183話 年忘れの一夜
夜――さんさんと降りしきる粉雪が街頭に照らされ、ネオンのように煌めき立った頃、俺たちの忘年会が……いや、宴が始まった……!!
本日の戦場は、商業ギルドが直接運営している酒場〔金華亭〕だ。和風チックで落ち着いた内装は、どこか料亭を思わせるような雰囲気を醸し出している。
お座敷の個室に案内された俺たちは、先に注文しておいた飲み物を前に開会の時を待つ。
「……そろそろお時間となりましたので、始めさせていただきたいと思います。 え~、本日はお足もとの悪い中、我らがパーティー、パライジング・グレイスとセラ姐による合同忘年会にお越しいただきありがとうございます」
俺は粛々と挨拶をのべ、深く一礼。
いつもとは違う俺の雰囲気に戸惑いつつも、他の三人もペコリと一礼。
「今年は本当に色々なことがありました。 そして、来年も色々なことがおこる……いや、おこすでしょう」
セラ姐の眉間にピクッとシワが寄る。
「……ですが、みんな元気に健康で過ごすようにしましょう。 一年間、大変お疲れさまでした」
俺、ペコリ。
つられて皆、ペコリ。
「――とまあ、能書き垂れるのはこれくらいにしといて、そろそろ始めるとしますか……俺たちの宴を!
みんな、ドリンクはあるか!?」
俺はエールの入ったグラスを高々と掲げた。
「もちろん、こちらに!」
「むん……!」
「えっ、あっ……はい」
ベルとラヴィは待ってましたとばかりにそれぞれのグラスをザッと手に取る。続いてセラ姐も焦りながらグラスを掴む。
「そんじゃまあ、かんぱぁぁぁいっ!!」
「乾杯ですわ~!」
カシャンッと音を立ててグラスが交わる。
俺とセラ姐はエール、もう二人は当然ソフトドリンクだ。アルコールの入ったあいつらを相手してたら、悪い意味で忘れられない忘年会になっちまうからな……
「失礼します。 こちら、鳥ハムのサラダと、鳥の串焼きでございます」
乾杯が終わると同時に、最初の料理が運ばれて来た。
そしてそれを見て、セラ姐は少しばかり驚きの表情。
――ふふ、気付いたようですな……!
「えっ、この料理は……金華亭は煮込み料理がメインじゃなかったですか?」
「ええ、普段はそうですが、今回はマヒル様考案のスペシャルコースとなっております」
「えぇっ!?」
そう、実は今回の忘年会の料理は、特別にコース式にさせてもらったのだ……!こういう飲み会といえば、やっぱりコースでしょ!……と思ったが、こっちの世界にはコース料理っていう概念がなさげだった。
だもんだから、料理を出す順番と料理のざっくりしたリクエストだけを伝えて、後はお店にお任せするという感じにすることに。
懐の広い料理長さんにはまったく感謝しかねぇぜ。
「はぁ……すみません、うちの冒険者がまた変なことをして……」
「ちょっとぉ!? 俺が無理矢理言ったみたいに聞こえるんですけどぉ!? ね、違いますよね、店員さん!」
「フフッ。 えぇ、私共も楽しんでおります。 それに、材料まで色々準備していただいてますし、"貴重なお肉"も分けていただいてるので何一つ迷惑なことはありませんよ」
「そ、そうでしたか……それならいいんですが……」
「えぇ。 それでは、次のお料理の準備に参りますので、失礼いたします」
店員さんは深くお辞儀をして去って行った。
セラ姐は少しバツが悪そうにエールを一口飲む。
「いや、その、すみません……私の悪いクセですね。 あなたが色々準備していたとも知らず」
「まあまあ、いいじゃないですか! ほら、さっきも聞いたと思いますけど、今回はスペシャルメニューなんですから、ドンドン食べてジャブジャブ飲まないとですよ!」
俺はそう言って、ザザッとサラダを取り分けてセラ姐に渡す。
セラ姐は皿をジッと見たあとサラダを一口ほおばり、グビッとエールを飲み干した。
「……そうですね。 それでは今日は、トコトンお付き合いいただきましょうか」
セラ姐はどこか不適な笑みを浮かべた。
まあ、一応楽しみにしてくれてたってことかな……?
「おぉっ!それでこそ、セラ姐。 ギルドの冷徹な番人にして、アルクーンの酒を飲み尽くす者……!」
「フフッ……えっ、私そんな風に呼ばれてたの?」
「まあまあ……ほら、早く取らないと無くなっちゃいますよ?」
俺たちのやり取りを見届けたベルとラヴィは、我先にと串焼きへ手を伸ばす。
一応、"待て"してくれたんだな、お前たち。
「あっ、おい待て俺の分は残しとけよぉ!?」
こうして俺主催俺企画の、やたら騒がしい宴は予定通り進み出した。
マヒルスペシャルコースはサラダや串焼きに始まり、炒め物や揚げ物と続く鳥尽くしパーリーだ。
お腹の調子も善きところで、この店本来の名物料理である"煮込み"が運ばれてきた。
驚くことにこの店の煮込みは、濃厚な鳥出汁の煮込みで料理で、これは最早日本の冬料理の代表格、"鍋"となんら遜色のないものだった。
……というか、俺が覚えてる限りで一番うまいんだけど?マジで料亭ですか?
