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【171】国家規模の段取り


 バイルシュミット公爵は悩んでいた。

 自慢の愛娘、シャルロッテは王太子妃として内定しているものの、二十二にもなったというのに、未だに結婚できていなかったからだ。

 無論、国王陛下の言い分は理解できる。

 確かに王太子アレクサンダーは有能だが、やり方がこう、ちょっと手心が足りなかったし、なんなら強引なやり方が目立っていたからだ。

 幸い、アレクサンダーはシャルロッテに夢中。

 ともするとパワーで押し負けしがちな国王陛下や議会にとっては「そんなことだとシャルロッテちゃんと結婚させられないよ!」という説得材料を失うのは辛いところだったのであろう。

 が、しかし。

 アレクサンダーは健康かつ健全かつ、なんというか、男に生まれた人生を謳歌しているタイプの男であったので、王宮管理官がご用意した、そこそこの身分のお姉さんたちを前に「わーい!」と迷わず飛び付いていた。

 王族となれば、結婚相手である妃に対して怪我をさせたり粗相をしてはならないため、事前に練習をするのが慣習。一人二人、一度や二度は仕方ない。それは王宮の教育課程に含まれている内容だからだ。

 その練習相手の女性に関しては「シャルロッテ嬢の足元にも及ばない」と事前に王宮管理官から説明は受けていたが……しかし、バイルシュミット公爵は内心で「そんな訳がある訳ないだろうがよ」と思っていた。

 無論、シャルロッテは身分の高さと、赤薔薇姫と呼ばれるほどの美貌を備えており、未来の王妃として充分な素質があるのは事実。そのシャルロッテに及ぶ令嬢など、他にはコルネリウス公爵家のディートリンデくらいしか思い付かない。それも事実。

 が、王宮管理官が白銀の王太子殿下にご用意する女性となると、間違いなく高位貴族の女性である。質はともかくとして、身分としては王太子の愛妾となって、次代の王子王女の生母になり得る程度にはレベルの高い女性というのは間違いがない。

 そして……まあ、なんというか、アレクサンダーは恋愛と性欲は別口だと考えているタイプなのは明らかであったし、王宮管理官がご用意した据え膳は完食していたので、油断したらこれは風向きが変わってくるぞ、と危機感を抱いていた。

 その場合、愛妾候補の女性が先に妊娠したとしても、シャルロッテの正妃という立場は揺るがないが、その相手の女性の身分が高く、かつ、先に子供を産んだとしたら、問題が複雑になってくる。

 理想的なのはシャルロッテが長子、それも男児を産むこと。

 もし男児を産んだとしても、出遅れて次子以降になってしまったら、場合によっては派閥争いが始まってしまう。

 加えて、シャルロッテは何も言わずに耐えているが……本当に結婚できるのか、自分の王太子妃としての素質が不十分だと思われているのではないか、と悩んでいるのは父親として分かっていた。何しろ、幼い頃から溺愛して育てた娘。父娘関係は良好であり、バイルシュミット公爵はかわいいシャルロッテのためならなんでもしてあげたかった。それに……陰で口さがない者たちが「王太子妃に内定しているとはいえ」と未だに結婚していない、婚約者という立場について言及するのだから、もう我慢の限界であった。

 あの王太子のせいで、まるでうちのシャルロッテの出来が悪いように言われるのは納得できない。

 うちのシャルロッテに落ち度がある訳がない。

 シャルロッテは今すぐにでも王太子妃やれるんだからな?

 ーーと、密かにブチギレたバイルシュミット公爵は一計を案じた。

 アレクサンダーもシャルロッテに夢中なのは知っていたので、まず「最近、娘との交流の機会が少ないのでは?」と王宮に対してやんわりマイルドなクレームを入れた。ここまでは、結婚を待たされている令嬢の父親として、公爵家の当主として当然の要求である。

 そうなると、王宮側は「まずいぞ、王太子殿下とシャルロッテ嬢をデートさせないと」となる訳だ。

 王宮や王室や議会だって、待たせ過ぎだということは充分理解しているし、シャルロッテ嬢に対しては申し訳ないなと思っている。負い目があるため、クレームに対しても下手に出る。

