189話 残雪大行進!①
新年気分もそこそこに、あっという間に一月も終わろうとしていた。
今月はクエストの稼働こそ少なかったものの、実は予想外の収入に恵まれた月でもあった。
まずは、異世界産のお餅ことモチモチノミだ。
昨年末、忘年会で行った金華亭にこの餅を使った料理のアイデアをいくつか提案したところ、客受けは上々。
レシピやアイデアを商業ギルドに提供する専売契約ってことで、売り上げに応じたリターンを貰えることになった。
俺としては、ただぜんざいとか雑煮が食べたかったから提案しただけだったんだけど……いやぁ、儲け儲け。
それからもう一つ。キンガシンネンとかいう鳥モンスターの素材――と言うか、俺たちがそいつのうんこだと思い込んでいたものだが……まさかの値打ちものだった。
鑑定の結果排泄物とは異なるもので、貴金属類を多量に含んだ老廃物だということが分かり、それだけで十万を超える利益となった。
なんでもキンガシンネンは、習性的に鉱石なんかを腹の中に溜めこむらしいが、今回の個体はその内容物の希少性がかなり高い物だったそうだ。
……あいつの”落とし玉”は”お年玉”でもあったという訳か。
とにかく、これに関してはラヴィの大手柄。
期せずして手にしたお年玉で、その日は腹いっぱい肉を堪能した。
とまあ、こんな感じでけっこう順風満帆に過ごしていた俺たちだったが、そんなホクホク気分は冒険者ギルドからの一報により急速冷凍された。
「マヒル=パライザーさん!緊急のモンスター討伐指令が出された為、至急冒険者ギルドまでお越しください!」
「うげぇ……」
たんぽぽ亭の自室のドアを勢いよく開けて、ギルド職員は高らかにそう告げた。
せっかくのんびりしてたってのに、俺にとっては死の宣告と大差ない。
……まあ、緊急事態っぽいし、いっちょやりますか。パライジング=グレイス、緊急出動!ってか。
* * *
高く積もった雪をかきわけ、俺たちはギルドへと一直線。
到着するやいなや、クールな受付嬢ことセラ姐が足早に駆け寄ってきた。
「マヒルさん、それにみなさん、ありがとうございます。 実はちょっとした問題が起きまして」
「いやぁ、そうでしょうね……」
チラッと周りを見ると、相変わらずバタバタを忙しそうな職員さんたちや、いくつかの冒険者パーティーが入念な準備をしているのが目に入る。
それも、俺の知っている限りではDランク以上の、名のある冒険者ばかり。
えっ、思ってる以上にマズイ状況なの?
「一体これはなんの騒ぎなんですの? この時期にこれだけ人が集まるのも珍しいですわ」
「えぇ……今回の騒動の原因は、《アイスゴーレム》の大量発生です」
「アイス……ゴーレム……?」
俺が思わず聞くと、セラ姐はこくんと頷いた。
「はい。 単体の危険度はせいぜいDランク程度ですが、今回は少なくとも数十体が確認されています。 アイスゴーレムの主食は雪……やつらは物量に物を言わせて、街道付近の積雪のほとんどを摂取して周っています」
「なるほど……? えっとつまり、俺たちは何で呼ばれたんですかね……?」
確かに、何十体もモンスターが現れたら大変かもだけど、話を聞く限り緊急性は低そうに聞こえるんだけどな。
「はあ、マヒルさんそんなことも分からないんですの? ワタクシ、アイスゴーレムに詳しくはありませんが、危険で危ないからに決まってるじゃありませんの」
ベルはドヤ顔でふふんと鼻を鳴らした。
「……いえ、アイスゴーレムは大人しいモンスターなので、無暗に危害を加えるということは少ないです」
「…………らしいですわよ、みなさん」
セラ姐の捕捉説明に、耳を真っ赤にしながら即座に開き直るベル。
お前っ……切り替え早っ。
「ただ、問題なのはその食事スピードと言いますか……当初想定していた以上のスピードで、そこらじゅうの雪を片っ端から吸収しているんです。 やつらは本能的に雪があるところを目指します。このままではいずれ……」
「――あっ。 も、もしかして……この街に……?」
恐る恐る聞くと、セラ姐は無言で頷いた。
ようやく事の重大さに気付いた俺。うん、ヤッベェじゃん?
たとえ悪気がなくても、ゴーレムの巨体で街をうろつかれたら……ヤッベェじゃん?
えー、そんなの、雪かきの必要なくなって超便利じゃーんとか思ってた自分を平手打ちしてやりたい。
「既に数組みの冒険者のみなさまに討伐にあたってもらっています。 マヒルさんたちには、北西エリアのアイスゴーレム数体の討伐をお願いできますか?」
セラ姐は地図を示しながら、俺たちをチラッと見る。
答えはもちろん、イエスだ。
「まっかせてください! ゴーレム討伐ってんなら、ちょいと前にもやりましたし……この俺、漆黒の牙ことマヒル=パライザーにかかれば、数多蔓延るモンスターどもを――」
出立前の口上をご機嫌に述べていると、後頭部をペシンと叩かれた。
「ほらっ、バカ言ってないで早く行きますわよ!!」
「……マヒル殿、長い。 行くよ」
「あっ、お、おう……んじゃ、行ってきます!」
俺はベルとラヴィに引きずられながら、呆れ顔のセラ姐に手を振った。
振り返してはくれなかった。
それにしても――ふふっ、アイスゴーレムか。いいだろう、相手にとって不足なし!
この街の平和は、俺が守るッ!!
俺は二人に引きずられたまま、ギルドを後にした。
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