⑨相談
「全部並べると本当に豪華だねー!写真撮ろう!」
美香は嬉しそうに言って写真撮った。今年のクリスマスイブは土曜日なので、いつもの4人で麻衣の家に集まり、ピザパーティーをすることになったのだ。目の前には、Lサイズのピザ4枚と、ケンタッキーのパーティーバーレルが並んでいる。テーブルの中に収まりきらなかったお惣菜も、キッチンに置かれていた。
「今日は欲望のままに行こう。お泊まりだし。余っても明日の朝ごはんにできるわけだから。」
麻衣は言った。彼女は実家暮らしだけれど、お父さんは4年前に他県の大学教授に就任したため、両親はそちらに移住しており、1人いる姉もすでに家を出ていたので、一人暮らしになっていた。初めて来た時も驚いたが、麻衣の家の間取りは7LDKなので、私たちが泊まるスペースには困らなかった。ただ、広い家の中を掃除するのも大変なので、普段は自室とリビングでのみ生活していると麻衣は話していた。
「大急ぎで掃除はしたけれど、汚れてたらごめんね。みんなが泊まる部屋とリビングと洗面所、お風呂場には、さすがにゴミは落ちてないと信じてる。」麻衣は言った。
「場所提供してくれてありがとうね。そのおかげで、思う存分食べたいもの買えて幸せだわ。」
景子が笑った。
「事前に言っていたとおり、お父さんの趣味で付けてるプロジェクターで、テレビでもBlu-rayでもDVDでも大画面で観られるので!とりあえず、適当な番組つけておこうか。」
麻衣はそう言ってプロジェクターのリモコンを操作し始めた。
「豪邸で過ごすクリスマスは素敵すぎる。今までの人生で1番豪華なのは確かだわ。ありがとうね麻衣。」私は言った。
ひととおり、写真撮影をしたあと、パーティーを始めた。4人全員で集まれたのは久しぶりだったので、話は止まらなかった。
「まじでムカつくわ、あいつら。みんな自分のことしか考えてなさすぎじゃない?!」
お酒が入り始めると、実習班の人間関係でストレスを溜めている美香は愚痴り始めた。彼女の実習班の男子2名が、実習をサボることばかり考えているため、しょっちゅういなくなるらしい。そのことで指導の先生に怒られるのは、根が真面目で、その場にいつもちゃんと残っている美香になるのだった。残りの班員もそこまでやる気がなく、我関せずのため、美香は孤軍奮闘していた。
「そのせいで、君たちの班は不真面目すぎるって私が怒られるしさ、このままじゃ困るって他のメンバーに伝えたら、謝ってはくるけれど、そっちが真面目すぎるから、そのノリを押し付けるなみたいな感じのことも言われて、もう血管はきちれそうだったわ。」
美香は手に持っていた缶ビールを一気飲みした。
「12月まで頑張った私を褒めてちょうだい。」
美香がそう言うと、私たちは口々に褒めた。
「本当に偉いよ。よく頑張った。1人で戦わなきゃいけないのはしんどすぎるよね。せめて誰か1人でも班員が美香の味方だったら良かったのに。」麻衣は言った。
「指導の先生たちも、他の班員たちはともかく、美香が一生懸命頑張ってたのは見ていると思うよ。」景子も続けた。
「しんどいことは私たちにいつでも言ってちょうだい。すぐ集まるし、電話でも聞くから。とりあえず今日は嫌なこと全部吐き出して、飲もう。次、なに飲む?」
私はそう言って、美香の次のお酒を用意した。
「うちの班は、私を含めて全員が己の道を進んでいるから、仲良しではない。ただ、お昼は一緒に食べるし、お互いに干渉し合ってなくて楽っちゃ楽。その代わり、助け合いもないけどね。実習中に先生に質問されて、分からなくて周りに目線で助けを求めても、誰とも目が合わない。」
美香が私たちに実習班の雰囲気を聞いてきたので、麻衣は笑いながら説明した。
「私の班は、真面目で意識高い子達が多いから、そういう時は助けてくれるけど、いつも気を張ってる感じだから、ちょっと疲れる。不真面目認定されると、ぐちぐち裏で悪口言われるの分かってるから、バレないように適度に手を抜くのが上手くなった気がする。」
