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【189】決闘の行方


 前世では大学生だった。

 夏場のライブ会場スタッフの短期バイトを終えて帰宅して、レモンチューハイ飲んで寝たら、どうやらオレは死んだらしい。

 アニメや漫画や小説なんかでよく見る転生ってヤツだ。

 物心つくと同時に前世のことを思い出した。

 全く知らない両親についてはずっと、赤の他人としか思えなかった。

 転生先の世界――ここは、魔法のある世界で、クレト、と名付けられたオレは、幸運なことに、かなり強い方だった。顔も、自分で言うのもなんだが、かなり良い。

 顔が良く生まれて、更に強い火属性魔法が使えると、人生はびっくりする程イージーモードだった。

 子供のうちから老若男女問わず、村人はとにかく親切だった。まさに村のアイドル状態。

 小さな村は生活の全てが不便で不自由で貧乏で不満しかなかったが、唯一良いところがあったとすれば、常に「さすがクレト」とオレに褒め言葉を惜しまない人々が居たところくらいだ。

 なんなら、子供のうちから数少ない村の女の子たちから取り合いされるぐらいモテた。

 こういう異世界転生ものでありがちなことに、ど田舎の貧乏村でも、男女問わず顔面偏差値が高い。どの女の子もみんな、そこそこ。少なくともブスは居ない。

 地元でモテるのも気分が悪い訳じゃなかったが、強い火属性魔法が使えるし、冒険者になることにした。家が貧乏だったので特に強く反発もされず、村から一番近いダンジョンに入って、魔法でモンスターを倒しまくった。

 レベルは相当上がってるだろうなと思ったが、自分のステータスを確認することは出来なかった。多分、開放条件があるんだろう。

 とはいえ、転生する時にありがちな、神やら女神やらが出て来て説明する、導入の部分がなかったから、ステータスに関しては何か特殊なクエストをクリアしないといけないのかも知れなかった。

 最初のダンジョンの中で、コカトリスを相手に苦戦している女が居た。

 リディアという名前で、金髪ポニテがよく似合う元気系。助けたらオレに惚れたらしい。一緒に旅をすることになって、すぐにオレは前世でも果たせなかった悲願、脱童貞を果たすことになった。

 生まれた村に居た女たちと比べてもリディアは美人だったし、それなりに人が集まるダンジョン都市でも、リディアと同じくらいの美少女はそんなに居なかった。とはいっても、同じくらいの美少女ならたまに見かけたから、そんなに珍しい訳でもないようだった。

 だから、お互い合意の上でそういうことをした訳だが、まだ彼女とかに確定させるのは避けたかった。

 ただでさえ気の強いリディアは仕切りたがりで、付き合ってもいないのにオレの女房気取りだった。

 もっと大人しくてもっとかわいい子が出て来た時に乗り換えられないのは避けたい。とりあえずキープして、後から考えることにした。リディアは仕切りたがりだけあって、生活用品の補充やら金銭管理をしたがっていたし、それに関しては優秀だったからだ。

 この世界では誰もが魔法を使えて、それぞれ火、水、風、土の四種類。属性に応じて髪と目の色が決まっている。何故か土属性だけ金髪か茶髪っていうのが謎だ。多分カラバリ増やすための運営の苦肉の策なんだろう。

 ある程度、リディアを連れてダンジョン攻略を進めてみたが、この世界の元ネタが何なのか、オレには分からなかった。全く知らないゲームや小説の中に転生するってパターンもあるし、もしかするとそっちなのかも知れない。

 三つ目のダンジョンに向かったところで、エレナに出会った。

 ミントグリーンの、ふわふわした髪の美少女だった。ボロボロの服を着ていて、両手を縄で縛られて俯いていた。連れているのはでっぷり太った男で、どこからどう見ても奴隷商人。テンプレのシチュエーションだった。

 メインシナリオのフラグっぽかったから、有金叩いてエレナを買った。

 最初リディアは難色を示したが「助けよう」と言ったらすぐに納得した。やっぱりイベントだったんだろう。

 エレナは丸い目をして、ぽそぽそ喋る大人しいタイプだった。ちょっと毒舌で、そういうキャラ設定だったんだろう。

 多分、オレが火属性だから、この後水属性の美少女が出てくるんだろうな。

 エレナは助けてくれたオレに恩を感じているらしく、ダンジョン攻略で活躍した。ジョブとしてはたぶん、シーフとかそこらへん。剣とナイフを使っての戦闘が得意で、そこを考えるとリディアのジョブは剣士っぽかった。

