191話 カッチカチの、ぼるんぼるん①
「おいおいおい……なんじゃあこりゃあ」
俺たちが悲鳴の聞こえた方に急いで駆けつけると、そこはすでに別パーティーがアイスゴーレムを倒したあとだった。
ただ、アイスゴーレムとは比べ物にならない存在感を放つ存在が一つ。
「……ありゃあ、スライム……なのか?」
俺たちの目の前には、極寒の冷気を放つ特大白ゼリーがぼるんと居座っていた。
……というか、もはやこれは居を構えてるってほうが正しいか?
昔戦ったラージスライムとは桁が違ぇ……並みの一軒家を軽く超える馬鹿デカさだ。
「お、お前たちも早く逃げるんだ! あいつ、あのスライム――アイスゴーレムを食っちまった!!」
別パーティーの男は、真っ青な顔をして特大スライムを指差した。
他の二人も、同じく血の気が引いた顔でウンウンと頷く。
いや、アイスゴーレムを食うって……まじぃ?
確かに、よく見ればあいつの足元?にゴーレムの残骸はあるが……
「あの特徴……《スノー・スライム》でしょうか? でも、それにしては大き過ぎますわ」
「うん。 あんな大きいの、拙者も見たこと、ない」
モンスター知識豊富なベルと、モンスター経験豊富なラヴィ。
うちの二枚看板の認識から察するに――
「……可能性としては、スノー・スライムの亜種――もしくは、固有種ってとこかな? なあ、あんたたち……って、あれ?」
俺が話を聞こうと振り返ると、さっきのパーティーメンバーの背中が遠くに見える。
「あ……え?」
あいつら、逃げやがった……!!よくも俺を置いて――じゃなくて、モンスターを野放しにして撤退しやがったな……!!
「おぉい!それでも冒険者かコノヤロー! ギルドへの報告だけはしとけよなぁ!!」
どんどん遠ざかっていく人影は、「任せてくれ!」とでも言うように拳を強く突き上げた。
無性にイラっとした。
「……さて、と。 どうする、これ?」
俺は気を取り直して、スノー・スライムを見る。
「今は多分、お食事中だろ? 正直、この隙に逃げたいところだけど――」
「じーーー」
ベルの冷たい視線が俺を射貫く。
「そうはできないからなぁ。 まあ、最悪街から遠ざけてから撤退することは視野にいれておこう」
「……まあ、それくらいなら戦略の範疇ですわね」
「……斬る」
「ラヴィ、聞いてた?」
「うん。 斬る」
「うん、おっけ」
こいつのことは、一旦放っておこう。
さて、問題はこの馬鹿デカスライムの攻略方法だが……
「ベル、スノー・スライムの特徴は? どういう戦い方が推奨されてる?」
「……ギルド発行のモンスター指南書によれば、正面突破、物理ゴリ押し、ですわね」
「うん、参考にならねぇ」
この世界の価値観、相変わらず脳筋過ぎる。
こんなもんに馬鹿正直に真っ向勝負挑むなんて、ハムスターが大型バスに挑むみてぇなもんだ。
「もっとこう、実用的な方面での知見は?」
「そうですわね……学術書によれば、スノー・スライムの体表は極めて低い冷気に覆われているので、直接触れるのは恐らく危険ですわね」
さっきとは真逆の超有益情報なんですけど。
……冒険者ギルドさんは、もうちょっとこういう知識を取り入れていこうぜ?
「なるほど……じゃあちょいと試しに」
俺はそこら辺にあった小石を掴んで、スノー・スライムめがけてヒョイと投げた。
瞬間――
パキィッ――!!
やつの体に触れた瞬間、小石は瞬く間に氷に覆われてゴトリと落ちた。
「……ん、おい、一発触ったらアウトじゃねえか。 瞬間冷凍されんぞ」
「……みたいですわね」
「斬……りたくない」
おぉっと、戦闘狂のラヴィさんですら怯むほどの性能ときたもんだ。
てか、うちのパーティーとの相性が悪すぎ。これは敗走濃厚か……?
『――ボルッ』
妙な、くぐもった音が聞こえた。
「ん? おならしたか、ベル?」
「はあっ!? なんでワタクシが――」
「大丈夫、みんなするよ」
「いやっ、ですから――」
ゴゴゴゴゴゴッ――。
次いで、地響き。
「うわっ、ベルぅ……」
「ベル殿、すごい」
「ちっがいますわっ!? ほら、どう考えたってアイツですわっ!!」
ベルはツインテールをぶんぶん振りながら、スノー・スライムを指差した。
「……ですよねぇ。 みんな、戦闘準備――いや、撤退準備かな? とりあえずなんでもいい、来るぞぉっ!!」
『ボボルルルゥッ――!!』
スノー・スライムは全身を震わせ、地鳴りのような音を響かせた。
ふふっ、これだけ離れててもキンキンに冷えちまうくらいだ……!
こいつぁ、痺れるぜ!!
そして、巨大な影がゆっくりと動き出した。




