【188】愛の告白
「僕が本当に怖いのはね、君の心が離れていってしまうことだけだよ」
夕方。寝室。ベッドの上。天蓋を下ろした中で、アルバンは言った。囁くように告げた。
「君が、あの若造と一緒に行くと言わなくて本当によかった……。」
お昼寝から目覚めてのち、ダラダラとベッドの中でお喋り。私は夜目が効かないタイプなのだけれど、アルバンはそれなりに見えるらしい。晴れている日は眩しいそうだ。私も、明るいよりは暗い方が楽だと思うタイプではあるので、暗い中、お布団に包まれて寄り添っているのは少し楽しい。
「行く訳がありません」
「うん? 怒ってる?」
「はい。私はずっと、アルバン様のことが好きだと言っているのに、まだ疑われているのが大変不服です」
「ふふっ、そっか……でも、良かった。君はまだ、僕のことを好きでいてくれるんだね?」
「未来に絶対はありませんが、それでも、私はきっと、明日もアルバン様のことが好きですよ」
「そうだと良いんだけど。なんていうか、うん……これはきっと、ツェツィーリアの気持ちの方じゃなくて、僕に問題があるんだ。僕は金と権力と武力に恵まれているだけで、それだけの、つまらない人間だし……なんていうのかな。性格が良くないし、本質的に、人間としての出来はあんまり良くないから。結局のところ、自分に自信がないんだ」
「アルバン様はいつも、自信満々に見えます」
「得意分野ならね。でも、僕は人間的な魅了に乏しいから、いつ君に飽きられたらと思うと不安で仕方ないんだよ」
「……人間的な魅力ってなんでしょう?」
「容姿、性格、話術、美的センス、音楽的センス」
「私は黒髪黒目ですし、性格も凡庸ですし、話術も下手くそですし、美術も音楽も素養がありません」
そう、私はつまらない女。
自覚している。
だが、一方でこうも思うのである。
「私はつまらない凡庸な人間ですが、つまらない人間で何が悪いのでしょうか?」
というか、世間でよく言う「つまらない奴」とかそっち系の悪口陰口、ニュアンス的には高確率で「生真面目」とかそこらへんに該当しそうな気がする。
「私個人の独断と偏見に過ぎないのですが……この世を回しているのはそういった、つまらない人々なのではないでしょうか? 私は……領地のために、家族のために、毎日地味なことでも、果てしないことでも、地道にコツコツ、ずっと努力を続けているアルバン様が一番魅力的だと感じるので……アルバン様の言う人間的な魅力、というものに、余り惹かれないので……よく分からないです」
世界はそういう、つまらない奴、と言われる人々がメンテナンスをしている。それは大きければ国であったり、身近なところなら会社とかお店とかだったりもする。
というか、この世の大半は別に突飛な面白みなどもない人々で構成されているし、そういった人々が社会規範から逸脱したりせず生きて働いたりしてくれることで平和な世界があるのだから、それで別に良いじゃん、とは思う。
「うん。ありがとう。でも……ツェツィーリアは面白い人だと思うよ?」
「そうでしょうか?」
「僕にとってはね」
「私も、アルバン様は面白くて大変魅力的だと思います」
「本当?」
「はい。好きなポイントが沢山あります。初めは、その……お金目当てでしたけれど、お金を出しても偉そうだったり、横暴でないところが本当に凄いなと思ったんです。加えて、独自に魔獣の研究もしてりしていて、深い専門知識があるのに驚きましたし、何より……お金で買った妻の意見なんて全部無視されるのが当たり前なのに、何をするにも、説明や話し合いをして、私の意志を尊重してくれる、丁寧なところが素敵だなと思ったんです。あっという間に恋してしまいました」
恥ずかしいけど、良い機会だから伝えておこう。
いつも好きって言ってはいるけど、どうして好きになったのか、恋したのかは言っていなかったから。
「――待って。ツェツィーリア、いつから僕のこと好きになってくれたの?」
