192話 カッチカチの、ぼるんぼるん②
ぼるん――ぼるんっ――。
巨大なスノー・スライムは、ゆっくりではあるが確実に向かってきている。
「マヒル殿、どうする? 斬る?斬ったほうが、いい……?」
ラヴィは困った子犬みたいな顔で、俺をチラチラと見る。
……あぁ、そんなに尻尾までしょげちゃって。
「いや、ここはステイだ。 下手に近付いて冷凍ラヴィになってもらっても困るからな」
「……冷凍、ラヴィさん……それはそれで、ワタクシはいいですけれども」
「えぇ……」
ベルは、不気味な笑みを浮かべながらよだれをじゅるりと垂らす。
マジこわっ。
もしも、こいつが凍ったらここに放っておこう。
「金髪の変態はほっといて、どうしたもんかなぁ。 ひとまず……【麻痺毒】!」
ビィンと、紫色の稲妻エフェクトが走る。
そして外れる訳もなく、スノー・スライムの巨体に命中した。
ずる……ずる……。
やつの動きは明らかに遅くなった。
「さて、これで時間は稼げるし、ほっといても多少のダメージは入る……が、こんだけデカいモンスターだ。 あいつの体力を削る前に、俺の魔力がスッカラカンになっちまう。 そこで、ベル――どうすればいいか分かるか?」
「えっ? えぇと、そうですわね……ま、魔法で、えぇと――」
「ぶっぶー、はい時間切れぇ~」
「あぁっ、そんな!? 正解は、正解はいったいなんですの!?」
「正解? んなもん、今から探すに決まってるじゃねえか」
俺の言葉に、ベルはあんぐりと口を開いた。
続いて、ぷりぷりと怒りながら詰め寄ってきた。
「んなっ、詐欺ですわ!詐欺! あっ、そろそろ麻痺毒切れますわよ」
「いや、別に何も騙してねーし。 おっ、サンキュウ。【麻痺毒】!」
アイス・スライムが動き出したところに、再び麻痺毒をかけなおした。
ぼるんっと揺れてかわいい。
「ただ、マジで有効打が見つからんから、とりあえず時間稼ぐしかなさげなんだよなぁ……」
「ベル殿の、魔法は……?」
「んー……一番可能性があるのはそれなんだけど、相性がなぁ……ベル、どう思う?」
「……そうですわね。 そもそもスライムは魔法耐性と物理耐性が高いから意外と戦いにくいんですわ。 まあ、一応試してみますわね」
ベルはそう言うと、魔法陣を展開した。
「【暴波泡】!!」
ベルの詠唱に続いて、魔法陣から泡状の水の塊がぼよんと現れた。
それはゆっくりと漂いながらスノー・スライムに近付いていき――
ドパァッ――――。
泡が破裂したその瞬間に、一瞬で全てが凍り付いた。
いつもなら激しく水飛沫が飛ぶところだが、あられみたいな氷の粒が無数に俺たちに降り注ぐ。
「うおっ!?」
「キャア、ですわっ!!」
「むー」
ビチビチと全身で氷の粒を喰らう俺たち。
痛ぇし冷てぇ。
「……とまあ、こうなる訳だ。 ベルの魔法は、魔法と言っても物理系のダメージがデカいだろ? しかも、それ以外の魔法はとんと使えねえし」
「むぅ……なるほど」
「ちょ、ちょっとぉ!? いま、ワタクシの魔法を使えないとかほざきましたのっ!? いいでしょういいですわ! ワタクシの真なる実力にひれ伏すがいいですわっ!」
「い、いや別にそういう訳じゃ……って、おいおい何を――」
ベルの魔導書はバラバラとめくれあがり、ご自慢の金髪ツインテールが揺れる。
そして、魔力が一気に収束して魔法陣を形成――。
「むむむむぅ……出でよっ!【サモン・セバスチャン】ッ――!!」
ドンッ!!
魔法陣から現れた首無し執事ことセバスチャンは、某光の巨人のような姿勢のままスノー・スライムに突っ込んでいく。
どうせ、またダメだろう――そう思いかけたが、セバスチャンの飛んでいくその姿が、不思議といつもより頼もしく感じた。
怒ったベルが何かしらの力に目覚めたのか、それともただの目の錯覚か――。
それでも、彼の背中に声援を送らずにはいられなかった。
「いけ……頑張れ! セバスチャンッ――!!」
ジュウッ――カチカチコチン――。
真正面から突っ込んでいったセバスチャンは、そのままガチガチと凍り始めた。
ゴトッ。
最後に助けを求めるように伸ばした腕が、無情にももげ落ちた。
「ヒィッ――」
ベルが小さく息を呑む声が聞こえた。
――うん、やっぱダメだったわ。




