表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/195

【190】戦利品


「まあ、とりあえず……お前たちの所持品は全て売却。ああ、服は残してあげるよ。他人の裸なんて見たくもないし。感謝してくれていいよ? こいつらの所持品リストは?」

 仁王立ちのまま腕組みして、アルバンがさり気無く金髪ポニテちゃんこと、リディアに対して「僕に触るな」アピールをしている。

 すかさず騎士の一人がササっと紙を差し出している。

 その紙面を読んで直後、アルバンが一瞬、驚きに目を見張ったのがわかった。

 なんだ?

 どうした?

 疑問に思うも、アルバンは眉間にやや皺を寄せつつ目を閉じてからまた開いた。珍しい。即断即決のアルバンが言葉を詰まらせるなんて。

「……労役刑の年数と内容は変更。クレトに関しては十五年の労役。並びに、リディアには五年、エレナは除外」

 んん!?

 わからんわからん。何が起きた?

 緑のふわふわボブカットちゃんことエレナだけ労役が無しになって、その分が若者ことクレトにプラスされたぞ!?

「奴隷は人間ではなく、財産扱い。公的にも……人権がないから、罪を犯してもそれが主人の指示の元に行われたことであった場合、責任能力がない。そっちの……エレナの登録は、性奴隷だ。彼女を裁くことは出来ない」

「えっ」

 アルバンの発言に、私もニーナも、騎士の皆さんも、村人たちも、一気にエレナの方を見た。

 エレナは黙ったまま俯いている。

 驚いた。

 我が国には犯罪奴隷しか居ないので思い付かなかったが……そうか。ベスティアでは奴隷制度があるのだった。失念していた。

 しかし……この三人は単なる冒険者仲間のように見えていたのだが、そうではなかったのか。

「ど、奴隷、って……クレト……?」

 あっ、なんか、なんかリディアまで驚いてるぞ!?

 もしかして知らなかったのか!?

 声が震えているし、恐る恐る、またいな感じでゆっくりクレトの方を見るが、問われた本人は答えない。まあ前歯折れてるから答えられないのかも知れないが、この沈黙はそれだけではないだろう。

「えっ……なんで? だって、あたしたちがエレナを、奴隷商人から買って、でも、その後、奴隷登録を抹消してくるって、お金持って奴隷商ギルドに行ってた、よね……?」

 おっ、と。

 コイツぁ話が変わってきたな?

 リディアの発言は恐らく嘘ではない。

 この子は見るからに演技ができる方じゃないし、ちょっとアホの子だが善良だ。だから、きっと、クレトとリディアはこのエレナって子を確かに買ったんだろう。発言からして、二人でお金を出し合って。

 ベスティアでは奴隷の持ち主が、その奴隷の値段に手数料を上乗せした金額を奴隷商ギルドに支払うと、奴隷登録を抹消して自由になれるという制度がある。らしい。これは奴隷を買った側が損をしそうなものだが、しかし、単にすぐ辞職しない従業員が欲しいお店のオーナーなどが奴隷を買って、住み込みで衣食住だけ保証して働いて貰い、お給料が貯まったらそのお金で自由民になれるよ、と説明することによって、奴隷の働きが良くなったりするそうだ。加えて、奴隷から自由民になれるまで働くとなると、何年かはかかるため、その奴隷の方も身に付けたスキルをそのまま活かせる勝手知ったる職場に続けて勤めてくれることが多いらしい。

 うーん、奴隷商人も女衒と同じく、人の体とか人生を使ってお金を毟り取る職業だぜ。アルバンが絶対に領地に入れたくない職種であるのは間違いない。

「うそ……リディア、わたし、高いのに……自由に、してくれようとしたの……?」

 おおっと! エレナの方はその話を知らなかったっぽいぞ!?