「結婚初日に研究室を見せて貰った時にはもう、かなり好きになっていましたね。それから……覚えていますか? 夕食の時に、アルバン様が私に、キャビアのブルスケッタをくれたんです。だから、ああ、この人は、分け与えてくれる人なんだって。それでその……夜に関しても、その……実行する前にきちんと、なんでするのかとか、私にもメリットがあるって説明してくれたので、凄く安心したんです。だから、アルバン様が気絶してしまった後、寝ている顔を見て……その時にはもう、愛おしいなって思っていました」
「えっ!? えっ、えっ!? そうなの!? えっ、ツェツィーリア、あの時からもう僕のこと愛してくれてたの!?」
「はい。恥ずかしながら……初日からもう大好きでした……。」
イエス。アイアムちょろい。
なんならアルバンという存在が私特攻過ぎた。こんなん好きにならざるを得ない。頭が良くて努力家で賢くて知識が豊富で、思いやりがあって優しくて、人に、というか、妻である存在に分け与えるのが当たり前ですという慈悲の心が載っているとあらば、好きにならない方がおかしい。
「それと、ええと、アルバン様が好き、なので……体が大きいところも、傷跡も……好きです。傷も、荒れている時には痛そうだなって思うんですけど、お手入れするとプニプニしてたりして、可愛いなって。あと、傷のない、元のお顔に関しても、整っていてかっこいい、というか……素敵だと思います」
なんなら、私は初恋がアルバンだったせいで、大きくて分厚くてどっしりした男性に目がいくようになりつつある。が、この世にアルバンよりも分厚くて大きな男性が他に居るとも思えないので、物凄く失礼だが「体型はかなりアルバン寄りだけど大きさが足りない」だの「大きさはそこそこだけど体型がバキバキすぎ」とか思って一秒で忘れるなどしている。
何様のつもりだ私は。
魔力無しの分際で他所様の容姿に関してアレコレ一方的にジャッジするなど言語道断である。
良くない傾向だと思ってはいるので、最近はアルバンをこっそり眺めつつ「やっぱり私の夫は最高だな?」と噛み締めるだけに留めている。
「つ、つまり、君……僕が好みのタイプってこと!?」
「そうみたいです」
「うわ〜! やっ、やった……! 嬉しい! ツェツィーリアの人生が僕のせいで取り返しが付かなくなってる! 良かった〜〜!」
「クソッ、可愛いな……? その微妙な闇と歪みと執着も含めて愛しています」
重い。そしてやや歪んでいるし執着と圧が強いのは事実。しかし、喜び方が子供っぽいし、なんなら、暗くて見えないけど頬っぺたピンクだと思うので全てを許さざるを得ない。かっこいい、怖い、かわいい、凛々しい、賢い、などなど一粒で色んなギャップを絶えず提供してくるのがアルバンなので私はもう抜け出せない。
「僕もツェツィーリアが初恋で、君の持っている要素が好きになったから、君が好みのタイプなんだ。僕たちお揃いだね!」
「そうですね」
がばちょ、と抱き締められてしまい、頬に何回もチュッチュとやられてしまう。
私は恥ずかしい告白をした訳だが、アルバンのご機嫌が一気に良くなったようで何よりです。
気持ちが落ち着いた頃になって、ドアがノックされた。
「失礼します」
「ハインリヒさん」
「アハッ、こんな時間にすみませ〜ん! 泣きみそ一丁お届けに上がりました〜!」
ゆる〜く笑いながらも、ハインリヒさんが下がり眉。今回はぶら下げられたりとかはしていないけど、襟首掴まれて連行。
前に突き出される形である。
ニーナ、抵抗せず。
あと頬っぺた赤いし、涙のアトが……。
まだ鼻ズビズビいってるし、これ、めちゃくちゃ泣いたんだろうな……?
「どっ、どうしたんですかニーナ」
「いやぁ〜、今日ヘマをしたってことで悔し泣きです。ツェツィーリア様をお守り出来なかったってことで、その不手際を謝罪に参りました〜!」
口調はあくまでフラットではあるものの、ハインリヒさんの瞳の奥が笑ってない。どころか、普段の輝きが鳴りを潜めているどころか、闇が、闇が見える……!
これ、私が「許さぬ」とか言ってしまったら、ハインリヒさんはニーナをお手打ちにして自分の首をコトリと落としかねないやつだな!?
