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【165】セレブ式求愛行動


 私の夫、なんか、神話の英雄だった。

 竜の逆鱗から滴り落ちた血を浴びたおかげで、魔獣や魔植物由来の薬や毒が一切効かない。あと、刃物が皮膚表面で止まって刺さらない、切れない、傷付かないし、なんなら打撃にも強い。らしい。

 よくよく聞いてみると、まだ十四歳とかの時に著しく人生が辛くなって首を吊ったりなどもしたそうだが、それでも全く平気だし死ぬ気配すらなかったらしい。うぅ、可哀想すぎる。

 アルバンは日々を真面目に、かつ善良に過ごしているというのに、どうしてこんなに辛いことばかり起きるのか。わ、私が、私が頑張って幸せにしなくては……! いやでもアルバン自身が優秀だし、一人でもちゃんと幸せになれそうではあるのだけども、一人よりは二人の方が賑やかだし、気を紛らわせていきたい所存。

 んで。

 衝撃の事実を知ってその翌朝。

 ひっついていたい気分だから、ということで、寝室のベッドで寝っ転がっての朝ごはんの時に、ちょっとした内緒話。追加情報が目白押し。

 食い意地の張った私も、途中途中で食べる手と口を止めて聞き取りに集中した程である。大丈夫。オムレツは冷めても美味しい。

「竜の血を浴びてから、毎日すっごい成長痛に襲われてさ……一年で30センチも伸びて、死ぬかと思ったよ。ぜんぜん寝れなかったし。根拠も証拠もないけど、感覚だけの感想としては、体ごと作り変えられたって感じ」

 こんな証言もあったくらいなので、アルバンが異様にデッカイのも、多分きっと竜の血のせい。

 私は未だに、215センチあるアルバンよりも背が高くてがっしりしていて頑丈そうな人を見たことがないので、根拠も証拠もないかも知れないが、これはきっと合っているのだと思う。

「魔法薬や魔法毒は全て効かないという認識で良いですか?」

「うん。そう。ただし、魔力を持たない動植物とか鉱物由来の薬や毒は効くよ。効きは弱い、というか、効果の持続性がすごく短い。普通の人の倍くらいのスピードで分解・排出される感じかな? あとは……依存性のある薬物、麻薬なんかに関しては効くけど、数日使用を控えるだけで中毒症状や依存も抜ける。色々実験してみたけど、自分にとって良い効果は比較的抜けるまでが長いけど、悪い効果に関しては抜けるのが早いみたいだ」

 ツェツィーリア、食事が冷めちゃうよ?

 なんて添えながら、アルバンが大きな手で丸いパンを割って、せっせとバター塗って木苺ジャム乗せて私にパスしてくれる。ついでとばかりに、私の手が届かないところに置いてあったハム並べたお皿までこっちに寄せてくれる。優しい。

「良いこと尽くめでは?」

「ただ、実は……僕、普通に風邪は引くんだよね」

「えっ!? 病気にはなるんですか?」

「不思議なんだよね〜! まあ、そもそも体力あるし、やたらと頑丈だから滅多に風邪引くなんてこともないんだけどさ……。」

「すみません、因みにどのくらい悪条件が重なるとダウンするんです?」

「そうだね……前の時は……真冬のベルンシュタイン城砦で五徹で書類仕事やって、食事と風呂を疎かにした状態で吹雪の中魔獣討伐に行って、帰りに部下たちと軽く遭難しかけて雪洞で一泊してから戻ってきたら熱が出て寝込んだかな?」

「アルバン様……。」

 常人なら羅列された条件が一つだけで余裕で死ねるし、私だったらまず最初の五徹の前段階で気絶している自信しかない。

 徹夜、一晩が限界だし、そのあと丸一日寝倒す自信しかない。あとご飯抜くの無理。絶対に無理。私には出来ない。やれない。やる気がない。

 というか、よく生きてたな!?

