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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第五章 来たる奴隷がメイド希望
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孤独なメイド

 玉座で待つこと。十数分。入口が開くと冒険者が三人入ってくる。


「魔王!お前の暴虐非道もここまでだ!」


 一番年長者の中年男が剣を突き出して口上を述べる。他は弓矢を持った長髪の男が一人。槍を持っているのは、三人の中で一番長身の男だ。まずは情報を収集することにする。


「その武器。貴様らはブレキアから来た者か?」

「そうだ。悪質な領主に虐げられてきて、ようやくそいつを倒したかと思えば今度は魔王。お前を倒し、今度こそ安息を得る!」


 長髪の男が同じように声を上げる。


「そいつは御苦労。お前達の村から来たミレイユというメイドを奴隷としてこの城に拘束している。お前達は彼女を助けに来たのか?」


 ミレイユのことを疑うのも悪い気がするが、念のためだ。すると、三人はあからさまに嫌悪感を滲ませる。


「ミレイユだと!?冗談ではない!何故我々があんな奴を助けなければならん!」


 長身の男の表情を見るに、どうやら照れ隠しなどではなさそうだった。ブレキアのためを思って自ら奴隷を申し出たミレイユに感謝する気持ちなど、微塵も見られない。


「今回のことだって、ミレイユが魔王とつるんで何をたくらんでいるのか分かりはしないのだ!できれば魔王もろとも滅しておきたいぐらいだ!」


 中年男が代表するように言う。


「そうだ。この機にあいつも始末しておくのはどうだ?そうすれば村は平和になる。」


 更に続けて、仲間二人に同意を求めるように話しかける。二人はいずれも頷き、


「そうだな。そうしよう。」

「そうすれば、報酬ももらえるかもしれない。」


 両者共に賛同の言葉を口にする。


 もう沢山だ。これ以上聞いたところで胸糞悪くなるだけだ。俺は玉座からゆっくりと立ち上がる。


「分かった。聞きたいことはこれで十分。死ぬが良い。」


 三人が身構えるより速く、俺は一番前の中年男に走って距離を詰めると、首を掴み上げる。


「うごっ……」


 男はそのまま声が出ない。


「貴様!」


 長髪の男が弓矢を放ってきた、俺は横に振り向きざま、中年男を投げつけると、矢が中年男の腹を貫通する。


口から血を吐く中年男。呆然とする長髪の男。その隙を狙い、俺はカマイタチを二発放つと中年男、長髪の男は血を吐いて両人とも倒れる。


「うわあああ!」


 長身の男が震えながらも、こちらに槍を持って突っ込んでくる。そんな震えた手で勢いなどでるはずもない。付き出す瞬間を狙って、槍の棒部分を素手で掴んで止める。


 男の目が驚愕で見開かれる。俺はそのまま男ごと槍を勢いよく半回転させると、男は槍から手を離して床に倒れ込んだ。


 男が痛みを堪えながら起き上るその時に、俺は奪った槍を振りかざして切り付ける。続けざまに思いっきり先端で突いた。男は悲鳴を上げるまでもなく、倒れて動かなくなった。


 ここまで来たのだからどれほどの手練れかと思っていたが、アビリティなどもっていなかった。そういえば、最近クレアの相手をするばかりで、城の仕掛けや魔物の配置を怠っていた。そのせいでこんな生半可な実力をもった者達が来てしまったのだろう。とはいえ、今回はそのおかげで情報収集の役には立った。あまり嬉しくない情報ではあるが、ブレキアではミレイユのことを心配するどころか、厄介払いしたいという者が大半のようである。


 ふと、視線を感じたので入口付近の扉を見ると、ミレイユが陰から様子を窺っているのに気付く。


「ミレイユ…」


 さっきの冒険者達の言葉を聞いたのだろうか。彼女がもし、村のために奴隷を申し出たというのならば冒険者達の言葉はあまりにも辛辣すぎた。


 俺が近付こうとした時、ミレイユは背を向けて部屋から離れていってしまった。走れば追い付けるはずだが、追い付いたところでどう声をかければ良いか分からない。結局見送ることしかできなかった。


■■■


 夜。俺は寝室のベッドに座っていた。シーツは皺一つ付いていない。これもミレイユがシーツを洗濯後に皺を伸ばしておいてくれたおかげか。


 俺は夕方来た冒険者の言ったことを思い出していた。感情の赴くままに始末してしまったが、領主に虐げられてきた点では、彼らはむしろ被害者である。ミレイユは今まで彼らを虐げてきた領主の関係者だから、今更信用しろという方が無理かもしれない。