「うん。だって、私たち、仲間でしょ? エレナが来て、一年経った頃に。大きなケルピーを倒したあと。あの時、纏まったお金が入ったから……エレナを自由民に出来るって。サプライズにしようってクレトが……!」

「知らない。わたし、そんなの知らなかった……リディア、ごめん。ごめんっ、わたしっ……!」

「えっ、な、なんで? なんで謝るの? エレナ?」

「リ、リディアが、リディアがクレトのこと、本気だって知ってたのに……! わ、わた、わたし、砂漠で、クレトに……ごめんなさい! 断れば良かったのに。でも、わ、私、ど、奴隷だしって、思った。でも、それだけじゃなくて、断ったら居場所、行くとこ、なくなるって思って、いっ、言え、言えなかったっ……! ごめんなさいっ……!」

 おおう。

 修羅場。

 地獄絵図。

 エレナがその場で文字通り泣き崩れてしまった。

 ううん。そうか。なんかこう、友達以上恋人未満なのかな〜とは思っていたが、クレト、両方に手を出していたのか。しかも、リディアという彼女が居ながら、奴隷という弱い立場のエレナに迫って浮気したと……そういう、ことですよねこれは?

 いや待って。

 エグい。

 えっ、すみません。俄かに女の子二人が可哀想になってきた。

 だって、リディアは純粋に、性奴隷として売られているエレナを助けたくて、自分もお金を出して仲間にして、そこから更に、仲間のエレナを自由にしてあげられるならってことで、ケルピー倒して得たお金を叩いたというのに、彼氏のクレトくんはそのエレナちゃんを……なんて。酷すぎる。

 というか、リディアの出した、エレナを自由にするためのお金はどこに……?

 もう、リディア、立ち上がって、そのまま呆然。

 変な男性に引っかかるとこうなっちゃうのか〜。

 怖い。

 私はお金目当ての結婚でアルバンという最高の男性と結婚出来てスーパーラッキーだったという事実が改めて浮き彫りになった訳だが……懐に飛び込んでみないと、その人がどんな人かは分からない。イザベラ様のようにハズレくじを引き続ける人も居る。まあそのイザベラ様もヘンリックさんと婚約して今は幸せそうだけれど……うん。リディアとエレナは最悪のハズレくじを引いたということだ。

「……奴隷契約書に依ると、エレナの所有者はクレト。連名じゃないね?」

「そう……そう。あの時、クレトが代表で……サインをした。冒険者ギルドでのパーティー登録でも、クレトがリーダーだったから、名義を、クレトにしてて……!」

「この書類では、エレナの値段はベスティア金貨六十枚。クライノート金貨の方がレートが高いけど……それでも金貨四十枚は下らないだろう。容姿と年齢、それから風属性魔法の巧みさ、読み書き計算が出来る分、査定で高値が付いている。買取時の双方の出資金額は?」

 あっ、アルバンがとうとうまともな男性モードになった。

 流石に女の子二人に同情したらしい。というか、背景情報が新たに出てきたので、これは判決が変わってくるかも。

 すっかり怖くて意地悪な怪物辺境伯の仮面を脱ぎ捨てて、物凄く真面目で公正な弁護士のようになってしまっている。凛々しくて素敵だが、外であんまりそういう顔を見せないで欲しい。女の人がみんなアルバンを好きになってしまう……はぁ、しかし、本当にかっこいいな?

「あの頃は、お財布、分けてない……! あたしとクレトの共同」

「つまり、共有財産からか。なのに、権利はクレトしか有していない」

「そう。だから、奴隷登録の抹消手続きも、クレト本人が行かないとダメだからって……! クレト、あの時のお金は!? どうしてエレナを自由民にしなかったの!?」

 うーん、なんか、リディアは普通に良い子なんだた?

 ブチギレた怖いアルバンの前に飛び出してクレトの命乞いをするあたり、相当本気で好きなんだろうけど、それでも、エレナの告白を聞いた上で、ちゃんとエレナの境遇についてをクレト本人に追求しているあたり偉い。しっかりしている。

 答えないクレトを前に、リディアの空気が変わった。

「――わざとなのね?」

 声のトーンが低くなる。どうやら、さっきまで愛していた男性がどんな人物であるかを理解したらしい。

「エレナに断れなくさせるために、最初から、そのつもりで……!」

「いや、それは」

「最低! あんたの心がもうあたしにないの、本当は分かってた! 今はもう、エレナが好きなんだって。でも、だったら……あたしにハッキリ言えば良かったのよ! 別れたいって。この卑怯者!」

