五、狂気
…気が付けば、かぐや姫の周りに数人の天人が連なって立っていた。
「かぐや姫、」
王の声がした。
どこからとも無く、頭の中に響いた。
「なぜ、女官を殺した。」
王の声は、怒りを押し殺しているのがよくわかる。
天人には、『恐怖』や『怒り』などの感情は備わっている。
「…じゃまだったからです。」
かぐや姫が呟く。
「なんだと」
王が声を荒げる。
「私は、地球に、帰ります。」
かぐや姫は静かに微笑んで地球を指さした。
「何を馬鹿げた事を言っている。地球に渡るのは禁忌であるぞ!!!」
王の叫び声が漆黒の空に響き渡る。
「私は、行きます。」
かぐや姫は王の言葉を無視し、雲船を地球へ進める。
「やむを得ん。放て!」
王の鋭い声と共に矢が一斉に放たれた。
ビュン
かぐや姫の頬をかすめる。
「何故?」
かぐや姫が呟いた。
「何故、地球に行ってはならないのです?」
かぐや姫が、疑問を姿の無い王にぶつける。
「地球は、恐ろしい程に穢れている。人間と呼ばれる支配者気取りの生命は、互いを信じず、対立する。相手を貶すことで自分の存在意義を保つ。そんな下等生物だ。」
王の言葉には、どこか寂しげに聞こえた。
「それでも私は、地球に帰ります。」
意味が分からぬ。
何故だ?
何故あんなにも穢れた世界へ行く?
何故だ?
あのような下等生物のいるところへ向かうのだ?
シュゥゥ
数多の矢が放たれる中、天月霧之船が完全に姿を消した。
「全船、出港。かぐや姫を追うのだ。」
王が呟いた。
それと同時に天人達が港の雲船に乗り込む。
各々槍や弓を持っている。
「最悪、殺しても構わん。」
地球へ渡るのは、それほど重罪なのだ。
決して許されることでは無い。
シュゥ
港全体に霧が掛かる。
霧が晴れる頃には、何十隻とあった雲舟は跡形もなく消えていた。
―――――――――
暗黒の宇宙空間。天月霧之船から、ほんの四十間程のところに、無数の天人の乗った雲船がいくつも見える。
ヒュン
天人の手により放たれた数多の矢が天月霧之船目掛けて飛んでいく。
ズシャッ
一本の矢がかぐや姫の肩を貫いた。
その矢は、減速する様子を見せず、直進運動を続ける。
「うっ」
かぐや姫は、自分の肩を右腕で押さえる。
真っ赤な血が滴り落ちる。
それでも彼女は倒れない。
彼女は信じていた。
帝と会える。
絶対に。
と。
地球がどんどん/\大きくなる。
かぐや姫はそれほど地球に近づいているのだ。
「地球…」
かぐや姫は呟く。
天人達はまた、矢を放つ。
かぐや姫は避ける素振りも見せず、ゆっくりと槍を動かし、矢を撫でるように弾く。
彼女は、天人を哀れむような瞳で見つめる。
ビュン
かぐや姫に首をかすめる。
「いい加減に、して下さい!」
かぐや姫が、怒りのままに槍を投げた。
その槍は、見事に一人の天人の首を貫いた。
かぐや姫は息を整え、また地球の方を向く。
(まだあります→)




