184話 明けまして、年!
これまで麻痺無双を読んでいただいたみなさま、大変お待たせいたしました!
第三部のスタートです!!
投稿頻度は毎日投稿から原則土曜日だけの投稿となりますが、これからもまた読んでいただければ幸いです。
それでは、どうぞ!!
新年――それは旧年中の様々な出来事を胸に、気持ち新たに慎ましく一歩を踏み出す時。
澄んだ空気が街を包み込み、雪の積もった街道では子どもたちが無邪気にはしゃいでいる。
遠くに聞こえる笑い声を背に、俺は震える手でバケツを握りしめていた。
「…………うぷっ、オロロロロロッ!!!」
昇り始めた太陽が、キラキラと部屋を照らす頃――俺は記念すべき今年一発目の”特製キラキラ”をバケツになみなみと注いだ。
うちのパーティーとセラ姐を含めた忘年会を皮切りに、連日連夜飲み倒した俺の体は既にグロッキーだ。
「キュウ……?」
俺の隣では、小さな家族赤ちゃんバジリスクのヴァルが心配そうな顔をしながら覗き込んでくる。
やめてくれ、そんな目で見つめられたら罪悪感がモリモリ湧いてきちゃうじゃねえか。
「あ、あぁ、ヴァルや……心配しないでおくれ。 これは身から出た錆……もとい、身から出たゲボ。 調子に乗って飲み食いしまくったツケが新年早々来ただけだからな……うぷっ……!」
「キュキュウ……」
「ちょっと、離れときな? ばっちぃのがお前についたらいけね――ヴォロロロッ!!!」
吐いては休み、吐いては休み――
バケツとベッドを数回往復する頃には、太陽がてっぺんまで昇り切っていた。
胃の中をスッカラカンにした俺は、小ざっぱりした気持ちでゲロバケツを片付けた。
まったく、新年早々汚ぇもんを見ちまったぜ。いやまあ、完全に俺のせいだけどな。
コンコンッ。
ベッドに座ってぼんやり外を眺めていると、ドアがノックされた。
「マヒルさーん、起きてるんですのー?」
「……おーう」
「ちょっと手が塞がってるからドア開けて欲しいんですの」
「……あいよー」
のそのそ歩いてドアを開けると、手に大きめの木のカップを両手に持ち、ビヨンと寝ぐせがついたままのベルが気だるげに立っていた。
……両手塞がってるのにどうやってノックしたんだ?
「お、おはよう」
「おはようご――って、なんですのその顔? アンデッドの方がまだ血色いいですわよ?」
「るせぇ。 こちとら胃の中のもの空っぽになってミイラ気分なんだわ」
「……まあ、ちょっとよく分からないですけど、はい、これ」
「ん」
差し出されたカップを反射的に受け取る。
ずしりと重量があり、温かい。なんとも優しい香りが湯気と共に漂ってくる。
「これは……?」
「ミレナさん特製の滋養スープですわ。 年末年始はバカみたいにお酒を飲みまくる人が増えるから、毎年たくさん作ってるみたいですわね」
「へ、へえ……そんな人たちがいるんスね……」
いやいやいや、年末年始の浮かれ気分はまあ分かるし、気が緩んでついつい飲みすぎちゃうって人もいるかもしれないけどねえ……
冒険者たるもの、節度を持って常識的にアルコールと付き合わねばならないからして――
「なんだか『俺は違うけどな』みたいな顔してますけど、『上でげぇげぇ言ってるバカの一人に持って行ってあげな』ってミレナさん言ってましたわよ」
「……はい、すいません」
図星、筒抜け、丸裸。
いやもう、ほんっとすいませんって感じ。新年早々げぇげぇうるさかったですよね、ほんと。
ってかそれを聞かれてるって事実が一番こたえるんだが……
「ま、まあ……今はスッキリ健全だから、ね」
「なぁにが健全ですのよ。 そりゃあ、あれだけ不浄のモノを吐き出したんですもの、スッキリしてないことのほうが不思議ですわ。 とにかく、そのありがたいスープを飲んでシャキッとするのがいいですわ」
「……はい、ごもっともです、いただきます……」
チクチクと口撃を続けながらしれっと俺の部屋に入ってきたベルは、椅子に座るやいなやゴクゴクとスープを飲みだした。