「こ、こいつぁうめぇ! 何て言うか、身体中に染み渡る味だわぁ……懐かしさすら感じるぅ」
「本当ですわね……。 鳥の旨味、エキスのようなものを尋常じゃなく感じますわ」
「……むっ! これは、拙者の村でも、真似したい……!」
「ふふっ、ここの煮込みは他の街でも噂になるほどの味ですからね。 でも……それにしたって、いつにもまして美味しいような……?」
「セラ姐、そりゃあ俺たちと一緒に鍋を囲んでいるからっていうバイアスが――」
瞬間、容赦の無い冷たい視線が俺を射抜いた。
「……とまあ冗談は置いといて、この煮込み、実は俺たちが倒した《バロル・ブロル》を使ったものなんだ。 まあ、これだけじゃなくて他の料理にも使われてるんだけどな」
「なるほど……いつもと味が違うのはそういう訳でしたか。 ……まあ、みなさんと飲んでいるという事実は、少なからずプラスの感情に影響しているとは思いますが……」
「うん。 みんなで食べると、美味しい。 セラーナさんもこれて、嬉しい」
「ええ、本当ですわ。 いつも顔をあわせていても、なかなかゆっくりと過ごす機会なんてないですものね。 もっとセラーナさんのこと、知りたいですわ!」
はっきりと言い切るラヴィに、ぐいぐい迫るベル。
「そ、そうですね……まだまだ時間もあることですし、ゆっくり話でもします、か?」
それに対して思わず恥ずかしそうに顔を伏せるセラ姐。
なにこの尊い空間。
……うん、俺の空気感が半端ないんですけど。
「……そういえば、マヒルさんが言っていた用事というのはこの忘年会の準備だったんですわね。 てっきり一人で飲んだりしてるものかと思ってましたわ」
「うん、セラ姐との対応の温度差に風邪ひきそうだよ、俺は。 いったい俺をなんだと思ってるんだ?」
「フフッ、冗談ですわ。 色々動いてくださってありがとうございますね」
「おう! いいってことよ!」
そう言って俺は華麗なサムズアップを決める。
俺は前回のクエストの後、雪に埋もれてカチカチの大量の鳥肉……もとい《バロル》たちの回収を商業ギルドへ依頼した。
回収した分は自由に使ってもらって構わない代わりに、今回のコース料理形式を取り入れてもらうことと、《バロル・ブロル》の肉も料理に入れてもらうことを条件に色々と動いてもらったという訳だ。
商業ギルドからしたら、食料の乏しいこの時期に大量の肉を流通させられるのは願ってもないことらしく、えらく上機嫌な職員さんたちとあっという間に話が進んでいった。
さらに、今回俺が提案したコース料理というものをえらく気に入ったみたいで、今後この店で商業展開していきたいそうだ。そんで、これがうまくいけ多額の謝礼金をお渡しする……と。マジで?
なんというか……なんやかんやあっても、最終的に物事は良い方に向かってるんだよなぁ。俺の異世界ライフ。
こっちの世界に来てから、ほとんどノリと勢いだけで今日まで来た……いや、これてしまった。
それが良いのか悪いのか判断はつかないが……単に今の状況からすると間違ってはなかったんだと思える。
典型的な野党に絡まれていた泥んこ貴族を助け、なんやかんやあって二人で冒険者になって……それからしばらくしてフルプレート装備が脱げなくなってたド天然獣人娘も仲間になり――
俺がこの世界に来てから、半年以上があっという間に過ぎていった。麻痺と共に、仲間と共に、思いがけない死闘を幾度も切り抜け、気付けばそこそこの冒険者となっていた。
――来年は、一体どんな年になるんだろうか。
どんな出会いが待っているのか――
俺の麻痺の行く末は、どこへ向かうのか――
何にせよ今分かっていることは――新しい年も、きっと"痺れるような"一年になるだろうってことだ……!
麻痺のその先へ、俺はただひたすらに突っ走る。
なぜなら、それが俺の麻痺道だからな……!!
待ってろ世界、待ってろニューイヤー!!
ーー第二部完ーー
麻痺無双をご覧いただいている皆様、いつも拙い文章の拙作にお時間をいただき、ありがとうございます。
麻痺無双の連載を始めてから三、四ヶ月程が経ち、連載の区切りがついたところなので、勝手ではございますが、しばらくの間休載させていただきます。
理由としましては、元々の夢、次なる展望の為に公募に専念したいからです。
練習や経験という意味合いが強く始めたこの作品ですが、皆様の応援のおかげである程度の文字数に達することもできました。
掲載している作品をさらにブラッシュアップし、商業的に世に出すということを目標に頑張っていきたいと思います。
連載再開の具体的な日程は決まっていませんが、公募ご落ち着くまでなのでしばらくかかるかと思います。
昔から追っていただいていた方には、申し訳ない気持ちもありますが、どうか暖かい気持ちで見守っていただけると幸いです。
皆様にとって、今年が良い一年になりますようお祈り申し上げます。
スギセン




