182話 締めくくれ、年
「…………」
「…………はぁ?」
極寒の雪原と違い、心底温かいはずのギルドの空気がピリついた。
クエスト報告の時セラ姐に、馬鹿正直に「雪崩をおこして倒しました」って言った結果がこれだ。
うん、俺ももう少し言い方ってもんがあったとは思う。
「……あのぉ、もしかして、何かマズイことでもしちゃいましたか……?」
俺の乏しい一般常識でも、雪崩を自発的に引き起こすのが良いいことじゃないのぐらい分かってるが、一応聞いてみる。
「マズイも何も、前代未聞ですよ……はぁ……」
「そっすよねぇ……」
なんとも気まずい空気が流れる。
いたたまれず、ベルにアイコンタクトで助けを求めると、フイっとどっかを向きやがった。
あんの野郎……!!
「……まあ、それほどの数の《ブロル》の発生も、そもそもの原因となった白竜の出現も、前代未聞と言えば前代未聞です。 やり方はともかく、きっちりとクエストクリアしていただいたことに変わりはありません。 雪崩をおこしたとはいえ、他に被害がなかったのであれば今回の件についてこれ以上何も言いません」
「えっ……てことは、俺、お咎めなし……!? やっ――」
「ただぁっ!! その……あまり、危ないことはしないでくださいね」
セラ姐は少しだけしおらしく、声のトーンを落として言った。
え、もしかして俺のことを心配してくれて――
「うちのギルドから、「雪崩を自分でおこして、それに巻き込まれて死んだ」なんていう不名誉な冒険者を後世に伝えたくはありませんからね」
セラ姐は眼鏡をスチャっと直すと、冷淡に言い放った。
「あぁ、以後気を付けます……」
うん、これでこそセラ姐だ。凛としたその佇まいは、まさに氷の薔薇……
冷たいトゲがちくちく刺さるぜぇ……
「……まあ、ともかくみなさん、ありがとうございました。 これで仕事も捗ります」
「あっ、そうそう、その為に俺たちはクエスト行ったようなもんですからね! 進捗はどんな感じですか?」
「そうですね……明日、いえ、明後日の夜の時間を確保するくらいはできそうです」
「おぉ、マジっすか!! じゃあ、明後日の夜はみんなで飲みましょうね!」
「……そうですね。 仕事に支障がなければですけど」
セラ姐は、あくまで冷静にサラッと流した。
すると、俺たちの話を聞いていたのか別のギルド職員がトテトテ歩いてきた。
明るい茶髪に、童顔な顔立ちな彼女は嬉しそうな顔をしながら話しかけた。
「あなた方がクエストに行ってからのセラーナさん、仕事のスピードものすっごい早かったんですよ!! 丁寧で迅速、さすがはうちのリーダーって感じでした! なんでも、「大事な用事ができたから少しだけ急いでる」って言ってま――ひぃっ!?」
クールな受付嬢ことセラ姐は、眉間にブチ切れそうなほどのシワを寄せ、モンスター顔負けの鬼の形相でその職員を睨んだ。
でも、耳は真っ赤っか。
セラ姐のかわいい所、またもや見つけてしまったぜ。
「……なにか?」
「い、いえいえ、別にぃ~? じゃあ、俺たちはゆっくりするんでこれで……!」
セラ姐の恐怖の眼差しが俺を射止める。
変に飛び火しないうちに、俺はギルドを後にした。
今回のクエスト、想定外の数ということもあり上乗せされた八万ゴルドという報酬を手に、心も懐もホカホカの俺たちはとりあえず宿に向かって歩いていた。
思い返せば朝からずっと外に出っぱなしだから、さすがにぬくぬくと休みたいぜ……
「……それにしても、セラーナさんちょっと可愛かったですわね」
「ん?ああ……”ちょっと”と言うか、大分な? でも、仕事が進んでるみたいで良かったわぁ」
「明日は、みんなでご飯?」
「おう! 四人で忘年会でもしようぜ!」
「ぼう……?」
「忘年会……?なんですの、それは?」
ベルとラヴィは不思議そうに俺を見る。
そうか。"忘年会"っつーのはこっちの世界には無い概念なのか。
……まあ、俺も経験したことはないんだけどな。
「おっ、知らないのか? 忘年会ってのは、今年一年を振り返ってお互いを労い、称え合い、新しい年に思いを馳せるっていう一年の締めくくりの飲み会なんだぜ? それはそれは豪勢な料理とお酒を囲んでにぎやかに夜を明かすのさ……!」
「ふ、ふうん……まーた色々と理由付けして飲もうって魂胆ですわね? いいですわ、のりますわ! それで、何時からですの?今夜?」
「拙者も……! ぼーねんかいやる! 肉、魚、肉!」
「はいはい、気持ちは分かるが落ち着けお前ら……忘年会は、明後日だっつうの。 俺はちょっと用事があるから出かけるけど、お前ら今日はしっかり休んで、各自備えること!OK?」
「「はーい……」」
渋々といった様子で返事をする二人。
子どもか、お前らは……
まあ、かくいう俺も楽しみなんだけどな……!
セラ姐との飲みも久々だし……ちゃちゃっと用事を済ませて俺もしっかり休まないとな。
明後日は飲むぞぉ……!!
こうして、俺たちの過酷で寒すぎる一日が終わった。
楽しみすぎて逆に眠れないかと思ったが、余程疲れていたんだろう。俺はヴァルを胸に乗せて速攻寝落ちした。
胸ワクテカの忘年会に思いを馳せて――
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