「そんな訳だから、僕、病気には弱いんだよね。ほら、魔法薬が使えないから。普通の薬で症状を緩和して、自己治癒に任せるしかないし……僕が死ぬとしたら、寿命か病気だと思う」

「あっ、なるほど。だから先に亡くなった場合を想定して、私に資産を用意してくれていたんですね?」

「正解。可能性はゼロじゃないからね。風邪程度だったら死なないとは思うんだけど、もっと死亡率の高い感染症だったらどうなるかは分からないから、衛生状態に気を遣って生きなくちゃいけないんだけど……ツェツィーリアが嫁いできてくれる前は、研究と仕事を優先して体を洗わないこともよくあったし……君と生活することで、僕の寿命は確実に伸びていると思う」

「分かりました。これからも毎日一緒にお風呂に入ります」

「ありがとうっ……!」

 いつもながら、噛み締めるというか、絞り出すように言うこの、アルバンの「ありがとう」とても良い。照れてちょっと目元ピンクにしながらもギュッと目を閉じて眉を寄せているの、大変に愛嬌がある。

「ツェツィーリアが規則正しい生活を優先するタイプで助かるよ。僕は一人だと、どこまでも不健康になっていくからさ……君と一緒に三食摂って、毎日お風呂に入って、夜に寝て朝に起きるって、凄く健康に良い。勿論、大好きな君と一緒だからって理由が一番大きいけど、結婚してから明らかに毎日気分が良いし、苛々する時間が少ないから……やっぱり生活って大事なんだなって」

「すみません。私は寝て食べて休まないとすぐに体調を崩しますし、全て条件を満たしていても、疲れたらそこそこの頻度で寝込むので……お手数をお掛けします」

「気にしないで。確かにツェツィーリアは虚弱かも知れないけど、僕は常人の枠組みに入らないぐらい頑丈だから。君に合わせていた方が普通の人の生活が出来るし、周囲に疑問を持たれずに済むから」

「あっ、やはり普通の人のフリはしなくてはならないんですね?」

「勿論。バレたら間違いなく面倒なことになるからね。馬鹿どもが調子に乗って、僕という武力を使って戦争やろうとか、そうでなくても外交で信じらないような失態をやらかしそうだからね。一応、ハインリヒにはこのことを伝えているから、剣術も避けることを優先に教えて貰ったんだよねぇ……。」

「ええと、もしかして、アルバン様が普段、戦う時に魔法しか使わないのって、それが理由なんですか?」

「ツェツィーリア、君は本当に優秀だ。話が早い。そう。近距離戦は可能な限り避けたいんだ。特にそれを得意とする相手だとね。服なんかに斬られた痕跡や手応えがあるのに斬れてないってなると、誤魔化しが効かないから。だから、秘密を守るためにも遠出する時には護衛を一応は付けて、何か起きれば中距離または遠距離の魔法で解決することにしているんだ。僕なら、魔力切れはほぼ心配する必要がないし、手強い相手なら予め風邪魔法で盾を作っておけば直撃は避けられるからね」

「か、か、賢〜〜い!」

 あの戦闘スタイル、そして戦術、全てに目的と意味があったのか。潤沢に魔力があるし魔力操作が得意で魔法を連発出来る白銀だから、相手は当然、魔法を警戒するし、周囲だってアルバンが魔法で片を付けることを当然だと思い込んでくれる訳だ。う〜ん、合理的。

 わ、私の夫、優秀……!

 賢いのがこの世で一番かっこいい。

 簡単に頭が沸いてますますメロメロになっちまうぜ。

 と、私が頭を蕩けさせていたのを察知したのか、アルバンがふふ、なんて笑って、林檎と蕪のサラダをフォークに刺して、私の口に運んでくれた。レモンとオリーブオイルのドレッシングを纏ってちょっとだけしんなりしているのが美味しい。味が馴染んでいる。

 美味しいものくれるし賢くて優しい。

 好き。

 ぺっとり寄りかかって、うっとり甘たれてみると、アルバンは物凄くご機嫌で柔らかい声で笑う。

「ツェツィーリアは本当に僕が怖くないんだねぇ」

「いいえ。アルバン様が本気で怒っている時は、怖いと思ってしまいますよ?」

「正直だね。でも、嬉しいよ。その時以外は怖くないってことだもんね?」

「沢山優しくされたので……その、今は、アルバン様に嫌われたり軽蔑されたり、私がつまらない女だってバレちゃって、見捨てられたらどうしよう、という恐怖の方が強いですね」

「それは絶対に無いから安心して? それとも、愛情が足りなかったかな? 不安になっちゃった?」

「そうではないです。私はアルバン様より能力が劣っているので……足手纏いで鬱陶しくないかな、と」

「えっと……これを言ったらおしまいだと思うけど、ツェツィーリア、敢えて言うね?」

「はい」

「総合的に見て、僕より優秀な人間、この国に何人居ると思う?」

「あっ、ハイ。すみませんでした。ほぼ居ないですね。愚問でした」

「うん。僕にとっては大半の人間は足手纏いだし、君はかなり優秀な方だからね? それと、もし君が全くの無能だったとしても、僕の君に対する好意や愛情が目減りすることはないよ。なんなら、可哀想だとは思うけど……性欲は君にしか向けられないから、そこは覚悟して、というか、諦めた上で人生を共にして欲しいかな……?」

「そうでしたそうでした。すみません。すっかり忘れていました」

「思い出してくれたなら良かった」

 なんか、全部杞憂だなこれ?