「ゔっ、ご、ごべ、ごべんなざいっ……ツェ、ツェツィーリアさま、まもっ、守れながっだっ……!」
「あっ、あっ、あぁ〜! ニーナ、悔しかったんですね? でも、相手はニーナよりずっと強い魔法が使えたし、あの結果は仕方ないと思います」
「ちが、ちがうっ……! ニーナが、すぐあいつを気絶させとけば良かったんだ。肩なんて警告しないで外しておけば良かった。骨だって折ればよかった……で、できたのに、しなかった、からっ……!」
ニーナがもうグズグズのべしょべしょである。
か、可哀想。
「いやぁ〜、どうします? 正直、護衛騎士としては完全に失格ですけど、まだ続投します? もしもニーナに任せられないと感じておられるようでしたら、別な者を育成しますが」
「私はニーナにお願いしたいです。何より、ニーナは私が叙した、私の騎士です。ニーナ以上に信頼できる騎士を私は未だ持ちません」
「――奥様のご厚情に感謝致します。我が娘の不手際ゆえ、このハインリヒ、並びに我がハーゲル騎士爵家よりお詫び致します」
「許します。それに、あれは私の判断ミスです。無傷で捕らえたいという私の意思を、ニーナは汲み取って動いてくれました。私の心を理解してくれる、ニーナ・ハーゲル卿を信頼しています」
「寡聞なお言葉、痛み入ります」
ハインリヒさんが片手を胸に跪いた。
続いて、べしょべしょに泣いたままのニーナもヨロヨロしながらその隣に跪く。
「よりっ、より一層の、研鑽を、じますっ……! も、もう、もう絶対、絶対に、負けない……!」
叫ぶように絞り出したニーナの声は枯れている。
頑張り屋のニーナはきっと、今日の反省を活かして明日からより一層の努力を続けてくれるだろう。
ダダ泣きのニーナを前に、ハインリヒさんがちょっと乱暴な感じで頭をポンポンしている。
「アハ、良かったな〜! ツェツィーリア様が優しく寛容な貴婦人で。でも、殺すか気絶させるか拘束するかの判断をいちいちツェツィーリア様に委ねてるのは甘えだからな〜? しっかり反省しろ〜? それが判断できるツェツィーリア様だからこれまで平気だったんだからな〜? 他の貴婦人だと成立しないから、自分で戦況判断出来るように頑張ろうな〜〜?」
「ん、やる」
「あっ、でしたら、しばらく私と一緒に、戦術のお勉強をしましょうか。どちらにしろ、冒険者たちの処遇が決まるまで、ニーナは私の護衛なのですし」
わーい! これまで控えていたけど、ニーナと戦術トーク出来るぞ!
どうしようかな。基本のテキストからやった方が良いよね。基礎が分からないと応用編もわからないから、みっちりじっくり育てないと。
そうしたら、私の思考の癖も分かるようになるだらうし、相互理解が深まる筈。ニーナの戦闘力と動体視力を考えれば、戦術知識が少しずつであれ身に着けば、理想的な騎士と貴婦人の形が完成するだろう。
加えて、打算的なことを言えば……平民出身で、去年から少しずつ読み書き計算を覚え始めたニーナが、どこまでやれるのか、戦術を学ぶ過程でどこで躓くのかを確かめたい。それが分かれば、間違いなく新たに設立する女子校の騎士科におけるプログラム構成の参考になるだろう。
「一緒にお勉強、頑張りましょうね」
「うん。頑張るっ……!」
指導者がハインリヒさん担当ではなく、私と判明した途端にニーナの涙がすっこんだ。目の奥がキラキラになっている。
二人でおやつ食べながら戦術議論だ嬉しいな。
手にとを取ってルンルンランラン。
「……あれさ、いいの? 甘やかし過ぎじゃない? ミスったのに幸せにしかなってないけど」
「アハ。でもニーナの主はツェツィーリア様なので、采配はツェツィーリア様の管轄ですからね〜。まあ、女騎士の育て方なんて固まってないですし、既存の騎士団の制度に縛られない方が女主人の身柄を守れるっていうのはありそうですからね」
「まあ、それもそうか。男の集団とつるんでないで、女主人のことだけ考えてた方が護衛としては信用出来るかも……。」
