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クレマチス  作者: 滝本泉
2/3

②告白

 「瑞稀ちゃん久しぶり!元気だった?今どこにいるんだっけ?」

かつてと変わらない笑顔の田島さんに声を掛けられた。

「お久しぶりです。今は名古屋にいます。田島さんもお元気でしたか?」

「見ての通り、元気だよ!そうだ、瑞稀ちゃんも結婚したんだもんね。おめでとう。」

田島さんが私の左手薬指の指輪を見て言った。

「ありがとうございます。コロナだったり、もう2年経つのに、私がSNSやってなかったりで、ちゃんと言ってなくてすみません。」

「瑞稀ちゃん久しぶり!」

橋本さんも加わって、しばらく話が盛り上がった。

「瑞稀ちゃん子供もいるんだ!お母さんなんだねー!」

2人に伝えると、驚いていた。長男を夫に預け、今日は一人で来たのだ。

「そうなんですよー、びっくりですよね。」

「みんな大人になってるってことだね。」

橋本さんがしみじみと話した。


 立橋君から告白未満のような宣言をされてから、彼が部活帰りに私の家に寄り、漫画の貸し借りをすることになった。私の希望で、彼が私の家で入れるのは玄関までだった。

「今回も面白かったです。」

「では、次の巻をどうぞ。」

まとめて貸せば会う機会が減ってしまうからという理由で、彼の希望で20巻以上ある漫画を一冊ずつ貸していた。

「池野さんって、共学出身だよね?今まで彼氏いたことあるの?」

「あるっちゃあるけど、ほぼないようなものだよ。中学生のときに、一度だけ付き合ったけど、その日のうちに相手がクラメイト全員に付き合い始めたこと言いふらしたから、3日で別れちゃった。」

「きっとそいつ池野さんと付き合えたのが嬉しかったんだよ。」

「でも、だからってクラスメイト全員から冷やかされるのは、無理だったなぁ。立橋君は?」

「俺は中高男子校だったから、全く付き合いはなかったよ。男子校だったせいで、女子と話すのも苦手意識できちゃって、浪人して入った予備校で女子と話すとき、しばらくは手汗止まらなくったわ。つくづく共学に入りたかったよ。」

「立橋君が女の子と話すの苦手だったのって意外。普通に喋ってるイメージだった。」

「このままじゃまずいと思って、予備校時代に同じクラスの女子と話す訓練したから。」

「予備校なんだからそんなことよりも勉強頑張りなよ。」

笑いながらそう言うと

「でも、今でも緊張するよ、気になる子と話すときは。」

と言って、彼は私を真っ直ぐに見つめた。

私が答えに迷っていると、彼は続けた。

「それに、予備校でちゃんと勉強もしたよ、だからこの大学に入れたし。それに池野さんに会えたから、本当に頑張って良かった。」

彼はそう言うと微笑んだ。

私は自分の顔が赤くなるのを感じつつ。

「それは、ありがとうございます。」と小さく答えた。

 彼氏候補として意識して欲しい宣言から、立橋君は遠慮なく好意をぶつけてきてくれた。そしてそれが嫌ではないことに私は気づいていた。

「池野さんって、男に苦手意識とかあるの?」

ある日彼から尋ねられた。

「先輩は別にして、同級生の男子ともあんまり自分から話したりしないよね。」

私のことをよく見てるなと思った。立橋くんの言う通り、私は自分から男子に話しかけることはほぼなかった。

「うーん。男に苦手意識っていうか...。私が中学生の時のクラスの雰囲気があまり良くなくて、特に女子のリーダー格の子が、自分の気に入らない子を順番に無視していくような感じだったのね。少しでも男子と楽しそうに話してると、男好きで調子に乗ってるって認定されて、無視されることが多かったから、意識的に男子と話さないようにしてたんだ。平和に過ごしたかったし。学年が変わったり、高校が変わったら、そんなあからさまなことをする子はいなくなったけど、そのクセが抜けなくて、今も話さないようにしてるんだと思う。」