 それなら水属性は弓使いとかで、ツンデレとかだろうな。

 期待していたのだが、オレ達の活躍を妬んでか、他の冒険者達がギルドにクレームを入れたらしい。リディアもエレナも怒っていたが、はいはいテンプレ。次のマップに行けってことかと思って、まだ一度も行っていなかったコルミニョのダンジョンに向かった先で、噂を聞いた。

 なんでも、東に位置するクライノート王国の北の方にはモンスターがうじゃうじゃ居るらしい。

 おまけに、この間ファイヤードラゴンを討伐したってことだった。

 間違いなくこれだと思った。

 きっとファイヤードラゴンはつがいで、片方なんとか、やっとの思いで討伐したけど、もう一頭の方が出て来てそれを討伐する流れだろうな。

 旅費としてはギリギリだったが、モンスターが幾らでも居るなら現地でまた稼げる。リディアとエレナを連れて砂漠と荒野を超えて新マップに到着したら……流石に次のマップはレベルが違った。なにって、生活のレベルが。

 王都は完璧に整備されていて、レストランとか、本屋とか、劇場やカフェなんかも当たり前にあった。宿屋も清潔で快適で、ベスティアとは比べ物にならない。宿代が高いのはまあ想定内。

 旅のルートとして一番妥当なのがまず王都を目指す道だったから、もしかすると、ドラゴンを討伐したら王女と結婚とかそういう流れかも知れない。

 節約しながら河に沿って北に向かった。

 噂のフリートホーフ辺境伯領は日本で言う北海道とかのポジションらしく、どこを見ても農地ばっかりだった。オレの生まれた村とはまたベクトルの違う田舎で、途中で経由した街はそれなりに立派な地方都市って感じだった。

 最北端にはモンスターが無限沸きする山脈があるって話だったから、とりあえずそこを目指して進んでいったら、ボナコンが暴れているのが見えた。

 村人は弱いなりに抵抗していたが、どう見てもボナコンを倒せそうにない。

 ボナコン討伐がミッションなんだろう。

 炎の暴れ牛はそれなりに強くて苦戦した。火属性と火属性の対決になったし、これはきっとファイヤードラゴン討伐前の中ボス戦ってとこだろう。

 ――だと思っていた。

 ボナコンを倒した所で、騎士団に拘束された。麦畑を焼いた犯人だからという話で、こっちはボナコンを倒したんだと説明しても聞く耳持たず。オレたちのせいだの一点張りで、助けてやった筈の村人たちもオレ達に対して嫌な顔しかしない。

 はいはい、いつもの仲間以外から理解されないやつですか。

 仕方ないから、拘束はされてやった。

 やったら……バケモノみたいな奴が出て来た。

 デカい。

 同じ人間と思えないくらいデカい男だった。プロレスラーみたいな感じで、人の心なんてないみたいな悪人面で、やたらと偉そうだった。

「国籍と所属。名前と年齢」

 天幕に入ってくるなりそれだけ言った。

 答えないでいると、いきなり腹を蹴られた。

 リディアとエレナが名前を呼ぶのが聞こえた。

 もう一度同じことを聞いてきたそいつは退屈そうに、つまらなさそうに、やる気のない顔でオレを蹴った。受け身を取れてなきゃ、余裕でアバラが折れてたと思う。

 髪の色は白だった。

 白。

 話には聞いたことがあった。

 全属性持ちは髪と目が白銀になるって。

 でも、魔力が弱いとより白っぽく薄くなっていくから、そっちなのかと思った。デカくて筋肉があるし、単純に肉弾戦特化のパワーキャラなのかと思った。でも違った。

 武装解除されて、持ち物も全部奪われて、そいつの屋敷に連れて行かれた。

 オレたちの処遇が決まるまでの仮の措置という話だった。

 監視の騎士が付けられて、風呂でも便所でも全部見張られていた。用心深い。

 なんなんだこの足踏みイベントは。

 テンポが悪くてイライラする。

 見張られているから、リディアの所にもエレナの所にも行けない。流石にオレも見られている中でおっ始めたくはない。砂漠を横断する途中でエレナとも寝たが、エレナはそっち方面は奥手らしく、最近はオレを意識してモジモジしていたし、どうせ足踏みイベントなら親密度を上げておきたかったが、それも出来ない。

