操り師の野望を打ち砕く
俺は大ゴキブリの体を持ち上げ、デリーの前にいる小太りの男目掛けて投げた。ゴキブリは男に命中し、男は背後に倒れた。
「今度こそくらえ!」
俺はデリー目掛けてカマイタチを放った。その時、いつの間にか天井にいたボススライムが降ってくると、デリーの前に降りて、カマイタチの盾になった。ボススライムは飛び散るが、カマイタチはデリーまで届かなかった。
俺がカマイタチを撃った隙を狙って、コカトリス、洞窟蝙蝠が襲ってくる。爪で切り刻んで倒すも、今度は大ゴキブリが再度こちらに来る。神通力で吹き飛ばした途端、リーダーの男が剣で斬りつけてきた。
致命傷は避けたものの、腕を切られ、血が滲んでくる。
「さっさとやられなさいよ。魔王を倒したら私の人形にして、世界を私のものにする。
その野望のためにね。」
デリーは既に勝ち誇っている。
リーダーの男が剣で斬りつけてくる。俺は爪を伸ばして受け止めた。リーダーは剣を振り上げ、間髪入れずに斬りつけてくる。流石に腐ってもリーダーなだけあり、剣技はかなりのものだ。それに加えて、デリーの魔力で肉体能力も限界まで引き出されている。
俺は爪を交差させ、振り下ろされた剣が俺を両断するのを辛うじて防ぐ。
「とんでもない奴だ。本気で負けるかもしれん。だが、デリー、最後に一つ聞きたいことがある。」
リーダーの男が剣に力を入れるのを、俺も同じく爪に力を入れて押しながら問う。
「冥土の土産という奴かしら?いいわ。私は優しいからね。言ってごらんなさい。」
「お前が使う操りの術は、意識のない者を操る術、マジックアイテムで意識がある者を操る術の二種類があるようだが、どちらの術の方が強い?」
「あら、最後に聞くのがそんなことで良いの?」
デリーは不思議そうな顔をする。
「答えろ!聞いても良いと言ったのはお前自身だ!」
俺が言い返すと、デリーは
「仕方ないわね。」
そう勿体ぶった後、
「そりゃ、意識がある者を操る方が、意識を乗っ取る手間が増える分たくさんの魔力を使うから強いわよ。そのための魔力を増強するのがマジックアイテムだしね。
もし仮に、一人の人間にマジックアイテムを取り付けて、両方の操りの術で別々の命令をしたら、マジックアイテムを介した命令の方が優先されるでしょうね。」
一通りの説明を終えたデリーは
「さあ、もう良いでしょう。死んでもらうわ。」
デリーは魔物達を俺の方に差し向ける。
「ああ。冥土の土産をありがとうよ。ただし、受け取るのはお前だッ!」
俺は力を出し切り、リーダーを押しのけ、拳で横っ面を殴り付ける。更に至近距離から神通力を放って吹き飛ばした。
リーダーはデリーの横の壁に激突した。そのすぐ後にむくりと起き上がる。
「だから言ってるでしょ。無駄だって。観念なさい。」
周囲の魔物、そしてゴキブリもこちらに迫る。そんな中、リーダーは起き上がると俺ではなく、デリーの方に向きを変える。
「ん?何やってるのよ?早く魔王を攻撃しなさい。」
デリーの命令に全く反応せず、リーダーはデリーの方に剣を構える。
「よ、くも……騙したな。」
剣を構える。その左頬には見覚えのある丸い物が付いていた。
「あれは私がクレアに付けたマジックアイテム!?何故ここに!?まずい!」
リーダーが斬りかかってくるのを、デリーはボススライムで防御しようとする。
「おっと、そうはさせるか!」
他の魔物達を神通力で吹き飛ばした後、俺はボススライム目掛けてカマイタチを放つと、ボススライムは弾け飛んだ。
その隙に、リーダーは剣でデリーを斬り付けた。
「ぎゃあああああああっ!!」
洞窟中に悲鳴が響き、デリーは後ろに倒れた。それと同時に、俺達を襲っていた魔物、及びパーティーメンバーは地面に伏した。
俺はリーダーから剥がれて落ちたマジックアイテムを見る。
「マジックアイテムでの操りの術は何も付けない術より強力。それに加えてマチルダの魔力はおそらくデリーよりも上。
確かにデリーの術より優先されたな。」
マチルダのせいで危険な目に遭い、マチルダのおかげで助かった。少々複雑な気分だ。
「さてと。」
俺はさっきから微動だにしないロアの方を見ると、彼はびくりとした。
「倒れている奴らはパーティーメンバーだろう。まだ生きているようだし、助けるつもりがあるなら外へ出て治療を受けさせるんだな。
もし、外へ出すのを手伝ってほしいというなら協力しても良いぞ?」
俺の提案にロアは
「結構です。僕一人でできます。」
むっつりとして言った。そして、自分の元に倒れたメンバー達を引きずってくると
「クレア、この場は逃げるしかないけど、いつかきっと君を助けるよ!」
ロアは杖を地面に付いて念じると、倒れた四人を含め、魔法陣に包まれていく。
「テレポーテーション!」
ロアが鋭く叫ぶと同時に、光に包まれる。俺が目を開くと、それまでそこにいた冒険者達はもういなかった。
テレポーテーション。名前通り、瞬間移動か。戦闘には使えなさそうだが、こういう状況では役に立つからパーティに入れられていたのかもしれない。
俺はクレアの方を振り返り、
「帰るか?」
俺の呼びかけに、
「うん。」
クレアは素直に応じてくれた。
■■■
ダンジョンを出るころには、既に夕方になっていた。綺麗に大地が赤く染まっている。
「ありがとう、魔王様。みんなと戦ってるとき、手加減してくれたんだね。」
クレアも気付いていたようだ。
「最初のダンジョンでいきなり魔王が本気で襲ってくるのは反則だろう。」
「そうだよね。」
「ところで、クレア。ロアと言う少年は、どんな奴なんだ?」
「良い人かな。気が弱そうで、お人好しで、あのパーティーの中では私と一番仲が良かったと思う。」
「そうか。」
「魔王様、ロアのことが気になる?」
「別にそういうわけじゃない。聞いてみただけだ。」
もし、俺が魔王に生まれ変わる前、普通の人間だった時に彼に会っていれば、良い友人になれたかもしれない。そんなことをぼんやりと思っていた。
■■■
始まりの村、ロアは冒険者ギルドから出てきた。
(デリーはリーダーへの殺人未遂、及びダンジョン内での裏切り行為で、治療後にギルドの刑務所に留置されることになった。
他のメンバーは一命は取り留めて、当分入院、か。また僕一人だな。)
そんな中、彼はふとダンジョンでの魔王の言葉を思い出した。
『この娘は今や私のものだ。奪おうというなら、地の果てまで追ってでも奪い返す。』
あのような言葉を何の躊躇いもなく言ってのける魔王が少しだけ、羨ましかった。
「もっと、強くならないとな。」
夕日が沈んでいく中、ロアは誰に聞かせるともなくそう呟いた。