少しでも男子と話してることを見られたらと思うと、恐怖心から、ほとんど喋ることができなかった中学生の自分を思い出して、私は話した。

「そうなんだ。池野さんも大変だったね。」

「まあね、でも今はもう少し男子と話しておけば良かったかなとも思うよ。私、男友達っていないから、いたらどんな感じか気になるし、ただでさえ、怖い顔してるから、話さないと尚更怖がられるよね。」

私がそう言うと、立橋君は少し黙ってから、こう話した。

「池野さんが知らないだけで、池野さんのこと良いなって思ってるやつは結構いるんだよ。」

「そんなことないよー。立橋君だって、初対面の時、私が怒ってるかと思ったって言ってたじゃん。だから私周りに怖がられてる気がする。悪い人間じゃないんだよって言うのはアピールした方が良いかなって思う。」

「これで、池野さんが他の男子と喋るようになったら、俺以外に好きになるやつが出てくるから困る。」

「えーっと...。」

「あと、補足だけど、初対面の時、確かに怒ってるのかなって思ったけど、それ以上に可愛いなって思ったし。」

「...ありがとうございます。」

「どういたしまして、アピール中なので。」

 今、私たちはどういう関係性なのだろう。玄関先で毎回1時間以上話込みながら、考えていた。


 「伊藤君とお付き合いすることになりました!」美香の家で行われた4人での宅飲みで、美香は高らかに宣言した。

 「おめでとう!本当に良かった!」

景子、麻衣、私はお祝いの席を設けたのだ。

 「ありがとうー!諦めず頑張って良かったよ。」伊藤君は、同級生の別の女子に片思いをしており、美香にとっては苦しい展開だったが、彼女は諦めず、健気にアピールし続け、ついに3日前、伊藤君の彼女の座をゲットしたのだ。

 「すごい嬉しい!まじでバラ色!ノロけてもいいですかー?」

缶チューハイを飲みながら、ご機嫌な美香のノロケ話をみんなで聞き、宮原先輩と夫婦のような落ち着いたお付き合いをする景子の話も聞いた。

「良いなぁ、私も好きな人欲しいー。」酔っ払った麻衣は3本目の缶チューハイを飲み干しながら、テーブルに突っ伏し始めた。

「ねぇ、瑞稀。私たちに話すことあるんじゃない?」

と突然麻衣が言い、3人の視線が私に注がれる。

「...えーっと、なんのお話でしょう...?あれかな?私が振ってしまった林君の話かな?」

「違う!それは前に聞いた!そして彼には悪いけど、とても面白かったよ、ありがとう!」

「どういたしまして...。」

「立橋君とどうなの?」

景子がサラッと言った。

「...なんで知ってるの?」

私が様子を窺うように言うと、

「この町は狭いからねー。バスケ部の練習帰りに、どんなに疲れていようが、立橋君がどこかに通っていることなどバレバレですよ。」

景子は言った。

「付き合ってるの?」

興味津々な瞳で美香が私を見ている。

これは黙っていられないと思い、私は観念して今までの話をした。

「何ー?!アピール中って!自分以外に好きなやつがいたら困るって、もう好きって言ってるようなもんじゃん!」

酔いが回った美香は身をよじらせながら興奮していた。

「見かけによらず、意外と情熱的なんだね、立橋君って。」

景子は意外そうに頷いていた。

「それで、瑞稀は立橋君のことどう思ってるの?付き合わないの?」

4本目のチューハイを開けた麻衣が尋ねてきた。

「私のことを好きでいてくれてるのかなとは思うし、話すのはすごく楽しいし、これからも話していたいと思う、ただ...。」

「ただ?」

美香が聞く。

「同級生同士で付き合い始めた美香を前にして言うのは、すごく憚られるんだけど、ごめんね。医学部って6年間同じクラスじゃない?その中で付き合い始めて、別れたりしたらすごく気まずいなとか、冷やかされるのが嫌だなとか思っちゃうんだよね。私が一度だけ中学生で付き合った時、周りに冷やかされすぎて、トラウマなんだと思う。」3人を前にして話すと、自分が何を悩んでいたのかがよくわかる。結局私は人の目が怖いのだ。