景子は内情を話した。景子は、本人曰く、対象物に興味があるように目を輝かせるのが得意であり、先週も彼女の中で最も興味がない科に実習で回ったが、指導教員に、ここまで熱心に実習に臨む学生は見たことがないと言われ、勧誘されたようである。
「うちの班は平和だなー。みんな穏やかだし、事前に勉強してる量も同じくらいみたいだから、大きなトラブルなくここまでやってこられた。ありがたい限りです。」
私がそう答えてピザを食べてると、
「このやり取りをするのは久しぶりだけど、瑞稀、私たちに何か言うことない?」
麻衣が言った。そして3人の視線が私に注がれる。
「確かにデジャブだね...。どこまでご存知で?」
私が聞くと、
「まぁ、瑞稀が実習の合間にうっちゃんととても仲良く話していて、2人の世界を作ってるっていうところかな?」景子がサラッと話した。
「瑞稀の班、みんな仲良しだから、実習の合間だいたい一緒にいるでしょ?そんな中で、瑞稀とうっちゃんがとても盛り上がっているから、他班の人が、他の3人に2人の仲を聞いたわけ。」
麻衣が説明した。
「けんちゃんたち、なんて答えたの?」
他の3人がどう感じていたか気になっていた。
「自分たちは、うっちゃんと瑞稀ちゃんの仲を見守り隊だと。」美香が答えた。
「外野が口を出して、うまくいくものがうまくいかなくなるのは非常に良くない。なので、温かい目で見守っています。とのことでした。」
やっぱりあの3人はとても優しい。彼らから変な冷やかしをされないからこそ、思う存分うっちゃんと2人で楽しく話せているのだと実感した。そして、うっちゃんはこの前の夜のことは誰にも言ってなさそうだと思った。
「それは、それは...。」
私は缶チューハイを一口飲んだ。3人が私の言葉を待っている。タテと別れたときに散々慰めてもらった人たちに、何も話さないのは誠実じゃないと思った。
「うっちゃんって特撮作品にすごい詳しいの。今まで自分が触れてこなかった文化だから、それを知るのがすごく面白い。思ったより、正義のヒーローってツッコミどころ満載でふざけてるのよね。でも、すごいメッセージ性があったり。あと、この作品をヒットさせるにはどうすべきかという、制作側の大人たちの創意工夫をとても感じて、どの作品の裏話もプロジェクトXくらい熱いです。」
「瑞稀、ごめんだけど、なんか話の本筋が見えてこない。」酔って赤い目をした美香が言った。
「...ごめん、つまり、まず大前提として、こんなに面白いコンテンツを、教えてくれて、うっちゃんに感謝してるの。それで、それ以外のこともたくさん話してて、なんか笑いのツボが合うなって思う。少ない言葉でも共通に同じものを面白がれる感じがする。男女関係なく、こういう感覚を持てる相手ってすごい貴重だと思う。あと、うっちゃんは、本当に優しい。実習中もね、困っている班員がいたら絶対助けてくれるし、私がタテとのことで落ち込んでいたときも、1番励ましてくれた。...自分で話していて、思ったけど、私はこれからも彼と仲良くしていたいんだと思う。もっとたくさん話したい。」
話しながら、自分の気持ちが徐々に整理されていく気がした。
「つまり、瑞稀は、現時点でうっちゃんのことを人として好きってことで合ってる?」
景子はまとめるように言った。
「うん、そうです。」私は頷いた。
「恋愛対象としてはどうなの?」麻衣にストレートに聞かれた。
「実は...先日、うっちゃんに告白されまして...」
私が言うと、
「えーーー!!!」「いや、まずそれ先に言ってよ!」「色々話変わってくるから!」「マジでそう!」3人に口々に抗議された。
「ごめん...。うっちゃんは私にとって初めてできた男友達だと思ってたんだよね。一緒にいて楽しいし。でも、じゃあ恋愛対象として見られないかと言われると、そんなことはない。普通にカッコ良いと思う。そんな人が私を好きって言ってくれて、嬉しかった。付き合っても今みたいに、同じものを同じ温度感で楽しめるんだろうなって思う。だから、迷う必要はないのかもしれないけど...。すぐに「はい」って答えられなかった。」
私はゆっくり話した。3人は私が考えながら話すのを黙って聞いてくれていた。