 みんな本心から申し訳なく思っていたはいたので「あのぅ、王太子殿下とシャルロッテ嬢のデートなんですが、どこでどのくらいの期間が良いですかね?」となる。

 ここで、バイルシュミット公爵は「うちの領地にある別荘でしばらくお泊りデートして、仲が良いことを対外的にもアピールさせて欲しい」と主張した。

 それは尤もな要求であるし、あくまでも王太子妃になるのはシャルロッテ嬢しかあり得ないよアピール大作戦はすぐに実行に移された。

 冬の間は仕事もあんまり無いし、内政がメインとなるため、スケジュールの調整はしやすい。

 なので、王太子アレクサンダーとバイルシュミット公爵令嬢シャルロッテは、年末年始を素敵に豪華な別荘で過ごした。

 ここで、バイルシュミット公爵は仕掛けた。

「殿下、もうそろそろ、我が娘シャルロッテと結婚したくはないですか?」

「したい」

「娘も殿下のことを憎からず思っている様子。娘次第ではありますが、ことと次第によっては……我が家は今年、この別荘ではなく本邸で過ごすつもりですが、いかがでしょう」

「必ずシャルロッテを幸せにすると誓おう」

 こういうあからさまなお膳立てを前に、アレクサンダーは秒速で食い付いた。

 シャルロッテはこのあからさまな、自分の知らぬ内に父と婚約者が交わした取引に激怒したが、アレクサンダーはスカートにしがみ付く勢いでシャルロッテを拝み倒して怒りを解き、それはもう情熱的に口説いて口説いて口説き倒した。

 結果として……アレクサンダーの情熱を前に絆されたシャルロッテの許しによって二人はめでたくそういうことになった。そして妊娠した。

 王家も王宮も議会も、この展開には死ぬほど驚いた。

 まさか、公爵令嬢なんて最上級に高い身分のご令嬢が、親公認で婚前に妊娠なんて展開は考えていなかったのだ。だって、出来ちゃった結婚に関しては下位貴族ならままあるけれど、王太子とその婚約者が、なんてことはやはり世間体としてはよろしくない。「だらしがない」と言われるのが当然だし、やらないと思っていたのである。

 つまるところ、バイルシュミット公爵は娘と、いずれ生まれてくるであろう孫のための実利を取ったのだ。

 タイミングとしても絶妙だった。

 年明けに妊娠したのなら、その妊娠の疑惑が確信に変わるのは二ヶ月後。三月頭に発覚すれば良い。社交シーズンの開始に結婚式のスケジュールがギリギリとはいえ滑り込みで入れられる。

 王宮としても、王太子と王太子妃の結婚にケチが付くような真似は避けたい。

 アレクサンダーもシャルロッテも素晴らしい人材であるからだ。

 名誉を守るため、結婚の後に妊娠と出産が望ましい。

 急ピッチで結婚式諸々の準備を進めたところで、開催は五月の頭になるが、お腹もまだ目立つか目立たないかの頃合い。ドレスの形を工夫すれば誤魔化せるし、予定通りの出産であれば、早産だったという言い訳でまだ乗り切れる。更に、今に関してはその点に関してもタイミングが良かった。

 辺境伯アルバン・フリートホーフが討伐した火竜の首が王宮所蔵となっている。かなりの早産だったが、エリクサーのお陰で母子共に健康、と言っておけば乗り切れる。





 ーーかくして、バイルシュミット公爵の企みは成功を見た。

 見たのだが、そのお陰で王家も王宮も議会もてんてこ舞い。

 何しろ天下の王太子殿下のご結婚となると、大聖堂での結婚式に、大規模な結婚記念パレードに、王城での結婚記念式典に、結婚記念パーティーにと、特大国家規模イベントが矢継ぎ早にやってくるのである。

 しかも、王太子アレクサンダーが結婚となると、同じくずっと待たされていた第二王子アロイスも結婚させなくてはならない。だってアロイスの婚約者であるコルネリウス公爵家のディートリンデ嬢もずっと待たされているからだ。これでアロイスとディートリンデだけまだ待ちです、なんてかましたら、コルネリウス公爵家から「どないなっとんのじゃワレ」とシメられても文句は言えない。

 王太子殿下と王太子妃殿下の結婚式の準備を急ピッチで進めつつ、第二王子殿下と第二王子妃の結婚式のスケジュールは……と予定を決めて予算を捻り出したりなんだり色々バランス取らねばならぬのである。