 だからといって、これ以上ミレイユに何ができたというのだろう。村人達を直接苦しめたのは彼女ではない。それに、彼女は村の人達に謝罪して財産を返している。なのに、この上命も寄越せと言われるか。


 生まれてからの境遇の悪さは、本人にはどうしようもない。それは俺も同じことだ。俺が考えていると、部屋をノックする音がした。入るよう促すと、


「夜更けに失礼致します。」


 戸を開けて入ってきたのはミレイユだった。


「起きておられたのですか?」

「いや、眠れなかったのだ。」

「奇遇ですね。私もです。」


 失礼致します、と声をかけてからミレイユは俺の隣に腰を下ろす。若い女性と夜更けに部屋の中で二人きり。しかも抜群のプロポーション。否応なく胸の鼓動が高まる。


「夕方、ブレキア出身の冒険者達が来ていましたね。」


 ミレイユから聞いてくる。


「そうだ。」

「彼らは私のことについて、何か言っていましたか?」

「聞いていたのではなかったのか?」

「遠くてよく聞き取れませんでしたから。」


 少々迷った。ミレイユが身を犠牲にしてここに来たというのに、村の人間達は助けるのは愚か、許す気すらも皆無だということを伝えて良いのだろうか。


 とはいえ、ミレイユは陰からこちらの様子を伺っていたから、薄々良からぬ雰囲気には感付いていそうだ。下手に誤魔化すのも不自然なので、包み隠さず話すことにした。


「そうですか…」


 さすがにミレイユも落ち込んでいるようだった。それからすぐに


「他には何か言っていませんでしたか?」

「いや、それで全部だ。」


 ミレイユは少しの間下を向いていたが、やがて俺の方に顔を向け、


「私は、今回自分が犠牲になることで村の人達が私のことを許してくれることを、ちょっとだけ期待していました。でも、無理な話ですよね。」


 あからさまに作り笑顔で話す。かけるべき言葉は、見つからない。

 

(同じなんだな、彼女も。誰からも愛されず、孤独だった。)

 

 彼女は容姿に関しては恵まれているかもしれない。ただ、だからといって順風満帆な人生を送っているかというとそんなことはなく、味方と呼べる人間がいないことに関しては、むしろ俺と同じだった。ほのかに彼女に対する親近感が湧いてくる。


「ルイ様、あなたは私が想像していたような酷い魔王ではありませんでした。私のような者を信用して頂き、仕事を下さいました。

 おまけに、随所随所で、ルイ様から頂くお気遣い。単純かもしれませんが、私はとても嬉しかったのです。伯父のマラン以外で、私のことを普通の人間として扱ってくれた人はいなかったので。」


 ミレイユの瞳がこちらの目を真っ直ぐに捉える。


「大変身勝手かもしれませんが、私はここにいつまでもお仕えし、少しでもルイ様のお役に立ちたいのです。もはや、村の人のことなど構いません。ルイ様のためだけにお仕えしたいのです。」


 俺にとっては、願ったり叶ったりの状況だった。


「好きにするといい。」


 そう伝えた瞬間に柔らかい感触が体を包んだ。ミレイユに抱き締められていた。


「ありがとうございます。ルイ様。身も心も一緒にいますから、優しくして下さい。」


 頭と首筋に手を回され、柔らかな胸に優しく顔を押し付けられる。不思議と下心は感じなかった。俺のことをここまで想ってくれる者など、クレア以来だ。彼女の抱擁はクレアと比べると、もっと大人として成熟した、一片の迷いもない落ち着きを含んでいた。そして、相手を骨抜きにするような甘い香りもあった。俺はすっかりプライドを忘れ、自分もミレイユの背に手を回して抱きつこうとした。


 その瞬間、ミレイユの背後の鏡に、別の生き物の姿が見える。立っている場所は俺の背後。


 とっさに、俺はミレイユを突き放し、後ろを振り向くとそこにはいつの間にか棍棒を振り上げた魔物、トロルがいた。


 振り下ろされる棍棒を咄嗟に掌で防御する。流石に力は強いらしく、掌に衝撃が走る。幸い骨が折れるほどのダメージではない。


 俺は、棍棒を握ったまま、神通力を発動すると、トロルは後方の壁に叩きつけられた。そのまま距離を詰め、奪った棍棒で思いっきり頭部を叩き付けると、血が噴出し、トロルは倒れて動かなくなった。


 俺はミレイユの方を振り返る。しかし、そこにミレイユの姿はなく、部屋の入口の扉が開いたままになっていた。

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