第10章 戦争の理
エルティアの降伏から3週間後、南極基地の通信回線は、各国の報道機関からの取材依頼で埋まった。
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構成員、わずか数百人
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国家でも正規軍でもない不法武装組織が、世界大戦目前の戦争を終結させた
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何度も、その言葉が繰り返された。
解放軍だけがヴァルド軍に代わって戦争に勝ったわけではなかった。侵略軍の攻撃と、捕虜として兵士を引き抜く解放軍の行動が重なり、小国の防衛は崩れた。
それでも、世界が驚いたのは、その小ささだった。
数百人の組織が、国家の存亡と大国同士の対決に割って入った。
ヴァルド政府の報道官は、笑顔で声明を読み上げた。
「男性解放軍は、人命の保護を最優先する、人道的な組織です」
背後の画面には、解放軍に保護され、毛布をかけられた男たちの映像が流れていた。
「彼らの献身によって、無用な流血が避けられました。我が国は、その活動を高く評価しています」
別の国の放送局は、同じ映像に、侵略国家の共犯者という字幕を重ねた。
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男たちを戦争から救う英雄
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小国を売り渡した軍事集団
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歴史上最も成功した男性解放運動
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ミソジニー(女性嫌悪)を拗らせた男の末路
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数千人の命と、1つの国の消滅が、交互に見出しになった。
世界中の評論家が、賛否両論、多種多様な評価をした。
エリオは、いずれの評価にも大きな関心を示さなかった。
ただ、男性徴兵制度に反対する者が増えたという報告を聞いたときだけ、満足そうに頷いた。
各国の記者たちを招いた記者会見が開かれた。
質問は、エルティア侵攻に集中した。
1人の記者が立ち上がった。
「あれは大国による小国への一方的な侵略戦争であり、明らかに大国側が悪い戦争です。それなのになぜ大国を支援し、小国を追い込んだのですか?」
エリオは即答した。
「意に反して兵に駆り出された男性を救えるなら、戦争の理などどうでもいいからだ」
会場がざわめいた。
記者は食い下がった。
「国家には、自分を守る権利があります。徴兵を拒めば、国が滅びるかもしれない。それでもですか」
「自衛権と、戦いたくない男を徴兵する権利は、同じではない」
「それは、国家に死ねと言っているのと同じでは?」
「私は国家に、生きろと言った覚えはない」
会場が静まり返った。
「私が生きていてほしいのは、人間だ」
その発言は、数時間後には世界中に広まっていた。
男性解放軍の支持者は熱狂した。
反対者は激怒した。
エリオは、どちらにも驚かなかった。
記者会見の映像を見ていたユアンは、誇らしげに言った。
「司令官は、誰が何と言っても自分の考えを曲げないんですね」
隣で見ていたダニエルは、テレビを消した。
「お前には、そう見えるのか」
「違うのか?」
「俺の国は、抽象的な言葉じゃない」
ダニエルは立ち上がった。
「俺が戻りたい場所だったんだよ」
ユアンは何も言えなかった。
その夜、彼は自分の部屋で考えた。
母のために死ぬことを拒んだ自分。
国のために死ぬことを拒めなかったダニエル。
2人は、どこが違ったのだろう。
考えても、答えは出なかった。




