生き延びるための死ぬ覚悟
俺はゴーレムと対峙していた。ここは魔王の意地にかけても、勝たなければならない。
ゴーレムは腕を振り上げ、こちらに殴りかかる。俺は腕が振り下ろされる直前で回避する。思った通り、ゴーレムは強靭な防御力を誇るが、超重量なため動きが鈍い。冷静に対処すれば攻撃に当たることはない。
「なるほど。少しは学習したのですね。」
「ああ、真正面から戦うのが愚かなことだと分かったからな。落ち着いて対処すれば、どうとでもなる。」
「ですが、あなたにとって勝てない状況は同じです。こちらにダメージを与える術がないのですからね。」
ミレイユはゴーレムに指示を出すと、ゴーレムは再びこちらに拳を振り下ろす。繰り返されるその攻撃を、俺は正確に見切ってかわしていく。
「こっちだ!」
ゴレームが攻撃を外したタイミングで俺は後方にジャンプすると、カマイタチを繰り出す。
「その攻撃は効かないと、先程証明したはずですよ。」
ゴーレムはカマイタチを物ともせずに突っ込んで弾き飛ばす。そのまま、空中にいる俺に向かって突進を放つ。
「今だ!」
俺は空中で翼により飛行し、横に軌道を逸らす。
「なっ…!」
俺が飛んで軌道を変えるのは想定外だったか、ミレイユは目を見開く。すれ違いざまに床にカマイタチを二発放つ。
先ほどゴーレムが攻撃を外して殴った箇所だ。カマイタチが当たって更に脆くなった床をゴーレムが踏むと、その衝撃と重量で床に大穴が空き、ゴーレムは足を取られる。
「こんな…姑息な手を!」
ミレイユは杖の先から炎を放つ。だが、かわすのは容易だ。俺は上に飛んで炎をかわし、天井ぎりぎりまで高度を上げ、腕に神通力を纏うと、落下の力と合わせ、渾身の力でゴーレムの頭上から放つ。
ミレイユはすぐにゴーレムの肩から床へと降りる。俺がミレイユ本人を狙ってきたと判断したようだ。ゴーレムの頭を思いっきり殴った俺は、相変わらずの強度で腕に痛みが走る。
「やはり、召喚者本人を狙ってきましたね。」
ミレイユはゴーレムの腕の陰に行き、俺からの攻撃に備えている。
「お前だってそれを警戒しているから、簡単には攻撃させてくれないだろう。だが!」
落下時の勢い、及び神通力をまとった攻撃に、さすがのゴーレムの頭にも少しずつひびが入る。
「おおおおおおおお!!」
俺は全身全霊でひびが入った場所に神通力をまとった突きを入れる。ひびがどんどんと大きくなっていく。
「ゴーレム!!早く攻撃を!!」
俺の意図に気付いたミレイユは、ゴーレムに反撃させようとする。その瞬間、ゴーレムの重量と俺が殴る勢いで、床のひびが広がり、ついには砕けた。ゴーレムは下の階に落下する。
「とどめだッ!」
俺は下の階に飛び降り、その勢いでゴーレムの頭部に一撃を加える。ゴーレムの頭が砕け散り、残りの体の部分は砂のようになって崩れ落ちていった。俺は下の階から飛んで、ミレイユのいる階に戻ってくる。
「文字通り、なかなかの手応えだった。だが、これでもうゴーレムは使えまい。」
「御尤も。強力な召喚獣を呼び出すには相応の魔力が必要ですからね。頑張ったところで大型の召喚獣を呼び出すのは、あと一体が限界といったところでしょうか。
魔力を回復する術があればその限りではありませんが。」
あと一体という言葉に俺は反応した。
「召喚など、もはやさせるか!」
俺はミレイユに走り寄ろうとする。その時、俺とミレイユの間に赤い物が割って入ってくる。さっきかわしたはずの炎の塊だ。俺は後ろに飛び退いてかわす。
炎の塊はミレイユが杖を向けると次第に大きくなり、瞬く間に火の鳥、フェニックスに変化した。
「さっきの火の塊は、召喚獣だったのか!?」
「フェニックスとゴーレムは消費する魔力の関係上同時召喚はできません。魔力を抑えて召喚すれば別ですがね。
一度召喚してしまえば、強化するぐらい訳もないことです。」
ミレイユはフェニックスの背に乗り、上空に逃れる。同時に、上から炎を放ってくる。俺はそれらをかわすと、自分も上に飛ぶ。
「炎など、私の神通力で吹き消してくれる!」
俺は空中で神通力を放つ。が、フェニックスは動きが速く、俺の攻撃が全く当たらない。