 私の心配とか不安とか、これ要するに単なる気分の可能性が高いな?

 いけない。

 私は実家で何の苦労もなくぬくぬく育ってきた身だと言うのに、病んでいてどうする。アルバンの方がよっぽど重症だし、幸せにせねばと誓ったというのに……しっかりせねば。私はアルバンにこれでもかと愛されている。いやその、形としては歪んでんだか健全なんだかよく分からない仕上がりとなっているが、愛であること、そして、私自身が満更でも無いことは確か。なのでこれはもう素直に「ありがとうございます好きです愛してます」で済ませよう。

「そうだ、ツェツィーリアにプレゼントがあるんだ。受け取ってくれる?」

 マ、マメだなぁ……?

 特に脈絡もなく繰り出されるプレゼント攻撃、最早定期イベントと化している。

 アルバンがのそのそベッドから降りて、キャビネットの中から小さめのプレゼント包みを取り出して持ってきてくれる。

 チョコレート色の包み紙にミントグリーンの細いリボン。あら可愛い。

「ありがとうございます。開けても良いですか?」

「勿論。気に入ってくれると良いんだけど」

 リボン解いて、包み紙外したら、なんと箱も素敵だった。四角い、木をベースにした箱なのだが、貝が使われている。どうやら木を掘って模様を作り、その凹みにピッタリ合わせて貝をカットして埋め込んであるものらしい。美しい幾何学模様は白と黒と紫の貝で構成されており、箱そのものにときめいてしまう。

 パカっと開けてみると……中には素晴らしい銀細工のシャトレーヌ。

 シャトレーヌとは、女性用の装身具。主に腰に装着するもので、引っ掛ける用のパーツから、いろいろな便利グッズを繋げた鎖がぶら下がっている代物。本来、実用品ではある筈なのだが、実際にはその家の財力を示すためのバロメーターまたいなアイテムである。持っている貴婦人はあんまり居ない。何故なら、男性用の懐中時計と違って需要が少なく、全部イチからオーダーするのが前提だし、なんならパーティーなんかでは着けないアイテム。精々が小規模なお茶会の時ぐらいしか陽の目を見ることがない代物なので、大体の家で後回しにされがちな優先順位が低い装備である。

 持ってるだけ凄い! と思われるため、所持しているというだけで他の淑女たちから一目置かれたりする物なのだが……アルバンがくれたシャトレーヌはちょっと凄かった。

 引っ掛ける用のパーツ、貝。

 鎖、淡水パールと組み合わせてある銀。

 ぶら下がってるものたち、当たり前のように銀。

「えっ、と……すみません。信じられないくらい小さい時計が付いているのですが……?」

「そうそう! ツェツィーリアは体力も筋力もないでしょ? 深窓の貴婦人でも負担にならないように、出来るだけ小さい時計を作ってくれってオーダーしたんだ」

 サラッと言ってますが、あの、これは……と、時計屋さんの最新技術を詰め込んだ時計、なのでは……?

 問題の時計、蓋を閉じた状態だとなんだかコロンと丸くて可愛い感じなのだけど、裏側に小さく丸いガラスの小窓が付いていて、内部が一部見えるようになっているし、歯車の軸の部分と思われるところには、なんか、なんか物凄く小さいけれど、宝石があるのですがこれは。あと、文字盤も貝ですねこれは? 見た目が大変華やかなのだけれど、これ……一体幾らしたんだろう?