 だが、確かに貴族の屋敷だけあって設備は最高に良かった。飯も悪くない。前世で食っていた洋食よりも美味かった。

 食事しか楽しみもない生活は退屈だった。

 どうも、屋敷に来てからはリディアもエレナも素っ気ない。親密度が下がっているのかも知れない。

 エレナはそれなりに戦闘で使えるしまだ残しておきたいが、リディアはそこまで強くないし、もしこの先、上位互換が来たら入れ替えても良いかも知れない。リディアにも正直、飽きてきたし。オレに対する忠誠心が高いのは良いのだが、それも最近は様子が変だ。反対意見が多い。構ってやらないからだろうが、わざわざ機嫌を直してやるのも面倒だし、ダメならダメでリディアルートは捨てても良い。

 展開的には次のキャラが来ても良い筈だが、その気配がない……そう思っていたら、居た。

「すみません。こちらは通れません。ツェツィーリア様が温室を使っておられます」

 オレの監視をする騎士に、メイドがパタパタ小走りにやって来て連絡していた。

 辺境伯夫人……?

 ああ、なんか居たな。そういえば。頭から爪先まで真っ黒な魔女みたいなのが、あのバケモノみたいな奴の後ろに。悪の貴族夫婦なんだろうなと思って大して気にしていなかった。

「先程、図書館に居られると聞いたが」

「移動されたのです。本日はあちらで休憩をなさると」

「了解した。おい、お前、この先は駄目だ」

 引き返せと言う騎士の向こう、離れた先の廊下に、真っ黒な髪の美少女が、居た。

 温室のドアから出て、扉の外に居たメイドを呼んで何か話しているらしい。

 後ろで纏めた黒髪。真っ白な肌。二次元の美少女をそのままリアルに持ってきたみたいなビジュアルだった。美人女優並み、いやそれ以上だった。真っ黒な服だったけど、温室のガラスを通り抜けてくる光のせいで、陰影がよく分かる。腰が細くて胸がデカい。リディアも胸は健康的な感じでそこそこあるが、まあそこそこだし、エレナは小柄だが結構ある。でも、あの女はエレナ以上の巨乳。

 前世でオレが一番やってたソシャゲの、一番のお気に入りは黒髪巨乳キャラだった。大体アニメでもなんでも、ベタだがオレは黒髪巨乳で色白が一番好きだ。やや吊り目系ならなおよし。

 ただし……廊下の向こうに居たのは、前世で見たどのゲームキャラより美人な、リアルの女だった。

 そもそも、この世界には色付きの髪の人間しか居ないのに、黒髪。間違いなくレアキャラだ。

 絶対入手したい。

 ヤりたい。

 多分、あの女は嫌々あのバケモノみたいな男と結婚させられて閉じ込められているんだろう。それを助けて惚れさせて入手。レアキャラだけに高難度っぽくはあるが、チャレンジするしかない。

 リディアやエレナはこの屋敷の他の使用人たちとそこそこ喋っていたらしいから、情報はすぐ出揃った。

 あの黒髪巨乳、名前はツェツィーリア。年齢は二十三。思ったり年上だが、許容範囲内だ。お姉さん系キャラというポジションなんだろう。人妻属性が乗ってるのはマニアック過ぎるが、制作側にそういう趣味の奴が居たのかも知れない。黒髪巨乳キャラは溢れまくっているから、何か突飛な属性を付けないと差別化出来ないしな。

 ツェツィーリアは金で買われた花嫁らしい。

 あの男の方がツェツィーリアに惚れていて、他に渡すまいとして俺たちとも接触しないよう徹底的に避けるようにと命令しているらしい。思った通りだ。

 設定としては五分五分だが、なるべくなら白い結婚です、って筋書きで、処女が良い。いや、でもあの見た目と胸のデカさなら妥協しても良い。元日本人だし、オレとしては視界に黒髪が居るとホッとする。何より転生してから初めてお目にかかるレベルの美人だ。

 黒髪は魔力なしらしいから、戦闘スキルは持っていないだろう。そうだとしたら代わりに別な、頭脳面での特殊スキル持ちかも知れないから、やっぱりリディアはまだキープしよう。