「あなたはまだ、飛べるようになってから間がないのでしょう?飛行能力に優れたフェニックスに敵うと思っているのですか?」
フェニックスは口から次々に炎を吐いてくる。俺はそれらを神通力で消していくが、数が多くて埒が明かない。神通力で防ぎきれなかった炎がこちらに届く。俺は咄嗟に腕で防御する。情け容赦なく飛んでくるたくさんの炎に当たり、俺は爆炎に包まれる。
「いくら魔王といえども、これを受ければもうお終いでしょう。」
爆炎の外からミレイユの声が聞こえる。
「そんなわけないだろう!!」
俺は煙を突き破ってフェニックスの方に突進する。
「まさか!?」
ミレイユは再び炎を発射しようとする。
「遅い!」
俺は爪による攻撃でフェニックスを一刀両断する。
攻撃を受けたフェニックスはばらばらになり、炎の欠片となって落ちていく。ミレイユはフェニックスが崩れる直前でジャンプして、俺より少し離れた場所で床に着地する。
「耐久力に任せて力押しで来るなんて、あまりスマートな方法とは言えませんね。」
「黙れ!召喚獣ごっこはこれでおしまいだ!」
ポーカーフェイスを装ったものの、実際、今の攻撃は結構痛かった。早いところ決着をつけないと、こちらの命にかかわる。俺は着地するや否や、走ってミレイユ本人を攻撃にかかる。
「残念、おしまいなのはあなたです。」
ミレイユは杖を上に掲げる。すると、そこかしこに落ちていたフェニックスの炎の塊全てがまとめて俺の方に飛びかかってくる。
「しまった!!」
気が付いたときにはもう遅く、炎を浴びてみるみるうちに俺の体が炎に包まれる。いや、違う。フェニックスが合体して俺を体内に取り込んだのだ。その証拠に、ミレイユの元まで走ろうとしているのに、後ろに引っ張られて前に進めない。
そうこうしているうちに、熱さでこちらの体力が奪われていく。それでも、何とか体を引きずるようにミレイユの元に近付く。
「健気ですね。でも、そういう子を見ていると、ついつい意地悪したくなってしまうんですよ。」
ミレイユが杖を向けるとフェニックスの体色が青白くなり、炎の勢いと熱さが倍になる。
「ぐあああああ!!」
苦しみが倍になり、熱さはもはや激痛となる。
「図に乗るな!メイド如きがこの私に!」
俺はミレイユに向けて神通力を放つ。だが、ミレイユにあっさり杖で防御されてしまう。
「くそっ、距離が離れすぎている!」
俺は体力の限界が近付き、膝を付く。
「ご安心を。あなたが死んだ後は、この城付近の貴重な資源も、魔王討伐の報酬もしっかり頂きます。
あなたの死が、私に幸福をもたらしてくれるのです。」
意識が遠のく。あと少し、本当に少しだというのに、俺はミレイユの元までたどり着けないというのか。また、負けるというのか?
そう思った時、俺の頭にクレアの顔が一瞬浮かんだ。あの時、確かにクレアと約束したのだ。生き延びてみせると。この状況を打開するには、どうすればよいか。俺は考える。
(魔力だけなら、フェニックスの体外に出られるか?しかし、この作戦は下手をすると死ぬ危険がある。
生き延びるために死ぬ覚悟をしないといけないなんて、とんでもない皮肉だ。)
俺は残った魔力をフェニックスの外に向けて放出する。フェニックスの周辺に光の玉がいくつも出来上がっていく。
「いったい、何を!?」
ミレイユも俺の意図が分からず困惑している。
「今だ!行け!」
俺は魔力球を操り、一斉にフェニックスに向けて衝突させる。
「うおおおおおお!!」
自分も魔力球の衝撃を受け、体中を鉄の塊で殴られているかのような打撃を受ける。俺が力尽きる前に、フェニックスが再度ばらばらに吹っ飛んだ。
「くっ!」
ミレイユは杖を向けて砕け散った炎を操り、俺に向かわせる。その前に、俺はミレイユとの距離を詰めた。
いける、ここなら射程距離内だ。間髪いれず、至近距離からミレイユに衝撃波を放つ。
「きゃああああ!!」
ミレイユは吹き飛ばされて壁に強打され、地面に倒れた。気絶したようだ。
ミレイユが意識を失うと同時に、俺に付いた炎が消え、その場に両膝をつく。少しでも気を抜くと俺まで意識を失いそうだ。