 リディアが怒りに頬を染めて、泣きながら殴り掛かろうとするが、なんと驚くべきことに、アルバンがそれを止めた。リディアの腕を掴んで、である。

「待った。お前には勝手に行動を起こす権利はない。決闘の勝者は僕だ。お前を今……いや、法的には何の効力もない訳だけど、とりあえず、お前は現時点ではこっち側だから、一旦暴力は無しで」

「離して! せめて一発殴らないと気が済まない!」

「エレナを自由民にするための資金、お前が出した金額は?」

「金貨四十枚」

「奴隷の金額にプラスして、自由民になるための手数料は一律金貨十枚。半額以上か」

「そうよ! クレトがあの時、足りないって言うからあたしがその分も出したの!」

 うわぁ。

 ひ、引いちゃう……!

 最悪と最低が同居している。

 というか、このパーティー、思った以上にちゃんとお金は稼げていたんだな?

「窃盗だね。フリートホーフ辺境伯領の領法に於いて、お前には盗人を訴え、賠償を請求する権利がある」

 あっ、そうか。

 我がフリートホーフ辺境伯領においては、盗みは罪だし必ず捕まえるが、盗んだものを賠償すれば無罪放免。ただし、盗んだものが高額であれば労役形は続くよどこまでも。

 盗まれた人に盗んだ人が借金を返済するという形で補填が成される。

 つまり、彼らをウチのルールで裁いて良いのであれば、リディアにはクレトを訴えることが出来る。

 じ、慈悲だ――!

 珍しい。アルバンがこういうあからさまな慈悲を出すのは滅多に無いのだが……ま、まさか、私のような黒髪から、金髪美少女とかゆるふわボブカット美少女に乗り換える気か!?

 いや。待て。まだ早い。

 そうと決まった訳じゃない。

 ままままま、まさかあの真面目なアルバンが私を捨てて他の女の子に走るだなんてことがあるわけがあばばばばば。

「ツェツィーリア」

「はい」

 ビックリしたぁ。

 いきなりクルッとこっち向いて話し掛けられるとは思っていなかった。

「僕は要らないけど、ツェツィーリアは要るものある?」

 あっ。

 そういうこと!

「はい。あります。アルバン様が要らないのでしたら、私に譲って頂けますか?」

「勿論だよ。好きなものを君にあげる」

「では、まず……エレナの奴隷契約書を頂いてもよろしいでしょうか?」

 周囲から驚きの声が上がる。ザワザワしているが、まあしょうがない。エレナの登録は性奴隷なのだし。

「エレナ、私の元で働いてみる気はありませんか?」

「えっ……?」

「しっかりした経験のある、戦闘技能を有する女性を探していたのです。数年後に開設する予定の女子教育専門の学校。そこに作る予定の、女性騎士養成のプログラムで、指導教官となれる人を探しています。学校が始まるのがいつになるかはまだ目処が立っていませんが、それまで、騎士団の訓練に参加して騎士についてを学び鍛えてくれるのであれば、月々のお給料をお支払いします。どうでしょう? 私から、自分自身を買い戻す気はありませんか?」

 余りの急展開に驚いているエレナは、即答出来そうにないらしい。

 考えてみてね、の意を込めて、愛想笑いして頷いておく。

「次に……リディア。条件はエレナとほぼ同じです。ですが、あなたは自由民です。決闘の勝者であるアルバン様があなたを獲得しましたが、奴隷ではありませんし、強制は出来ません。なので、単純に雇用関係となりますが、雇われてはみませんか? 勿論、エレナと違い選択肢があります。女性騎士を育てる教官になるか、そうですね……屋敷で雑用係になるか」

「まあ、ベスティア金貨四十枚だと、賠償金にちょっと足りないぐらいか。学校の教官としての給料だと、ツェツィーリアが幾らで雇うかは分からないけど……うちのメイド見習いやるにしても、差額分なら三年働けば返せるんじゃない?」