 いや、でも、最悪……リディアとエレナは一旦捨てて、ツェツィーリアの確保を優先したい。

 先にツェツィーリアを連れ出して入手して、後からリディアとエレナを回収して逃げるのが理想かも知れない。追手はかかるだろうが、エリアを抜けたら判定が入らなくなるだろう。北側の山に抜ければいける。

 直接、近くに寄ってみたらツェツィーリアはやっぱり美人だった。二次元美少女完全顕現って感じの絶妙なバランス。異世界転生の醍醐味そのものだ。

 逃げようと誘ったら「夫と子供が」なんて断られた。

 しかも、子供が三人も居るらしい。

 正直引いた。

 まあこの世界の文化レベルだと普通だが、二十三で三人もって……結局あの男とヤリまくってたってことかよとかまあ、色々思ったが、お古だったとしても我慢できる。あの顔と胸は一級品だ。

 結局、あの男が来て失敗したが、翌日も、近寄って話し掛けただけで暗転。どうやらシナリオ強制イベントらしい。

 白銀との決闘イベントが発生した。

 ツェツィーリアの方は今の段階ではオレに靡く気はないらしい。挙句、オレの方があの男よりも劣っているとまで言いやがった。大人しそうだと思っていたのに、これは捻じ伏せて言うことを聞かせるのが前提のキャラだったらしい。

 くっころ系人妻とか誰得だよ。

 ツッコミたい所だが、我慢した。

「クレト……!」

「心配するなよリディア。勝つ。勝って自由になろう」

 リディアとエレナは心配そうにしているし、実際、全属性持ち相手には手こずるだろうが、複数のモンスターを同時に倒すようなものだろう。油断しなければやれる。

 まあ、これまでもピンチになったらより強い魔法が使えるようになったりしてたし、どうにかなるだろ――。



 そう、思っていたのに。



 決闘が始まってすぐ、相手の白銀が律儀に剣なんて構えるから、先制攻撃のチャンスだと思って、範囲指定の高火力魔法を使ったんだ。

 元から焼け野原だったし、別にいいだろって。

 まあ、相手は土地ごと消し炭になる。これでツェツィーリアもオレの実力を理解できるだろうから、丁度良い。

 上空に巨大な火球を浮かべて「どうした? まだやるのか?」って、そう、聞いたんだ。

 いや、聞く筈だったんだ。

 使った筈の魔法が消えた。

 意味が分からなかった。

 不発か?

 技が失敗するデバフを使われたんだと思った。何度やっても火魔法が使えない。

 いや、使っている感覚があるのに、技が出ない。

「くっ、くそっ、なんでだよっ……何をしやがった!?」

 手を翳して火球を放とうとしても、魔力消費はしている感覚があるのに、火球が出ない。

「……はぁ。もういいや。それで? お前の魔法はそれで全部かな?」

 無関心な声だった。

 どうでもいい相手に、適当に接する時の。

 コイツはずっとそうだ。ゴミを見るような目でオレを見る。高校の時、運動部の奴らが騒いでるその隣の席に座ってたオレにぶつかって「あ、居たの?」とか言う、あいつらと同じ、そこに居るだけで邪魔だ、興醒めだと言わんばかりの。

 体格が良い奴特有の、あの。

 剣まで鞘に納めて、近寄ってくる。

「魔法は大味。体術はそこそこ。どっちも中途半端だよね、お前。そんなんで本当にB級冒険者なの? ああ、それとも、単純に依頼の達成数が基準なのかな?」

 剣を振りかぶってみても、躱される。

 デカい癖に素早い。

「確かに魔力保有量は多いから、これまで力押しのゴリ押しで全部解決してきたってことか。魔力操作がお粗末過ぎる」

 握っていた剣が、砂になって崩れた。

「お前を気絶させたあの子供……あそこに居るニーナ。アレはさ、確かに才能、あるけど騎士のトップ層じゃないし、魔法なんて使わなくても意識さえ落としちゃえば勝てるんだよねぇ……高威力の魔法が使えた所で、近接で耐久出来ないなら意味がない」