 怖い。

 考えたくない。

「去年、君が下着屋さんに行った時に、向かいの時計店で頼んでおいたんだ。思ったより早く仕上がったから良かったよ」

「お、お高いのでは……?」

「まあ高いけど……店ほどじゃないよ」

「比較対象はお店そのものなんですか?」

「ああ、バタバタしてて言ってなかったよね? あの時計店ね、僕がオーナーやってるんだ。だから、時計一個なら大した額じゃないよ」

 嘘だ。大した額だ。間違いない。

 だって文字盤が3センチくらいしかない。紳士用より圧倒的に小さい。

「ええと、これ、裏側の石って……?」

「ルビーだよ。うちの領地から出た石なんだけど、ピジョンブラッドで質が良いのがあったから。まあ、凄く小粒だし、アクセサリーなんかにも加工出来ない大きさだったから、なんていうか……君の持ち物の中にもひとつくらい、うちの領地の特産品があって良いかなって」

 ピジョンブラッド。そのまま直球だと鳩の血だが、転じて、鳩の血のように赤い、純度の高い赤のルビーをそう呼ぶ。色としては最高級品である。

 確かに物凄く小粒なのでアクセサリーには加工不可能であろうが、しかし、逆にここまで小さいと石そのものより加工技術の方がお高さそうなんですがそれは。

「とりあえず、ツェツィーリアが使いそうなものだけ作らせてみたよ。時計とルーペとペンとメモ帳と薬瓶。他に欲しいものとか、付け加えたいものがあったら言ってね? 追加するから。外したいものが

あったら取り外すし」

「もしかしなくてもその薬瓶、中身はエリクサーですか?」

「うん。流石に、正規量の100ミリリットルだと重くて多いだろうから、10ミリリットルにしたよ。少量でも、いざという時に最低限の生命維持が可能な量だからね。正規量ぶら下げてたら盗難の危険もあるし。ただ、対策としてはもう一つあって、この瓶の内側、竜の角で出来てるんだ。で、こっちの携帯用ペンのケース、内側に小さいヤスリが隠してあるんだ。このヤスリ、オリハルコンで作ったから、10ミリのエリクサーで足りないようなら瓶を削って使えるからね。覚えておいて」

「りゅうのつの」

 竜の素材で薬効があるものとして有名なのは血を加工したエリクサーだが、一方で竜の角にも薬効がある。削って粉薬として飲むだけで万能薬になるとの噂だが、しかし、竜の角は上質な武器になるし、どんなに硬い魔獣を相手に使っても折れず欠けず、その上鉄より軽いとあって、主に武器に加工されるのが主である。

 普通だったら竜の角なんて迷わず剣にすると思うのだが、アルバン、強いのに武術とか武器とかに対する興味が極端に薄いし、なんなら素材としての興味が勝るため、躊躇がない。

 因みに、竜の角は加工の時に発生するクズとか粉とかを鉄に混ぜても強度を上げてくれるため、回復薬としてしか付かない血液でエリクサー作って有効活用しようね、が歴史のスタンダードである。

「ただ、それだけだと不安だから、そのうちツェツィーリアの櫛も竜の角で作りたいな。櫛なら日用品だし、女性がどこに携帯していてもおかしくないから盗難のリスクが低いし!」

 ……これ、アルバン、さては趣味に走ったな?

 私に対して一番良いものを、というのはいつものこと。本当に有難いことこの上ないが、しかし、火竜の素材の活用、楽しんでやってるっぽいな?

「え、えっと、どう、かな……?」

「うーん、やや豪華すぎて気が引けますが、家にいる時に大切に使わせて頂きますね」

「デザインはどう?」

「デザインは好きです。家で過ごす用のドレスの時に着けてもおかしくないくらいなので、綺麗なのですが……なんというか、ここまでの贅沢品を普段遣いにすることに慣れないです」

「ツェツィーリア、君はちょっと、辺境伯夫人にしては質素倹約が過ぎるから、頑張って贅沢に慣れようね?」

「うぅん、難しいですが、頑張ります」

 そんないきなりセレブ生活しろと言われても、なかなか難しいものがある。

 確かに我が実家、金持ち子爵家ではあったものの、そこまで華美な品とか高級品を与えられていた訳でもなく、単純に「古くなって使えないものはない」と「古くてもメンテナンスをしっかりしているものしかない」を保つ方面にお金を使っていたので、新しくバンバン装飾品を作るとかいう方面とはあんまし縁がなかったのだ。

 しかし、辺境伯家ともなると、古いものを維持したり、使えなくなったものを新しく買い直すのは当たり前に行われる家や持ち物の新陳代謝。特にアルバンは個人で莫大な資産を持っているため、常日頃からそういった維持費人件費をある程度費やせるようにしておくだけでは経済が回らなくなってしまう。

