。神通力は使えそうもないし、肉弾戦も不安だ。
「わ、渡しません…!魔王討伐の報酬は私のものです!」
背後で声がしたので振りかえると、ミレイユが意識を取り戻していた。とはいえ、まだ体中が痛むため、何とか上半身を起こすのがやっとのようだ。
「報酬?あんたが魔王を倒しても報酬はもらえんよ。」
一番前にいた男が言う。
「どういうことですか!?」
「あんたが村を離れた隙にブレキアの者がギルドにクエストを発注したんだ。散々村人達を苦しめてきたミレイユを捕縛するクエストをな。
つまり、あんたは指名手配されてるも同然だ。指名手配犯が別の指名手配犯を捕えても報酬はもらえず、そいつも逮捕されるだけだろ?それと一緒さ。」
「そ、そんな…」
ミレイユはがっくりと崩れ落ちる。俺は一計を案じた。
「クエストの内容はミレイユを捕縛することと言ったな。生捕りでか?」
「酷い奴とはいえ、一応人間だからな。ここで殺したら下手すりゃ俺達が殺人罪になる。
だから、一度ギルドに連れ帰り、そこから処分が決定される。」
「ならば丁度良い。このミレイユをギルドに連れていってもらいたい。」
「何を言い出すんだ!?」
冒険者達は困惑する。
「まあ、聞け。お前達にとっても悪くはない取引だよ。私から言われた通りにすれば、この場では私からお前達には手を出さず、見逃してやろう。」
「我々は魔王を倒しに来たんだ。取引をしに来たのではない。」
冒険者の一人が抗議してくる。
「分かっているか?今ここでお前達がミレイユをギルドに連れて帰れば、確実にクエスト報奨金がもらえる。
だが、欲張って私と戦い、負けたら報奨金も命もパーだ。そんなリスクを冒してまで私と戦う理由がお前達にはあるというのか?」
冒険者達は何も言わないが、その表情で葛藤しているのは分かった。
実際、俺は神通力も使えない今、三人相手に勝てるかは怪しい。今この場ではこの三人に立ち去ってもらい、早急に回復に転じる必要があったのだ。
「確かに上手い話だが、そんなことをして魔王に何の得がある?」
「私は女には手を出さない主義でね。しかし、ミレイユは置いておくにも危険だから、お前達に処分を任せようと言うのだ。尤も、私をここで倒し、ミレイユにも逃げられないという絶対の自信があるなら、私と戦っても良いぞ?
さあ、どうする?ハイリスクハイリターンの博打に賭けるか?それとも、確実に報奨金を手に入れるか?」
三人の冒険者はしばし緊張した顔で答えに窮していた。
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俺はいつものように玉座に座っていた。
「案外どうにかなるものだな。」
部屋の中には、冒険者、ミレイユの姿はなく、俺とクレア、マチルダだけだ。
結局、あの冒険者達はミレイユを捕まえる方を選んだのだ。このまま放っておけば、俺は自らの手を汚さずにミレイユを始末することができる。
「魔王様、まさか自分の体を治してからミレイユを助けに行こうなんて、考えてないよね?」
クレアがジト眼でこちらを見てくる。
「御意だ。」
「もう!魔王様は本当に女の人に甘いんだから!」
「まあ、そう怒るな。クレアの悪いようにはしないぞ。それに、敢えてミレイユを奴らに連れて行かせたのにも理由があるんだ。
ところで、マチルダ?」
「何でしょう?」
先程まで一部始終を見ていたマチルダには、俺が何を言いたいか分かっているようだ。
「城の仕掛け、特に回復ポイントは直せそうか?」
「ええ。直すのはすぐですよ。」
「そうか。ミレイユはギルドに連れて行かれたようだ。」
「魔王様のことですから、細かい作戦など考えず、ギルド街を襲撃してミレイユを助け出そうと考えていらっしゃるのでしょう?」
「さすがだ、マチルダ。察しが良い。」
ギルド街襲撃。いかにも魔王らしい所業に、不謹慎ながらも俺は心を躍らせるのだった。




