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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第五章 来たる奴隷がメイド希望
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唯一の希望

 ゴーレムが俺を叩き潰すその直前、バタバタとこちらに向かって走ってくる音があった。


「魔王様ぁぁぁぁ!!」


 よく聞き慣れた声と共に、体に衝撃が走る。


 クレアだ。クレアは俺の方に突っ込むと同時に勢いで俺と共に吹っ飛び、近くの窓ガラスを割って城の外に落ちる。辛うじてゴーレムの攻撃はかわせた。だが、このままでは今度は地面に直撃だ。


「きゃああああああ!!」


 クレアは悲鳴を上げて俺の体にしがみつく。落ちる感覚に、俺はかつてマチルダが言った言葉を思い出していた。


「両手を使うのと同じ感覚で羽ばたき、第三、第四の手があると思うことですじゃ。さすれば、風を切り、飛ぶことができるでしょう。」


 俺が空を飛ぶ練習をしていた時の言葉だ。その意味が分からず、何度も地面に落ちたものだった。だが、今なら何となくだが、その感覚が分かるような気がする。


「空を!飛べなくてもいい!ほんの少し滞空できれば!」


 風を切る音と共に、俺が落ちる速度が次第にゆっくりになっていく。


「魔王様、羽が!」


 クレアの言葉に気が付く。背中で、今までマントか飾りだと思っていた物が、蝙蝠のような翼に変形していた。まだ自在に飛べるわけではないが、それでも風を受けて落下速度を遅くして滑空することはできた。


 クレアを抱いたまま、ゆっくりと地面に着地した。クレアはまだ落下中に味わった恐怖で、がくがく震えていた。


「び、びっくしたんだよ。でも、良かった、魔王様が無事で。」


 ぎこちない笑顔を浮かべるクレア。


「クレア、よく助けてくれた。しかし、よく私が玉座の間にいたことが分かったな。」

「だって、夜魔王様の部屋の傍を通ったら、部屋の扉が開けっぱなしで魔王様はいないし、中にトロルの死体もあって。これは絶対魔王様に何かあったんだって思って探してたの。」


 あの時は俺もミレイユを探すのに必死で、死体の処理までは考えていなかった。それがまさかクレアに危険信号を送る役目を果たすとは思わなかった。


 俺は不思議な思いがした。つい今しがた、ミレイユからは魔王を愛するもの等いないと言われたばかりだ。なのに、この子は身を挺して俺を助けた。


「ありがとうよ、クレア。」


 俺が言うと、クレアは不思議そうな顔で俺を見上げた。


「クレアが助けてくれなかったら、危なかった。」

「そんな、大袈裟だよ。」


 クレアはそう言ったが、実際あのタイミングでクレアが突っ込んでこなかったら今ごとゴーレムに潰されて俺はここにいなかったかもしれない。


「魔王様を助けるなんて、そんな大層なことは考えてなかったよ。でも……」


 クレアはそこで言い淀んだが、続ける。


「怖かったんだ。お父さんやお兄ちゃんの時と同じように、魔王様がいなくなっちゃうことが。私、家族のこと皆好きだけど、魔王様も同じぐらい好きだから。

 だから、さっきは気が付いたら飛び込んでた。」


 クレアが寂しげな笑みを浮かべる。


 彼女は近しい人がいなくなる寂しさを知っている。そんな子にこれ以上同じ苦しみを背負わせるのは男として失格だろう。


(俺は馬鹿だ。クレアが俺のことを信じてくれているのに、俺がクレアのことを信じないでどうする?)


 俺はクレアの髪をそっと撫でる。


「魔王様?」


 クレアはゆっくり俺を見上げる。


「クレアにとって、私が本当に必要だというなら、約束する、必ず生き延びて見せる。」

「ホントに!?」

「本当だとも。」


 クレアと指切りをする。クレアの顔にようやく笑顔が戻る。


「さて、行くか。」

「これから、どうするの?」

「城を取り戻しに行く。」

「そっか。そうだったね。」


 やることは山積みだが、俺とクレアは奪われた城へと向かうのだった。

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