187話 お正月を過ごそう!③
お正月限定モンスと思われるキンガシンネンとかいうモンスターを倒し、当初の目的であったモチモチノミをたくさん抱えた俺たちは街へ帰り着いた。
戦闘直後に俺から正義の麻痺をかけられたベルが道中ずっとキーキー騒いでたけど、気にしない気にしない。
さて、後はこの木の実を調理していくんだけど……
「……なあ、ラヴィ?ずっと気になってたんだけど、お前が持っているそのデカイ風呂敷の中身ってもしかしてさっきのアレ……じゃないよな?」
「ん……ほら、これ」
そう言うとラヴィは風呂敷をゴソゴソと漁り、ひょいっとブツをとりだした。
楕円形で、テカテカと鈍い艶を放つ茶色い物体を――
「ばぁっ!? おまっ、なんてもの持ってきてんだ!?ポイッしなさい、ポイッ!!」
「ばばば、ばっちいですわよラヴィさん!! ど、どうしたんですの!?」
「ふたりとも、落ち着いて。 よく拭いたから」
「そういう問題じゃねえだろ!?ってうわ、近付けんな!!臭っ――くねえな……?」
目の前にズイッと出されたブツは独特な獣臭っぽさこそあるものの、いわゆる排泄物臭……簡単に言えばウン臭は感じない。
感想としては絶対に間違ってるんだろうけど、ぱっと見はただのバカでかいチョコエッグだ。
「拙者、思い出した。 あの鳥、縁起良い……宝、授ける言い伝えある」
「宝ぁ……? いやまあ、確かにあのモンスターは縁起良さそうな見た目ではあったけど……ま、まあいいや、とにかくそれは一旦しまっといてくれな?」
「ん、分かった」
ラヴィはこくんと頷いてブツを大切そうに風呂敷にしまった。
こいつの野性的な勘は侮れないからな……ワンチャン、本当に掘り出し物の可能性も……?まあ、今の所暫定ウンチって感じだけど。
「まあ、あとでギルドに鑑定をお願いするとして、早くお餅にとりかかりませんの? ワタクシ、もうお腹が空いてお腹が空いて……」
「そ、そうだな……よし、ラヴィ。頼みの綱はお前だ!モチモチノミもとい、お餅作り――ちゃちゃっとやっちゃおうぜ!」
「御意……!」
「あ、その前に手は洗ってきてくれよな? 入念に」
「……御意」
とてとて歩いていくラヴィの後ろ姿を見送り、俺は鍋やら焚火の準備を始める。
待っててねお餅ちゃん……!!
* * *
クツクツ、グツグツ……
俺たち三人は、沸騰した鍋の中で揺れるモチモチノミを食い入るように見つめていた。
調理工程自体はいたってシンプルで、茹でた後に潰す……ただそれだけらしいのだが、いかんせん時間がかかる。
朝早くからの採取作業や、予期せぬモンスターとのバトル――俺のお腹と背中は既に一体になりかけているし、ベルなんかさっきからずっと虚無の目をしている。
正直、適当なものでもつまみたいくらいに腹は減っているが……ここはグッと我慢。空腹の先に、至高で究極のお餅が待っているんだ……!
そして、調理開始から一時間――遂にその時がきた。
グツグツと一定の音を出していた鍋から時折、『コンッ』『カカカカッ』という奇妙な音が鳴り始めた。それを聞いてラヴィは、満面の笑顔で俺たちに言った。
「二人とも、鍋から、離れて……今すぐに」
「へ?」
ゴガァッ、ボンッ!ドバァッ――!!
ラヴィの言葉を理解する間もなく、派手な音とともに激熱の蒸気が噴き出した。
「ぎゃあっ!?!? あ、あっづづぅぅ!!!」
「キャアッ!!」
一番間近で鍋を見ていた俺、飛び散った熱湯のダイレクトアタックを喰らう。
そして前が見えないほどのゴワッゴワの蒸気で蒸されて、気分は人間小籠包。
「ぬはぁっ!? なんだ、何が起こった!?ベル、大丈夫か!?」
「ワ、ワタクシは大丈――って、マヒルさんこそ大丈夫ですの!? お顔、真っ赤っかですわよ!? 狂乱状態のオーガーみたいですわ!?」
俺の数倍は取り乱した様子のベルが、あわあわしながらまくしたてる。
あまりに慌てているもんだから、かえって俺のほうが冷静になっちまう。
「いや、分からん分からん。 熱かったけど、もう大丈夫」
「ほ、本当ですの? で、でも一応これを――【ヤヤヒール】」
ベルの手から優しい光が溢れ、俺の体を包む。とは言え効果はお察し、相変わらず何も実感できない程度の回復量だ。
「おう、ありがとう。 楽になった気が……しなくもないこともない」
「……マヒル殿、大丈夫?」
「おうっ、この通り――って……ラヴィ?」
そこには、鍋の蓋を盾代わりに持って突っ立っているラヴィの姿があった。
おまっ、何自分だけちゃっかり防御してやがんだ。
「ラヴィさんや? ”こう”なることは分ってたかい……?」
「…………まあ、うん。 さっきのが、火が通った合図」
「……そうかそうか。 じゃあ、先に忠告しておくこともできたということだね?」
「…………それも、そう」
「……そうかそうか。 【パライズ】」
「ッ!?」
俺の右手から放たれた稲妻エフェクトをすんでのところで超回避したラヴィ。
不意打ちすら通用しないとはさすが獣人、並みの動体視力と運動能力じゃねえなぁ……だがしかし――
「ご、ごめん。 でも、だからって、麻痺を撃つ……あうっ――!?!?」
回避した先で、ラヴィはブルブルと震えて地面に倒れ込んだ。
数秒間目があった相手を麻痺らせる静かなる一撃、炸裂。
「ふふん……【這いよる牙】だ。 この麻痺はそうだな……報連相はしっかりしましょうという意味の麻痺だ。 それから、顔真っ赤っかにされた腹いせだ」
「……マヒルさん、血も涙もないですわ」
「ん、自覚はある」
兎にも角にも、お餅へと一歩近づいた。
仲間との距離?それなら、数歩遠のいたってばよ。