 本来なら、王族の結婚なんてイベントに関しては、王宮がやるべきことなのだが……今は軍制を廃止して騎士制に戻すね、という複雑な状況なので、儀礼としても対応としてもどうするよ案件が余りにも多かった。貴族達だって、参列するのに服装とかマナーはどうすりゃいいのよ状態だし、何より人手が兎に角足りないしで、議会のおじさん達も動員されることになったのだ。

「一応まだ軍制だからな。が、過渡期であることだし、大聖堂での結婚式は礼服、王城での結婚記念式典は軍服でやらにゃならん。着替えが多くて面倒だろうが、王太子殿下の身から出た錆だ。有無を言わさず着替えさせろ。女性は軍制でも騎士制でもウェディングドレスで良いからな。何回着替えるかはシャルロッテ嬢に任せるとして……立場上軍人なら勲章が必須だ。アルバンの胸に火竜討伐の勲章がないと話にならん! 職人を抑えて大急ぎでそれっぽいものを急ピッチで作らせろ! 素材は火竜の骨。彫刻刀の刃先? アロイス殿下が隙だろう。捕まえて作らせろ! ごねて逃げるようならアルバンなら余裕でやるぞと言って焚き付けろ。ディートリンデ嬢が言えばすぐやるだろうよ」

 議会のおじさんからのSOSの手紙を受け取って、首を傾げながらも王城にやってきたコンラート・ラヴェンデルは一気に大量の情報を浴びせかけられた。

 コンラートは大変優秀な男だったので、並べ立てられた情報のパンチの強さも問題なく受け止められたが、大忙しなピルツ議長からの追加情報とお願いはまだまだ続く。

「で、コンラートくん、申し訳ないが……勲章が出来上がったら文書と一緒にアルバンに届けてくれんかね? 我々はしばらく動けそうにないんだ」

 ボロボロの状態になったピルツ議長は、片手チョップのような感じで謝罪の「ゴメン」を繰り出しつつそう言って、羊皮紙で作られた公文書をヨロヨロ差し出されたコンラートは、つい、勢いに負けて受け取ってしまった。

「スマン! コンラートくん! 君も領地が忙しいだろうが、この文書、この内容……場合によってはアルバンは受け取り拒否をする! 君なら絶対に居留守なんぞ使われないだろうから、君しか居ないんだ!」

 羊皮紙使って作られた、王族のサインがある文書というのは、貴族にとっては受け取った瞬間に拒否権がなくなる。拒否しようとするのなら、内容を確かめる前、受け取る前に「居ませんでした物理的に受け取ってません」しかないのである。

 アルバンは王宮のやり方、というか、アレクサンダーのやり口をよく知っているため、嫌な予感を察知して、視察の名目で逃亡しかねない。

 ピルツ議長の読みはそんな感じであり、その読みは大体合っていた。

「アルバンは国内でも有力なフリートホーフ辺境伯。おまけにドラゴンスレイヤー。王太子殿下と友好な仲であることを内外にアピールせにゃならん。普通なら国王陛下による祝辞のあとは王太子妃の実家、各公爵家から順番に貴族による挨拶だが……今回は別だ! 国王陛下の祝辞の後に、アルバンの祝辞だ! これは絶対! 天地がひっくり返ってもやらせにゃならん! 引き摺ってでもやらせる!」

「では、アルバンも両王子殿下と同じ扱いに?」

「その通り。王族と同じ枠に入れる。辺境伯夫妻の立ち位置は王城での式典の時の配置はアロイス殿下とディートリンデ嬢の隣。晩餐会でも、公的なものは全てだ」

「まさかと思いますが、太公に……?」

「いや、それはない。アルバン本人が明確に拒否している。加えて……もし太公なんぞにしてしまったら、今後の風向きによってはこれ幸いと本気で独立しかねん! アルバンは必要と判断したら迷わずやる! それは夫人も同様だろう。そんなことをされたら王国の経済は大打撃だ。なんとしても回避する!」

「なるほど。では、太公の位と自治権を与える代わりに、公的な扱いとしては準王族に、ということですか」

「そうそう。まあ、表向きにも妥当な理由が出来たから、本来の身分に戻るような扱いだな……あ〜、忙しい! 去年ヘンリックが辞めたから、パレードの警備と交通整理のための会議がしたいのに、憲兵隊の会議日程の返信と資料作成が遅いったら……。」

