197話 突然の別れ
スノー・スライム騒動から数日後、残念なことに、ベルの髪形はいつものツインテールに戻ってしまっていた。
なんでも、高価な魔法薬をかたっぱしから使ったらしいけど……大丈夫か、それ?髪へのダメージ的なものは。
まあ、あのクレイジーなマリモヘアのまま面と向かって話されたら、髪にしか意識がいかないから助かったと言えば助かったな。
ようやく外に出られるようになったベルを含め、俺たち三人はいつも通りの日常を過ごしていた。
そして、あっという間に三月――春の足音が聞こえる季節となった。
そんなある日――。
「拙者は、このパーティーを、抜ける……」
ラヴィの一言が、俺たちの平穏を切り裂いた。
「えっ、えっ、えっ……えっ???」
ベル、口をあんぐりまぬけ顔。
「おっ、おっ、おっ……おんっ???」
俺、口をぽかーんとまぬけ顔。
「い、いやちょっと待てよラヴィ! ベルに何されたかは知らないけど、せめてちゃんと話だけでも聞かせてくれないか?」
「そうですわ! 何も言わずにそんな――って、ちょっとぉ!? ワタクシ別に、何もしてませんことよっ!? ねぇっ、そうですわよねラヴィさん!!」
「……うん、ベル殿は、いつも通りベタベタしてくるだけ。 拙者が、パーティーを抜けなきゃいけない理由は、これ」
ラヴィはそう言うと、一通の手紙を取り出した。
普通の便箋ではなく、しっかりとした羊皮紙に書かれているものだ。
ここに、ラヴィがパーティーを抜けなければならない理由が――。
「えぇと、どれどれ――って、こ……これは……ッ!? 読めねぇ!」
そこに書かれていたものは、なんて表現していいのか――強いて言えば、肉球の形をしたスタンプを、やたらめったら押し付けたようなものだ。
「ラヴィ、これは……?」
「手紙」
「あぁいや、そうではなく……」
「これは、獣人族の文字ですわね? えーと、ふむむむ――要約すると、村の大きなお祭りがあるから戻って来いっていうお知らせですわね」
「うん、そう」
「……ベルお前、スゲェな」
意外な所で、ベルの博識ぶりが発揮される。
あれは肉球じゃなくて、れっきとした文字なのね。すいませんっした。
「……で、そのお祭りってのはどんなものなんだ? お前がパーティーを抜けるって言うくらいなんだから、相当大事なものなんだろうけど」
「……うん。 五年に一度の、大すろ、しゅろ……大狩猟祭がある。 他の村から、獣人も人も、たくさん集まる」
すっげー噛みまくってたな。
でも、五年に一度のお祭りって言うくらいなんだから相当デカい規模のものなんだろうな。
「大狩猟祭、かぁ。 で、ラヴィはそれに参加するためにパーティーを抜けるってことか?」
「…………うん」
ラヴィは、ギュッと拳を握りしめ、小さく震えながら頷いた。
「…………なんで?」
「…………へっ?」
「いや、だから、なんでパーティーを抜ける必要があるんだ?」
「……え、でも、拙者の都合で、村に戻るから――」
「水くさいですわよ、ラヴィさん! ワタクシたちも当然、付いていきますわっ!!」
「……まっ、そういうことだ」
「……えっ、いや、でも……」
ラヴィは少し困った顔をしながらも――その口の端はほころんで、嬉しさを隠しきれないといった様子だ。
まあ、ほら、尻尾が何よりもそれを現してる。
扇風機みたいに回ってるもの。
「で、でも、拙者の村、すっごく遠い。 この街から、数週間はかかる」
「いや本当に遠いなっ!! でも、付いて行っていいんなら、どこへだって付いていくさ! それが仲間ってもんだ!」
「…………マヒル殿ぉ」
ラヴィは耳をぺたんと下げ、泣いてるのか笑ってるのか分からない顔で俺を見た。
とりあえず、庇護欲をかきたてられるのは間違いないな。
「マヒルさん、それ世間ではストーカーって言うんですわよ? ワタクシなら、例え断られても陰ながらこっそり、どこまでもジットリ付いていきますわよ!」
「…………ベル殿ぉ!…………ん、でもそれ、ちょっと怖い」
「お前じゃんストーカーは。 ラヴィ、ちょっと引いてるじゃん」
「そんなぁっ!?ですわっ!!」
「……フフッ。 二人共、大好きっ」
「「はうっ!?!?」」
ラヴィの純真無垢な眼差しに、俺とベルの心はえぐられ、目は焼かれ――極楽浄土へと旅立った。
そんな目を――そんな顔をされたら、とことん付いていくしかねぇよな!!
こうして俺たちは、謎の祭りである大狩猟祭もとい、ラヴィの故郷の村までの大遠征を決行することになった。
後にこれが、大大大波乱を呼ぶことなんて、この時の俺はなーーーんにも考えてなかった。
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