198話 旅立ちの朝
ラヴィの故郷である〔トポの村〕までは、この街から数週間はかかるらしい。
これほど長期間の遠征は初めて――正直、どれくらい過酷な道のりになるか分からない。
俺たちは、念には念を入れて遠征の準備に時間を費やすことにした。
まずは、クールな受付嬢のセラ姐や、たんぽぽ亭の女将ミレナさんへの挨拶だ。
しばらく街から離れるから寂しがるだろうしな。
二人とも笑顔で快く見送ってくれたのは、俺の普段の行いの賜物だろう。
ただ、セラ姐さんは「クエストたくさん準備して待ってますね」とかサラッと言ってたけど。サラッと怖い。
そして遠征となれば野営は必須。俺は日持ちする食料を大量に買い込んだ。
乾燥肉、酒、小麦粉、酒、乾燥フルーツ、酒――。
……うむ、万全だろう。
「さて、と。 食料はこんなもんでいいかな?」
「……うん。 いざとなれば、拙者が獲る」
「おぉう、そりゃあ頼もしいぜ。 ベルはポーションとかの調達はできたか?」
「バッチリですわよ! 美容ポーション、ダイエットポーション、それから睡眠ポーション――」
「違うわっ!! もっとこう、冒険に実用的な回復系を買うんだよっ!!」
「あっ……それもそうですわね! そうだ、ついでにおやつも買い足して来ますわぁ!!」
「おやつ……!拙者も、行く……!」
ベルとラヴィは、あっという間に街の中に消えていった。
こいつら、遠足にでも行くつもりなんだろうか……。
俺の心配をよそに、ここ最近女性陣は二人で楽しそうにしている。
「……まあ、仲が良いのはいいことなんだがねぇ」
俺は決して、寂しいだとか構ってほしいとか、そういうのはない。
うん、本当に。絶対。
そんなこんなで、遠征を決めてからあっという間に二日が経った。
準備は万全――遂に、旅立ちの朝が来た!
「んーーー!! 絶好の出発日和ですわねッ!」
「……びよりッ!」
ベルとラヴィはおやつ片手に、レンタル馬車の上で伸びをする。
……すごいじゃん。出発もしてないのに、もうおやつ食べ始めちゃってるじゃん。
子どもじゃん。
「お前らなぁ……もうちょっと気を引き締めろよな? 遠足じゃなくて、遠征だぜ?え、ん、せ、い。 ねぇーヴァルちゃん?」
「キュッ?」
俺が胸ポケットに話し掛けると、小さな頭がニュッと飛び出した。赤ちゃん黒トカゲのヴァルだ。
この子は正直連れて行くか迷ったけど……可愛い子には旅をさせろって言うしな。
何事も経験ってことで、遠征に連れて行くことを決めた。
「フフフッ、そうは言っても、楽しみじゃありませんか! ラヴィさんの生まれ故郷に行くんですわよ? ワタクシ、手土産もたくさん買い込みましたわぁっ……!」
「おまっ……無事についたとしても、くれぐれも粗相のないようにな?」
「し~んぱいいりませんわよ! ね~ラヴィさんっ!」
「ね~!」
ラヴィも嬉しそうに返事をして、謎にハイタッチを交わす。
ベルがおかしいのはいつも通りだからいいけど、ラヴィがこんなにはしゃいでるのは珍しいな。
「ラヴィ、随分楽しそうだな。 そんなに村に帰るの楽しみか?」
「……うん! 久しぶりのおうち、楽しみ。祭りも、すっごく楽しみ。 でも、一番はみんなとお別れしなくていいのが、すっごく嬉しい。 みんなに来てもらえるの、すっごくすっごく、嬉しい!」
「お、おぅふっ――!!」
ラヴィ、それは純真無垢の申し子。
なるほど……ベルはきっとこれにやられたんだな……ラヴィの必殺技、純真光線に。知らんけど。
ラヴィは、俺たちと一緒にいられるのが嬉しくて。
ベルはそれを聞いて嬉しくて――そりゃあ、二人共テンション高くなる訳だ。
そして、同じパーティーとして、俺一人だけしらけてる訳にはいかないよなぁっ!!
「……まったく、今日は本当に最高の出発日和だなっ!!」
俺は二人に習って、目についたおやつの袋を取り出し、ボリボリ食べだした。
優しい甘さの砂糖菓子が、口の中で溶けていく。
「あぁっ!?!? マヒルさん、それ……ワタクシが楽しみにしていたおやつじゃありませんのっ!?」
「…………ゴメンねっ!」
こうして、俺たちは街を出発した。
目指すは遠く――ラヴィの故郷、トポの村だ。
晴れ渡る空はどこまでも青く広がり、俺たちの旅立ちを優しく見守ってくれているようだ。
俺はラヴィにしばかれた頭をさすりながら、地平線の彼方を見つめる。
――この先に、どんな痺れる冒険が待っているんだろうか……!!
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