「リゼ」と「ザック」
地下倉庫の「秘密の宴」が始まってから、数日が経った。
リゼットは今日も、古い納品書の裏に“トカゲの足跡”のような字で、
新しい魔物レシピを書き殴っていた。
ザックは焼けた魔物肉を豪快に齧りながら、ぼそりと言った。
「……なあ、リゼット。そろそろその“さん付け”やめろよ。
飯食ってる時に余所余所しいのは、毒を盛られてるみてえで落ち着かねえ」
リゼットはペンを止め、きょとんとした顔で首を傾げた。
「えっ、でもザックさん。修道院長様が、年上の人には丁寧に――」
「ここは地下だぞ。修道院長も神様も見てねえ。
それに、俺たちはもう“同じ釜の飯”……いや、“同じ魔物の毒”を食い合ってる仲だろ」
ザックは笑いながら、リゼットの頭を大きな手でぐしゃぐしゃに撫でた。
その手は荒っぽいのに、どこか温かかった。
「……そうね。確かにザックさんといると、王宮の変なおじさんたちと話してる時よりずっと楽だわ」
「だろ? だったらもっとガサツにいけ。
お前のその“本性”のほうが、俺は好きだぜ」
リゼットは一瞬ぽかんとしたが、
すぐに肩の力を抜いて、悪戯っぽく笑った。
「……わかったわよ、ザック。
じゃあ、その肉、焦がさないようにちゃんと見てなさいよね!」
「ははっ、それでいい」
ザックは満足そうに笑い、
ふと真面目な声で続けた。
「……なあ、リゼ。
お前の腕、いつか王宮を飛び出して、もっと広い世界で見せてやりたいと思わねえか?」
「リゼ……?」
「ああ。リゼットじゃ長えだろ。
俺の相棒なんだから、呼びやすい方がいい。……嫌か?」
リゼットはその名前を、口の中で転がしてみた。
「リゼ」。
それは、
王宮の冷たい石壁の中で初めて誰かに“そのままの自分”を認められたような響きだった。
「……いいわね、リゼ。気に入ったわ、ザック!」
リゼは嬉しそうに笑い、
ザックの皿に山盛りの野菜(地下で育てた怪しい薬草)を追加した。
「ほらザック! 栄養たっぷりなんだから、黙って食べなさい!」
「おい、急に態度がデカくなりすぎだろ……ッ!
ぐっ、苦ぇ……けど……力が湧いてきやがる……!」
こうして、
地下倉庫の片隅で、二人の“名前”は新しくなった。
【読者の皆様へお願い】 もしも「続きが気になる!」と思っていただけたら、 下にある【ブックマーク】や【ポイント評価(☆☆☆☆☆)】をいただけると、執筆の大きな励みになります! よろしくお願いいたします。