「迷っているようならとりあえずメイドでも良いですよ? 私としては、出来れば教官になるのを選んでくれると楽なのですが」

 アルバンがのそのそ歩いて私の方まで来てくれて、なんとなく二人で腕を組んでみたりなどしてみる。

 浮気とか杞憂だった。

 アルバンは人材の有効活用を提案してくれたのだ。というか、これは完全に、私に対するプレゼント。

 女子校の騎士科、生徒がどのくらいになるのかはまだ分からないけれど、戦闘技能の指導を出来る女性教官、出来れば五人は欲しい。フリートホーフ北方騎士団を引退した老騎士を指導者として入れるのは確定だけれど、屋外で実習などやるとなれば、監督する人が沢山必要だし、そうなるとやはり生徒たちが女の子なら、女の先生が何人か居た方が良いと思う。

 とりあえずふた枠ゲットしておきたい。

 どちらにせよ、女性教官はベスティアから輸入するつもりだったのだし。

 わーい! アルバンからのプレゼントだ〜!

「……リディア、わたし、パーティー抜ける。ここで働く」

 情報のインストールが完了したらしい、エレナが鼻をグスっとさせつつも、立ち上がって宣言した。

「ここのお屋敷で暮らして、わたし、思い出した……わたし、わたしはっ……! ずっと、安心して眠れる暖かいベッドと、美味しいご飯と、それが、自分で選べる生活が、欲しかった……っ! 冒険者もやめる。ダンジョンに潜るのも、冒険も、頑張ったけど、わたし、わたしは……!」

「いいよ。エレナ。言わなくても。あたしも、冒険者はやめる。でも、あたしにはもう、剣を握る資格はないから。だから、下働きをするよ。パーティーはここで解散」

 今度はあっちでリディアとエレナが抱き合って泣いている。

 仲良いな?

 置いてけぼりのクレトはというと、ほぼ虚脱状態のまま、二人の騎士の手によってズルズルどこかに連行されていった。

「では、早速ですが雇用条件についつ詳しく。エレナに関してはひとまず、私がベスティアの奴隷商ギルドに申請して、自由民にしておきますね。なので、私に借金を返すという形に。その方がクライノートの法律としても処理しやすくなるので。学校が始まるまではフリートホーフ北方騎士団の訓練に参加して貰いつつ、私の護衛であるニーナと共に戦術について座学の勉強を。読み書き計算は出来るということですが、どの程度なのかレベルを確認したいので後ほど筆記テストを行います。よろしいですね?」

「新人メイドは一番の下っ端からスタート。部屋は六人部屋だし、年少のメイドばっかりだから同期は十三歳かそこらだから居心地悪いだろうね。内容としては他の先輩メイドや執事のパシリ。週休一日制で有給休暇は一年後に支給。女性は生理休暇制度あり。詳しくは別なメイドから説明を受けるように」

 私とアルバンで揃ってもうね、説明さん。

 エレナはまあ、奴隷から自由民になれるとあって前向きなのは理解できるが、意外にもリディアの方も素早く吹っ切れたらしい。アルバンの説明を真剣に聞いているししきりに頷いている。

 切り替えが速いあたり、なるほどこの二人、冒険者としては質が悪くはなかったんだろうな。

 思わぬところで人材ゲット。

 良かった良かった。

 ちょっとだけ心配だったのは村人たちの反応だったのだけど、アルバンがこれでもかとクレトをボコったので皆さんそれなりに溜飲が下がったらしい。

 というか、漏れ聞こえてくる会話を聞くに、主に決闘の後に飛び出したクレトのヤバいエピソードの数々。パンチが効いていたのでみんなそっちに気を取られてしまったようである。気持ちはわかる。

 冒険者たちに関しては一生許さん、という感じではあるのだろうし、それは村人たちの正統なる権利だ。が、怒りはあるが、リディアとエレナに対する憎しみはかなり薄まったようなのでよし。領民たちが暴徒にならず、私刑をやったりしなければそれで良いのだ。

 基本的に領民の皆さんは良識的で常識的な人々なので、こちらとしてはとても助かる。理知的で優秀な小麦農家の皆様、今後ともよろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