 腹を殴られた。

 うずくまる。

 ビチャビチャ胃液を吐いた。

「今のはニーナぐらいなら避けられる程度だけど、お前、やっぱり弱いよ。これまであっちの二人に助けられてきてやっと、って所だろ?」

「うるぜぇっ! だまっ、だまれぇっ……!」

 顔を蹴られた。

 前歯が折れた。

 鼻血が出て、唇からもダラダラ血が出た。痛い。

「ああ、まあ……黙ってやっていいならそうするよ」

 また蹴られる。吹っ飛ぶ。体が地面に擦りおろされる。

 殴られて、蹴られて、たまに気まぐれみたいに目の前に立って何もしない時間があった。

 後には退けない。

 負けたら、持っていたものが全部なくなる。エレナもリディアも金も所持品も。

 立ち上がって叫びながら殴り掛かろうとしたら、また蹴られる。殴られる。

 勝てない。勝てる訳がない。

 もう嫌だ。

 立ち上がったらまたやられる。だから、立ち上がるのをやめた。

「泣いてたって現実は変わらない。僕は飽きるまで、たっぷりお前を痛め付ける。お前は僕にツェツィーリアまで賭けさせたんだ。覚悟は出来てるんだろ?」

「っ、ひ、ひぃっ……!」

 髪を掴まれて上に引っ張り上げられた。ぶちぶち髪が何本も切れて抜かれる音がする。嫌な音と嫌な痛み。

 無理やり立ち上がらされて、また顔を殴られる。

「っ、もうやめて……!」

 リディアが飛び出して、男の腕にぶら下がるようにして止めに入った。




「負けでいい! 負けでいいから! クレトが死んじゃう……!」

 決闘の途中だけど、耐えられなくなったようで、賭けの対象でもある筈の金髪ポニテの女の子が飛び出していってしまった。

 いやまあ、あれは嬲り殺されると思いますよね。

 涙ながらに訴えているあたり本気なのであろうし、なんならあの子、普通に良い子なんだろうなぁ。屋敷に居る間も、それなりに使用人とは会話してたっぽいし。

 冒険者三人の勾留中の素行に関しては、軽くだけど使用人伝に私たちも話をなんとなく聞いてはいた。どうにも女の子二人の方はそれなりに大人しくしていたようで、金髪ポニテちゃんの方は最初、自分たちが正しいと思っていたし、それを主張していたらしいのだが……なんでも、メイドさんの話によると邸内でバッタリ、職場復帰したばかりのペトラにエンカウント。

 あのペトラが大声で好き勝手的外れなこと言われて黙っているなんてことはない。ペトラは正面から反論してそれはもうブチギレであったとのこと。しかし、ペトラはしっかり者なので、口頭できつめに言い返すだけで済ませたらしい。偉い。

 それで、金髪ポニテちゃんはシュンとなって以降、己の罪を自覚してそれはもう落ち込んでいたらしい。素直。

 ペトラもペトラで、ばったり会ったら冷たくする、とかちょっとやってたらしいが、生まれつきカラッとした性格のためか、許すまいと頑張り、許せないと思っていても、村を焼いた奴らに冷たくするデーは五日ぐらいしか保たなかったらしい。余りにもお人好しである。我が子を預けるに値する素晴らしい子守適性。私の目に狂いはないぜ。

 余りのことに現実逃避。

 ウフフ。アルバンが怖い。怖過ぎる。

 いやでも、殺さずにコテンパンにして二度と逆らったりしないぐらいに気持ちをボキボキに折って大人しくさせようとはしてる。

 なんなら村人たちの溜飲を下げるためにもここでボコっているのだろうし。

 ただ、女の子が出てきて必死に止めてくるとなったら、そのパフォーマンスもこれ以上は無理だろう。

 アルバンは女性がちょっと苦手。

 なので、いきなり親しくもない女性……というか、女の子に腕を掴まれたせいで、一瞬、動きが止まった。

 あれ、なんとか人前だから堪えたけど、内心ビクッとしたんだろうな〜〜!