アルバンもニーナも元気になったし、ハインリヒさんはまたビシバシ突き刺さってくるようなオーラを放ち始めたし、良かった良かった。
食堂行ったら、スープは枝豆のポタージュだったし、パプリカのサラダは新鮮だし、カルキノスのトマトクリームパスタも美味しいし、メインのお肉は熟成させたボナコンのお肉だしで、シェフの腕が遺憾無く発揮されており、お口の中が大変に幸せ。
本来なら魔獣は討伐した人が所有権を得るのだけれど、このボナコンに関しては冒険者三人から我が家が買い取る形にし、そのお金は冒険者三人が払うべき場賞金の一部に充てる、という形である。ボナコンは大きな獲物だし、お肉も沢山取れるから高額な魔獣ではあるが、それでも、ボナコン一頭の値段よりも、被害額の方が圧倒的に高い。
村人の皆さんに対しての援助金やお見舞金は領地の行政から出されるが、そのお金は罪人の賠償という形で後から返済となる。つまり、ボナコンの値段分、先に返済、ということになっているのである。
本来なら……ボナコンなら幾らでも買い手が付く筈ではあるのだが、やらかした内容が内容だけに、領民からの反発は強いだろう。競りに出したところで、本来付くべき値段より安く、二束三文で買い叩かれるだろうとのことで、仕方ないなとアルバンが妥当な値段で先に購入したのである。
別に慈悲でもなんでもなく、私財を持て余しているのがアルバンなので。
私財を持て余し過ぎて、領法弄れば領主は領地に税金納めなくても別に許されるのに、事業主としても普通に税金を国にも領地にも納めているのがアルバン。間違いなく国一番の高額納税者。
私の夫が、国に、貢献し過ぎている……。
翌日、残念なことにまたしても事件は起きた。
「ニーナはもう字は読めるのですよね?」
「ん、簡単なのだけ……アルビレオさまの絵本とか、童話集の話ぐらいしかまだ読めない」
「凄いですニーナ! まだ字を習い始めて二年も経っていないのに。計算はどうですか?」
「紙に書いたり、指を使ったりだけど、足し算と引き算はできる。あと、九九はハインリヒに教わった。割り算も、ちょっとならできる」
「兵士の数を数えたり、必要な物資を分配する時などにも必要ですから、掛け算と割り算は重要なので、そちらもやっていきましょうね」
「うん。頑張る!」
廊下で、他に人も居ないのを良いことに、ニーナとキャッキャウフフと話しながら、本とか紙とか図書室から運んでいたら、角からいきなりなんか、なんかまた飛び出してきた。
「ツェツィーリアっ!」
え、なん、誰?
声がアルバンじゃない。
鈍臭い私の認識はそのくらいだが、戸惑っていたら、遅れて二の腕掴まれたのを自覚。
が、掴まれたと自覚すると同時に、ニーナが目にも留まらぬ早技で動いていた。
「は、ぇ……?」
目の前に伸びている赤い髪の若者。
おお、これは昨日まさしくやらかした件の冒険者。
「今度は上手くやった」
ニーナのVサイン。
ヴィクトリー。
昨日の反省を早速活かせるあたり、ニーナは強い。素晴らしい。優秀。
「ツェツィーリア様ッ! ご無事ですか!?」
遅れて今日の監視役だった騎士が慌ててやって来た。
この人、顔に見覚えが。
うん、昨日の一般騎士とは違って、私やアルバンの馬車の護衛に就けるレベルの人だな?
その人を数秒であれ振り切れるってことは、この若者……魔力保有量だけじゃなくて、もしかしなくてもかなり身体能力が高いな?
厄介すぎる。
「仕留めた。問題ない」
腕を掴まれただけで未遂で終わったが、事件は事件なので速やかにアルバンに共有。
当然、アルバンは激怒。
「もうさぁ、面倒臭いから殺して埋めない? 勝手に逃げ出してグリズリーに殺されたことにでもしようよ」
「アルバン様、今朝、ベスティア国の王宮と、冒険者ギルドからの書簡が来たと、家令から聞いたのですが」
「来たけど……間に合わなかったことにしようよ。大丈夫大丈夫。誤魔化せるから」
目が、目が濁ってますね……?
