魔王城は危険がいっぱい
魔王の城内部。
少し歩くと墓場のような暗い通路に出る。ここはアンデッド族のいる場所だ。
「まあ、魔王城ですし、魔物共がルイ様を襲うことはないじゃろうて。」
確かに、魔物は俺の顔を知ってるし、襲いはしないだろう。そう思った瞬間、目の前にいたゾンビが突如爪を立てて飛びかかってきた。どうにかかわしてこちらも爪で切りつけると即座に消滅した。
「どうなっている!?」
「おかしいですな。」
マチルダも考え込む。
「もしかして、魔王様の魔物じゃないのかな。ミレイユが作ったものかも。」
クレアに言われて思い当たった。ミレイユは召喚のアビリティをもっている。召喚した魔物を城内に散りばめておくぐらいできるだろう。
「ま、魔王様…」
クレアが震えながら俺の背後を指さす。何だ?と、薄々嫌な予感がするので振りかえって見ると、そこには何十、下手すると百体にも達するゾンビが待ち構えていた。
ばっとマチルダに振りかえる。
「もしかすると、ジェネレーターを支配されたかもしれませぬ。」
「ジェネレーターだと?」
「このエリアのゾンビは倒したところで何体でも湧いて出てきますが、それはゾンビを生成するためのポイント、すなわちジェネレーターが用意してあるからです。
そのポイントを破壊しない限りはゾンビはいくらでも出てきます。」
「ならば、そのジェネレーターを破壊すればゾンビは出てこなくなるのだな?どこにある?」
マチルダが指さすと、よりによってそのゾンビ達の群れの後ろの方にジェネレーターらしき魔法陣が見えた。俺達が話している間にも、ゾンビ達の群れはこちらに雪崩れるように襲い掛かってくる。
「クレア、マチルダ、離れていろ!」
「魔王様!?」
俺は飛行能力を使ってゾンビ達の群れを飛び越える。これで、戦わずしてジェネレーターまで行ける。
ゾンビ達の群れの後ろに降りた俺は、ジェネレーターに向かう。すると、ひと際強く魔法陣が光り輝いたと同時に、魔法陣が大きな黒い塊に変化する。牙をもち、四本足になったところだけ見れば、犬のようにも見える。しかし、その目は赤く生気はなく、耳も燃えるかのように形が定まらない。
「どうやら、ジェネレーターを支配されたという推測は当たっているようですな。」
マチルダが言う。まさか、ジェネレーターそのものが襲ってくるとは思わなかった。
牙をむいて俺に飛びかかってくるのを横に跳んでかわす。振り向きざまに怪物は口からゾンビを数体吐き出してくる。俺はゾンビを拳で殴り払うが、その間に魔物は牙をむいて突っ込んでくる。
「魔王様、目の前!」
クレアが叫ぶ。魔物が大きく口を開き、俺を噛み砕こうとするのに合わせ、俺は相手の口の中に飛び込んだ。
「魔王様!?」
俺が食われたかと思ったクレアが慌てる。魔物の口内に入った俺は、両手の爪を伸ばして上顎の方に飛ぶと、斬り裂きまくり、そのまま魔物の頭部に穴を開けて脱出した。
「これで終わりだ!」
とどめに急降下して爪を振り下ろすと、相手は真っ二つになった。同時に辺りを囲んでいたゾンビの群れは消滅する。
「どうにか体力の消耗は最小限ですんだな。」
「魔王様、心臓に悪いよ。」
クレアがほっとしたように言う。まだ先は長そうだ。
■■■
俺達は二階にまで来ていた。周囲は洞窟のように岩があり、足場も悪い。
どこかから誰かが見ているような気配がする。そう思って天井を見ると、そこには赤黒い体色、赤い目の吸血蝙蝠が天井いっぱいにぶら下がり、こちらを見ていた。マチルダに尋ねる。
「この洞窟にあれが配置されていることは私も覚えている。しかし、まさかあれもミレイユに支配されているのか?」
「御意にございます。ですがご安心を。吸血蝙蝠はほとんど目が見えませんからな。音だけを頼りに襲ってくるのです。」
蝙蝠の群れに気付いたクレアは既に真っ青だ。ここは、ゆっくり歩くのだ。変な音を立てずに……と思っていた矢先に、落ちていた木の枝を踏んでしまった。
パキッ!
乾いた音に総毛立つ。
(来るなよ!絶対来るな!)
そう心で念じたが、吸血蝙蝠の一部がこちらに飛んでくる。
「ひっ!」
驚いたクレアが逃げようとして転んでしまった。
(やっぱり無理か!)
