193話 カッチカチの、ぼるんぼるん③
「あぁっ――そんな……セバッ、セバスチャァァァンッ!!!」
ベルの悲痛な叫びが雪原にこだました。
いや、うん、分かってた。
「……さて、これで完全に理解したが――俺たちにこいつは倒せないっ!!」
「むぅ……悔しいけど、手が出せない」
好戦的なラヴィにしては珍しく聞き分けがいい。
まあ、ついさっき凍った腕がもげ落ちるとかいうB級ホラーシーン見せられてるしなぁ。
「ベル、相手はセバスチャンも敵わない強敵……ここは一旦撤退するぞ!!」
「えっ!? うぅ――セバス……きっと、きっと敵は取ってやりますわよ!! ワタクシの燃ゆる魂に誓って、地獄の底で後悔させてやりますわっ……!!」
……いや、感情的になってるところ悪いけど、あれはただの魔法なんだけどなぁ。
……まあ、んなこと言うのは野暮ってもんか。
「そうだぞ、ベル! セバスの魂の安寧は、俺たちで必ず成しえよう! 例え、俺たち自身が白銀に呑まれようとも、この意志までは凍り付くことはない……!!」
「ま、マヒルさん……!!」
俺とベル、無言で頷き合って固い握手を交わす。
その様子を、ラヴィは目を細くして見つめていた。
「……二人共、なんか変」
ラヴィに今何か言われた気がしたが……それよりも撤退だ!
戦ってみて思うのは――やはり氷には、火!特大スノー・スライムを倒せるのは、強い火属性の魔法に限る……!!
一旦ギルドまで戻ってそういう人の派遣をお願いしないと、俺たちの街がシャーベットになるのも時間の問題だ!
急いで撤退を始めようとしたその時――俺の心の奥底が、むずりと疼いた。
「フフフ……フハハハハハハッ!! お困りの様子だなぁ!!」
冷風に混じって聞こえるは、高笑い。
誰が呼んだか、かの者を。
漆黒のマントを風になびかせ、包帯グルグルの腕でポーズを決める男――。
「お、お前はっ――クルスじゃないかっ!!」
そう、以前合同パーティーを組んでゴーレムの群れを退治した男だ。
その名も、魔剣士クルス――こう見えてもCランクの凄腕冒険者であり、俺の心友だ。
「フッフッフ……久しいな、パライザーよ。 それに、お嬢様方もご機嫌麗しゅう」
「う、麗しゅう、ですわ」
「……しゅ、しゅう」
ベルとラヴィは困惑しながらぎこちない返事を返す。
「久しぶりだな! クルス!」
「ああ。 ちょいとアルクーンに寄ったら、大変なことになってると聞いてな。 それに、パライザーたちも出ていると聞いて居ても立っても居られなかったのさ」
クルスはそう言って、謎のポーズをビシッと決める。
くぅぅ、相変わらず変なやつだけど頼もしい……!!
「……で、標的はあの馬鹿みたいにデカいスライムでいいんだな?」
「ああ! 俺たちの攻撃は全然通じなくて……手を貸してくれ!」
「フフッ――もちろんだとも」
クルスはそう言うと、宝石のように煌めく刀身の剣――メナスを抜いた。
彼の周りに渦を巻くように、魔力が収縮していく。
「おいたが過ぎたな、スライムさんよぉ……我が地獄の業火で、焼き尽くされるがいいッ! 【獄炎熱渦】!!」
次の瞬間、黒煙交じりの炎が空を舞い、スノー・スライム目掛けて飛んだ。
そして、ジュワワッと激しい音を立てながらスライムの体に渦を巻いていく。
「す、すごい……効いてるぞ……!」
あれほど打つ手がなかった相手に対して、まさに効果はばつぐんだ!
ジュウジュウと水蒸気をあげながら、スライムの体を締め付けていく。
「……むっ、だめだな」
クルスは、ジッと目を細めて呟いた。
「えっ? あんなに効いてるじゃないか」
「あぁ、確かに効いている。 だが、このまま倒したとして、それを誇れるか?」
「誇……り……?」
「あぁ。 じわじわと焼けていく様をただ見つめて、それを勝利と言えるか……?」
クルス……お前は――何を言ってるんだ?
勝ち方はともかく、大事なのって結果じゃない?
もちろん、かっこよく決めれるならそれがベストなんだろうけど……
「いや――」
「勝利と言えませんわ……!」
「……言え、ない!」
うちのバカ二人が、同調してしまった。
二人共、目から鱗とでも言わんばかりにクルスを見つめる。
「そうだろうそうだろう」
「――えっ!?クルスっ!?」
クルスは、スノー・スライムに巻き付いていた炎の渦を解除した。
途端に、怒り狂ったスライムがぼるんぼるんと激しく迫る。
「案ずるな、パライザー。 我が、究極の炎技をお見舞いしてやるさッ――!!」
クルスの決め顔に、ほんのりとした不安を感じた俺だが……とにかくやるしかない。
まるで雪崩のごとく突っ込んでくるスノー・スライムを、俺はキッと睨みつけた。