……いやここ俺の部屋なんだけどな。
言っても仕方がないのは分かり切ってるから俺はベッドに腰かけ、ちびりちびりとスープを流し込んだ。
「……おぉう、染みわたるぅ。 なんだろう、優しいお出汁と漢方みたいな風味……こいつぁ二日酔い、いや、五日酔いにも効くわぁ」
いろんなものを出し切って空っぽになった体に、ミレナさんの優しさが浸透していくのを感じる……いや、文字にすると気持ち悪いけど、本当にそんな感じでじんわりと体が温まっていく感じだ。
さすが、宿の女神ことミレナさん。どんな回復魔法よりも効くわ。
しみじみとスープを堪能していると、再びコンコンとドアが叩かれた。
「はーい」
『……マヒル殿、生きてる?』
この声、ラヴィだ。
それにしても新年早々、そんな物騒な質問があるか。
「おぉい、生きてるにきまってんだろ。 ベルもいるから入ったらどうだ?」
『……うん。 でも、両手が塞がってて……開けて、欲しい』
「今度は何だよまったく……今行くから待ってろよー」
のそりと歩いてドアを開けると、ほかほかと湯気が立ち上る鍋を持ったラヴィが立っていた。
鍋?なぜ?
「おい、なんだその鍋は……っていうか、ノックはどうやったんだよ」
「ん、普通に、”こう”」
そう言うとラヴィは、つま先を立てて足を軽く振った。
「”こう”ってお前……足でノックしたのかよ! 行儀悪いぞ~お前。お父さん、そんな子に育てた覚えはありませんからね」
「……拙者も、朝からゲエゲエ言い続けてる人が、お父さんとは思わない」
「うぐっ……! それを言われちゃあ、お父さん言葉も出ないよ。 まったく、悲しいよお父さんは」
「……ごめん、お父さん」
「二人とも何を言ってるんですの?」
ベルのツッコミが俺らの茶番を制し、とりあえずラヴィを部屋に招き入れる。
ラヴィが手に持っていた鍋の正体は、例のミレナさんスープだった。俺があまりにもゲエゲエ言ってるもんだから、心配で持ってきてくれたらしい。優しっ。
「ベルもラヴィも、ありがとな。 まあ、さすがにこんなにたくさんは入らないけど……」
「べ、別にマヒルさんの為なんかじゃありませんわっ! ワタクシはミレナさんに頼まれたから持ってきただけですわっ!」
そう言って、寝ぐせ交じりのツインテールをふいっと揺らすベル。
「……拙者は、マヒル殿が、心配だったから。 宿屋に、ペロゴンがいるのかと、思った」
「お、あぁ、ありがとうなラヴィ……」
もじもじとしおらしく言うラヴィだが……ペロゴンって言えば沼地とかにいる巨大なカエル型のモンスターだろ?ビミョーに複雑な心境なんだが。
「……ま、まあともかく! こうして新しい年が始まったわけですし、アレやっときますか!」
「アレ……って、なんですの?」
「年始のご挨拶ってやつだよ! ううんっ、それではみなさま……明けまして、おめでとうございます」
俺は厳かな雰囲気を醸し出しつつ、深く一礼。
つられて二人共、ぎこちなくペコリ。
「お、おめでとうございます……?ですわ」
「あ、あけまして……?お、おめでとう……」
「おうっ! この挨拶は簡単に言うと、新しい年が始まって最高だぜ!って意味だ。 二人共、今年も一年よろしく頼むわ」
「へぇ、そういう意味でしたの……まあ、今年もよろしくしてやっても構いませんわよ?」
「せ、拙者こそ、よろしくお願い、します。 今年も、日々、精進」
「キュキュイッ!」
「おっ、もちろんヴァルもよろしくな!」
太陽が出ていても寒さ厳しい元日の昼下がり。
新年早々小さな俺の部屋にみんなが集まって、そこはほんの少しだけ、他よりも温かい空間だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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