 明らかに隙ありなのだが、顔を殴られて鼻血が出て、前歯まで折れているせいでか、既に決闘相手には闘志がない。血と涙でグショグショである。

 うーん、これはやってる内容としても絵面としても完全にアルバンが悪者。でも、決闘ってなったらこれが一番被害としてはマシな内容なんだよなぁ……相手があの、ちょっと、弱い。ポテンシャルが高い割に、その生まれ持った魔力保有量と身体能力の高さでゴリ押ししてきたんだろな感に溢れている。

 なんなら、せめて近接戦闘、剣術がもっと出来ていたら勝ち目があったのに。

 魔法なら勝てないけど、アルバンは今回、魔法を使わせないだけで自分から使わせるつもりはなさそうだったから、油断してる所にスピードと剣技があればまあ、決闘には普通に勝てる可能性はある。それこそ、ハインリヒさんはそうだろう。ただし、殺し合いとなるとまた話が変わってくるのだけれども。

 そもそも、決闘とは相手を殺すことを目的とはしていない。剣技や殴り合いやまたはチェスとかで勝負して白黒付けるぜというだけのもの。まあ武器持って殴り合って本気でやったら死ぬこともあるけどそれを承知の上でやるならいいよ、というものなのである。

 逆に言うと、それを利用して気に入らない奴に決闘を申し込んでドサクサで殺っちまえ、というのも一時期横行したりしていたそうだが、弁護の余地がないパブリックエネミーなので、過去に居たそういう人々は処刑されたりとかしている。

「はぁ……。」

 あからさまなため息が聞こえた。

 アルバンが半眼になっている。もうちょっと猫背。

 若者の頭を掴んでいた手を離して、ついでに軽く一発オマケで殴った。

 べち、みたいな感じで若者が地面に転がる。

 金髪ポニテちゃんも座り込んだ。

「……馬鹿馬鹿しい。こんなの決闘じゃないよ。見届け人、僕の勝ちで良いよね? 相手方の掛け金からの降参だけど」

「アハッ、この場合、ギリギリですが許容範囲ですね。決闘者を想う女性、それも賭けの対象ですから、意見を述べる権利があります」

「だってさ」

 うわぁ。ちょっとおどけた感じで両手の掌を上に向けるジェスチャーまでしている。これは嫌味。

 私に膝枕を要求してベタベタ甘え倒した人と同一人物とは思えない程である。

 それにしても、アルバン、性格悪いムーブしている時、イキイキし過ぎでは……?

「は、畑を焼いてしまって、本当にごめんなさい!」

 驚くべきことに、金髪ポニテちゃんはアルバンと、それから、観戦していた村人たちの方に向かって頭を下げた。

 なんなら、村人たちの方に向かっては土下座である。彼女なりに思うところがあったらしい。

「あ、あたしが働くからっ……! この、焼けちゃった畑が元に戻るまで、ここでずっと働く。石を投げてくれたっていい。休まずに働くから、だからっ……!」

「演技……じゃ、なさそうだけど……単に頭が悪いだけか。別にそれ、要らない」

 すっぱり。

 一刀両断。

 身も蓋もない。

 こ、この空気とか流れをガン無視するあたり、すっごくアルバンだなぁ……!

「ぇ、な、なんで」

「だってお前ら、ここじゃ何の役にも立たないし。村人にも僕にも、お前らの面倒見る義理はないよ。居るだけ邪魔」

「き、嫌われているのは、分かってる。それでも」

「理由が全く違う。そもそも、農業っていうのは高度な技術職。素人がやった所で出来る訳がない。技術継承が難しい。一朝一夕では上手くいかない。農夫の仕事っていうのはそういうものだ。一生を費やして然るべき職務。素人がやれる前提で考えるのがどうかしてる。一から教えて育ててくれって? 厚かましいにも程があるよ。それなら、金で払ってくれた方がマシ」

「金って……! じゃっ、じゃあ、あたしが、寝床で稼いだっていい! だから、クレトの命は……!」

「寝床って……娼婦になるってこと? まあ、別に止めないけど……ウチはさ、娼婦は仲介業者、つまり女衒を介さない個人事業主としてしか営業許可出してないんだよ。専門知識もなしにいきなりやれちゃう仕事だし、何より、娼婦と客の間の金銭取引って、生産性がない上に治安も悪化するし、娼婦は稼いだ金で物を消費するだけのポジションだから、出来れば普通に、農業とか製造業で働いて欲しいんだよねぇ……だから娼婦は税金高いし、自分の意思で、個人で仕事してやってるし、売春組織にも所属してないってことでしか許可出さないよ。審査をクリアするためにはまず何枚も書類出す必要があるし。最初に出す書類と、毎年出すやつと毎月出すやつがあって、死ぬほど枚数多いけど……お前は自分でそれ、やれるわけ?」

「そっ、れは……!」

 おぉう、アルバンがまた別ベクトルでイラついてるな?