「まず、まだタテと別れてから、3-4ヶ月しか経ってないから、周りから、彼氏をとっかえひっかえしてるって思われるのがいや。人目ばっかり気にしていて我ながら、情けないけど。あとさ、タテと別れてから、正直すごく寂しいんだよね。ずっと毎日一緒にいた人が側にいないって、理屈抜きでめちゃくちゃ寂しい。だから、この寂しさから、早く代わりに一緒にいる人を見つけなきゃって焦ってるんじゃないかとも思ってしまっている。うっちゃんの好意に甘えようとしてしまっているんじゃないかと...。」
そう言って、私がそのまま黙っていると、景子が口を開いた。
「まず、前提として、一つ言いたい。」
続きが気になり、3人とも景子に注目した。
「古い男でできた傷は新しい男で癒すものです。」あまりに率直な物言いに思わず笑ってしまった。
「素敵な言葉だ...。」私は呟いた。
「たぶんさ、瑞稀、タテが、別れてから2週間で新しい彼女を作ったこと、ルール違反だと思っているでしょ。だからこそ、自分はルールを守りたいって思ってる。そして、それは、ある程度時間を空けてから相手と付き合うべきとか、相手のことをちゃんと好きになってから付き合わなきゃいけないとか、そんな感じじゃない?それは、それで素敵なことだけど、そもそも恋愛にルールなんてないと思います。」
景子はまるで、先生のようにスラスラと話した。
「良いんだよ、好きって言ってくれる相手に甘えて。最初は気持ちに迷いがあっても、付き合ってから、どんどん好きになることなんて、いくらでもあるんだし、それに、瑞稀が気にしている周りの目だけど、正直、たとえ、期間をあけたとしても、とっかえひっかえって言う人はいると思う。だからこそ、本人たちの気持ちが1番大事なの。恋愛なんて究極、自分達が良ければいいというレベルのものだから。私は、今の傷ついている瑞稀の心を癒すのは、うっちゃんの優しさなんじゃないかなと思っている。時間の流れが辛い恋の記憶を薄めてはいくけど、その思い出を塗り替えて楽しいものにするためには、新しい恋があった方が良いと思うよ。」
まるで授業のように話す景子の言葉を聞いて、思わず、
「景子先生...!」と言ってしまった。
「ちなみに、これは実体験です。私は今の彼氏と付き合ったおかげで、宮原さんのことを吹っ切れたし、毎日幸せだよ。」
そう言って景子は笑った。景子は宮原さんと別れたあと、軽音部の後輩から猛アプローチを受けていた。しばらく悩んでいたが、最後は受け入れて、今では部内一の仲良しカップルとになっている。自分と似たような経験をした景子の言葉には説得力があった。
「そうだね、ありがとう。なんか前向きになれそう。」私は景子に感謝した。
景子の言うとおり、こちら側も100%の気持ちがないと、相手に失礼だと思っていた。それに、自分の中で、守るべき恋愛の決まり事を増やしてしまっていのだと気付かされた。
私はうっちゃんと仲良くしていたくて、うっちゃんは私のことを好きだと言ってくれる。付き合うことに大きな障害はないのかもしれない。そう思えるようになった。
「せっかく好きって言ってくれて、S県に残るとまで言ってくれたんだから、前向きに捉えなきゃだよね。」私がそう言うと、
「ちょっと待って、うっちゃんこっちに残るの?」麻衣が質問してきた。
「そうみたい。だから付き合ってほしいって。」そう答えると、
「だ・か・ら、そういうことは先に言いなさい!ただ付き合ってほしいと、こっちに残るから付き合ってほしいは重みがだいぶ違うから!うっちゃん確実に瑞稀との将来を視野に入れてるじゃん。その情報の有無でこちら側が瑞稀に言う意見も変わるから!」美香が私を叱りつけるように言った。
「確かに...言ってなくてごめん。」
とりあえず私は謝った。
「とりあえず、タテみたいな別れにはならないことがわかっているのは、かなり安心材料じゃない?」ため息をついて、美香が言った。
「これはまたデジャブだけど、良い報告待ってるよ。」麻衣はそう言って、持っていた缶ビールを軽く掲げて、乾杯した。