その音を皮切りに、全部の吸血蝙蝠が一斉にこちらに向かってくる。
「先へ行け!私が食い止める!」
「でも、それじゃ魔王様が!」
「魔王が蝙蝠如きにやられるか!それより自分の心配をしろ!」
クレアとマチルダを先に行かせ、俺は襲ってくる蝙蝠の数体を爪で薙ぎ払う。それでも、数が多すぎてとても捌き切れるものではなく、数体が俺の腕に掴みかかってくる。
「ま、魔王様!?」
クレアが振り向きざまにこちらの様子を見て動きを止める。吸血蝙蝠は牙をむいて、俺の腕に牙を立てる。その光景に俺もクレアも凍り付く。
すると、噛みついて血を吸っていたはずの蝙蝠は地面に落ちた。そのままひくひくと痙攣している。
「どうなってるんだ。」
「人間の血はともかく、魔王の魔力と吸血蝙蝠の魔力では雲泥の差があります。だから、吸血蝙蝠にとっては魔王の血は馴染まず、却って毒です。」
「なるほど、それで血を吸った個体が死に至ったわけか。」
マチルダが説明してくれて理解できた。それでも、まだ何十体もの吸血蝙蝠が俺を狙ってくる。
「とはいえ、あの吸血蝙蝠全部に血を吸われると、魔王様でも疲弊は避けられないでしょう。」
「冗談ではない!」
俺は何匹もの吸血蝙蝠を倒し、血を吸った吸血蝙蝠は自滅し、ようやっと数十分後に吸血蝙蝠の群れは全滅した。
■■■
更に上のフロア。近くにクリスタルのオブジェが点々と並んでおり、ちょっと幻想的な場所だ。
といっても、今の俺にはそれを楽しむ余裕などない。吸血蝙蝠を撃退できたものの、血を吸われ過ぎたおかげでふらふらする。
「魔王様、本当に大丈夫?」
クレアが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫…とは、言い難いが、まだ戦える。」
「一回外に出て体力を回復してからの方が良いんじゃないかな。」
「それは駄目だ。私が外に出て戻ってくるまでの間に、ミレイユはまた別の魔物や仕掛けを用意してくる。そうなったら、次に来る時は下手をすれば今より体力を消耗させられる可能性がある。」
「でも、今のままじゃ…」
「分かっている。私にも考えがある。このフロアのアイテムの隠し場所は覚えている。それを見つければ体力回復できる。」
「そうなんだ。でも、何でダンジョンの中にそんなもの用意したの?」
「お約束だ。」
ラストダンジョンであろうとも必ずどこかにアイテムが落ちているものだ。しかも、最後のダンジョンの方がより豪華なアイテムが落ちている。その例に漏れず、ここには体力、魔力を全回復するエリクサーが隠してあるのだ。隠し場所だって覚えている。
ひと際大きなクリスタルが二本並んでいるところで俺は足を止める。
「ちょうどこのクリスタルの間に宝箱を隠したのだ。」
俺はクリスタルの間に行き、下を調べてみると、すぐに宝箱が見つかった。
「どうだ。さすがのミレイユも、隠してある宝箱など見つけられまい。」
得意顔の俺に対して、クレアもマチルダも本当に大丈夫かと言わんばかりの顔で見ている。
「分かった。確認すれば良いのだろう。」
俺は宝箱を開ける前に、箱に蹴りを入れた、瞬間、
「ぎええええええ!!」
俺は悲鳴を上げて飛びのいた。宝箱から刺が生えて見事にぶすっといった。宝箱が開くと、中から一つ目を覗かせる。宝箱のモンスター、ミミックだ。
「どうやら、ここに宝箱があることはミレイユにもばれていたようですな。」
マチルダが魔物の方を見る。ミミックの外殻でもある箱の部分は頑丈なうえ、刺まで生えている。真正面から攻撃するのは骨が折れそうだ。
すると、ミミックの箱が開き、こちらをじっと見ていることに気付く。
「よし、ミミックの弱点は箱の内部!今がチャンスだ!」
「魔王様!ミミックが口を開くのは攻撃の合図ですぞ!」
突っ込む俺を見てマチルダが叫ぶ。ミミックはこちらを目掛けて毒ガスを噴射してきた。これが人間なら、ここで毒に侵されて動けなくなっていただろう。だが、俺は魔王だ。
俺は毒ガスをそのまま突っ切って、爪の一撃でミミックの内部を突き刺す。消滅していくミミック。
「魔王に毒が効くか。」
「また危なっかしいことを。ミミックは口から光線を発射することもあるのですよ。」
マチルダの言うとおりだった。ミミックが毒ガスを撃つか、光線を撃つか確率は五十パーセントずつ。運悪く光線を撃ってきていたら、直撃してダメージを受けていた。
それより、回復ができなかったのが辛い。それに加えて、また体力を消耗してしまった。
果たして、ミレイユのいる場所までもつかどうか。