 ぐちぐち言いながらも、丸っこい背中を揺らしながらガリガリ書類作成を猛然と進めるピルツ議長と別れてのち、コンラートは地味に働いた。

 オリハルコンで彫刻刀を作らされるも、刃先の形が良くないから無理だと職人からリテイク食らって「これ死ぬほど難しいですよ!?」と嘆く第二王子アロイスを励ましたり、竜の骨を使って細工ができるとあってテンション上がりすぎた職人から「デザインどれが良いですかね!?」とギラギラし切った目で奇抜すぎるデザイン案ばかり並べらてから冷静にノーを突き付けたり、竜の骨を削ったその削りカスをどうにかして掠め取ろうとする有象無象を追い払うために警備を引っ張ってきて手配したり、警備のための人員補充のための申請書を書いたりした。

 ついでに、結婚記念式典諸々のために必要な服やら装飾品から贈り物やら諸々の準備を合間にやって、出来立てホヤホヤの勲章持って、王宮が貸してくれた快速船に乗ってラヴェンデル領に帰宅。

 最愛の妻、モニカと生まれたばかりの愛息子に「ただいま、帰ったよ」と伝えてのち、二十分後には馬に飛び乗りフリートホーフ辺境伯邸に向かっていた。

 かなりのハードスケジュールだったので、さしものコンラートもちょっとヨレッとしていたが、事態が事態なので、一刻も早く親友にこの報せを届けねばとコンラートは考えたのである。

 コンラートの様子から大体の事情を察したアルバンは瞬間的に、バネ仕掛けの玩具のように立ち上がってやり場のない怒りに吼えるしかなかったーー。




 これが、コンラートによる大体のあらすじである。

「私も議員に内定しているのと、伯爵に陞爵したのもあって、式典の席が予想より前になる。まだ伯爵位に相応しい仕立ての服は多くはない。陞爵と同時に一通り揃えるよう注文していたからどうにかなったのだが……アルバン、君のところはどうなんだ? 軍服は全員持っているだろうから問題はないだろうが……大聖堂での最上級礼装は、身分に相応しい仕立てのフロックコート。それなれに華美なものが求められる。まあ、辺境伯家の規模であれば当然、そちらは用意しているものとは思うが、夫人は嫁いできて間もない。昨年の王宮参内に伴って、相応しい格のドレスは使い切っているのでは?」

「コンラート、本当にありがとうっ……!」

「ありがとうございますコンラートさん。その通りです。幾つか追加で作ってはいるのですが、枚数が足りるかどうか……! 結婚式なら参列者の立場だとヴェールも使えませんし、ヘアアクセサリー、が……?」

 待って。

 やばいことに気が付いた。

 同時にアルバンも気が付いた。

 立ち位置と扱いが、準王族になる。

 と、いうことは、つまり……王族の並びに入る女性にのみ許された、特別なアクセサリーが必要になるということ。

「ティアラ……!」

「流石にティアラは作らせてない……!」

 一朝一夕では作れない。それがティアラ。だって、王族の女性以外は身に付けられないし。私には縁のないものだった。当然、必要がなかったから作っていない。

「……待って。いや、でも、準王族。準だし、あくまでも辺境伯夫妻の身分だから……ティアラは必須じゃないし、むしろ、僕たち夫婦の立場だと、しない方が心象が良い!」

「よ、よかった……! じゃあヘアアクセサリーさえあれば大丈夫なんですね!」

「ドレス、確か金糸で刺繍を入れたものを発注していたよね? 納品までもう少しだった筈だから、追加料金払って納期を前倒して貰おう。お針子捕まえるのが大変だろうけど、お金使って解決出来るようならやろう」

「でしたら、領内のお針子を雇って、その方々に王都に行って働いて貰うというのはどうですか? 王都では仕立て屋やデザイナー、お針子はもう奪い合いでしょうし、無理やりお金でというのはトラブルに発展するかも……。」

「それだ。今すぐお針子頼もう。出張料金に加えて更に割増で雇えば応じてくれる人はいる筈だし。とりあえず、一着はそれでどうにかなるね。ツェツィーリアのドレスのストック、一番ランクが高いやつ、どんなのがあったかは覚えてはいるけど、人前で着たことがあったかどうかはちょっと記憶に自信がないな」

「ツェツィーリアさまの最上級礼装ランクのドレスで、未使用のものはもう一着ある」

「ニーナ!」

 待ってました。

 バァン! と扉を開けて、キラキラした目のニーナが元気良く入室。一応、コンラートさんに対して礼を取ってはいるが、既に豪華絢爛な王家の結婚式とそれに伴うドレスの貴婦人令嬢の元に気持ちが旅立ってしまっているのが手に取るようにわかる。