 お金は国家にとって、体を循環する血液のようなものだと、優秀なる財務担当ラビュリントさんも言っていた。

 なので、アルバンと私は頑張ってお金を使わねばならぬのである。

 いやまあ、普段から食費に関しては凄いことになってるが、食費、高くしようと思ってもある程度までしか高く出来ないし、ものを買うとか作るとかしかないんだよなぁ……いやまあ、時計店に関してはアルバンの持ってる店だし、お金が内部で循環しているだけなのだろうけれど、それ以外の銀細工貝細工なんかは何人もの職人が携わっているのだろうし。高級品を腕の良い職人にオーダーするのが一番お金をガッツリ使えるのかも知れない。

「ツェツィーリアのアクセサリーは淡水パールで統一しているし、今はまだルビーブームが続いていて需要が高いからそうして貰ってはいるけど……強制じゃないし、もし、ルビーやサファイアが欲しくなったら一番良い石を確保するよ。うちで産出されない宝石が欲しかったら、それも遠慮なく買ってね?」

「アクセサリーのことはちょっと……ニーナに聞かないと分からないですね」

「ツェツィーリアはレースやフリルには興味があるけど、宝石や貴金属には興味が薄いよね。ただ、宝石は大金を使いたい時に有効な手段から、それだけ覚えておいてね?」

「わかりました。ただ、アルバン様が沢山アクセサリーを作って下さったので、出来たらその、綺麗で素敵なアクセサリーボックスが欲しいです」

「ああ、じゃあ次のプレゼントはそれにしようか。もしかして、ツェツィーリアは綺麗な箱が好きなのかな?」

「そうかも知れません。あと、どちらかというと、生活する範囲が素敵なものばかりの方がときめくので、空間……? が好き、なのかも……?」

「例えばどんな部屋が好き?」

「そうですね、高貴な方用浴室とか、ベルンシュタイン城砦のペチカは好きです。タイルとか、木蓮の形のランプとか……。」

「なるほど。タイルやガラス、金属細工や家具が好きなのかもね。分かった。どうせだし、少しずつでも、辺境伯夫人用の部屋を君好みにカスタマイズしていこうか。あの部屋、今は君の衣装部屋みたいになっているけど、一人で寛ぎたい時なんかもあるだろうから、ゆっくり出来る空間があると良いよね?」

 おぉ、一人で過ごしても良いよの許可が出た。

 お屋敷の中で、ニーナという護衛が居るのなら一人でゆっくりしてても良いという意味であろう。束縛強め夫のアルバンが著しい成長。しかし、どっちかっていうと、今は私がアルバンのことが好き過ぎてべっとりくっついていたんだよな。

 しかし、部屋を私好みに改造してくれるのは嬉しいことなので、特に反対せず頷いておく。

「あっ、で、でしたら……窓ガラスを、変えても良いですか? ステンドグラスにしたりとか」

「勿論。腕の良い職人を探させるから、家令のルーカスと相談して、ツェツィーリアの好きなデザインにしてね。あと、木蓮のランプが好きなら、あれを作った工房の職人に何か作らせるけど、そっちも呼べるようにしておこうか?」

「ありがとうございます。お願いします」

「ふふ。窓がステンドグラスになって、花のランプを置くって……より女の子っぽい部屋になるってことだよね? なんだか嬉しいな。辺境伯夫人の部屋ってだけだと何とも思わなかったけど、この家に君の部屋が出来るんだって思うと、これからもずっと一緒に暮らすんだなって実感するよ」

 実家に行った時、アルバンは私の部屋に入りたかったと言っていたし、これは……辺境伯夫人の部屋、改装と模様替えが終わったら、改めてアルバンをお招きして、おもてなししようかな?

 私好みの私が寛ぐための部屋だけど、でも、大切なアルバンが休んでくれる部屋にもしたいな。

 それに、好きな人を自分の部屋に招待するって、何だか特別な気がする。

 是非やってみたい。

 普通サイズの椅子だとアルバンが座れないから、二人で座れるようなものもこっそり頼もう。

 秘密基地みたいなお部屋が作れるといいなぁ。

 朝食終えて、今日は予定としては家で仕事ちょっと片付けるだけだけど、オラシオさんとイシドロさんという来客があることだし、ドレスじゃないけど一応スカート。ハイウエストの黒いマーメイドスカートにフリルのブラウスにベスト。上から下までいつも通り真っ黒。腰からは貰ったシャトレーヌ。

