149話 恐怖、バジリスク峠①
突然声を上げて倒れたラヴィ。
何事かと思えば、空腹のあまり生の山菜を食べたことによる腹痛とのことで、俺は頭が痛くなった。
「はぁ……お前、もう……マジで……」
呆れてものも言えないが、とりあえず介抱位はしてやらねえとだよな。
気乗りはしないが。
「ベル、どうする?」
「へっ? え、えぇ、そうですわね……とりあえず回復魔法でもかけますか?」
「……うん、そうしてくれ」
「……まったく、しょうがない子ですわね、ラヴィさんは」
ベルはそう言うと詠唱を始める。
超微々たる量の回復しかしない魔法だが、ないよりはマシだろう。恐らく。
「いきますわよ、ヤヤヒーッ……イィィイイィ――!?イヒヒィィ――!?」
「はぁっ!? おい、気持ち悪ぃよどうした!?」
ベルは【ヤヤヒール】を唱えようとして両手を伸ばしたまま、奇妙な言葉を発しながら倒れ込む。
わさわさと金髪ツインテールが揺れ、体は小さく痙攣している。
「こ、これは……麻痺っ!? 何で――」
瞬間、背筋にゾワリと悪寒が走った。
ねっとりと這いずるような視線を感じる。
「くっ……!」
俺は勢いよく振り向き、視線の主を探した。
辺りは何の変哲もない山道。だが数メートル先、茂みの中で不自然に揺れる影――見つけた、奴だ。
ギョロリと鋭い、琥珀色の瞳。
長くしなやかな首に、深緑色の鱗に覆われた体。
見るからに鋭利な爪と牙がヌラァッと光り、飾り羽のようなトゲが揺れる。
「か……かっ――」
俺は言葉を失った。
その、あまりのかっこよさに……俺心をくすぐるビジュアルに――!
「かっけぇぇ……! 間違いねぇ、こいつが《バジリスク》……!」
その姿は、粗雑な図鑑のものよりも凛々しく、いかつく、カッコイイ。なんなら、名前だって最高にカッコいいもん。
その姿は、イグアナとヘビを合体させて、さらにでかくしたような外見だ。深緑色の体には、オレンジやら青やらのラインが入り、思わず目を奪われる。
「キシャシャァッ――!!」
舐め回すように観察している俺に向かって、《バジリスク》は一鳴き。
首筋から背中にかけて伸びる細いトゲを震わせ、喉からはグゥグゥと異音を発している。
「――っと、よく考えたら、大ピンチだよな、これ」
ベルは麻痺って、ラヴィは腹痛――いやマジで何してんのよラヴィは。
とにかく、動けるのは俺一人って訳だ……!
「や、やるならやってやるぞ……! 何せ俺は、伝説の装備を身に纏った――危っ!!」
俺が言い終えるよりも早く、《バジリスク》は俺に向けてペェッ!と何かを吐いた。汚ねぇ!
「おまっ、いきなり何を……! 今の、多分毒液ってやつだよな? 危汚ねぇなぁ!」
「キシャアッ!!」
「おっ、やるってのか? 言っとくが、麻痺に関して言えば俺の右に出る者はいないぜぇ……?」
俺は必殺の【パライズ】を唱えるべく、右手をゆっくりと前に出す。
対する《バジリスク》は、大きく目を見開いてギョロリを俺を睨む。恐らく、対象を麻痺させるというスキル、【蛇睨み】とかいうのを放つ気だろう。
フフッ、いいだろう。どちらの麻痺が強いのか、どちらが真の麻痺使いか――ここで白黒着けてやる……!
「【パライズ】ッ!!」
「キシャアッ!!」
俺の右手が熱く燃える――!イメージで、だけど!
右手から放たれた稲妻エフェクトが空を走る――!
《バジリスク》の目が怪しく光る――!
ビビィッ――!!
次の瞬間、全身に衝撃が走る。
それはまさに、電気風呂に入ったときのような微弱な振動を――
「キ……キシャアァッ――!?」
対する《バジリスク》は全身あますとこなくしっかりと麻痺り、痙攣の後にコロリと転がった。
「……ふ、フフッ、フハハハハッ! どうやらこの勝負、俺の勝ちだな……! 麻痺で俺に勝とうなんざ、百万年早いいいいッ――!?」
高らかに勝ちどきを上げようとした刹那、全身に衝撃が走った――!
それはもう、砂利道を自転車で駆けた時のようなブルブルっとした振動が。
「おわっ、何、何だっ!? 麻痺……は、してねぇよな。 でも今の感覚……まさか――」
何やら、怪しい気配をビンビンに感じる。
俺は恐る恐る振り返ると、そこには――
「キシャシャァッ! キシャアッ!!」
一、二、三……えぇと、パッと見で六体の《バジリスク》が代わる代わるに俺を睨みつける。
それぞれ微妙に配色や模様が違って、最早圧巻の一言だ。
「うわぁ……マジかよぉ。 そんなに熱い視線向けられたら、恥ずかしいって……」
いくら麻痺が効かないとは言え、あの爪や牙で色々とされたら――おぉう、想像もしたくない。
こうなったら、奥の手を使うしか、ない。
俺は意を決して、深く息を吸い込んだ。
「ベルぅ!ラヴィ! 助けてくれぇぇぇっ!!」
俺は叫んだ。
それはもう、腹いっぱいに叫んだ。
早朝の山に「助けてくれぇ」という情けない言葉が幾度もこだました。
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