「夜会の時には、夜会用のドレスに、紫色の薄手のショールを合わせる。淡水パールと銀のブローチがあったからそれと組み合わせればいけると思う。髪飾りは去年、アルバンが淡水パールで沢山作ったから。髪型をアレンジしたらどうになるし、いざとなったら生花を使えば良い。王都は春で暖かいから、小さいバラなんかあったら良いと思う。コサージュも生花で作れば、良い香りがするし見た目も華やかになる」

「今すぐ王都の屋敷の庭師に連絡しよう。ツェツィーリア、花の希望はある?」

「ニーナに全部お任せします」

 アイデアが溢れて止まらないらしいニーナの発言を聞いて、コンラートさんも感心した様子である。

 お洒落なコンラートさんが頷いているので、これはきっと大丈夫な筈。

「夫人に関しては、例の事件の時に着ていたドレスで夜会に行けば盛り上がるだろう。無論、ネックレスは必須だが」

「ネックレスなら、ついこの間ピンクの淡水パールを使ったものを頼んだばかりだし、あれは編み上げるタイプだから職人に事情を話せば間に合わせてくれそうだね。淡いピンクだし、慶事にはぴったりじゃないかな?」

 ニーナのセンスと判断によって命拾いしたぜ。

 確かに、私はベースが真っ黒。デフォルトで喪服みたいな感じなので、礼服といっても黒に派手目な刺繍入れるとかのやつしか持っていないが、どっちにしろ視覚的に重苦しい。ピンクパールのアクセサリーなら多少なりと印象を軽くしてくれそうだし、これは大正解かも。

 ありがとうニーナ。

 末長く私の服を選んでください。

 あとお化粧も、お化粧もお願いします。

「……待って。僕が危ないかも知れない」

「えっ」

「えっ」

 私とコンラートさんがハモった。

 アルバンが徐に部屋を出て行き、待つこと数分。

 戻ってきたアルバンは豪華絢爛な、黒ベースに金糸の装飾が付いたサーコートを着ていたのだが……。

「これ、どう思う?」

 アルバン、明らかに息を止めている。

 お腹を引っ込ませている。

 ボタン、なんかギチギチいってる。

「パツパツですね!?」

「それは無理があるんじゃないか!?」

「無理かぁ〜〜!」

 アルバンが嘆きと共に息を吐いたら、パァン! とボタンが一個弾け飛んだ。おぉ、なんという、なんという分厚い大胸筋。ムチムチが過ぎる。

 弾け飛んだボタンを見て、ニーナに付いてきたミトンが素早くじゃれついた。花台の下に入ったボタンを、ズザァとスライディングしてお手手を伸ばして激しくちゃいちゃいし始めている。

「えっ、アルバン様、それいつ作った服なんですか?」

「五年前くらい。ずっとサイズ変わらなかったし、使う機会もないからって油断してたよ。僕、結婚してから太ったんだよね……!」

「アルバン、君のそれはどこからどう見ても全て筋肉だろう!?」

「そうだと良いんだけど……結婚前は不摂生な生活してて、寝食を忘れるのもよくあったんだ。でも、ツェツィーリアと一緒に毎日規則正しい生活をするようになったら、みるみるうちに……!」

「えっ、すみませんアルバン様。どのくらい増えたんですか?」

「10キロ」

「じゅっ……!?」

「待ってくれ。君、元は幾つだったんだ!?」

「150キロ。今は160キロだね。笑っていいよ。幸せ太りってヤツ。最近、ユルい服ばっかり着てたせいでもあるんだけどさ……。」

 やさぐれている。

 アルバンは全身ムチムチの筋肉でしか構成されていないのだが、何故か体重のことを気にしているし、デブという罵り言葉にのみピンポイントで弱い。肥満とは対極にある体型だと思うし、健康的な生活で増量したのなら、それが本来のアルバンのベスト体重なのでは?

 私とコンラートさんの心が多分だけど一つになったが、問題はそこではない。

「……実は他の服も、礼装は結婚前に作ったものばかりだから、全部入らないと思う」

 大ピンチ。

 思わぬところで大変なことに。私のドレスとは比較にならぬ程のトラブルである。サイズに関してはニーナだってどうにも出来ない。

 つ、詰んだか……?

 

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