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死んでたら下処理? 裏口で拾ったのは「伝説の獲物」でした

「……ふぅ、カビ臭い。ハンスおじさん、掃除しろって言ったけど、これじゃ食材が泣いちゃうわ」


王宮の最下層。


日の光も届かない備蓄倉庫へと左遷された初日の夕方、リゼットは大きな溜息をついた。


そこは、かつては王室の食糧を支えていたはずの場所だが、


今はバルトロ料理長が重んじる「見た目の美しさ」とは無縁の、薄暗い石造りの空間だ。


積み上げられた麻袋や、埃を被った古い調理器具が、忘れ去られた過去の遺物のように眠っている。


しかし、リゼットの黄金色の瞳は、絶望とは無縁の輝きを放っていた。


「でも、ここ……意外といいかも! 湿気はあるけど涼しいし、何より上(調理場)みたいに『魔物を煮込むな』って怒鳴る人がいないわ!」


彼女はさっさと掃除を済ませると、地下倉庫の重い鉄扉を蹴開けた。


そこは城壁の隙間に位置する搬入口で、王宮の華やかさから見捨てられた、


高く切り立った壁の影にある「裏庭」のような場所だ。


リゼットは大きく伸びをして、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「ふぅ……たまには外の空気を吸わないとね! さて、今日の夕飯はどうしようかしら。地下に眠ってた古い干し肉もいいけど、何か新鮮な『祈り』が足りないわね……」


その瞬間だった。


――ズドォォォォンッ!


城壁の隙間、警備の兵士すら滅多に通らない茂みの向こうから、地響きを立てて巨大な影が倒れ込んできた。


「わっ!? なに、落石!? ……じゃない、これって“栄養”の気配!」


リゼットは反射的に駆け寄った。


そこに転がっていたのは、血まみれで巨大な一角大トカゲを担いだまま、地面に突っ伏した一人の男だった。


年齢は三十手前といったところか。


無造作に伸びた黒髪、数日剃っていないであろう顎髭。


泥と返り血に汚れた革鎧の隙間からは、数多の死線を越えてきた者にしか宿らない、


鋼のような筋肉と無数の古傷が見え隠れしている。


たとえ意識を失いかけていても、その手は獲物であるトカゲの足を、そして腰の短剣を離そうとしない。


「……大丈夫ですか? あなた、死んでますか? もし死んでたら、鮮度が落ちないうちに“下処理”しちゃいますけど!」


リゼットは至近距離まで顔を近づけ、真剣な眼差しで「獲物」を検分し始めた。


「…………っ、いや、生きてる……っ!」


男――ザックが、泥にまみれた顔を上げた。


鋭い眼光。


しかし、その瞳には明らかな困惑と戦慄が浮かんでいる。


百戦錬磨の冒険者としての直感が、目の前の少女を「別の意味で生命の危機を感じる存在」だと告げていた。


「俺は……ザック。まだ、死んでねぇ……! ちょっと、深手を負って……休んでただけだ……っ!」


「えっ、生きてるんですか!? よかったぁ!」


リゼットは心底安心したように微笑んだ。


「じゃあ、“下処理”は後にしますね!」


「だから下処理って言うな!! どんな教育受けてきたんだお前は!」


ザックは荒い息を吐きながら立ち上がろうとしたが、足がふらついて再び膝をついた。


無理もない、その脇腹からは今もドクドクと血が流れている。


リゼットは迷いなく彼の太い腕を掴み、細い体からは想像もつかない力でぐいっと引っ張った。


「怪我してますよ! 血がいっぱい出てる! これはもう、煮込むしかないですね!」


「煮込むな! 俺を煮込むな!! 頼むから食い物を見る目で俺を見るな!!」


「違いますよ! あなたじゃなくて、その担いでるトカゲさんです! こんなに立派な角があるなら、すっごくいいお出汁が出ます! 地下倉庫に使ってない大鍋があるので、今すぐ煮込みましょう!」


リゼットはザックの背後に転がっている、禍々しい一角大トカゲを指差して目を輝かせた。


その迷いのない「食欲」を向けられ、ザックは毒気を抜かれたように呆然とした。


彼が今まで出会ってきた王宮の料理人たちは、彼の獲物を「不浄だ」「呪われる」と忌み嫌う連中ばかりだった。


それなのに、この少女は。


「……お前。そのトカゲを見て『汚い』とか言わねぇのかよ」


「え? 何を言ってるんですか? こんなに立派な命を目の前にして、不浄だなんて失礼ですよ! 修道院長様が言ってました、『倒れているものは人間も魔物も、みんな栄養にして祈りを捧げなさい』って!」


「……死神みたいな修道院だな、おい」


ザックは鼻で笑い、そのままドサリとリゼットの肩に体重を預けた。


この若さで、これほど話の通じない、しかし温かい目をした人間は初めてだった。


「……まあいい。確かに、腹が減って死にそうだ。……任せるわ。ただし、俺はまだ死んでねぇからな? 素材にするんじゃねぇぞ」


「はい! じゃあ“生きてる人用”に味付けしますね! 傷がすぐ治るように、トカゲの心臓も刻んで入れちゃいます!」


「その分類はやめろ……。あと心臓は……まあ、不味くなければいいわ……」


【読者の皆様へお願い】 もしも「続きが気になる!」と思っていただけたら、 下にある【ブックマーク】や【ポイント評価(☆☆☆☆☆)】をいただけると、執筆の大きな励みになります! よろしくお願いいたします。


このお話で登場したザックは後に前作の中でこんな感じに再登場します。https://ncode.syosetu.com/n6607lr/5/

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