なんなら顔が死んでいる。
「アルバン様、でも……バレてしまったら、ダンジョン調査の計画が立ち消えになってしまいます」
「そうだね……しょうがない。我慢しよう。領法に従って処罰をしよう」
ダンジョンの調査に行ける、しかも、有力な学者とスタッフ勢揃いのドリームチームで。そういう餌があったので、アルバンは何とか踏み止まった。
万が一にでも調査の予定がポシャったら嫌、と顔に書いてある。
で、賠償金の支払いのために労役ね、と処罰について告げたのだが……もうね、泥沼。
女の子二人に関しては特に抵抗もなく、勾留されている期間に自分たちがどんなことをやらかしてしまったのかをしっかり自分なりに理解してくれたようなのだが、この赤い髪の若者はダメだったらしい。
どころか、なんか、また私のことを連れ出したがっている。
キレて部屋の空気を重くしまくっているアルバンを前にしても黙らないあたり、ヤバい。
あっ、あっ、頭がおかしい〜〜!
というか、途中から取り繕うのをやめて、決闘しようという話になったら「女も寄越せ」ときたもんだ。
な、なんか、上手く言えないけど、なんか嫌!
つまりこの人、私のこと、そういう目で見てるの? というか、有り体に言えば性欲の捌け口コースですか? アルバンの妻だから? アルバンに勝てなさそうだからその腹いせを私にという流れです?
人としても嫌!
あとなんか、この人、そもそもこの女の子二人と付き合ってるっぽい。あ、圧倒的貞操観念の欠如。
アルバンは「ツェツィーリアは物じゃない」と怒ってくれた。ありがとう。優しい。好き。
でも、私も決闘で賭けるものの対象にってことでとりあえず応じないと、この人……あとあとまたカムバックしてきそう。面倒なことになりそうだし、話が前に進まないから、別に良いですよとOK出しておく。
「どうせアルバン様の勝ちですし」
感じも態度も悪いが、別にいいもん。
私、この人嫌い!
私はあなたに興味がないです。なんならもう嫌いです。早く目の前から居なくなって。
私はアルバンを愛しています。アルバンはこんなに良いところが沢山あるからです、まで説明したのに、引き下がってくれない。話を聞いてくれないのだもの。
決闘を、焼け野原になってしまった件の麦畑跡地でやることになって、馬車に揺られてガタゴト移動。
村人も見物に集まってくる中で、私にだけ椅子がご用意される。
「奥様、こちらへどうぞ。粗末な椅子ですが……!」
「ありがとうございます」
今回の決闘で賭けるものは双方共に、所有財産の全てとパートナーの身柄。故に、私は椅子に座った上で、膝の上にアルバンの所有する財産目録を抱えた上で見守る立場である。
冒険者の女の子二人も同様の立場であり、私のすぐ横に並んで立っている。押収していた品々も木箱に入れた状態で並べてある。
村人たちは大騒ぎである。
「決闘の立会人、ハインリヒ・ハーゲルの名に於いて、これが神聖な決闘であることを宣誓します。異論なき場合、双方、所有する財産の全て、ならびに愛するものを賭けることを宣誓してください」
「冒険者クレトが宣誓する。神に誓って、この決闘を受諾する」
「ここに我、アルバン・フリートホーフが宣誓する。聞け。汝、クレトなる者よ。我、神に対し我が身体を以て証を立てる者なり」
わぁ、決闘の宣誓の段階からこう、なんか、人としてのランクが出てしまっている。
このクレトという人、決闘の文言すら覚えていない。
西の国ベスティアは敗戦後もチェスによる決闘で国土を奪われずに済んだという歴史がある。それ故に、我が国クライノートにおいてもベスティアにおいても、決闘の際の宣誓についての文言は貴族でも平民でも頭に入っているものなのだが、なんで知らないのだろうか?
いやまあ、それはそれとして、アルバンが不機嫌すぎて、かったるそうに宣誓しているのも問題過ぎるので、どっちもどっちではあるかも知れない。
コンラートさんが見たらキレそう。
呑気して、油断しまくって勝敗の行方ではなくアルバンの態度の悪さに引いているあたり、私は心理的に余裕も余裕である。
対して、女の子二人の方はというと、金髪ポニテちゃんは青褪めているし、ふわふわ緑髪ボブカットちゃんはずっと俯いている。
決闘者二人は見届け人のハインリヒさんから同じだけゆっくりと背を向けて歩き、予め決められた位置、立会人の立っている場所から5メートルほど離れた場所で止まった。
決闘が始まる。




