196話 宵より酔いて、あぁクルス
それから俺たちはギルドへ戻って報告を済ませた。
今回は緊急事態のアイスゴーレム討伐+巨大スノー・スライム討伐ってことで、ウハウハするほどの報酬が貰えた。こういう時のギルド、マジ太っ腹。
そもそも、この騒動の発端は近年稀に見るほどの大寒波による豪雪が原因だ。そして、その異常気象を引き起こした白竜アルバトゥス――マジで伝説のモンスターじゃん。
……初遭遇時に試しにパライズかけなくてよかった~。
ちょっと姿を現しただけで環境も生態系も変えるとか、まさに天災。
そういうやつの相手は、この世界にいるかどうかも分からん勇者サマにお願いするとしよう。
さて、ギルドでの報告やら何やらを済ませた俺たちは、クエストクリアのお祝いってことで行きつけの酒場へと向かった。
メンバーは俺とラヴィ、クルスの三人――ご自慢のツインテールがモジャモジャになったベルは、人に会いたくないとのことで今は部屋に籠もっている。
南無三。
「とりあえず……かんぱーい!!」
「「かんぱーい!」」
味付け干し肉を肴に、ホットワインを嗜む――まさに悪魔的だぁ!
今日も今日とて、寒い寒い一日だったから体の芯までヌクモリティが染み渡る。
「クァーッ! これはなかなか強い酒だなッ!!」
クルスはすでに顔を赤らめながら、水割りエールをちびちびと飲み進めている。
……初めて聞いたんだけど、エールを水で割る人。
「クルス……お前、酒弱いんだな。 なんか意外だわ」
「ひやぁ~、なかなか飲む機会など無かったからなぁ! ウワハハ!」
「そ、そうか。 まあ、今日はゆっくり飲もうぜ」
「飲むー」
「いいやラヴィ、お前はステイだ」
「……むー」
ぷぅっと膨れるラヴィだが、酔っ払いの面倒を見るのはご免なんでね。
「フハハハハッ! パライザーよ、ラヴィーナ殿が膨れているぞ! フワハハッ!」
クルスは笑い上戸なのか、開始早々ご機嫌だ。
まっ、今日はこいつがいなけりゃどうすることもできなかったし……好きなだけ飲んでご機嫌になってもらうとするか。
* * *
しばらく飲み食いをして、お腹いっぱいで眠くなったラヴィが宿へと戻った。赤ちゃんじゃん。
残された男二人、何も起きないはずはなく――俺たちは漆黒の聖典やら、青き凄惨やら、他愛もない中二病トークで盛り上がった。
時刻は零時過ぎ。
周りの客もまばらになり、少し寂しさを感じるくらいだ。
「……そういやぁ、クルス。 他の二人はどうしたんだ? 名前はえっと――」
「マルクスと、ガレオ……だな」
「あぁ、そうそう! 悪ぃな、名前覚えられてなくて」
「ん、いや、いいんだ」
だってほら……あの人たちって言葉は悪いけど――モブだったじゃない?クルスが目立ち過ぎて、相対的にさ。本当にごめんねっ。
「せっかくだから、二人も呼ぶか?」
「んっ……んん、そうだなぁ」
「……どしたぁ?」
二人の話題になって、急に言葉に詰まるクルス。
あれ、もしかしてこれ、聞いちゃいけないやつ……?
「……今は、我一人で活動しているんだ」
クルスは、絞り出すようにそう言った。
うわーこれ、聞いちゃいけないやつだったわ。
……い、いや、でもまだそうと決まった訳じゃないしな。
「そ、そうなのか……えぇと、それは……」
「まあ、その……パーティー解消というやつだ」
「あぁ……」
「…………」
クルスは気まずそうに、頬を掻いた。
あはぁーん、そうと決まっちゃったわ!
馬鹿馬鹿、俺の馬鹿!
ほら見てよこの卓だけ、お通夜みたいな空気になってる!
「……ち、ちなみに、理由とか聞いても……?」
あぁっ!俺の馬鹿ッ!沈黙が気まずいからって墓穴を掘ってるぞこれはッ!!
「……方向性の、違いってやつらしい。 彼らからしてみると、我はその……想像力が豊か過ぎるらしい」
「……なーるほど」
うぅむ、あの二人もだいぶオブラートに包んだもんだ。
……っていうか、そもそもこの世界には中二病っていう概念がないのか。だとすれば、クルスのこのノリについていくのは並みの人間には難しいのかもしれないな。
「……まあ、いいんだパライザーよ。 これも、邪龍に魅入られた者の宿命――過酷な運命なれど、甘んじて受け入れよう」
「ク、クルス……お前、泣いて――」
「……おっと、今宵の酒は少々目にくるな。 我はこのへんで帰るとしよう。 パライザーよ、今日は楽しかったぞ」
クルスはそう言うと、銀貨を二枚取り出して机に置いた。
今夜の酒場代をまるっと全部払える金額だ。
「お、おいクルス! こんな払ってもらう訳には……!」
「いや、いいのだ。 我は久々に誰かと一緒に戦えて楽しかった……その礼でもある」
クルスはそう言うと、ツカツカと歩き出した。
その背中は、どこか寂しそうで――。
「クルス!次は俺の奢りだからなっ! それから――心友として、俺たちはいつだって仲間だからな!また飲もうぜ、雷炎の申し子よ!」
クルスは立ち止まり、向こうを向いたままヒラッと手を挙げた。
「ふっ……また近いうちにな、漆黒の牙よ」
こうしてクルスは一人、夜の帳の中へと消えていった。
魔剣士クルス――重度の中二病にして、孤独な男。
だが、俺と彼の間はかけがえのない絆で結ばれている。多分な。
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