第3章 息子たち
進学率の記事が配信される、3か月ほど前。
南極の夜は、静かではない。
風が建物の外壁を叩き、鉄骨が軋み、雪が窓を削る。その音は、誰かが外から入りたがっているようにも聞こえた。
午前2時。
男性解放軍の司令官エリオ・ラウゼニクは、基地の食堂にいた。
43歳。灰色がかった髪に、削げた頬。軍服の襟は擦り切れていたが、彼は気にしていなかった。
この基地には、237人の男が暮らしている。
いずれも、かつて別の軍隊にいた男たちだった。
救出作戦に加わる者もいれば、武器を持たずに暮らす者もいる。同じ食堂で、同じものを食べていた。
徴兵された者。脱走した者。戦場で解放軍に捕らえられた者。
祖国の法律では、彼らの多くが犯罪者だった。
エリオの記録簿では、全員が「救出者」とされていた。
「司令官」
振り返ると、20歳のアミンが松葉杖をついて立っていた。
「膝、また痛むのか」
「少しだけです」
「少し、というのは、どれくらいだ」
「歩けないほどじゃありません」
「そういうことは聞いていない」
エリオは椅子を引いた。
「座れ。医療班を呼ぶ」
「大丈夫ですよ。俺だって兵士なんですから」
「だから何だ」
アミンが困ったように笑った。
「兵士なら、多少の痛みは我慢しろって」
「誰が言った」
「昔いた軍の教官です」
エリオはしばらく黙っていた。
「忘れろ」
それだけ言って、通信機を取った。
医療班の診察を受けたアミンが部屋へ戻ると、エリオは食堂の照明を一段落とした。
彼には子供がいなかった。
結婚したこともなかった。
しかし、この基地にいる男たちを、自分の息子だと思っていた。
比喩ではない。
彼らが怪我をすれば胸が痛み、食事を残せば体調を心配し、誕生日になれば本人より先に日付を思い出す。
その感情を、エリオ自身はうまく説明できなかった。
自分の半分ほどしか生きていない男が、国家の命令1つで殺される。
その事実が、どうしても許せなかった。
彼らを指揮することはできた。
叱ることもできた。
だが、命令によって死なせることだけは、できないと思っていた。
通信機が鳴った。
『司令官。北方救出班から報告です』
「聞こう」
『徴兵された男性19名を確保しました。うち1名、19歳。負傷はありませんが、ひどく怯えています』
「名前は」
『ユアン・フェルクです』
「誕生日は」
『3週間後です』
エリオは机上の予定表を開いた。
「ケーキの材料は残っていたかな」
通信機の向こうで、若い隊員が少し笑った。
『はい。まだあります』
「よし」
エリオは窓の外を見た。
風は相変わらず吹いていた。
「では、また息子たちが増えるな」