「冷やかされるのは嫌だよね、私も分かる。」

景子が口を開いた。

「私も変な冷やかされ方して嫌だったことあるし、でもさ、そこは、相手とのすり合わせじゃない?付き合ってる相手のこと何でもかんでも話すようなら困るけどさ、2人の間のことは2人だけで大事にしたいって伝えれば良いんじゃないかな?あと、変なこと言う奴らは無視すれば良い。瑞稀たちのことを変なふうに言う奴らがいても、私たちは味方だから安心して。」

景子が私を見つめながらそう言い、胸の奥がじんとした。

「そうそう!それに別れるかもしれない未来を心配するよりも、今の気持ち大事にしたら?瑞稀の話聞いてたら、立橋君のことが好きかどうかわからなくて困ってるって言うより、立橋君のことが好きだからこそ、周りから何か言われるのが嫌だって言ってるように思うけどね。」

同級生カップルの先輩の美香の言葉は説得力があった。

「とりあえず、良い報告待ってるよ。」

4本目のチューハイを飲みながら麻衣が言った。

 「映画一緒に観に行かない?」

貸し借りしていた漫画の最終巻を渡したときに、立橋君から言われた。その真剣な表情見て、彼の中で何かが決まったのかもしれないと思った。

「いいね。一緒に行こう。」

私も、真摯に受け止めようと思った。


 1週間後、バスケ部の練習帰りに映画に行くとになり、映画館で待ち合わせをして、映画までの時間は併設されているゲームセンターで時間を潰すことにした。

「池野さん、UFOキャッチャー得意?」

「全然得意じゃない。でも、なんかやりたくなっちゃうよねー。」

「何か取りたいのある?俺それ取るよ。」

「え、立橋君得意なの?」

「全然。でも頑張る。」

 などと、話ながら、どれにしようか悩んでいると、一台のUFOキャッチャーが目に入った。

「これが良いかな。缶入りクッキー缶。美味しそう。」

「よし、分かった。」

 しかし、この缶入りクッキーはとても取りづらかった。円筒状なので、アームで掴もうとすればするほど、転がり全く歯が立たない。店員さんに何回か位置を変えてやらせてもらった42回目でやっと手に入れることができた。

「やったー!嬉しい!きっと今までで1番美味しいクッキーな気がする。」

「取れて良かったよ、途中転がり続けた時は絶望しかなかった。」

そう言いながら、4200円のクッキーは、かなり高級だと笑い合った。

 映画を観終わり、感想を言い合いながら歩きながら家に向かった。

その日観た映画はミステリーだった。

「出てくる人、探偵以外ほぼ皆んな死んじゃったね。」

「あれで、探偵が名探偵扱いされるのは違う気がする。結局みんな死んでるし。」

「名探偵なら未然に防いで欲しい。私なら、死にたくないから。」

 歩きながら話していると、あっという間に家が近づいてきた。名残惜しく思っていると、立橋君が

「池野さん、公園行かない?」

と誘ってきた。

「いいよ、行きたい。」

そう答えた。

静まり返った夏の夜の公園、2人でブランコに乗った。

「日中だと子供達に遠慮して乗れないから、嬉しい。」

勢いよく私が立ち漕ぎし始めると、

「まさかそんなにノリノリで漕ぐと思わなかった。」

と立橋君が笑っていた。

漕ぎ疲れてブランコに座ると、立橋君がこう言った。

「池野さん、話したいことがあります。」

その時が来たのだと思った。

彼をまっすぐに見つめた。

「俺は池野さんのことが好きです。最初は可愛いなって思ったところから始まったけど、話してると面白いし、20冊以上ある漫画を一冊ずつ貸し借りしたから、それくらいの回数会って、話してるけど、まだ足りないです。もっとたくさん話したいです。俺と付き合ってください。」

涼しい風が吹いた気がした。

私は、彼の顔がタイプだった。でも今はそれ以上に彼を愛おしく思った。

「ありがとう。すごく嬉しい。よろしくお願いします。」

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