メイドの秘め事
冒険者だった父親は私が小さい頃にクエスト中にモンスターに殺された。母親は後を追うように病死。残された私は伯父のマランに引き取られた。
伯父は私を実の娘のように大事にしてくれた。洋服も、部屋も、食事も、私の望むもの全てを与えてくれた。
私はそんな伯父のことが好きだった。少しでも恩返しができるよう、メイドとして仕えるようになったのは、私が十歳になったとき。その頃になると、物の値打ちも分かってきていたから、伯父に聞いた。
私にいつもくれている報酬、品物のお金はどこから出てきているのかと。
伯父は、大勢の人に働いてもらって色々なものを作ったり、土地を貸したりしてお金を稼いでいると説明してくれた。私はそういうものだと思い、それから先はあまり深く考えないことにした。伯父はお金のこと抜きにしても、私に優しくしてくれた良き理解者だったから。
それから七年後、伯父は反乱を起こした村の者達に殺された。その時、その村の者達から初めて聞いた。伯父がその地方一帯の土地を買い取って、土地を貸した人達から高額の税金を取っていたこと。農作業や、日用品を作る仕事を安い給料で村の人達にやらせ、利益の大半を一人占めしていたこと。言うことに従わない者には部下の人間達を向かわせ、暴力を振るって無理矢理言うことを聞かせていたこと。
最初は私も信じられなかったが、村でボロボロの服で働いている人達、痩せこけた子供達の姿を見て、事実だと信じざるを得なかった。
私は村の人達に謝罪し、伯父が蓄えていた財産、家、土地を全て還元すると約束した。でも、村の人達の怒りは私自身にも向けられていた。
命だけは助けてやる代わりに、私に一生奴隷として生きていくよう命令してきた。私は嫌だと言ったが、村の人達はかつて伯父がそうやったように、力付くで言うことを聞かせようと襲ってきた。私は伯父がやってきたこと等、知らなかった。なのに、何故私がこんな目に遭わなければならないのか。
私の『召喚』のアビリティが目覚めたのはそのときだった。気が付いた時には、召喚獣ゴーレムで襲ってきた村人を殺していた。他の村の人達が恐れ慄くのを見て、私はそこで彼らを自分の意思で思うようにできることを知った。それから先は、伯父と同じように村の人達を働かせ、その利益をもらうことにした。
かつて優しくて好きだったはずの伯父は、その裏では村の人達を虐げてきた悪人だった。村の人達も被害者かと思えば、私にとっては加害者だった。
人は誰でも自分が幸せになるために生きている。皆がそう考えているなら、私も同じように自分だけが幸せになることを考えれば良い。お金は自分が幸福になるための一番の近道である。
魔王を倒せば、莫大な報酬、利益が手に入り、私は今以上に幸せになれる。
ミレイユは玉座のある部屋から今しがた割られた窓の外を見る。既に落ちたはずの魔王とクレアの姿はない。
「誰かが幸せになるためには、他の誰かの犠牲は付きものよ。私は伯父よりも幸福な人生を送って見せる。人の良いルイ様を犠牲にしてでも。」
ミレイユはそう呟き、窓を離れた。
■■■
魔王城の前。俺は扉の前で考え込んでいた。
世の中のどこに、雇ったメイドに城を乗っ取られる魔王がいるというのか。様々なファンタジーの世界があれども、そんなの俺ぐらいだろう。
これから城を取り戻すために侵入するのは良い。だが、城の中には侵入者に備えて罠が張ってあったはずだ。その辺の配置はマチルダに一任していたため、どこに罠が仕掛けられているか分からない。できれば、再びミレイユと戦う時のために体力は残しておきたい。
困った。マチルダは今どこにいるのか。
「お呼びでございますか?」
「うおっ!?」
不意に声がかかったので後ろを振り向くと、そこには寝ぼけ眼を擦るマチルダの姿があった。
「何故ここに?」
「城内に不穏な動きがあったもので、脱出して来たのです。しかし、まさか魔王ともあろう方が雇ったメイドに城を乗っ取られるとは。」
「うっ。」
最も気にしていたことを指摘される。
「分かっていたなら、どうして助けてくれなかった!?」
「このような老婆に戦えと仰られるのですか?」
御尤もである。マチルダと論戦していても始まらない。
「それより、ルイ様。これからお城を取り戻しに行くのでしょう?でしたら、私もお供致しましょう。」
「そいつは願ったり叶ったりだ。」
マチルダがいれば、罠や仕掛けを回避していけるだろう。これで、ミレイユの元まで体力温存できそうだ。
「では、クレア、お前はここで待っているのだ。」
「嫌!私も一緒に行くよ!」
クレアはそう言って譲らない。
「戦いになったら、お前を守りぬけるかどうか分からないのだぞ?」
「私だって戦えるもん。絶対魔王様の役に立つんだから!」
この様子では、拒否したところでこっそり付いてきそうだ。
(やむを得ない。マチルダもいることだし、どうにかなるだろう。)
俺はそう判断した。
「分かった。付いてきても良いが、私かマチルダの傍から離れるんじゃないぞ。」
「うん!」
クレアが元気良く返事をした。実際俺はミレイユに殺されかけたのだから、クレアがここまで心配するのも当たり前かもしれない。
「では、行くぞ。」
俺は、大きな戸をゆっくりと開いた。すると、背後からマチルダの声がかかる。
「ルイ様!お待ち下さい!」
俺が一歩城に入った途端、上から天井が降ってきた。
「おわっ!」
寸でのところで後ろに飛び退いてかわす。
「このお城が今、ミレイユに乗っ取られていることをお忘れですか!?」
マチルダが駆け寄ってくる。
「そうだった。危なく自分の城の仕掛けで自分が死ぬところだった。」
まだばくばくしている心臓を落ち着けながら、俺は改めて城の仕掛けについて思い出していた。
(この城の仕掛けの制御は、連絡係のオークに任せてある。
本来なら、この城の住人でも客人でもない者が侵入したときにのみ城の仕掛けを作動させるよう指示してある。それが乗っ取られているということは、あいつは無事なのだろうか?
あいつはオークにしては力が弱いが、物覚えは良いからそれなりに重宝していたんだがな。)
■■■
魔王の城制御室。
そこでは、五体のガーゴイルに囲まれ、ぼこぼこにされたオークが仕掛けの操作を行っていた。
「魔王様~。あっしは決して裏切ったわけじゃないですからね~。あなた様なら、このような仕掛けを突破してあの女を倒せると信頼してのことですからね~。
というより、早く来てください~!」
オークはあまり無事ではなかった。