 そもそも、アルバンは領内に居る娼婦をなるべく増やしたくないというか、なんならいて欲しくないと考えているのである。

 より正確に言うのであれば、アルバンは娼婦は嫌いではないが、女衒が大嫌いである。

 フリートホーフ辺境伯領は豊かな土地なので、ちょっと貧乏な農家でも、普通に食べてはいける。それが前提となると、食べていけるのだから、農民として生まれたらなるべく全員農民のまま生涯を終えて欲しい。農夫は何人居ても良いという思考がアルバンなので、兄弟姉妹が多いから、お金の足しに女児を売ります、というのを避けたいらしい。

 それは農夫に限らず、職人であったりしても同じこと。第一次産業と第二次産業に従事する人々は物理的にものを作る、調達する、加工する人たちなので、物理的に領地も国も豊かにしてくれる。

 だが、娼婦に関しては、まあ売れっ子になるためには話術とか美貌とか必要だし、高級娼婦ともなると教育費が必要な訳ではあるが、それだって、彼女らはこの世で生産製造されるものを消費だけするポジションになってしまうのである。

 おまけに、嫌な言い方をすると娼婦というのは売れっ子になれずともそれなりに稼げてしまう。なんなら、女体さえあれば即日スタート可能となってしまうため、一旦不景気になったりすると娼婦はガンガン増える。そうなるとデフレーションという名の地獄の始まり。

 不景気はとっても恐ろしい。お金がなくなると人は簡単に家族の女の子を売るようになるし、お金がない筈なのにストレスを緩和するとか現実逃避のために娼婦を買うお客も増える。

 娼婦のもとに通うお客は、得た資産を娼館で溶かしてしまうため、他に使える用途が減る。そうなると社会にとってお金の周りが悪くなる。

 儲かるのは女衒だけ。

 そして女衒は、言うまでもなく娼婦と客、両方からお金を巻き上げるだけ巻き上げて、この世になんにも生み出さない。

 おまけに、性行為というのは基本的にリスキー。衛生管理と健康管理、どれだけしようが、人と人とが粘膜接触したらまあ病気は発生する。

 生き物は密着すると病原菌に感染するリスクが爆上がりしてしまうもの。家族の風邪が自分にも移る、というのがその証左。同じ空間に居るだけでも感染する病がこの世にあるというのに、粘膜接触となると更に倍率ドン。公衆衛生も悪化するし、医療が逼迫するので……領地を運営する側としては本当に嫌。やめてお願い。それが正直な気持ち。

 なので……アルバンは「なら女衒の商売を潰してしまえ」という手段を取るに至ったのである。

 うん。私怨を感じる。

 中にはどうしても娼婦になりたいんです! という奇特な女性も居るのかも知れないが、大体の人はそんなことやりたくない。娼婦そのものは嫌いじゃないけど女衒が嫌いっていうのは、他人の体の使い方に口出ししてくる立場だから、こう……白銀のアルバンに対する王宮管理官と同じ要素がある。

 女衒は徹底的に潰す。何としてもだ。

 アルバンは辺境伯になってすぐあたりから、かなり情熱、というか執念を傾けてそれを達成したらしい。非合法の闇女衒の検挙に対しても熱心である。

 お陰で「フリートホーフ辺境伯領で商売する方が面倒」とか「辺境伯ってゲイなの?」とか言いつつ、女衒とか娼館は軒並み出て行ったらしい。まあそれはそう。他の領地では禁止されていないのだし、執拗に執念深く取り締まられるならそっちのが早いよね。

 因みに、我が領地には現在、公的に届出を出した完全個人営業のクリーンな娼婦は十一名ほど存在するらしい。逆に気になる。死ぬほど複雑で面倒な手続きが必要な申請書類、チラッと見たが許可を勝ち取るのがめちゃくちゃ大変そうだったので、あれをクリアした猛者がなんで娼婦という職業選択をしたのか。ふ、普通にカフェとかで働いた方が圧倒的に手続き楽だよ? なんなら、お金持ちの愛人の方が楽じゃない?

 ……知りもしない人のことを下世話な好奇心だけで知りたがるのはなかなかゲスい。反省。

 そんな訳なので、フリートホーフで娼婦になるのは大半の人が無理。やれない。ので、領主としてアルバンはその説明を金髪ポニテちゃんにしている。つらつらと。

 決闘が終わったら行政の仕事が始まっちまったな?



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