 今日のブラウスは……一際豪華で、首元にもフリルなら、袖口にもフリルとレース。割りかしお気に入りのもの。派手だけど、これならシャトレーヌとコーデしても負けない。

 と、思う。

 分からない。

 もう既に私にはニーナ無しで自分の服装をジャッジ出来ない。後でチェックして貰おう。

 アルバンは妻全肯定夫なので「よく似合っているよ」と言ってくれたが、正直当てにはならないので。

 アルバンは冒険者二人の様子を見てくるから、と言うので、部屋を出てから別行動。ニーナと合流して「どうですか?」と聞いてみたら、上から下まで真剣な眼差しでチェックされ……。

「凄く良いと思う。シャトレーヌはアクセサリーとしてもアクセントになるから。だけど、これならベストは別なやつの方が良いと思う。黒とダークグレーのミランダストライプで、ボタンが白い貝のやつがあったから、そっちに変更した方が良い。靴も……ワイバーン革のやつの方が」

「すみませんニーナ。全てお願いしても良いですか?」

 肯定しつつも改善点が軽く二つもあったようなので、ニーナにお任せ。

 おぉ、なんかよくわからないが、言われた通りにニーナが選んだアイテムに変更したら、一気にビシッと決まった感じに。

「アイシャドウは薄紫にして、口紅も……薄付きの紫っぽい赤にする。ツェツィーリアさま、チーク付けても良い?」

「全部お任せします」

「分かった」

 メイクもヘアアクセも全部整えて貰って、今日も今日とて「オフの日の辺境伯夫人として相応しい格好」に仕上がった。ウェイティングメイドとしても優秀過ぎるニーナ、大変有り難い。

「そうだ、アルバン様が、もし何か必要なものがあるなら、色付きの石で私のアクセサリーを作るのも考えるとのことですが、ニーナはどう思い、ます、か……?」

 相談した瞬間に、ニーナの目がキラキラと光り輝き出してしまった。

「パールは一通り揃っているけど、ツェツィーリア様にはよく似合うし上品だから、もっともっと欲しい。特に、ツェツィーリアさまは首が細いから、チョーカーみたいなものとか、付け襟みたいな、小粒の淡水パールを編み合わせたものがあと六つくらいあって良いと思う。でも、もっと豪華な、夜会用のドレスとかに合わせるために、ルビー。まずはルビーが欲しい。ツェツィーリアさまは髪が黒くて唇が赤くて綺麗だから、ルビーの髪飾りとネックレス。あと、エメラルドも良いと思う。あとは、服がいつも黒だけど、首元にさり気無くアクセントを付けたい時用にサファイア。ブローチがいい。あと、あとっ……! パールに合わせて銀が多いけど、金細工のアクセサリーを、ドレスとセットで作って王宮に行く時用にしても良いと思うっ……!」

 大興奮。

 アイデアが溢れて止まらないらしい。

 しかも、私のお金ではなくアルバンのお金と分かっているため、ニーナの夢は止まらない。遠慮も容赦もない。

 うぅん、敢えてちょっと、マイルドな言葉を選んで伝えたのだけど、止まらなかったかぁ……。

「ごめんなさいニーナ。私が覚え切れないので、ひとつずつ作っていくことにしませんか?」

「わかった。それなら、まずは春用に、ピンクの淡水パールを使った髪飾りとネックレスが良い。ネックレスはピンクの中に白と薄紫を混ぜて編み込みにしたやつ」

「黒とピンク、合うのでしょうか?」

 ちょっと不安。

 それ、未婚の若い令嬢向きだったりしませんか? などと、やや訝しんでしまう。

「大丈夫だ。夜空に咲く花海棠はよく映えるから、黒とピンクは合う。デザインを大人っぽくすれば上品に見える」

「分かりました。では、まずはそれを注文しましょう」

 説得力があった。確かに夜空にピンクの花、色合いとして綺麗だし。それに……もし若い子向け過ぎるなと思っても、娘のアマーリアが居るのだし。私に似合わなくても、十数年すれば若い娘さんとなったアマーリアが使ってくれるだろう。

 アマーリアは髪も瞳も白銀色だし、ピンク、似合いそう……!

 私は体質上の理由と、生まれつき暗い性格、暗い色や暗い場所を好む筋金入りの陰キャだったが故にずーっと黒一色で通してきているが、自分が着ようと思わない、可愛い服をアマーリアに着せたいという無責任な願望が正直ある。

 なるほど、今更気付いたが、ニーナもそういう気持ちで私を着せ替え人形にしているのかも知れない。

 着せたい。淡いピンクとか水色とか、そういう、私には似合わない色の服、アマーリアに着せたい。

 まあ、いずれ本人の好みが出てくるだろうから、物心つくまでの短い間だけに留めようとは思うので、それで許されたい……。


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